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聖夜のエクソジェン其の七

「決まっているだろう。

“プレゼント強奪計画”の成功だ」


トムソンはそう言って、薄く笑った。

夜気にさらされたその笑みは、どこか乾いている。


懐から取り出したのは、一枚のカード。

それはただの紙切れではない。

月明かりを受けた瞬間――

まるで応えるかのように、カードが淡く、確かな光を放ち始めた。


「……来た。今だ」


低く、確信に満ちた声。

その瞬間、空気が微かに歪む。


レギス能力《運命占断フォーチュン・ドロー》――

トムソンが持つ“運命のカードデッキ”から、

その日の運勢に応じて、たった一枚を引き当てる能力。


それは祝福にも、呪いにもなる。

完全な偶然に身を委ね、

引いたカードの効果が、現実そのものへと干渉する。


・効果は完全ランダム

・当たりの日は国家レベルの脅威

・ハズレの日は自分に不幸が降りかかる

・敵意、殺意を抱いた瞬間、効果は消滅する

・高位の存在、には通じない

・アブレーションにも無効


扱いを誤れば、自滅する能力。

だが――


トムソンの手に現れたカードを見て、

彼は思わず声を上げた。


「ひゃほー!

やっぱツイてる、大当たりだぜ!」


掲げられたカード。

そこに刻まれていたのは――

《眠りのスリーピング・ムーン》。


施設全体を覆う、眠りを誘う香りを発生させ、

“初対面の人間”を、強制的に睡眠へと導く運命干渉。


魔力でも、精神操作でも、薬物でもない。

分類不能の、純然たる“運命”による干渉。

効果時間は――月が沈むまで。


トムソンは、隣に立つジェフのコートを乱暴につかみ、

顔を寄せて低く言い放った。


「おいジェフ、人間には手ぇ出すなよ!!

殺意を出した瞬間、効果が消えちまうんだ!!」


「わかって~るよ~」


間のびした返事。

緊張感など欠片も感じさせない声だった。


二人は堂々と、

まるで散歩でもするかのように、

孤児院の正面扉を堂々と歩き出す。



少し前――<天>倉庫


倉庫の中には、静かな達成感が漂っていた。


イリスを中心に、

天宮家の面々は、罠作りを終え、

それぞれが小休止を取っていた。


霧音が湯気の立つお茶を盆に乗せ、

一人ひとりに配っていく。


「みなさん、夜は長いです。

ここらで一度、休憩にしましょう」


柔らかな声と微笑みに、

護衛も使用人も、男女問わず頬を赤らめる。


「ありがとうございます、メイド長」

「いえいえ」


その光景を横目に、

倉庫の見取り図を広げていたイリスのもとへも、

霧音はそっとお茶を置いた。


「イリスさん、少し休憩を」


「ありがとう、霧音さん。

……ところで」

イリスはふと顔を上げる。


「優の奴、吐いた?

サタンクロースの箱のこと」


霧音は一瞬だけ言葉に詰まり、

少し前の出来事を思い返した。


「もうヤダ……飽きた……霧音ちゃん……

あの箱には俺が書いた“久遠優”って書いてあるんだよ……

だからそれ探せばいいよ……」


度重なるプレゼントの精査――

によって、優は完全に根を上げていた。

※実際には、ほとんどしていない――



床にごろんと転がり、

死体のように動かない。


(……本当に元大人なの、この人……?)

霧音は心の中で、静かにため息をつく。


「ですが、プレゼントには

“久遠優”と書かれた箱はありませんでしたよ?」


「えええ!?

ホントに書いたもん!」

うつ伏せのまま、優はぶうたれる。


霧音はポケットから紙とペンを取り出し、

優の前に差し出した。


「優様。

字体を知りたいので、お名前を書いていただけますか?」


「めんどくせー……」


渋っていた優だったが、

なぜか急に起き上がり、機嫌よく笑う。


「書いてあげよっかなぁ~」

そして、やたら可愛い動きで霧音に詰め寄った。


「霧音ちゃん、今からいっぱい飲んでもいい??

なぁ、もう俺必要ないよね?」


「……書いてくださるなら、考えましょう」

苦笑しつつ、霧音は答える。


「しょうがないな~」


優はペンを受け取り、

サラサラと――

驚くほど汚い字で、“久遠優”と書いた。


……が。


その文字は、どう見ても“久遠優”には見えない。

むしろ、まったく別の名前だ。


「……もう一度、書いていただけますか?」


再び書かれた“久遠優”。

だが、先ほどとはまるで違う字体。


霧音は二枚の紙を並べ、優に見せた。


「えー……これ、優様。

なんて書いてあるんですか?」

そのミミズ文字は、

角度によっては達筆に見えなくもない。


優は逆に首をかしげた。


「あれ……これ何て読むの?

