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ふたりの恋2  作者: ゆり
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密談?

橘さん視点です。

 ぼっちゃんの様子が気になりつつも自分の勉強に追われ、何もできず歯がゆい思いで過ごしていた今日この頃。


 講堂にある自販機で缶コーヒーを買っていると、なんだかいつもより講堂内がざわざわしていることに気づいた。


「?」


 少し人だかりができている場所があり、興味本位で覗きにいく。(「おっまた痴情のもつれで殴り合いか?」とわくわくしていた気持ちは否定しない)


 そしてそこでは、壮絶なキャットファイトが繰り広げられていたーーーーわけではなく、とんでもない色気を垂れ流している男性がいた。とても見覚えのある人物だった。

その人がこちらを見て、軽く手を挙げた。


「おーい、橘くんー」


「お兄さん」


 ぼっちゃんの2番目のお兄さんだ。その溢れ出る色気で周りの女子の目がハートだ。すげぇ。

俺もミスター医学部なんて呼ばれてたけど、上には上がいるなあと感じた瞬間だった。

お兄さんがこちらへ向かってくると、モーセの話のように、人波が割れた。


「どうしたんですか?こんなとこまで来て」


「君に会いたくて。あと、国立の大学って入ってみたかったんだ〜」


 きょろきょろと辺りを見回す。お兄さんが視線を動かす度に、周りがきゃーっと騒いだ。


「はは、思ってたより設備いいんだな。おっ、さくらちゃんじゃーん」


 失礼なことをさらっと言ってのけながら、知り合いに手を振るお兄さん。……さくらちゃんが鼻血を出したのがこの距離でもわかった。兄さんが慌てて駆け寄ってハンカチを渡す。「ありがとうございます!!ありがとうございます!!家宝にします!!」ぺこぺこと頭を下げながらさくらちゃんとお友達は向こうへ行ってしまった。


 兄さんが俺のところに戻ってきて言った。


「飯行こうぜ。絢斗のことで話したいことあって」


「さっきの女の子は……」


「あぁ、絢斗が飲みつぶれて迎えに行ったときに、介抱してくれてたコ。かわいいよな」


 俺があと3歳若かったらな〜と言って、笑った。


 ていうかぼっちゃん、酒弱いんだな。


 あるかどうかわからないけど、今度飲みに連れていくときは酒量に気をつけてやろうと思った。







 お兄さんの車に乗り、街を走った。


「あぁ、名前もまだ言ってなかったね。斗真(とうま)。鈴木斗真。よろしく」


 そう言いながら握手をしてきた。


「橘悠介です。よろしくお願いします」


「悠介くんか。ははっ、なんかかわいいな」


「名字で呼ばれることが多いので、名前の君付けってなんかくすぐったいっすね」


「俺のことも斗真でいいから。あ、でも『とんま』って言われたら傷つく」


「あはは」


 そんな軽口を叩きながら、車は軽快に進む。

いつも運転する側なので、助手席に座るのは新鮮だった。こんなに落ち着いて周りを見渡せるものなのか。聡子が『あ、あそこ!』とよく気付く理由がわかった。


「俺を探していた、とのことですが」


「ああ、うん」


「……どうやって探すつもりだったんです?」


 一度会っただけの相手を、知らない場所で探すのは途方もない作業のはずだ。

素朴な疑問に、斗真さんがすぐに答えをくれた。


「あぁ、よっしーにきこうと思ってさ。とりあえず道ゆく誰かに水泳部の部室聞こうとしてた」


「あ、なるほど」


 吉田はぼっちゃんと仲が良い。斗真さんが言うには何度か家にも泊まりにきたことがあるそうだ。


「ま、偶然通りかかってくれてよかったよかった」


「よく覚えてましたね、俺の顔」


 そう言うと、斗真さんがあっはっはと楽しそうに笑った。


「悠介くん、美形だから。そう簡単には忘れないわな」


「……斗真さんに言われても馬鹿にされてるとしか……」


 斗真さんがまたあっはっはと笑った。






 


