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ふたりの恋2  作者: ゆり
2/14

元カノvs今カノ

※後半、大人の行為をしております。苦手な方はご注意ください※

 麗らかな、土曜日の午後。


 授業も何もない今日、私は街に出てウィンドウショッピングを楽しんでいた。降り注ぐ日の光、頬をなでる風が心地よい。


 いつもインターネットでばかり商品を見ているので、実物を手にとって見るのは、新鮮な感じがした。

店員さんとのおしゃべりも、最初は『うぅぅ、放っておいてー』と苦手に思っていたのだが、少し話をしてみると気さくな方達が多く、無理に買わされずとても嬉しかった。何か買うときはここにこようと思った。(橘にはきっと『お前それ術中にはまってんじゃん』と笑われるだろう)


 服も見た。本屋さんも満喫した。ーーさて、今日の目的のものを買いにいこう。

 そう思い、私はそのブランドが入っているデパートへと足を向けた。

 

 





「ご来店、ありがとうございます」


 美しく装った受付嬢が会釈する。

 それに軽く頭を下げ、橘が愛用しているブランドのコーナーへ向かう。

買いにきたのは、男性用基礎化粧品とその他もろもろ。

この間部屋に上げたのをきっかけに、彼はよく泊まりにくるようになった。本人曰く『我慢の反動』らしい。

 『部屋に置いておく用に』と、橘も私のために化粧品やら何やら用意してくれたので、そのお返しに、と思い、こうして買いにきたのだった。


 橘の豪華なマンションに比べれば私の部屋はさぞ狭いだろうに(とは言っても、一人暮らしには充分な広さだと思う。橘の部屋が広すぎるのだ)、体が凝らないか心配になってしまう。

『じゃあさ、俺が来る用にどっかいいとこ借りる?』『別れたとき大変なので嫌です』

そんな会話を交わした記憶が蘇る。


「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」


 人懐こい笑みを浮かべた店員さんが話しかけてきた。


「あ、こんにちは……。このシリーズが欲しいのですけど、普通肌用とか脂性肌用とかあるんですね……。どれかわからなくって……」


 うっかりだった。というか、男性用にもそんな細かい区分があるなんて!


「あはは、今男性もおしゃれですものね。私も色んなこときかれて、びっくりすることありますよ〜。容器は覚えてませんか?ここに緑のラインが入ってたら普通肌用なんですけど……」


「あ、緑だった気がします。多分。もし違ってたら私が使います」


「あはは、女性が使っても大丈夫ですよ。他にもご覧になりませんか?」


「あ、いいですか?実はあっちにあるネイルが気になっていて……」









(……って、つい私のも買ってしまった……!)


 椅子に座って休憩しながら、袋に入っている橘の基礎化粧品とーー私のネイルとリップとアイシャドウとチークを眺める。


(実物見たらやばい……。やっぱ雑誌を見てきゃーきゃー言うくらいが私には合ってるのかも……!いや、試験頑張ったから……!!そのご褒美ってことにしよう)


 己の物欲に恐れおののき、頭をくしゃくしゃしながら、なんとか折り合いをつけようと必死で言い訳を探していると、


「聡子」


 名を呼ばれた。


 え?