霧音ちゃん」


「…………」


霧音は、そっと頭を抱えた。


「……そろそろ、イリスさんに休憩のお茶を入れてきますね。

優様、ここで大人しくしていたら……

お酒、考えておきます」


(“考える”と言っただけで、

持ってくるとは言っていません)


「やったー!!

大人しくしてる~!」


床に寝転び、

タブレットでアイ戦を始める優。


「早く帰ってきてね~」


――霧音が倉庫に戻ったとき、

イリスは目を点にしていた。


「……なんて使えない奴なのよ、アイツ」


霧音は苦笑し、肩をすくめた。


そのとき――

倉庫の外から、

奇妙な香りが流れ込んできた。


「……え?」


次の瞬間だった。


天宮家の面々は、

一人、また一人と倒れ込んでいく。


イリスも、護衛も、霧音も――

まるで糸が切れた操り人形のように、

音もなく眠りに落ちていった。


誰一人、抵抗すらできなかった。

それが、この能力の恐ろしさだった。


倉庫の外では、

きょろきょろと中を覗き込みながら、

トムソンとジェフが笑っていた。


「よし……“眠りの月”は完璧に効いてるな」


「へへ~、楽勝~」


夜 低学年の子どもたちの部屋


布団が敷かれ、

就寝準備の真っ最中。


……とはいえ、

倉庫での罠作りの興奮は、

まだ誰の中にも残っていた。


部屋はまるで、遠足前夜のような騒がしさだった。


「ねぇねぇ、あの転ぶ罠すごかったよな!」

「絶対引っかかるよ!」

「ロビンみたいに泥棒やっつけられるかなぁ!」

「明日クリスマスオだし、今日もイベントって感じじゃん!」


声が飛び交い、

期待と高揚が膨らんでいく。


「こらー!

明日はクリスマスオ本番なんだから、

みんな早く寝なさい!」


先生が怒鳴り、電気が消された。


闇が落ちる。

それでも、布団の中の囁きは止まらない。


正則は、目を閉じられずにいた。


明日の行事。

そして――

今晩、来るはずの泥棒。


隣を見ると、

カンナも、光郎も、アベルも、エリーも、

同じように眠れていない様子だった。


いつの間にか布団が寄り集まり、

顔を見合わせて、小さく笑い合う。


そのとき――

妙な臭いが漂ってきた。


「……え?」


正則が身を起こす。


さっきまで賑やかだった部屋が、

臭いが満ちるにつれて――

恐ろしいほど静かになっていく。


沈黙。

月明かりだけが、薄く部屋を照らしていた。


その光を遮るように、

二つの影が、静かに伸びる。


部屋の窓に立つ影。

二人組の泥棒。


トムソンとジェフだった。


正則は、息を呑む。

隣のアベルは、今にも泣き出しそうな顔。


「ひっ……」


「しーー!」


正則は慌ててアベルの口を塞ぎ、

布団の中へ引きずり込んだ。


泥棒たちは部屋を覗き込み、

子どもたちが全員眠っていることを確認すると、

音も立てずに去っていった。


気配が消えた瞬間、

正則はカンナを揺さぶる。


「カンナ、起きて……!

カンナ!」


アベルも、光郎とエリーを揺さぶる。

だが、なかなか起きない。


「もう……なんで起きないの……!」


苛立ちが募った、そのとき――

カンナが、ゆっくりと目を開けた。


「……なに、正則……?」


続いて、光郎とエリーも起き上がる。


「しーー……!

泥棒だ。

あの二人組の泥棒が来たんだ……!」


光郎が青ざめる。


「そ、それなら先生に知らせなきゃ!!」


廊下へ飛び出した五人は、そこで言葉を失った。


先生たちが、

眠ったように倒れていたのだ。


「え……?」


光郎は震える手で眼鏡をかけ直す。


「これ……レギス能力……?」


カンナは必死に先生の肩を揺さぶる。

「先生!

起きて! 起きてよ!!」

だが、返事はない。


恐怖が、じわじわと胸を締めつける。


そのとき――

正則の脳裏に、ロビンの姿が浮かんだ。


怯えながらも、

一人で立ち向かった少年。


家を守るため、

仕掛けを張り巡らせた姿。


正則は、拳を握りしめる。


「……僕たちで、倉庫に行こう。

イリス様に、このことを知らせるんだ!」


暗い廊下。

月明かりだけが、正則の決意を照らしていた。


カンナが、黙って頷く。

半べそだったアベルも、涙を拭う。


光郎は眼鏡を押し上げ、

エリーの肩に手を置いた。


「エリーは……お留守番。

ここを守って」


カンナがエリーの頭を撫でる。

エリーは、小さく頷いた。


「……うん」


「よし、行こう!」


正則たちは走り出す。

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