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聖夜のエクソジェン其の六

意気揚々と子どもたちを連れて部屋を出る優。


もはや優の“サタンクロースの箱ゲットチャート”は、

RTAのように頭の中で組み上がっていた。


(このチャートはすでに描ききった……もろたで!!!)


優は首を軽く傾け、

正面から視線を外したままニヤリと笑う。


口元だけが先に勝利を知っているような、

ずるい笑み。

その表情は――

もう全部、計算のうちだ。


「優様」

正面から声がした。


優は視線を外していたため気づかない。


子どもたちは一斉に振り向き、

目を輝かせて叫んだ。

「うわぁ……きれい……!」

「お姫様みたい……!」

「え、だれこの人……?」


そこに立っていたのは――

黒髪をゆるくまとめ、雪のように白い肌、

完璧なメイド服を纏った“THE・メイド”霧音。


まるで絵画から抜け出したような、

静謐で凛とした美女だった。


優は気づかず、悠々と歩き続け――

霧音にぶつかった。


「つう……どこ見て歩いてんだよ……あっ」

ドヤ顔だった優の顔が、一瞬で青ざめる。


霧音は微笑みもせず、

ただ静かに言った。


「優様、仕事もせず。

子どもたちを連れて……何をしようとしているのですか?」


その瞬間――優は背を向け逃げ出そうと


「はいストップ」

イリスが後ろから優の首根っこをひょいっと掴んだ。


「ぎゃあああああああ!!

放せ!! 今いい場面なんだから~~~!!」

優は空中でバタバタと暴れる。


イリスはため息をつきながら、子どもたちに向き直った。

「はい、みんな。

こいつについていくと碌でもないことになるから、

一旦お部屋に戻ろうね」


「えぇ~~~!!」

「優様と一緒にいたい~~!」

「泥棒やっつけるんでしょ!?」

子どもたちが口々に叫ぶ。


その中で、正則が一歩前に出た。

「ち、違うんです!優様は……その……!」


正則が説明しようとした瞬間――

「あああああああああ!!」

優がイリスに首根っこを掴まれたまま、

全力で口パクを始めた。


(喋るな!!

絶対喋るな!!

余計なこと言うな!!)


(ここで全部バレたら、

俺の“どさくさ作戦”が死ぬ……!)


正則は「えっ?」と戸惑う。


その可笑しな様子に、イリスが正則へ視線を向けた。

「えっと……君は?」

「せ、正則です……!」


イリスの美貌に、

正則は顔を真っ赤にして固まる。


カンナが肘でつついた。

「なにデレてるのよ」


イリスはふふっと笑い、正則の顔に近づく。

「で、正則君。なにかな?」

イリスの手の中で、

優は空中でもがきながら叫ぶ。


「キッズ!!キッズども!!

お口チャック!!」

優は人差し指を口に当て、

“しーっ”ポーズを連打している。


正則はごくりと息を飲み、勇気を振り絞って言った。

「……ホーム・ウルフです」


イリスの目がぱちりと開く。

「ホーム・ウルフ……懐かしいわね。

“クリスマスオ映画の金字塔”と呼ばれている作品ね」


子どもたちが一斉にイリスを見る。


イリスは優を片手で抱えたまま、

まるで映画評論家のように語り始めた。


「主人公は、ちょっとお調子者で嘘つきな少年ロビン。

“マスオの日”に罰として家に一人残されてしまうの。

家族は旅行へ行ってしまってね」


子どもたちは息をのむ。


「ところがその夜、運悪く家に泥棒が侵入する。

ロビンは偶然その計画を知ってしまい、

家を守るために――

自分の知恵と勇気だけで、

家中に仕掛けを張り巡らせるのよ」


イリスの声はどこか優しく、どこか誇らしげだった。


「ロビンはたった一人で泥棒を撃退する。

でもそれはただのドタバタじゃない。

家族が自分を心配してくれていたこと、

嘘をつくことの重さ……

いろんなことを知って、

最後には“もう嘘はつかない”と誓うの」


「笑って泣けて、

そして“家族っていいな”って思える……そんな名作よ。

クリスマスオ映画の中でも、

未だに語り継がれる一本ね」

イリスは微笑んだ。


正則の脳裏に、

毎年のクリスマスの記憶がよみがえった。


パパとママが笑いながら見せてくれたホーム・ウルフ。

モヒカンのカツラを被ったパパが、

「良い子は居ないかぁ~!

