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転生したらみんな裸の世界だった!? アパレル知識で革命したら、世界一のデザイナーになった

作者: 七夕ばた

序章


「すみません、これってXXLありますか?」


――転生する前、俺はただのアパレルショップ店員だった。

日々、洋服に囲まれて働く生活は嫌いじゃなかった。むしろ大好きと言っていい。忙しい接客も、お客様の希望を聞いてコーディネートを提案するのもやりがいがあったし、少なくとも給料はもらえていた。

しかし、人生とは時に理不尽なものだ。ある雨の夜、店を閉めたあと、俺は横断歩道を渡っている最中にトラックに撥ねられ、意識を失うことになる。


その瞬間までは、まぁちょっと疲れてはいたものの、普通に「さて明日のコーデ、マネキンどう配置しようか」と考えていた。トラックのヘッドライトが眩しく光ったのを覚えている。

次に意識を取り戻した時、俺は見知らぬ大地――草原のど真ん中に倒れこんでいた。


「え……ここ、どこ……?」


いつかの漫画やラノベみたいに、「あ、やっちゃった系か?」と思ったのを記憶している。自分の体を見下ろすと、着ていたはずのシャツとパンツはそのまま(ちょっと砂まみれだけど)で、リュックや財布は見当たらない。ポケットにスマホがあったが、電波は0。そりゃそうか。

それにしても、どうしてこんな大草原? 山も森も見えるが、車もビルも通行人もまるでいない……と思いきや、遠くに人影らしきものがいくつか見えた。


「助けを……呼ぼう」


そう思って立ち上がる。足元がふらつくが大怪我をした感じじゃない。せいぜい軽い打撲くらいだ。俺はその人影たちへゆっくり向かい始める。こんな状況、混乱しないわけがない。まさかここが“異世界”だなんて、まだ確信もない。ただのどこか辺境の地かもしれない、と心のどこかで思っていた。


ところが、その人たちの姿は奇妙だった。まばらに数人……というか十人くらい見える。けれども、どいつもこいつも……服を着ていなかった。

まるで原始人か何かの部族。体に装飾品をつけている者や、派手なボディペイントをしている者はいる。しかし、肝心のシャツやパンツらしきものが皆無。腰布すらない。

全員が、あろうことか全裸――それが当たり前の状態のようで、恥ずかしげもなく歩いているのだ。


「は、はだか……? なんだコレ。いや、見ちゃいけないんじゃ……いやでも、ガン見せざるを得ないよ!」


あんぐり口を開けて固まる俺。すると向こうの人影のうち、1人がこちらに気づいたらしく、トコトコと走り寄ってきた。


それが、フィーラとの出会いである。


第一章 衝撃の全裸ワールド


「あなた、なんでそんな“もの”をまとってるの?」

「……え」


彼女――フィーラは小柄で華奢な少女だった。年は18〜19くらい? 腰まわりに花を編んだアクセサリーらしきものを付けているけど、肝心の布を使った衣服は一切なし。肌は小麦色に焼けていて健康的だ。

いきなりこんな全裸少女に話しかけられたら、どこに視線を置くべきかわからなくなる。俺は口ごもった。が、何とか言葉を搾り出す。


「え、えっと……これは服って言うんだ。日本で言うTシャツとパンツ……え? わかんないよな。つまり体を覆う布製品、というか……」

「ふく……? へえ、不思議。そんなの着る必要ある? 隠すため?」


彼女は首をかしげる。いかにも「服なんて初めて見た!」という顔つきだ。

この時点で頭の中がフル回転した。「あれだけ堂々と裸になっているんだ。恥ずかしさの概念がない世界……?」 いやいや待て、と俺の理性は叫ぶ。


「す、すみません。ここってどこなんですか。俺は、ええと……異国から来た、みたいな状況で……」


動揺している俺に対し、フィーラは無邪気に笑う。「ここはアトル村への道だよ。私たちはさっき村長さんに頼まれて、薬草を採りに来てるの。あなた、ケガしてるの?」

彼女はまったく羞恥心なく素っ裸で近づく。俺は視線をそらせつつも、どこか距離を取りたい本能と「でもこの子は悪気がない」という気持ちがせめぎ合う。


「い、一応大丈夫。転んだだけで…」

「そっか。じゃあアトル村においでよ。お腹減ってるでしょ? 私、フィーラ。あなたの服……って言うの? それ、面白そう!」


俺の手を掴んで笑うフィーラ。後ろにいる他の住人らしき人たちも似たように全裸か、葉っぱとか首飾りを巻いているだけという状態。みんな普通に俺を覗き込んで、「妙な格好してるね?」みたいな表情だ。

