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聖夜のエクソジェン其の八

天宮家休憩施設――

天宮家の使用人たちが次々と倒れ、

倉庫の周囲は静寂に包まれていた。


その中で――

ひとりだけ、ゆっくりと身を起こす影があった。


細く頼りない体つき。


以前は“キノコ頭”と呼ばれた丸い髪型だったが、

今はツイストパーマに変え、

どこか別人のような雰囲気をまとっている。


男は眠りこける仲間たちを見渡し、

舌打ちした。

「……くそが。

トムソンの奴、昨日やれよ……」

怒りがこみ上げるが、

男は深呼吸して自分を落ち着かせた。


「……おっと、平常心平常心。

眠りの月だな落ち着け」

そう呟く声は震えていた。


無理もない。

周囲には倒れた天宮家の護衛たちが散乱しているのだ。


男――かつて“キノコ男”と呼ばれた使用人は、

ゆっくりと立ち上がり、倉庫の奥を見つめた。


「……だが、あれほどの罠。

いや、罠よりも――あの結界が厄介だ」

彼は知っていた。


罠の配置も、仕掛けの種類も、

そして“最後のプレゼント”がどこにあるのかも。

なぜなら――

罠作りに参加していたのは自分だからだ。


だからこそ理解している。

最後のプレゼントが置かれた場所は、

護衛隊長のレギスが張った強力な領域術で守られている。


あれは自分では突破できない。

触れた瞬間に吹き飛ばされるだろう。


男は唇を噛み、

しかしすぐにニヤリと笑った。

「……そうだね。

あの馬鹿を使えばいいね」


その笑みは、

眠りの月よりも冷たく、罠よりも悪意に満ちていた。

男はゆっくりと呟く。


――“煙突屋”。

最高幹部の一人が……動く時だ




倉庫の外で吹く風が、

まるでその名に反応するようにざわりと揺れた。

孤児院の夜は、

さらに深い闇へと沈んでいく。



意気揚々と、トムソンとジェフは倉庫の巨大扉の前に立った。

「よし……“眠りの月”は完璧に効いてる。

全員寝てるな。

あとはプレゼントを回収するだけだ」

「へへ~……楽勝~……だ~……チキン食いてぇ~……」

ジェフは鼻歌まじりに扉を押し開けた。


ギィィィ……。

倉庫の中は薄暗く、静まり返っている。


だが――

トムソンは一歩踏み出した瞬間、

背筋に嫌な汗が流れた。

「……なんだ、この違和感」


「えぇ~? なんかありましたぁ~?」

ジェフは気にも留めず、ズカズカと中へ。


その瞬間――

ジェフの足が床に触れた。

ツルッッッ!!

「ふぎゃあああああああああああ~~~~!!?」

ジェフの体が漫画のように宙を舞い、

そのまま床を滑りながら一直線に奥へ。


「お、おいジェフ!? 何やって――」


ガガガガガガガガガ!!

ジェフは壁にぶつかり、

そこに積まれていた段ボールの山へ突っ込んだ。


トムソンも慌てて追いかけようと一歩踏み出す。

ツルッ

「うおおおおおおおおおおおお!!?」

二人は、スケートリンクのような床を滑り、

段ボールの山に突っ込んだ。


ドガシャアアアアアアア!!

段ボールの雪崩が起きる。


しかもその段ボールには、なぜか“土”が詰められており、

見た目以上に重い。

二人は頭から埋まった。


「いってぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「……な、なんだこの床……」


ジェフが指先で床を触る。

「ぬるぬるしてるぅ~……オイル……?

いやぁ~……これ……子ども用の……おもちゃのスライム……?」

床一面に、

子どもたちが作った“スライム”が塗りたくられていた。


トムソンが、やけに重い段ボールを押しのけて立ち上がると、

頭上からカチッと音がした。

「……嫌な予感が――」

ドバァァァァァァァン!!

天井から大量の紙吹雪が降り注いだ。


赤、青、金、銀、星型、ハート型……

倉庫が一瞬でパーティー会場に変わる。


「ぎゃあああああああああ!!

