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ふたりの恋2  作者: ゆり
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内緒話

 ーーーーていうか、一度も会ったことがない相手をあまり詳しくない場所で探すって無理があるだろ。


 そんな単純なことに気づいたのは、山中千春が在籍する法学部があるキャンパスをあてもなく30分ほど彷徨った頃だった。ちくしょう、いい運動になった。


 斗真さんのように『よっしーにきこうと思ってさ』というわけにもいかず、キャンパス内をきょろきょろしながらまわっていたのだが ーーーー当然、会えるわけはなかった。お目当ての相手が偶然通りかかる、というラッキーは俺には起こらないらしい。

はぁ、とため息をついた。


(……つーか4年の冬って学校来てるのかどうかも怪しいよな……)


 自分が引き受けたのは厄介な案件だったのかもしれない。安請け合いしてしまったことを悔いた。


 少し休憩でもするか、と広場のベンチに腰掛ける。なんだかチラチラと人の視線を感じるのが、懐かしかった。俺もまだ捨てたもんじゃないな、と斗真さんに打ち砕かれた自信が少し復活した。


 そのままぼーっと道ゆく人々を眺める。


 脳内で、斗真さんから送ってもらった山中千春の画像と照合するが、一致する女性は現れなかった。

そして、今日はもう諦めるかともう一度ため息をついたとき。




 俺を見て、不自然に足を止めた女性がいた。




 そのまま何事もなかったかのように通り過ぎようとするが ーーピン、ときた。

さらさらの黒髪。


「山中さん?」


 怖がらせないようゆっくりと近づき笑顔で問うと、彼女は無表情でぺこ、と頭を下げた。












「突然ごめんね。俺、橘悠介っていいます」


「ミスター医が……」


「わっ、それ言われたら恥ずかしいから言わないで」


 人差し指を口のところにやり、しーっのポーズをとる。千春が少し笑った。


「この間はごめんね。俺がぼっちゃ……絢斗(けんと)くん連れ回したせいで、ずいぶん心配したみたいで」


「……あぁ、いえ。私の方こそすみませんでした。彼女さん叩いてしまって」


「あはは。2人の間で話がついてるんだから、俺にまで謝らなくていいんだよ。てかいつも俺が叩かれてるんだけど、痛さがわかったみたいで」


「すみません」


 気まずそうにした千春に、いたずらっぽく言った。


「……手加減して叩いてくれるようになったわ」


 片目をつぶると、千春がふっと笑った。

張り詰めていた雰囲気が少し和んだ。


「……えーと……?」


 私に何の用ですか、と言いたげに千春が俺を見る。少し首をかしげたときに、髪がさらっと肩から落ちた。手ですくってさらさらーってやりたいなと思った。


 ーーこうして改めてみると、山中千春は美しい女性だった。

すらりとした肢体。知的な印象を受ける整った顔立ち。胸はCぐらいか。(つい見てしまうのは男のサガだ、許せ聡子)


 冷たい風がざあっと吹き抜け、千春の髪をなぶった。


「絢斗くんのことで、お話したいんだけど。いいかな?」


「ーーーーーーーーーー」


 表情がかたくなる。


「あそこにあるカフェでお茶でも飲まない?俺奢るよ」


「いいですね。けど、あそこだとみんなの目があるから、橘さんの車でドライブしながら話しません?」


 お、結構手強い相手だ。法学部は伊達じゃねぇな。けど残念、その手には乗らない。


「ごめんね、それだと俺が山中さんを監禁して連れ回したことになっちゃうかもなんで」


 にこっと笑って告げれば、一瞬きょとんとした千春が、不敵に微笑んだ。




・・・




 結局カフェにも入らず、構内の花壇のところに腰かけて話すことになった。コートを着ているとはいえ季節は冬。風が冷たかった。

自販機で買ってきた温かいお茶を渡す。


「ありがとうございます」


 千春は素直に受け取った。


「寒いね」


「そうですね」


「寒かったらくっついていいからね?」


 そう言うと、千春が不快そうに眉をしかめた。


「ごめん。ぼっちゃ……絢斗くんに怒られるね」


「…………………………」


 千春は無言だ。こちらの出方を伺っているのだろう。ここはもう最初から切り札を出すか。


「橘産婦人科って、俺んちなんだ」


「…………………………」


 どうだ?