もう頭が混乱を超えて冷静になりつつある。「……俺、狭山リクと言います……。じゃあちょっと村へ……」


かくして俺は、彼女たち“全裸人”に導かれつつ、小さな集落へと足を運んだ。


第二章 アトル村でのカルチャーショック


アトル村は、数十軒ばかりの家々が集まる素朴な集落だった。木造の家と土壁の家が点在し、畑では穀物や野菜を育てているらしい。どこまでも広がる草原の端に森が接していて、狩猟もするんだろう。

そして村人は、老若男女問わず、やはり全裸に近い状態だ。中には複雑なボディペイントを施している人もいて、それが彼らなりの“ファッション”らしい。 …ファッション!? すごい。徹底してる。


「着るって概念はないのかな……そもそも防寒はどうしてるんだ?」


俺は思わず呟く。するとフィーラが答えてくれた。

「寒い場所なんて滅多にないし……朝晩冷えるときは火を焚いて温まるよ? それに体は動きやすいほうがいいじゃない?」

なるほど、確かに見たところ気候は温暖だ。俺自身、先ほどから長袖Tシャツが少し暑いくらいだ。


村の中央に「村長宅」とおぼしき家があり、そこの縁先で壮年の男性が待っていた。やはり裸。フィーラに「この方が倒れてたの?」と尋ねる。

「はい、ちょっと迷ってるみたいだから連れてきたの。えへへ」


村長は俺を上から下まで眺めて、興味深そうに頷いた。「お前さんのその……身体を覆うもの、なんと呼ぶんだ? 私は長いことこの村にいるが、そんなものを見るのは初めてだ」

「ふ、服です。まぁ、シャツにズボンというか。体を保護したり隠したり、ファッション的な役割も……」

「ふぁっしょん?」


言葉が伝わるのも不思議だが、イントネーションは違う感じで「ファッション?」と繰り返している。俺は思わず苦笑した。

「着こなしというか……“オシャレ”ですね。あの、そうだ、服がないなら、なんで外敵とか寒さから身を守らないんですか? 革とか織物とか……」

「うーむ、昔からそういう習慣がない。布? 動物の革は敷物にするものだ。身体につけるって発想はあんまりないな……」


どうやら、俺がいた日本の常識はここでは通じないらしい。要するに彼らは「裸が当たり前」「必要ならボディペイントやアクセサリーで個性を出す」世界で生きているようだ。

実際に見回すと、誰も身体を恥じる様子はない。それどころか、裸を隠す方が「奇妙」だと思われている。俺の長袖Tシャツも「その覆い、大変じゃない? 汗かくし、動きづらそう」といった反応がちらほら。確かに彼らのライフスタイルからすればそうだろう。


第三章 服の価値を考える


その晩、村長宅で晩飯をいただくことになった。焼いた野菜や果物中心の食事らしく、油もあまり使わず素朴だ。でもうまい。

フィーラはそんなに遠慮なく、俺の近くに座って「あなたのフクって、やっぱり隠すのが目的なの?」とか「どんな色の布があるの?」とか、質問攻めにしてくる。


「うーん、目的は色々。日本だと、第一に“寒さや外的刺激から身を守るため”なんだけど、ファッションとして楽しむ面もある。たとえば休日用のカジュアル服や、フォーマルな場でのスーツ……」

「すーつ? へぇ。なんか面白そう」


ボーッと耳を傾けていた村長が割って入った。「ほう、防御だとか寒さ対策だとか。確かに我々は怪我が多い……森には肉食獣がいるし、ちょっと擦り傷や日焼けが絶えん。防御になれば便利かもしれんが……どこから布とやらを手に入れるのだ? 毛皮を鞣す? あれは敷物にしか使わないぞ?」

俺はハッとする。そうか、毛皮は確かに敷物や壁掛け程度にしか使わない。それに糸を紡ぐ産業もないのか……。


アパレル店員としては、ある程度織物や縫製の知識がある。専門的デザイナーほどではないが、店頭で商品を紹介するには最低限の素材知識が要る。「これはコットン100%で、これはリネン混ですね〜」というレベルだ。だけど、それを“一から作る”なんて未知の領域だ。

しかも設備も技術もない場所でやるなんて……でも、逆に言えば、俺が知っている程度の裁縫・素材知識でも「この世界では超チート」になり得る可能性がある。

たとえば動物の毛を紡ぎ糸にする技法、植物の繊維を取り出して布を織る技法、あるいはシンプルに“ボタンとボタンホールの概念”だって存在しないかもしれない。

それらを総合すれば「服を初めて作る革命児」になれるのでは?