良い子ならプレゼントだ!!」

と頭を撫でてくれたあの日。


ママが言った言葉。

『正則、嘘つくと後で必ず後悔するから、

正直になりなさい』


正則の目に涙が溢れた。

それを見て、エリーが不安そうに唇を噛みしめ、

アベルが耐えきれず声を上げた。


「今晩……泥棒が来るって言ってました!!!」

エリーもアベルも、

つられて泣き出す。


気づけば他の子どもたちまで泣き始め――

「ちょ、ちょっと!?

なんでみんな泣いてるの!?」

イリスが慌てる。


優は空中でバタバタしながら叫んだ。

「だーーー!!

喋るなって言ってんだろおおお!!」


イリスは正則の頭を優しく撫でながら、

ふっと微笑んだ。

「じゃあ……ホーム・ウルフ、やってみる?」


その一言で――

子どもたちの涙が一瞬で止まった。

「やる!!」

「お願いします!!」

「泥棒やっつける!!」

イリスはにっこり笑い、

優を片手で掲げたまま言った。


「じゃあみんな、手伝ってくれる?」

「はーーーい!!」


霧音が呆れたように言う。

「イリスさん……本当にやるんですか?」


「大丈夫よ。

こう見えて学生の頃、冒険部だったの。

遊びだけど、こういうの得意なのよ」


イリスは優を片手で掲げたまま、

子どもたちを引き連れて歩き出す。


「よし!

みんなで泥棒を懲らしめよう!!」

「はーーーい!!」


倉庫へ向かう子どもたちの大行列。


掲げたままの優が、

ぽつりと呟いた。

「……え、話ちがくね……?」


その日――

<天>の巨大倉庫は、まるで戦場のような騒ぎになっていた。

イリスを先頭に、天宮家のレギスとヴァッサルたち、

そして興奮した子どもたちが総出で動き回り、

倉庫はあっという間に罠だらけの要塞へと変貌していく。


・床に仕掛けられた転倒ワイヤー

・天井から吊るされた魔導ライト

・段ボールの山に紛れたフェイクの箱

・子どもたちが描いた「危険!」の張り紙

・イリス特製の“絶対痛くないけど派手に転ぶ罠”

そのどれもが、

ホーム・ウルフ作戦の名のもとに配置されていった。


一方その頃――

優は罰として、別室で“プレゼント鑑定”をさせられていた。

「霧音ちゃん……もうどうでもいい……

おいちゃんサタンクロースの箱なんて……」


「はい優様、次の箱です」

霧音はなぜか嬉しそうに、

次々とプレゼントを運んでくる。


「いやああああああああ!!」

優の悲鳴が、倉庫の外まで響いた。


霧音は淡々と微笑む。

「優様、まだ百個以上ありますよ」

「地獄かここはぁぁぁぁ!!」


夕暮れ時。

食堂では、正則たちが子どもたちに囲まれていた。

まだ孤児院に来て一年ほどの新参者。


これまであまり話しかけられることもなかったが――

今日の“泥棒騒動”をきっかけに、

周りの子たちが興味津々で声をかけてくる。


「正則くん、本当に泥棒来るの?」

「罠ってどうやるの?」

「アベルくん泣いてたけど大丈夫?」


正則たちは少し照れながらも、

その輪の中に自然と溶け込んでいった。


その様子を見て、

イリスは満足そうに微笑む。


「……絶対、泥棒捕まえてあげるからね」

彼女は拳を握り、

気合を入れた。


そして――夜。

<天>孤児院の周囲に、

妖しい二つの影が近づいていた。


ズカズカと足音を響かせながら歩く二人組。

「なぁトムソン~、まだ~?

腹減ったんだけど~」

間のびした声で文句を言うのは、

背の高いノッポのジェフ。


その隣で、

ずんぐりとした。ギョロリとした目の男が立ち止まる。

「……占いだと、そろそろ“運命の時”が来るはずだ」

低い声で呟くトムソン。


ジェフが首をかしげる。

「運命って何の?」


「決まっているだろう。

“プレゼント強奪計画”の成功だ」

トムソンは懐からカードを取り出し、

月明かりにかざした。


その瞬間――

カードが淡く光る。

「……来た。今だ」

トムソンのレギス能力が発動した。


空気が震え、

二人の影が<天>の敷地へと滑り込んでいく。


しかし彼らは知らない。

その先に待つのは――

子どもたちとイリスが作り上げた“地獄の罠要塞”


そして、

優のサタンクロース箱奪還作戦(裏)

が同時進行しているということを。


夜の<天>孤児院は、

静かに、しかし確実に――

“事件の夜”へと突入していった。

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