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ふたりの恋2  作者: ゆり
11/14

ときには俺だって

「…………………………」



 聡子のお腹と秘部を拭いてやり、自身も拭いた。軽くキスしてごろんと横になると、聡子がいそいそと俺の腕の中にやってきた。ぎゅっとしてきたのがかわいかったので、俺もまた聡子をぎゅっとした。



 愛しい、愛しい聡子。



「……なぁ」


「……なんです?」


「結婚しよ」


「……またそんな冗談を」


 聡子がふふっと笑った。


「子どもは何人欲しい?」


「わかりませんよ。欲しいと思ってすぐできるものでもないでしょう」


「俺たち相性いいからすぐできるって……いてぇ」


 腹をつねられた。


「……あなたは、どうなんですか」


「?俺?」


 聡子がこくん、と頷いた。あ、こいつ寝かけてるな。


「……そうだな、2人か3人は欲しいよな。俺一人っ子だから、きょうだいがいるっていーなーって思うし」


「……そうなんですね……」


「そーそー。でさ、家の庭でみんなでバスケすんの。あ、大きな犬がいてもいいな。で、お前はお茶飲みながら応援してるの」


「……ずいぶん……ぐたいてきな……もうそうですね……」


 聡子はいよいよ眠りの淵に追いやられたようだ。背中をポンと押してやれば、心地よい夢の中へ旅立つだろう。


「……家に帰ったらお前がいて、夕飯のいい香りがして。子ども達が『パパー』って寄ってきてさ」

「あ、もし家作ったら暖炉欲しいんだ。1年のときドイツに短期留学行ってさ。そこで見ていーなーって思って。寒い日はみんなでそれ囲んで。子ども達は犬によりかかって。俺は薪が爆ぜる音を聞きながら、お前が淹れてくれたコーヒー飲むの」


「…………………………」


 すぅすぅと寝息が聞こえ始めた。聡子は完全に寝てしまったようだ。そのかわいい寝顔にキスした。

寝ていることをいいことに、夢の続きを語ろう。


「子ども達も成長して、またお前と2人の生活になって。あー誰か病院継いでくれたらな。俺さっさと会長職に隠居して、どっか旅行でも行くのに」


「………………んで、俺絶対お前より先に逝くわ。お前がいない世界なんて考えられねー」


 聡子が聞いたら「残された方のことも考えてください!!」と怒るだろう。怒って……くれるよな?


 ゆるく波打つ髪をなでる。柄にもなく感傷的になってしまった。俺まだ24なのに、なんともじじくさいことを語ってしまった気がする。


 気恥ずかしさを誤魔化すように腕の中の聡子をもう一度ぎゅっと抱きしめ。俺も、そっと目を閉じた。



ーーぼっちゃんのこと、解決してよかった。ははっ、あいつらも今頃こうしてんじゃね?そうだ、斗真さんにも連絡しないと。ま、明日 で いいか…… ーー



 考えを巡らせていると、俺もいつのまにか眠ってしまっていた。




・・・




 そして翌日からはまた勉強、勉強の日々に戻った。甘いクリスマスものんびりした正月も過ごせなかったけれど、聡子と小さなケーキを食べたり一緒にカウントダウンをしたり。それだけで俺の心は満たされていた。


 そして6年間の集大成・医師国家試験を受験、見事パスし、俺は晴れて研修医となることになった。


「おめでとうございます」


 聡子が微笑んでいる。


「私が作った手編みのだるまが効きましたね」


「あんなんなくても合格してるわ……いや、まぁ、ありがと……。一応捨てないでとってる」


 試験前に聡子がくれた手編みの小さなだるまのぬいぐるみ。もらったときは正直「うわ……」という思いがあったが(俺、手作りが苦手な人なの)、飾っていると(テキトーに置いていると)なんだか愛着が湧いて、試験当日もバッグに入れて持っていったのだった。


「お前、料理は下手だけどこういうのはできるのな」


「一言余計です。……クラスの女子で編み物ブームがあったんです。それで沼ってしまって。今度マフラーでも編みましょうか」


 聡子がくすくす笑いながら言った。こいつ、俺が嫌がることわかってるな。


「……怨念込めるなよ?」


「込めませんよ、失礼な。悠介さんが病院でドジやらないことを祈りながら作ります」


「そのセリフ、そっくりそのままお前に返すわ」


 笑い合いながら、キスを交わす。窓からは日差しが差し込み、聡子の茶色の髪がさらにきらきらして見えた。

頬に両手を添え、うるんでいる瞳を覗き込んだ。



「…………………………」



 なんだかあたたかい気持ちが胸の奥から込み上げてくる。どう言葉にしていいかわからず、己の語彙力のなさが憎らしかった。神聖なものにするように、優しく、そっと唇を重ねた。


「聡子」


「なんです?」


「結婚しよ」


「……どうしたんですか、最近。よく言いますけど、何かあったんですか?」


 ……普通は、照れるか喜ぶかしてくれるものではないのか……?

 

 がくっとうなだれつつも、めげずに聡子にすりすりした。


「な、いいだろ?」


「一生の問題をそんなに軽々しく言われても」


 言葉とは裏腹に、聡子が俺をなでる手は優しい。


「私まだ学生ですし」


「毎年何人かはいるじゃん、結婚するやつ。だから問題ねえって」


「はいはい」


「今すぐとは言わねえから、まじめに考えとけよ〜〜〜〜」


 聡子をぎゅーーっと抱きしめると、嬉しそうに笑った。



 抱きしめながら、思う。

ガキの頃から、自分はろくでもない人生を歩むのだろうと感じていた。実際、そうだった。


 けれど、もしかしたら、もしかしたら。そんなに悲観することもなかったのかもしれない。


 聡子と一緒にいたい。


 幸せにしてやりたい。


 しょうもない俺にも、こういう感情があったことに驚いた。未来という不確かなものに期待しそうになっている自分がいた。


『結婚しよ』。


 聡子を独占する方法が他に思い浮かばず、本気半分・冗談半分で言っていたこの言葉が。


『…………うん?』


約1年後、思わぬ形で実現するなんて、このときの俺は想像していなかった ーー。

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