(いや、そんなのは一大事業だぞ……俺1人でできるのか? でももしできたら、この世界で何かを成し遂げられるかもしれない……)


内心ワクワクと不安が入り混じる夜だった。フィーラは「明日、少し森に行ってみない? 何か布の材料とか探すの?」と言ってくれる。俺は勢いで「そうしよう」と答え、翌朝さっそく行動を開始した。


第四章 服を作るには材料が必要だ


翌朝。森の入り口でフィーラと合流したら、彼女の仲間数人が既に“草”を大量に摘んでいた。よく見ると繊維質が強そうな植物だ。

「これ、頑丈でしょ? 細かく裂いたりすれば紐くらい作れそう」とフィーラは言う。彼女は縫い物の経験はないが、雑貨を編んだりするのが好きらしく、葉やツルを使って花冠を作ったりしているらしい。

「ここで得られる繊維を糸にできるか試してみよう。もし糸になれば布が織れるかも!」と俺は答える。


俺はかつて、雑貨担当の同僚から「草木や麻の繊維をほぐして糸を作るのって、歴史的にはそう難しくないよ」なんて軽い話を聞いた覚えがある。ただし手間はかかると言われた。

とはいえ、やるしかない。

集めた植物を森の小川で洗い、乾燥させる。その工程をひたすら繰り返し、繊維をほぐしてよじる。やってみると結構きつい。指が疲れるし、素人の俺にはコツがわからない。

でもフィーラは器用で、初挑戦にもかかわらず「ほら、こう編んでいくと紐になるよ!」といい感じに糸状のものを作り始める。


「すごいなフィーラ、手先が器用だね」

「えへへ。私、花とか葉っぱで飾り作るの好きだから、似たようなことやってたんだ。これが糸になればいいけど……」

「編み上がったら、もっと細く固くしたいね。縛りを解けにくくするとか……うーん、煮詰めたり、何か薬草の汁でコーティングしたり……」


こうして、最低限の「糸らしきもの」を作ることに成功。まだ荒いが、これを「裁縫用の糸」にできそうだ。あとは針だ。針は金属が必要になるが……村の職人に相談すると、何本か小さな金属片を加工してくれた。

思えば、道具を揃えるのだって一苦労。現代日本のアパレル店員とは違う、本当の意味でのモノづくりの苦労がある。


第五章 エルダールとの遭遇


森で繊維を採集する日が続いた。ある日、俺とフィーラが奥の方で植物を探していると、突然イノシシのような獣が襲いかかってきた。

「うわっ、危ない!」

フィーラが棍棒を構えているが、相手は野生のモンスターらしく異常に凶暴だ。俺は武器を持っていない。正直怖い。どうすりゃいいんだ……と思った瞬間、「ファイア!」という声が響き、火の玉が飛んできた。

火の玉はイノシシの横を掠めてびっくりさせ、相手をひるませた。そこへフィーラが一撃を加え、イノシシは逃げていく。

「大丈夫かい?」


現れたのは、エルダールと名乗る獣人の男性だった。30代くらいで、狼っぽい耳と尻尾が生えている。そして例によって裸に近い。腰には葉っぱを編んだ腰巻きがあるだけ。

俺が驚いたのは彼が“魔法”を使ったことだった。手から火の玉って、まさにファンタジーだ。


「魔法……? 俺、やっぱり異世界なんだ……」

ぼそっとつぶやくと、エルダールは不思議そうな目をした。「異世界? まあいい。あなたたち村人? こんな奥まで来て危ないよ」

フィーラが事情を説明し、俺の存在も紹介する。するとエルダールは興味を示し、「服? ふむ、面白いね。僕は研究員で、王都の魔法研究所に所属しているんだ。布とか糸にはちょっと興味がある。というのも、僕は葉っぱを編んだ作品づくりが趣味でね」と笑う。

なるほど。彼は魔法使いだが、手芸的な嗜好を持っているらしい。それなら協力してもらえそうだ。


「あなた、魔法使えるなら、たとえば糸を仕立てるのに火で端を焼き止めしたりできるんじゃ……?」と俺は提案。

「ほう、確かにできるかも。面白そうだな」

エルダールは目を輝かせる。そこで意気投合し、翌日からエルダールも加わって“糸づくり”の作業を手伝ってくれることに。火の魔法や風の魔法で手間を大幅に省けるため、一気に効率が上がった。


