第6話 夢の中
その声は突然聞こえてきた。
「お姉ちゃん」
それは相の声だった。聞き間違えるわけがない。けど、目を開けて周りを見渡しても相はいない。代わりに、ただ白い空間が広がっている。ここは……。
「ここは夢の中。私はお姉ちゃんの中に少ししかいないから、残念だけど姿までは無理みたい」
相が淡々と状況を説明してくれる。少ししかいないとはどういうことだろう。そんな考えを口に出す前に、まるで心を読んだかのように相が言う。
「余計なことは気にしないでね、夢の中だからさ。でも全部都合よくってわけにはいかないみたいだから……まあそういうのも含めて気にしない気にしない」
まあそうか、と納得する。夢なんだし考えても仕方ない。ともかく、夢の中だけど相に会えたのだ。
「ねえ相。聞きたいことがあるんだけど」
「それって私がどこにいっちゃったか?だったらそれはわからない、かな」
「わからないって……なんで!?」
その質問に相は答えない。代わりに不思議なことを言う。
「でも、お姉ちゃんの知らないことはわからなくても、知ってるはずのことはわかるの。だから私は夢に出てきてあげたんだよ?まあ今日まで出てきたくても、出れなかったけど……」
相の言う何もかもが、私にはよくわからなかった。
「今日思い出したばっかりのことがあるでしょ?《《こと》》っていうか人だね」
「それってもしかして《《ゆき》》のこと?」
「そう、でもまだ名前しかわかってないみたいだし……だからヒントをあげる。お姉ちゃんはさ、思い出せない記憶ばっか気にしてるけど、思い出せる記憶もちゃんと振り返ってみてね」
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頭の上でアラームが鳴った。その音で夢から醒める。
覚醒しきらないまま手探りでアラームを止めて、時間を確認する。時計の針は午前9時半を示していた。少し汗をかいているようで、体が熱かった。私はとりあえず掛布団を引きはがして熱を逃がす。冷たい空気に晒されて、汗が冷えるのが心地いい。
反面、目を開けることが億劫で、枕に頭をあずけたまま起き上がることはしなかった。もう少しだけ、夢の続きを見たかった。そのことに思いをはせながら、相の言っていたことを考える。
思い出せない記憶について……それは9月以降の話だ。学校が始まって、普通に生活していたのは覚えているのに、放課後何をしていたか思い出せない。あの日も、なぜあの公園にいたのか思い出せない。その思い出せない記憶が相を辿るための手掛かりだと思っていた。でも夢の中で相は違うことを示唆していた。それは
――ゆきに繋がる手がかりが、思い出せる記憶にある――
自分が考えていたこととは真逆の解答。その真意はわからないが、ともかく希さんに意見を聞いてみたいところだった。
眠りに落ちるのではなく逆に目が冴えてきて、私はそのまま横を向いて充電しっぱなしのスマホの電源を付けた。 寝起きの目には少し眩しい光が、画面から発せられる。目を細めながら通知を確認すると、希さんからメッセージが届いていた。
『今日の13時に喫茶Fairyに来れる?』
私はそれに「わかりました」とだけ返信して、 体を起こす。
私は自分の記憶を辿りながら午前中を過ごし、家を出た。