目に入るぅぅぅぅぅぅ!!」


ジェフはなぜか楽しそうに笑っていた。

「トムソンさぁ~ん……キラキラしてますよぉ~……!」


「うるさい!!」

紙吹雪は魔導ライトに反射し、

視界を完全に奪う。


紙吹雪の中、

ジェフが何かを踏んだ。


カチッ。


次の瞬間――

ボッ!!

ジェフのコートが燃え上がった。

スライムオイルはよく燃える。


「ぎゃあああああああああああああああああ!!

ヤバいぃぃぃぃぃぃトムソォォォン~~~~!!」


「だああああああああジェフ!!

じっとしてろ!!」

トムソンは慌ててジェフに覆いかぶさり、

床で転げ回って火を消す。


バタバタバタバタ!!

ようやく火が消えた。


「……はぁ……はぁ……

なんなんだこの倉庫は……」

「トムソンさぁん……あっつぅ~……」


二人は慎重に紙吹雪の中を手探りで進む。

ジェフがまた何かを踏んだ。

ポヨン。

「……今の音なにぃ~?」

次の瞬間――

ドガシャアアアアアアアアアアアア!!

二人は派手に宙を舞い、

床に転がった。


痛みはない。

だが、転び方が派手すぎる。


「な、なんだ今の……!?どんな罠だよ!!」


トムソンは自分の能力を完全に忘れて叫んだ。

「ふざけんなああああああああああ!!」



ようやく立ち上がった二人の前に、

巨大な“土の壁”が立ちはだかった。


土魔法で作られた、

分厚い壁だそれは幾つも連なり迷路のように……

「……迷路……?」

「ふざけんな……!」

トムソンは土壁を蹴り飛ばそうとした。


しかし――

バインッ!!

バネ仕掛けで跳ね返ってきた。


「ぐはっ!!?」

顔面に土がべったりつく。


ジェフがのんびり指差す。

「トムソンさぁ~ん……顔に土ついてるよぉ~……」


「うるせージェフ!!」


倉庫の天井裏に設置された簡易管制室。

そこには、“監視魔導カメラ”の映像が並んでいた。


眼鏡を押し上げながら、光郎が緊張した声で言う。

「……もうすぐA地点に泥棒が来ます。

正則君、カンナさん……準備いいですか」

二人はこくりと頷いた……


彼らは――

泥棒たちより先に倉庫へ向かい、

罠の作動状況を確認していたのだ。


天宮家の休憩場

大人たちが眠りこけている光景を見て、

光郎は眉をひそめた。

「これは……やっぱりレギス能力だよ。

揺さぶっても起きない。

何か条件があるのか……?」


正則は震える手でイリスの肩を揺らす。

「お、起きてください……イリス様……!」

しかしイリスは微動だにしない。


まるで深い深い眠りに落ちているようだった。


カンナが青ざめた顔で叫ぶ。

「やばいよ!!

泥棒たち、扉に迫ってる!!」


休憩場の窓から見える外の先――

黒い二つのシルエットが、ゆっくりと倉庫の扉へ向かっていた。


光郎は唇を噛む。

「……僕たちでやるしかないのか」


カンナが振り返る。

「なに言ってんのよ!?私達で泥棒なんて――」


だが、正則が静かに言葉を重ねた。

「……やろう。

僕たちでプレゼントを守るんだ。

あの罠なら……きっと大丈夫だよ」

その目は震えていた。


でも――逃げていなかった。


光郎も、カンナも、息を呑んで正則を見る。

そして三人は、ゆっくりと頷き合った。



「アベル!!」

正則が振り返る。


「何とかしてイリス様たちを起こす方法、考えてくれ!!

僕たちは倉庫に行く!!」


アベルは半泣きのまま、

でも必死に頷いた。

「……や、やってみるよ……!」


震える声だったが、その目には確かな覚悟があった。


正則、カンナの二人は、

暗い土の迷宮を駆け抜けていく。


月明かりが差し込むたび、

小さな影が床に伸びては揺れた。


トムソンとジェフがプレゼントに近づくたび――

二人は迷宮に仕掛けられたボタンを押す

その度、倉庫の中では、トムソンとジェフの悲鳴が上がる。


「ぎゃあああああああああ!!