そのうち、エルダールが「王都へ行くんだろう? 君たちも行かないか。王都なら大規模な革や資源があるかもしれない」と誘ってくる。なるほど、確かにアトル村だけでは生地や道具が限られる。王都に行けば、より大きな変化が起こせるかもしれない……。


第六章 王都ルシャリオへ


「アトル村のみんな、いろいろお世話になりました。必ずまた戻ってきて服を見せますね」


村長に挨拶し、俺とフィーラはエルダールとともに王都を目指す。村の人たちも「おもしろそうだから、リクの服とやら、いつかまとってみたいよ」なんて期待半分、笑い半分の見送り。

数日かけて街道を歩き、途中の宿場で寝泊りしたり。道中にも全裸の人々が当たり前に行き来している光景を見て、やっぱりここは全裸の世界なんだなと実感する。


そして着いたのが王都「ルシャリオ」。

高い城壁に囲まれた大都市で、人口もかなり多い。市場や商店が並び賑やかだけど、みんな基本的に裸か、装飾くらい。中には首飾りが豪華だったり、体に宝石を貼り付けたりしている人もいる。まるで服の代わりにアクセサリーを大量につけてる感じだ。

「うわぁ……何というか、裸なのに華やか……」とフィーラが目をキラキラさせる。

俺は心底カルチャーショックだが、同時に「服が普及したらどうなるんだろう?」という期待も湧いてくる。こんなに人が多い場所に、“初めての衣服”が出現したら、その衝撃は大きいに違いない。


エルダールは言う。「僕の研究所は城の近くにある。王が管轄していて、魔法研究や学術全般を扱う機関なんだ。そこで偉い人に『服』を紹介してみるといい。興味を持てば資源がもらえるかも」

よし、そうしよう。そう思って研究所に行ったら、俺の“服を着ている姿”は一瞬で話題になり、噂があっという間に城へと届いてしまった。


第七章 王ジョルダンとの面会


「すげぇ、本当にまとっているのか? 変な奴だな!」

魔法研究員たちがざわざわしていると、急に使者が来て「王がお会いになりたいと仰せだ」と言われる。

その日のうちに、俺とフィーラ、そしてエルダールは王城の大広間に通された。ここはさすがに威厳がある。だが玉座に座る若き国王ジョルダンを見て衝撃。やはり彼も全裸……というか、マッチョだ。鍛え抜かれた筋肉がむき出し。


「貴様がリクとかいう異国の男か? そのまとっているものはなんだ。暑苦しくないか?」


王は豪快に笑う。その声にはカリスマ性が感じられる。俺は慌てて跪き、軽く頭を下げる。

「は、はい……これを“服”と申します。温度調整や怪我防止などに役立ちますし、本来はおしゃれ要素としても……」

「ほう。そんな布きれで身体を覆って何が楽しい?」と王。

「はっきり言います。怪我を減らせる。防御になりますし、寒冷地……もしあれば暖を取れます。あとは恥ずかしさを隠すとか、ファッションとして楽しむとか、いろいろメリットが……」

「ファッションだと? ふむ、わしらは肌を誇りとしているが……確かに、モンスターとの戦いで裸だと危険だという声もある。何か役立つかもしれんな」


そう言いながらも「面白いな、やってみろ」と軽いノリだ。どうやら王は“実益があるなら使うが、なければ不要”くらいに考えている。

そして王は騎士団長らしき男に目配せし、「試しに騎士用のまとうものを作らせてみろ。どんなものか見たい」と命じる。結構アッサリで驚く。

けれども内心「一気に大舞台……」と緊張。俺にとっては服作りのプロセスは未知だらけ。でもやるしかない。


第八章 初めての大仕事:騎士用のジャケットづくり


王城の一角を工房として使わせてもらえることになった。そこに大量の毛皮や植物繊維が運び込まれる。動物の革だ。村とは比べものにならない量と質。

俺はこう思った。「布よりも先に、革製のジャケットを作ったほうが手っ取り早いかも。防御力も高いし」。

エルダールやフィーラも賛成し、さっそく取り掛かる。ただし、普通なら毛皮を柔らかくする鞣し(なめし)工程が必要だ。塩や薬草、時には薬品が使われるが、ここには魔法がある。火や風を適度に使って乾燥処理や薬草エキスを染み込ませると、比較的短時間でそこそこの仕上がりになった。


「よし、ある程度柔らかくなったし、毛は外側にするか。裏地に草繊維を敷いてクッションに……」

俺は頭の中で、今までの知識を総動員する。たとえば「レザージャケット」とはどういう構造か。袖丈はどうするか。ボタンはどう付ける?