 これで崩れてくれたらいいけど。


 千春が少しぴくっとしたように思えた。


 ここは焦らず彼女の言葉を待とう。プレッシャーはかかったはずだ。


「そうなんですね」


「うん」


 そう言ったまま、沈黙が流れた。冬らしい灰色の空を見上げながら、俺は鼻をずずっとすすった。


「大丈夫ですか?風邪なんて引いたら、国家試験に影響あるんじゃ」


 千春が心配そうに言った。


「ははっ、そうだね。ま、絢斗くんも2年後はこうだから。風邪引かないように気をつけてあげてね」


「!」


「って体調管理は自分の役目か。その頃は山中さん……あ、千春ちゃんでいい?ありがと……千春ちゃんは社会人2年目か〜。絢斗くん尻に敷かれてそうだな〜」


 あはは〜と呑気に笑うと、千春の表情も少し和らいだ。苦笑いして、


「……敷いてないと、逃げられますもん」


と言った。


「ーー聡子はさ、俺ががっちり捕まえとくから安心して。あの2人がよりを戻すなんてことはねーよ」


「!!」


 まるで共犯者のようににやっと笑ってみせると、千春が驚いたように目を見開いた。


「てかさ、『隣見ろよー。お前のこと想ってるやつはここにいるぞー』って感じじゃね?」


「…………………………」


「俺も聡子をこっち向かせるの、大変だったわ〜」


「……………………どうやって」


 千春が口を開いた。よし、半落ち。


「振り向かせたんですか?」


 彼女は少し、震えていた。











「どうやって?って。ふふ、絢斗くんから聞いてるでしょ?」


「……強引なやり方だったのはきいています」


「うん。でもその時はやっぱりダメだったよ。けっこー仲良くなってたんだけどね」


 目に涙をいっぱいためて、『距離をおきましょう』と言った聡子を思い出す。


「……それから一年以上待って。絢斗くんに彼女できたって噂きいて。『弱ってるだろう今だ』って思って、急いで告白しにいった」


 いつも聡子がいるカフェに。

 息を切らして走っていったっけ。


「…………………………」


「だから俺さ、千春ちゃんには感謝してるの」


「…………………………」


 沈黙が流れる。


 結構時間が経ったように思えたが、実際は5分くらいかもしれない。


「………………先ほど、私に感謝してるっておっしゃいましたよね」


「うん」


 言質をとるような質問だったが、あっけらかんと答えた。ここが正念場だということを、なんとなく感じていた。


「言ったよ」


「……だったら、見逃してくれませんか?」


「何を?」


 千春が悲しそうな笑顔を浮かべて、静かに言った。





「……妊娠は、嘘だったってことを」





「…………………………」


 再び沈黙が流れた。


「……俺さ、不思議だったんだよね」


「何がですか?」


 お互い、校舎を向いて会話する。見慣れぬ校舎は新鮮だった。


「千春ちゃんくらい頭よさそうな子がさ、なんで橘産婦人科って言ったんだろうって。すぐバレそうなものなのに」


「……リアリティを追求したらそうなりました。あと、絢斗と橘さんは仲が悪いから、相談したりはしないだろうと……思っていました……」


「そっか」


 吐く息が白い。


「……これは俺の想像なんだけどさ」


「…………………………」


 千春がこちらを見た。


「千春ちゃん、誰かに止めてほしかったんじゃない?解決の糸口、わざと残しておいて」


 違ったらごめんね〜。俺漫画の読みすぎかな〜。


 笑って言うと、千春の顔がくしゃっと歪んだ。力なく微笑んで、言った。


「……あなたが来たときに……観念していましたよ……。いくらなんでも、こんな嘘がまかりとおるとは、思っていません……。私だって、バカじゃないんですから……」


「はは、俺に言わせりゃぼっちゃんがお人よしすぎるんだよね」


「……ふふ、私も……そう思います……」


 千春の目からぽろぽろと涙が伝っている。ハンカチを渡した。

 声も出さずにしばらく泣いた後、千春が顔を上げた。


「……絢斗に、話にいきます。全部話して、謝ります」


「うん。乗せていこうか?この時間だったらまだ学校にいると思うけど」


「お願いしていいですか?監禁だーなんて言いませんので」


「はは、オッケー」


 2人でふっと笑い合った。なんとか、正念場は乗り切ったようだった。


 車の中でも色々話をした。なんか俺たち似てるなぁと思った。

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