 この声は……


「鈴木くん?」


 かつての恋人・鈴木絢斗(けんと)くんが、優しい微笑みを浮かべて、私の前に立っていた。


「買い物?」


 よっ、と手をあげて、私の横にストンと座った。別れたときはぎくしゃくしていたが、時が経つにつれて、こうしてまた普通に話せるようになった。友人になれて、嬉しかった。


 少しウェーブがかかった茶色の髪。理知的な瞳。水泳をやっているおかげか、服を着ていてもわかる筋肉質のバランスの良い体躯。

見る度にかっこよくなっていくなぁと感嘆のため息が漏れる。

香水の香りが鼻腔をくすぐった。変わらない、懐かしい香り。


 ふと、まだ付き合っていたころに時が戻ってしまったような錯覚に陥った。


「何買ったの?」


 鈴木くんが私の手元を覗き込んでくる。「MEN」の文字が目に入ったようで、苦笑いした。


一瞬で、現実に戻ってしまった。


「……順調みたいだね、よかった」


「うん、まぁ……。ケンカも多いけどね」


「あはは、橘とケンカするなんて聡子くらいだよ、きっと」


 鈴木くんが笑った。


「あ、吉田からきいたんだけど。免許とったんだろ?おめでとう」


「!ありがとう!そうなの。思ってたより難しかった〜。ドライバーの人、全員尊敬する……!」


 手をばたばたさせて訴えると、鈴木くんが更に笑った。


「あはは、あとは慣れだよ、慣れ」


「公道でエンストするのが怖いから、まだペーパードライバーなの」


「ちょっと待って、まさかミッションでとったの!?」


「?そうだけど……」


「あっはっは!!!!」


 鈴木くんが大笑いする。「ミッションでとった」と言うとみんなから驚かれたものだが、こんなに大笑いされたのは鈴木くんが初めてだ。車好きには刺さるらしい。


「あー腹いてー。久しぶりにこんなに笑ったわ。吉田にも教えよ」


「もう、こんな鈍臭い女がって思ってるでしょう」


「思ってないよ、はは。でもすごく、聡子らしい……はは」


 鈴木くんにつられて、私もつい笑ってしまった。


 2人して笑い合っていると、黒髪のかわいらしい女性が前に立った。鈴木くんが「あ」という顔になる。

彼が何か言う前に、その女性が私を見て口を開いた。


「どちら様ですか?」


「千春」


 その冷たい声音に、鈴木くんが慌てたように立ち上がった。ちはる、と呼ばれた女性が鈴木くんを睨みつけて


「誰この女」


と言った。


「そんな言い方すんなよ」


 険悪な雰囲気になりかけたのを察し、私も立ち上がってぺこっと頭を下げる。


「あ、はじめまして。私田中聡子といいます。鈴木くんとは同じ学科で……


「たなかさとこ?あなたが?」


 かぶせるようにいい、ちはるさんが私を頭のてっぺんから爪の先までじーっと見る。その無遠慮な視線にたじたじになってしまった。


「あの……」


「私、山中千春っていいます。絢斗の彼女です」


 そう言って、勝ち誇ったようににこっと笑った。


「あ、あぁ……そうなんですね」


「私たち、まだ用事がありますので。今日はここで失礼します。楽しくお話してたのに、ごめんなさいね」


 またにこっと笑ったが、その笑顔には怒りがにじんでいた。


「絢斗、行こう」


「あ、うん。じゃあまた」


 ごめんね、と小さく呟いて、鈴木くんは先を歩く彼女を小走りで追いかけていった。










「ーーーーということがあって」


「あっはっはっはっは!!ぼっちゃん、尻にしかれてんなー!!」


 夕飯を食べながら今日の出来事を話すと、橘が大笑いした。今日のメニューは豚肉の生姜焼き。作ったのは橘だ。勉強の息抜きになるらしい。


「夜もひーひー言わされてんじゃね?」


「……それは、知らないけど……」


 橘のあけすけな物言いに、そういう場面を想像してしまい、苦笑いした。なんだかあり得そうな光景だった……。


「俺も、ひーひー言わされたいな?」


 橘がウインクして、私の足をつついた。軽く睨んだが、笑顔でかわされる。


「具体的に何を要求されているかわかりませんが……とにかく、試験が終わったら、です……」


「げーーーーっ、何ヶ月先だよ。気が遠くなるわ」


「それまでに練習しときますから」


「練習て。実戦あるのみだって」


 そう言いながら橘が笑った。犬が笑ったような、かわいい笑顔だった。

 愛しさが込み上げてきて、それを誤魔化すように話題をかえた。


「……この生姜焼き、美味しいですね。味も焼き加減も絶妙です」


「だろ?やっぱ熱源は火に限るわ。俺んちもガスにかえてーなー」


 私の家にある調理器具達が気に入ったようで、来るたびに色々な機能を試していた。橘が言うには私は宝の持ち腐れらしい。


「お料理好きなんですね」


 一足早く食べ終え、調理器具の説明書兼レシピ集を眺め始めた橘に言った。


「うーん、好きっつーか、まぁ、小さい頃からやってたから苦にはならねぇな。大学生になって自由な時間もできたからゆっくり作れてたし。片付けは聡子がやってくれるし」


「せめてものお礼です」


「ははっ、片付けってメンドーだからさ。やってくれて嬉しいわ。お、次これ作ってやろーか?」


 橘が指さしているのは、ソースから手作りするマカロニ・グラタン。


「……おいしそうですけど、ソースから作れるんですか?」


「?書いてあるとおりにやれば大丈夫だろ」


「そうなんですけど……。時間かかりそうなので、試験勉強の合間にお願いしますね」


「おう」


 橘がにっこり笑う。

 ……実はそれに挑戦したことがあり。ソースを見事に焦がして失敗してしまったことは黙っておこうと思った。


「そっちの炒飯もおいしそうですね」


「はは、お前チョイスが男前だなぁ」


 橘がレシピ本を読んでいるうちに洗い物を済まそうと席を立つ。


「ご馳走様でした。おいしかったです」


「うん。完食してくれて嬉しいわ。作り甲斐がある」


 空になった皿を見てにこにこする橘は、かわいらしかった。




 そしてその夜は『ひーひー言わす』ちょっとした練習をした。


「あっはっは!気持ちいいっつーか、くすぐってーよ!」


「もう!あなたがここって言ったんでしょう!!じっとしててください!!」


「あー無理っやっぱいいややめてやめてあっはっはっはっは!!」


 ……あんなに笑いながらエッチしたのは初めてだった。


 


 



 



 所変わって。


「……ちは……る……」


「なに?」


 冷たい声音。山中千春は、声音と同じように冷たい目で鈴木絢斗を見上げた。


「もう……イかせて……」


ーー後ろ手に手錠をつけられ、フェラチオの快楽に悶えていた絢斗。それを見て千春は不機嫌そうに彼のペニスをぎゅっと握った。突然の痛みに、絢斗が顔を歪めた。


「……別れた彼女とあんなに楽しそうに話してるの見て、私、傷ついちゃった」


「……ごめんて……でももうなんにもないってば……」


「は?私が行かなかったらキスでもしそうな距離感だったけど?」


 千春がこんなに強気に出るのは、絢斗の優しい性格を見抜いているからだった。どんなに頭にきても、決して女を殴ったりはしないだろう。


「ああっ」


 しごくと絢斗が悲鳴のような声をあげて、腰を動かした。千春が耳元で囁く。


「かわいい、絢斗……。ね、元カノとはどんなエッチしてたの?」


「ちはるっ……も……限界……」


「ふふ、ごめんね……絢斗がかわいいからいじわるしちゃった……。……私のも舐めてくれたら、外してあげる」


 そう言って足を広げた千春。絢斗はエサにありつく動物のように、千春の股に顔を埋めた。


「あ……気持ちいい……けんと……上手……」


 びくびくっと達した後、千春は絢斗の手錠を外した。途端、彼女を押し倒し、震える手でもどかしそうに避妊具をつけ、自身をずぶっと挿入した。


「やん……けんと……はげし……あっ……あっ……」


 千春の部屋に、いやらしい音が響き渡る。


 花瓶に活けてある百合の花びらがひとひら、落ちた。


 絢斗を抱きしめながら、千春は満足げに、


 笑った。

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