幸いエルダールが“空中に型紙を投影する”程度の簡易魔法を編み出し、サイズ測定を助けてくれる。これによってパターンメイキングがかなりラクになった。

あっという間に革を裁断し、糸で縫い合わせる。エルダールの火魔法で糸を焼き留めし、仮縫い工程は風魔法で固定……と、ファンタジーならではの手法が次々使える。これなら短期間でそこそこの形ができそうだ。


フロントは合わせにしてボタン? それとも紐を結ぶタイプ? いきなりボタンホールを作るのは難しい気もする。試行錯誤の末、今回は紐で縛る形式を採用。

さらに肩当てや胸当ての部分を少し厚めにして防御力を上げる。動きづらさはあるが、初回作品にしては仕方ない。

こうして数日かけて完成したのは、“革製の簡易ジャケット”だ。胸と肩を重点的に保護する形で、背中の裾は短めにしている。見た目はゴツいが、まぁ騎士向きかもしれない。


「すごい……初めてにしては、ちゃんと“服”になってるよ!」

フィーラが感心してくれる。俺もほっと胸を撫で下ろすが、果たして騎士が着るとどうなのか……?


翌日、騎士団を集めて試着テストをやってみた。すると、裸にそれを羽織った騎士が「おお、身体が守られている感じがする!」「走るとちょっと動きづらいが、モンスターの牙や爪からは防げそう」とまあまあ好評。

王も見学して「ふむ、確かに多少は防げそうだな」と言いつつ、「だが動きにくいな、もっと軽くならんのか?」と不満げだ。

俺は課題をメモしながら「これから改良を重ねます! より軽く柔軟な革にして可動域を広げ、必要な箇所だけ補強すれば……」と答える。


第九章 町の噂と過激派の抵抗


そうこうしているうちに、城下に「騎士団が服という変なものをまとっている」という噂が広まり、大騒ぎになる。そりゃそうだ。裸が当たり前の社会で、“革を体にまとった姿”なんて衝撃だろう。

「何それ、格好いいかも!」と喜ぶ者もいれば、「俺たちの伝統はどうなるんだ!?」と怒る者もいる。特に後者は、いわゆる原理主義的な連中らしい。服など不要、裸が最も美しい、という考え。

そのリーダー格がラゼットという男だ、と人づてに聞いた。


ラゼット派は「大いなる肌色の同胞」なる宗教っぽい結社を名乗り、国王にすら苦言を呈することがあるとか。王は当初無視していたが、影響力は無視できないらしい。

俺としては正直困る。彼らに服を強制したいわけじゃない。服があると便利だ、着たい人が着ればいい。でも過激派は「存在自体が神聖さを冒涜する」とか言いそう。

案の定、その兆しがあった。ある夜、俺たちが工房に置いていた繊維や革が何者かに焼き払われそうになったのだ。幸いエルダールの結界魔法で防げたが、残されたメモには「服なんて邪道、やめろ」と書いてあった。


王都にはモンスターも出現することがあるらしいが、近年その被害が増大しているとも聞く。俺は「こんな裸社会だから被害が大きいのでは?」と考えるが、ラゼット派からすれば「それは神の試練だから服なんて要らん」みたいな理屈になるのか? 困ったものだ。


第十章 町を襲うモンスターと服の真価


そんなある日、事件が起きた。王都近郊から現れたモンスターの群れが街中に侵入し、民衆を襲い始めたという報せだ。騎士団が急いで出動するが、まだ多くは裸同然だ。

急場しのぎに、俺が試作した革ジャケットや軽装ベストを持ち出し、駆けつける有志に「これを着てくれ!」と配っていく。数は十分じゃないが、何もしないよりマシだろう。

フィーラとエルダールも俺を手伝う。立ち向かう騎士や民兵たちも、初めての服に戸惑いながらも「こうしたほうがいいか!?」と腰に巻いたり。


モンスターは犬に似た獣型が十数匹と、鳥形の飛行モンスターもいる。裸の市民は次々に傷を負いパニックだ。ラゼット派も巻き込まれて悲鳴を上げているじゃないか。

そりゃそうだ、裸で鋭い牙や爪に対抗するのはきつい。見ていられない。

ところが“服装備組”は比較的軽傷で済んでいる。かすり傷や爪痕はジャケットに止まり、致命傷を避けられるケースが多い。みんな「こ、これはいい……!」と驚嘆。俺は「だから言ったんだよ、防御になるって」と内心叫ぶ。


