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決戒の宣言

——天華駅。行き先は信濃。


駅の構内には、背の高い男と背の低い女——狭間 慧と犬飼 澪の姿があった。

澪はニコニコと上機嫌。


「いや~、あの親父、まさかグリーン席を用意してくれるなんて!」

お気に入りの駅弁をいくつか買い込み、すっかり浮かれた様子だった。


狭間は煙草の箱を指先で転がしながら呟く。

「あの狸が……。」


二人は顔を見合わせ、同じ疑問が浮かんでいる。

——ありえん。


狭間がいつもの癖で煙草に手を伸ばそうとすると——


「電車内は禁煙です!」

澪が指をさし、大声で制止した。


狭間はしぶしぶ諦め、新聞を広げる。

「マッスルズ痛い敗戦、3連敗——。」

お気に入りのチームが負けている記事に、狭間の機嫌は一気に悪くなる。


澪はそんな狭間の新聞を何気なく覗き込み、ある記事に気付く。

「悲劇の清明——彼を救った水鏡京香。」


新聞の一面には、大きな文字でその見出しが踊っていた。

「清明さん、可哀想ですね……それにしても京香っていい奴だったんですね?」

澪の言葉には妙な含みがあった。


水鏡 京香。

モデル、番組MC、ファッション業界のトップタレント。

そして——水鏡家の人間。


狭間は少し興味を持ち、新聞をじっくりと読む。

「天宮清明・水鏡京香が電撃結婚。京香は現在妊娠中——。」

「京香?」

狭間が眉をひそめる。


澪はニヤリと意地悪く笑い、からかうように言う。

「もう、おっさんですね、先輩。」


(まだ33だ……おっさんか?)

狭間は無意識に自分の歳を気にしながら、さらに新聞を読み進める。


「ほら、去年“一日局長”をやった人ですよ。」


その言葉で、狭間はようやく思い出した。

「……あの、性格悪い女か?」


澪は軽く肩をすくめながら、あっさりと肯定した。

「うぃ。」


蒼穹殿・マリアの執務室 デスプレイに映し出された3人の……

華月 エンザは憂鬱そうに新聞を広げ、重いため息をついた。

「昨晩のやり取りと今朝の報道……やられましたね。」


六道院 実道は苛立ちを隠さず、鋭い声を上げる。

「今すぐ報道を止めさせるべきだ!」


しかし、当事者であるはずのマリアは妙に落ち着いていた。

「先にやられた以上、しょうがないわね。」


その冷静すぎる反応に、エンザと六道院は思わず顔を見合わせる。

——何かが変わったのか、それとも……?


その沈黙を破るように、マリアは淡々と告げた。

「私の18歳の元服式に——閑条家と《天律決戒》を行います。」

(この秩泉エリアでは18が成人だ)


——その瞬間、3人の顔が一変した。

エンザと六道院の表情には、

**(狂ったのか?)**という思考がはっきりと浮かんでいる。


しかし——唯一、ナディール・アル・シムスだけは違った。

彼は静かに微笑み、満足げに言葉を紡ぐ。

「素晴らしい。」


ナディール・アル・シムスは恍惚とした表情を浮かべ、深く頷いた。

「古の決闘……なるほど、うん、素晴らしい。」


彼の目は輝き、興奮を隠せない様子だった。

「マリア様、勝算があるのですね? あああ……

私のことはシムスとお呼びください。」


悶えるように身を揺らすシムスに、マリアは穏やかに微笑む。

「もちろんよ、シムス。それに彼らは必ず断れないはず。」


——《天律決戒てんりつけっかい

約300年前——アブレーション巡る境域防衛政策をめぐり、

天宮家と閑条家は激しく対立した。


貴族会議では議論は収束せず、閑条家は突きつける。

「統治の正義を戦闘で示せ。」


——決闘の申し入れ。


天宮家はこれを一度拒否するも、最終的にはこう述べたという。

「そなたが言う“価値”を測るというならば、秩序に則り戦うがよい。」

その決闘は、天宮家の勝利に終わった。


しかし、彼らは単なる勝者として振る舞うのではなく——

閑条家の手を取り、互いの信念を讃え合った。

- 以降、代々閑条家は**副長官”の座を歴任**し続けることとなる


閑条 武は、霧音から伝えられた言葉に眉をひそめた。

「《天律決戒》だぁ?」

大柄な筋肉質の体から滲み出る圧倒的な魔力。


金髪のオールバックに、顔の至る所に刻まれた傷跡が、その戦歴を物語る。

「舐めてんのか——。」


その魔力を霧音にぶつけるように放つ。

しかし、霧音は一歩も引かない。


閑条は興味深げに目を細める。

「ほぉ……。」


霧音は落ち着いた口調で告げる。

「はい、元服式の飾りにしたいと、マリア様がおっしゃっております。」


「飾りだと?」

閑条は、ますます攻撃的な魔力を漲らせる。

「俺が勝ったら何をくれる?」


霧音は静かに告げた。

「境域討滅庁の長官の座を譲ります。」


閑条の目がわずかに動く。

——境域討滅庁の長官。

7つのエリアに存在するこの機関の長官は、

必ず7大貴族の当主が就任することが決まっている。


儀式に乗っ取ったつもりか——

閑条はしばし考え込む。

「……いいだろう。条件は?」


霧音は淡々と答える。

「マリア様は5対5の集団戦をお望みです。」


閑条の瞳が鋭く光る。

「5対5? ハンデやろうかぁ?100人でもいいぜ。」


霧音は揺るがず続ける。

「では、聖遺物の使用もよろしいですか?」


閑条は面倒くさそうに言い放つ。

「好きにしろ。」

(天宮の聖遺物には、脅威となるものはなかったはず……。)


そう短く思考し、了承する。

霧音は一枚の契約書を取り出し、差し出した。

「こちらにサインを。」


閑条はざっと契約書の内容を確認する。

(負けたとしても、家に致命的な損はねぇな。)

そう見極めると——親指を嚙みちぎり、血文字でサインを記す。


霧音が静かに告げる。

「これで、契約は成立しました。」

その瞬間——契約書が燃え、跡形もなく消え去る。


「あ~~よく寝た。」

優は小さな手を伸ばし、背伸びをする。


しかし——そこはいつもの部屋とは違った。

ベッドと、優が常に手放さないタブレットだけがある、簡素な空間。


優はぽつりと呟く。

「またここか~……うむ。」

しばし考え込みながら、視線を巡らせる。

(たしか……何とかの箱とか言ってたっけ?)


そう、ここは——マリアが優を外出するときに入れる


——《天霊匣てんれいこう

それは、一部屋の隔離空間を生み出す聖遺物。


優が外に出るとき——箱の中には梯子がある。

「よいしょ、よいしょ……。」


小さな体で梯子を登りながら、優は勢いよく叫んだ。

「おきたよーーーー!」

箱の蓋を開けると——パタン。


状況を察した瞬間、優は青ざめ、

**ひえ〜!**と叫びながらベッドの下に滑り込む。


すると——

——聞こえるはずのない声が、優の耳に届く。


「そう——見せてあげるわ。」

——『無垢なる書』ゼロ・コーデックス


《聖遺物》 稀にミスティック級以上のヴァッサルまたはレギスが死後遺物かする。

死亡したヴァッサルとレギス能力が断片的に込まれる

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