目に入るぅぅぅぅ!!」

「トムソンさぁ~ん……火ぃついてるぅ~~~!!」

「消せぇぇぇぇぇぇ!!」

「ふぎゃああああああああ!!

またすべるぅ~~~!!」

罠が作動するたびに、

倉庫全体が揺れるほどの騒音が響いた。


正則たちはその音を聞きながら、互いに顔を見合わせる。

「……罠、ちゃんと動いてるね」

「うん……!」

「よし……行こう!!」

プレゼントを守るために。


大人たちの代わりに。

そして――ロビンのように。



度重なる罠を受けたトムソンとジェフは、

もはやボロボロだった。

服は燃え落ち、髪は逆立ち、

紙吹雪とスライムが全身に貼りつき、

半裸で息も絶え絶え。



「ふざけんなもーよー!!

ジェフ!! 魔法でぶち抜け!!」

「おれも~~……いい加減……怒ったぞぉ~~~……!」

ジェフの魔力が高まり、

倉庫の空気がビリビリと震える。


次の瞬間――

風の魔法が土壁を貫き、強引に道をこじ開けた。


土煙が舞い上がり、視界が晴れる。


その開いた先に――

腰を抜かして座り込むカンナがいた。

「あ……」

カンナの顔は真っ青。

震える手で床を掴み、後ずさることもできない。



トムソンは目を細め、ゆっくりと歩み寄った。

「おい……なんでタイミングよく罠が作動すると思ったが……

こんなクソガキが原因かよ」


カンナは声も出せず、震えるだけ。

「お前……俺と会ったことあるのか?」


その問いに答えられず、カンナはただ首を振る。


「まあいい」

トムソンは薄く笑った。

その先には――

プレゼントの山。ゴールは目の前だった。


ジェフがにやりと笑い、

間延びした声で言う。

「いけなぁ~~~い……

嬢ちゃぁ~~ん……

おしり……ぺんぺん……しちゃうぞぉ~~~……」


その瞬間、管制室から光郎の叫びが響く。

「正則君!!

カンナさんが危ない!!」


正則は自分の浅はかな判断を悔い、

歯を食いしばって走り出した。


そして――

二人の前に飛び出す。


「泥棒は……帰って!!」


トムソンが振り返り、鼻で笑う。

「あん? もう一人いやがった」


ジェフは自分の手をお尻に当て、意味不明なポーズを取る。

「二人とも~~……

おしおきぃ~~~……」


正則とカンナは震えながら叫んだ。

「イリス様……助けて……!」


だが――

二人はあっさり捕まってしまった。


トムソンはプレゼントの山に近づき、

結界に触れた瞬間、手を弾かれた。

「くそっ!!

なんだこの強力な結界は!!」


火花が散り、結界はびくともしない。


トムソンは悟った。

――自分たちでは破れない。

「だーー……苦労の割に……」

頭を掻きながら、捕まえた子どもたちを見下ろす。


ジェフが間延びした声で言う。

「とむそぉ~~ん……

この子たち……どうしよぉ~~~……?」


トムソンは深くため息をつく。

「はぁ……ガキには手を出したくねぇ。

だがよ……見られちまったら仕方ねぇだろ」


トムソンの手が、

正則たちに触れようと伸びた――

その瞬間。


「YES! チャイルド NO! タッチ!」


可愛らしい声が倉庫に響き渡った。


トムソンの手がピタリと止まる。

「……は?」

振り向いたトムソンの目に映ったのは――

小さなシルエットと、

その後ろに立つ大きくて頼りないシルエット。

月明かりに照らされ、

二つの影が倉庫の入口に立っていた。

小さな影は、

腰に手を当てて堂々と立つ。


その正体は――

クリスマスに終わらす……

年内に終わらす……

無理でした読んでくれている人に感謝 来年もよろしくお願いします。

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