ラゼット本人もモンスターに襲われて負傷し、「ぐああっ!」と倒れる。運悪く足を噛まれたらしい。エルダールが駆けつけ、魔法で応急処置すると同時に、俺が布包帯を巻いて応急手当する。

「くっ……服を着ていれば、こんな大怪我にはならなかったかもしれないのに……」と俺は思わず言葉にする。

ラゼットはうめき声をあげながら、「うるさい……俺は誇りを捨てるわけには……」とまだ強がるが、包帯の存在に少なからず恩恵を感じているはずだ。


最終的に、騎士団と魔法使いの奮戦でモンスターを撃退。街は混乱を脱したが、多くの負傷者が出た。でも“服を身に着けた者”の被害は相対的に軽く、命を落とす人は少なかった。

これが決定打となる。王も市民も「服の防御力は本物だ」と確信する。裸の誇りより生き延びるほうが大事、と思う者が増えたのだ。


第十一章 王の布革命宣言とファッションの始まり


「リクとやら、お前の作ったものは役に立った。見事だ!」

次の日、王ジョルダンが大広間で盛大に宣言する。「今後、我が国では服を積極的に導入することを正式に認める!」と。

騎士団には“防御としての服”を着用させ、一般市民でも希望者には推奨するという。市民の多くは「これで怪我や被害が減るならありがたい」と賛同し、街には「革製のベストやズボン」が少しずつ普及し始める。

一方でラゼット派は沈黙。リーダーのラゼット自身が大怪我して治療を受けたことで、過激な抵抗を弱めている。完全に納得したわけではないが、服を頭ごなしに否定できなくなったのだろう。


王はさらに言う。「リクをアパレルという名の顧問として迎え、布や革の加工法を広めさせる。国として施設を整備し、希望者を集めて研修を行え!」

まさに“革命”が始まった。王城の一室がアパレル工房として拡張され、俺やエルダール、フィーラはスタッフを増やして量産体制に乗り出す。

この時、やっと「布」にも力を入れることになった。革だけでは動きづらいし、寒さ対策にも限界があるので、植物繊維を本格的に織って布生産しようという計画。

もちろん本格的な織機がないから手作業に近いが、魔法を絡めた簡易織機をエルダールが試作中だという。すごい才能だな。


市民の中でミシンや縫製技術は存在しなかったが、そこに俺が接客時代のなんとなく知っている知識を加え、「縫い合わせ」「すくい縫い」「まつり縫い」といった基礎を説明する。興味のある若者や女性たちがワイワイ学んでくれる。

一方フィーラは女性向けの衣装を作りたがり、「ワンピースみたいな形を試したい!」とはしゃぐ。俺もそれに協力して、生地が少し手に入ったら試作品を作ってみることにした。


第十二章 ワンピースのお披露目とファッションショー


「やっぱり女性向けの可愛い服も必要だよね」

フィーラは嬉しそうだ。彼女自身は「服」に対して強い興味を持ち、「今までは恥ずかしくても我慢して裸になってたけど、本当は隠したい部分とかある」と言う。なるほど、全員が裸を好んでたわけでもないらしい。

そこで少量染色した布を使い、ワンピースを作ってみることになった。染料は花びらや草木の根から採取して、淡いピンクに染める。簡易的で色落ちのリスクはあるが、やらないよりマシだ。

エルダールの風魔法で布を乾かし、俺とフィーラが型紙を考える。彼女の体型を測って、丈は膝くらい、袖は短め、首回りはやや広めに……と決める。正直、俺も初めてのワンピース製作だが、頭に浮かぶのは“チュニックワンピース”みたいな形だ。


縫い合わせて試着すると、フィーラは「わぁ……すごい。体がすっぽり包まれる!」と感激している。胸元やウエストあたりはまだ雑だけど、十分形になった。

「ちょっと可愛い。身体のラインが逆に強調されるかも……?」と頬を赤らめつつ、フィーラは鏡(魔法で作った簡易鏡)に映る自分を見て笑顔になる。俺はドキリとした。普段、裸が当たり前だが、だからこそ服を着た姿が新鮮で魅力的に見えるのかもしれない。


「よし、これを市民にお披露目してみない?」

工房で作業をしていた女性スタッフたちが「みたい!」「私も着たい!」と盛り上がる。そこで王の許可を得て、街の広場で“試着会”を開催。

当日、フィーラを含む数人がワンピースや簡易スカートを着てステージ(急ごしらえ)を歩く。観客は目を丸くしていたが、歓声が上がる。「おお……布を体に纏うだけでこんなに印象が変わるのか」「すごく可愛いじゃないか!」