 そうして連れてこられたのは、高級そうな日本料理店。まるで政治家の密談に使われそうな個室に案内された。


「ここだったら思う存分話せるから。議員の集まりにも使われるくらい仲居はみんな口堅いから大丈夫」


 俺の印象は間違っていなかったようだ。


「……で、話というのは……」


「ん。ちょっとな……言いにくいんだけど……」


 運ばれてきたビールを手にとり、ひとまず乾杯した。ごくごく飲み干す。乾いた体に染み渡るようで、とてもおいしかった。


「あぁぁぁうめぇぇぇ」


 美しい見た目に反しておっさんみたいにぷはーっとジョッキを置いたので、とぽとぽとついだ。


「お、サンキュ。でな、話ってのは……あれだ、絢斗の彼女について」


「はい」


 料理に箸をつけながら答えた。ーーうん、しょっぱなから絶品。聡子の誕生日に連れて来てやろうと思った。


「最近ずっと暗い顔してたからさ。心配はしてたんだ。で、俺もあんま女関係のこと口出したくなかったんだけど、きいてみたわけ。なんか困ってないかって」


「…………………………」


 嫌な予感がした。

 覚悟を持って、斗真さんの言葉を待つ。

 少し思案するように視線を落とした後、肩をすくめて、言った。


「ーーーーーーーー彼女を妊娠させちまって、堕胎したんだと。で、その後彼女の方は精神的に不安定になっちまって、絢斗を痛めつけるようなセックスするようになったらしい。ーーで、それを撮られてるんだと。スマホに」


「ーーーーーーーー!!」


 あまりのことに、すぐには理解ができなかった。


 堕胎やハメ撮りといった言葉は、全く、まったくもってぼっちゃんには似合わなかった。頭がガンガンしてきた。


 黙り込んだ俺に、斗真さんが言った。


「……俺も最初はびっくりして何も言えなかったけど。けどな、ちょっとおかしいとこもあって」


「……と、言いますと」


「一緒に病院に行くって言ったらーーま、あいつらしいわなーー頑に拒否されたってよ。で、手術、ついていってないらしい」


「…………………………」


「でさ、彼女ーー山中千春がなんと、『橘産婦人科で手術した』って言ってるらしくてさ」


「!」


 斗真さんの言いたいことはわかった。


「調べてみましょうか。っつっても、最近コンプラが厳しくて、どこまでできるかわからないけど」


「頼めるか?これ、手術した日ーーってほんとかよって俺は思ってるけど」


「…………………………」


 メモを受け取る。

いくらなんでもカルテは見られないだろうから、親父に聞いてみるか、と思っていたときだった。


「あ」


「?どうした?」


 スマホを開き、日にちと曜日を確認する。ーーーーオッケー。


「悠介くん?」


「斗真さん、多分というか、ほぼ確実に、手術はなかったと思います」


「なんで?」


 小さな寿司を口に含みながら斗真さんが言った。


「この日ーーーー俺の親父がぶっ倒れた日なんです」


 斗真さんの動きが止まった。











「え?マジ?てか大丈夫なの親父さん?」


「はい。他の医師が親父と喧嘩してやめちゃって、次の先生が来るまで今1人でまわしてるんです」


『お前ーーーーあぁまだ6年か免許も持ってねーじゃんいいやいいや、じゃね』


 朝イチでかかってきた切羽詰まった電話。後ほど病院の方にかけ直し事務長から事情をきいて、呆れたことを思い出した。

(『先生倒れてしまって。急遽休診です……!幸い今日は手術もなくて……』『あぁ、それはよかったですね……』)


「で、中絶はあらかじめ日にちを決めて手術するから……」


「オッケー!!」


 斗真さんがガッツポーズする。


「あ、緊急のって可能性もあることはありますが……」


「そこ反論されたら、もう詐欺罪で訴えるわ。警察だったら権限でカルテチェックできるだろ」


「…………………………」


 第三者が訴えることはできないと言おうと思ったが、野暮に思えて黙っておいた。


「よっしゃ、あとは山中千春に吐かせて、動画消させれば万事解決だな」


「…………………………」


 意気揚々とビールを飲む斗真さんを見ながら、俺は一抹の不安を感じていた。

斗真さんは、いや、斗真さん()すごくSっ気がありそうな人だから、山中千春と対決したらとんでもないことになるのではないか。

 逃げ道を残しておかないと、なんだか刃傷沙汰になりそうで怖かった。


「あの、斗真さん」


「ん?」


「山中千春のところには、俺が、行きますので。斗真さんは仕事もあるでしょうし」


「何言ってんだよ。かわいい弟傷つけられて、黙っていられるかよ」


 ああ、絶対何か起こる。


「斗真さんが絢斗くんを大事に思ってるのはわかります。だからこそ、俺が行きます。大事な弟の前で殴り合いになったら大変でしょう?」


「……それはまぁ、そうだな……。冷静でいられる自信はないな」


「それじゃあ、そういうことで。終わったら連絡しますから」


「うん、頼んだ。国試前にごめんな」


「いえいえ……」


 本音を言うと試験大丈夫かと少し不安はあったが、まぁ、大丈夫だろ。


「これで君が絢斗から彼女略奪した件は忘れるから」


 突然の糾弾に、俺は飲んでいたビールを盛大に吹き出した。斗真さんがあっはっはと楽しそうに笑った。

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