今までは全裸同士で差別化しようにもアクセやペイントしかなかった。それが“一枚の布”で一気に華やかになるなんて、そりゃ衝撃だろう。


いわば「ファッションショー」の幕開けだった。その場で一般の女性数名が「私も着たい!」と志願し、フィーラのワンピースを試着し、「こんなの初めて! 恥ずかしいけどワクワクする…!」と大盛り上がり。

さらに俺は色の合わせ方やコーディネートを軽く説明する。「トップスとボトムスという発想もあって……下だけズボン、上だけシャツなど組み合わせると違う印象に。色も揃えるとおしゃれですよ」みたいなことを言ったら、「なるほど!」「奥が深いな!」と驚かれた。

こうして街の若者を中心に「服文化」が“楽しい”と思われ始める。まさに革命だ。


ラゼット派の動きはどうかというと、一部が見に来て「あれは肉体美の否定だ!」と怒鳴ったが、モンスター事件で痛い目を見た経験からか、過激行為には及ばなかった。むしろ怪我を負って服や包帯の有益性を知ってしまい、黙り込んでいるメンバーもいる。

ラゼット本人もまだ渋い顔ながら、無理矢理暴力で止めようとする姿勢は消えつつあった。


第十三章 世界一のデザイナーを目指して(終幕)


事態はどんどん動く。隣国から「我々もその“服”とやらを導入したい」と打診が入り、さらには他の地方にも波及していくという話が持ち上がる。エルダールが嬉しそうに「僕も魔法技術で織機を改良するよ!」と張り切る。フィーラは「もっと可愛い服、いっぱい作りたい!」とやる気満々だ。

王は「リク、わしは裸を否定する気はないが、服があることで守れるものもあるとわかった。大いに広めてくれ。お前は“首席アパレル大臣”だ!」と笑う。

俺は「それ、責任重大すぎますが……」と苦笑いしつつ、心の底では「やるしかない」と思った。この世界において俺のアパレル知識はまさに唯一無二の“チート”だし、人々を救えるし、楽しませることもできる。こんなやりがい、他にあるだろうか。


フィーラのワンピースも改良を重ね、後ろファスナー式にして着脱しやすくしたり、色も紺や薄紫などバリエーションを増やしたりと、少しずつ“ファッション”らしくなっていく。俺は接客時代の記憶を総動員し、「パーソナルカラー」「体型を活かすシルエット」などアドバイスし、皆が喜んでくれるのが嬉しい。

もはや俺1人の力ではカバーしきれないので、工房には多くの見習いが入り、集団で裁縫や革加工を学ぶ。僕が講師役となり、「まずは基本のチュニックから習得しましょう」と教えると、大半の生徒が真剣に取り組む。中には短期間で上達して俺を追い抜かん勢いの人もいる。いいね、こういう競争とコラボが業界を発展させるのだ。


そして数ヶ月経ち、王都には革の防具を着た騎士が多く出歩くようになり、布製の服で街を歩く市民もちらほら増えてきた。もちろん裸派も残っているが、ちょっとしたイベント時には“服を着る人”が注目を浴びるので、だんだん「着ること=オシャレ」という認識が広まる。

王自身も、式典の際に「自分もレザーマントを羽織る!」と言い出したりして、裸と服の融合文化が始まったと言える。

一方、ラゼットは未だに「信念は変わらん!」と表向きは言うが、モンスター対策では服を着たほうがマシだと認めているらしい。頑固な男だが、過激路線はやめたようで何よりだ。


ある日、工房でフィーラと並んでミシン(魔法で作った簡易ミシン)に向かっていたとき、ふと俺は思った。「俺って、元々はただの店員だった。でも、いまこの世界で服を広めて、色んな人の役に立ってる。まるで……世界一のデザイナーになれるんじゃ……?」と。

もちろん本当の意味での“世界一”はまだまだ先だろう。技術も洗練しきれていない。だけど、誰も服なんて作ったことのない世界でトップを走れるなら、あとは努力とアイデア次第。

フィーラが俺を見て微笑む。「リクは凄いよ。私、あなたがいてくれたおかげでこんな夢中になれた。もっと可愛い服をたくさん作りたいし、みんなに着てほしい!」

隣でエルダールが「僕はパターンが好きだ。魔法による補正をもっと活かせれば、空を飛べる布だって作れるかも?」などとぶっ飛んだことを言い出す。

俺は笑いながら「新しい素材とか、ファンタジー素材とか……そういうのも探していきたいね。いつかは本当に空を飛ぶドレスもできるかも……」


その夢に胸を膨らませながら、ある日俺はふと思い立ってアトル村を再訪した。フィーラも同行。そこでは村長と顔見知りたちが「やあ、リク、本当に戻ってきてくれたか!」と大歓迎。最初に“服はないのか?”と興味を示していた村長は「俺にも一着作ってくれ!」と頼む。

試しに簡単なシャツを渡すと、村長は「ははは、何だかくすぐったいな。でも悪くないぞ」と照れながら笑う。村の若者たちも面白がって試着し、「おお、これが服か、確かに動きが若干制限されるが、守られてる感はあるな!」と意外と好評。

「こうして少しずつ広めていけば、裸社会と服社会は共存できるかもな……」


俺はそう呟きながら、温かい村の空気に浸る。もともと“服を着る=恥ずかしい”という感覚はなかったはずなのに、この村じゃ「服姿が新鮮でオシャレ」と受け止めてもらえるようだ。何だか嬉しい。

最後に、のどかな夕焼けの田畑を眺めつつ、フィーラが「あの時あなたがここへ来てくれて、本当に良かった」と微笑む。

「うん。俺も、ありがたいよ。正直最初はどうしようかと思ったけど……服って、世界を変えられる力があるんだなって」

「この先、もっとすごい服作ろうね!」

「ああ、まずはスーツもいずれ作りたいな。フォーマルなやつ。日本じゃ当たり前だったけど、ここではきっと目を引くはずだ」

「すーつ? どんなのか教えてよ!」


フィーラが楽しそうに身を乗り出す。彼女の瞳には期待がいっぱいだ。そう、俺もまだ勉強不足だから、いろんなアイデアを持ち寄って、どんどん開拓していけるはず。かつては日本で「セレクトショップの店員」にとどまっていたが、ここでは“服のプロフェッショナル”になれるかもしれない。

異世界に来てしまったという不安はあるけれど、それ以上に“新しい文化を築ける面白さ”が俺のモチベーションになっていた。


――そう、転生したらみんな裸の世界だった。だけど服があるからこそ、人は自分らしくいられる。俺はここで生きて、世界一のデザイナーになるんだ。


エピローグ


数日後、王城で改めて式典が開かれ、騎士団が「レザージャケット+布ズボン」の統一装備で整列する。王も簡易マントを羽織り、堂々と姿を見せる。街の人々はそのビジュアルに拍手喝采だ。

「あの王が服を着てる……! かっこいい!」

「騎士たちも強そうだし、前ほど怪我もしないはずだね」

ざわめきと喜びの声に包まれる中、俺はフィーラと隣り合ってその光景を見守っていた。胸がじんわり熱くなる。ここまで一気に変わるとは思わなかった。

エルダールが後ろから肩を叩く。「リク、いい仕事をしたな。今度は飛空士用の耐寒服を研究したいんだけど、どう思う?」

「飛空士? そんな職業あったんだ……ああ、飛竜に乗る人とか? それは面白そうだ。高度が高いと寒いもんな。厚手の布が必要だね。毛織物とか……」

想像がどんどん広がる。夢が無限大だ。


俺は一度深呼吸して目を閉じる。

(トラックに撥ねられて死んだ、と思ったらこんな世界に来て、みんなが裸で……でも服を作れて、笑顔も増やせた。まるで俺が生きたかった“服業界”を丸ごと創造してるみたいだ。俺はここで生きていいんだ……)


周囲では厳粛な式典が進み、ラッパが吹かれ、王が大声で何か演説している。「服の導入を国をあげて推奨する! それでも裸を愛する者はそれもよし、いずれにせよ我々は強く優雅になっていくのだ!」

拍手喝采の波が広がる。フィーラが俺の腕を軽く取って微笑む。「リク、これからもよろしくね。私、あなたと一緒に世界一のデザイナーを目指したい!」

「ああ、もちろん。俺だって目指すよ。世界一の、アパレルの頂点をね」


ちょうど夕日の光が差し込み、広間全体がオレンジ色に染まった。その中で、裸と服が混在する光景はなんとも不思議だが、どこか優しく温かい。

俺は心の中で呟く。

――ありがとう、この世界。そして、服よ。

これからも俺は“針と糸”を握りしめ、一人でも多くの人に“着る喜び”を届けよう。俺にしかできない革命を、もっともっと進めていこう。


転生してしまったが、服さえあれば俺は戦える――そう確信した、初めての長い日々が終わり、新しい明日が始まる。

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