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ふたりの恋2  作者: ゆり
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予感

 チュン チュンチュン……


 最近では珍しくなったというすずめの鳴き声に誘われながら、私は重いまぶたをうっすらと開けた。

 レースカーテンから朝の柔らかな光が差し込み、今日という1日の始まりを知らせていた。


 「……おはよ」


 低くて優しい声が空気を揺らし、私の耳に届く。その優しい声音になんだか無性に照れくさくなり、声の主が目に入らないよう寝返りを打って、挨拶を返した。


「おはようございます。……悠介さん」


「おっ、名前言えたな。えらいえらい」


 そう言いながら首筋にキスをしてくるのは橘悠介。2個上の先輩で、現在6年生。医師国家試験に向けて朝から晩まで勉強中の身だ。

かつてはミスター医学部なんて呼ばれていた眉目秀麗・成績優秀の文句のつけどころのないような人。……だけれど、中身は人と一線を引いているような中々気難しい面もあったり、その半面、ものすごく甘えん坊で、2人になるとすぐくっついてきたりもする。要するに、つかみどころのない性格だと思う。


 そして。


「体大丈夫?ごめんなーまたやりすぎたわ」


 大して悪いとは思っていないような口ぶりで言われ、少しムッとした。


 こいつの、この無尽蔵の体力。

 刺された(と言っても何年前の話か)後も衰えしらずだった。


『……しつこい……もうやだ……』


『あはは〜絶倫ってよく言われる〜』


 昨夜も寝かせてくれず大変だった。

 最初は愛の行為だったはずが、最後は苦行の時間になってしまうのは相変わらずだった。


 胸を触る手を放っておいたせいか、足のあたりに硬いものがあたり、びくっとする。


「ーーーーえ?嘘ですよね??」


「……勃っちゃった」


 かわいらしくてへ、と笑う気配がする。


 嘘でしょ嘘でしょ嘘でしょ

 あれだけしたのに。

 

 さーっと血の気が引くのがわかった。

 フリーズしている私に構わず、橘は私の片足を持ち上げ、いそいそと侵入してきた。


「……朝イチから聡子とできるなんて、幸せだな……」


 そして信じられないことに、私の体も橘をあっさりと受け入れていた。びりびりと快楽が走り、身をよじった。


「あっ……やっ……」


 橘がゆっくり動き、その度に奥まで突かれるのがわかる。奥をぐりっとされ、弱い耳元をれろっと舐め上げられると膣が橘にからみついた。


「……っ……さと……こ……やば……」


 橘の動きが早くなってきた。

 静かな部屋の中に、2人の吐息とベッドがきしむ音が響く。


「……なぁ……俺のこと……好き?」


 橘が覆い被さってきて、首筋に跡をつけながら言った。

首につけるのはやめてほしいと思いつつ、なんだか嬉しく思う自分もいる。


「……嫌いでは……ないです……」


 橘を受け入れながら、途切れ途切れに返した。

 私自身昂ってきていて、はしたないけれど、彼の形のいい唇にキスして、舌を激しく絡ませたかった。

 羞恥心は捨て切れず、橘の頭部をそっと抱く。触れ合った箇所から体温が伝わってきて、心地よかった。目が合うと、とろけるような笑顔で「さとこ」と名を呼ばれた。なんだか目の奥がジンとした。


「……あ……いきそ……いってい?」


「……どうぞ……あっ……」


 突かれながらクリトリスもこすられ、思わず腰が動く。もう、それ、気持ちいい……


「あっ……だめっ」


「んっ……俺も……」


 私はあっという間に達してしまった。

 そして橘の動きが一際早くなり、すんでのところで抜かれ、お腹の上に白濁の欲望が吐き出された。






 お泊まりデートを終え、橘が私をマンションへ送ってくれる。ここで最後にキスをして「じゃ、また」となるのがいつもの流れだった。ーーーーはずだが、今日は違った。

橘が頬を赤らめ、もじもじしながら言った。


「あのさ、聡子……」


「どうしたんですか。気分でも悪いんですか?」


「今日さ、勉強会までまだ時間あるからさ」


 友人達と医師国家試験に向けての勉強会をしているそうだ。


「……聡子の部屋、行っていい?」


 顔を赤くして子どものようにお伺いをたててくる橘が、不覚にもかわいいと思ってしまった。


「そういえば、来たことなかったですね」


「うん。俺たち1年以上付き合ってるのに……」


「え、もうそんなに経ちます!?」


「うん。この間記念日だったんだぜ?」


「……そ、それは……何もせずすみません……」


 医学科4年生は、それに通らないと実習に出られないという大事な試験があるため、そのための勉強にかまけていて、橘とのことは二の次になっていた。(結果、合格!よかった)

もっとも、橘自身国家試験の勉強に忙しそうだったため、まぁいっか、となっていたのだった。


「……ごめんなさい……」


 彼の手をとり、ぎゅっと握った。

その手が私の頬にふれ、そのまま優しいキスが降ってきた。

彼の黒曜石のようなきれいな瞳と目が合う。忘れがちだけど、本当にきれいな顔をしていると思う。

 橘がふっ、と笑った。


「けっこー傷ついた」


「すみませんて……勉強でお忙しいかと思いまして……」


「それとこれとは別。ってわけで、聡子の部屋行きたい」


「なにが『ってわけで』なのかわかりませんが……。いつでも来ていいんですよ?私もあなたの部屋行ってますし……」


 そんなことを話しながら車を降りた。マンションに入り、自分の部屋へ向かう。橘が上機嫌で後ろをついてきて、まるで犬の散歩をしているような気分になった。


「どうぞ、散らかってますけど」


「おー、1年越しの悲願達成だわ。わー女子の部屋って感じー」


 橘が辺りをきょろきょろ見回しながら、物珍しそうに、部屋に入ってきた。

女性の部屋なんて行き慣れているだろうに、初々しい反応になんだか笑ってしまった。


「どこでも座っててください。コーヒー、紅茶、緑茶どれがいいです?」


 あ、ルイボスティーもありますよと言ったところ、「じゃあ緑茶で」と意外な答えが返ってきた。

とぽとぽと入れ、橘のところへ持っていく。

彼はアクセサリーコーナーをじっと眺めていた。


「……これ、まだ持ってたんだ。捨てられたかと思ってた」


 そう言って、何年か前に『輩除けに』ともらった指輪を手に取った。


「頂いたものを捨てたりはしませんよ」


 ネックレスとイヤリングも用意していてくれたことを思い出す。ーー橘が刺されたときに、血が染み込んでしまって廃棄されてしまったのだった。(『私は別に構いません。洗えばいいでしょう』『ばかやろ、そういう問題じゃねぇんだよ!』と、心底呆れられた)


 思い出に浸っていると、橘がにやにやしていることに気付いた。




 ?




 あ、やばい。

 思い至ったときには、もう遅かった。


「『悠介さんへ』って手紙あるけど、これ何?」


 ピンク色の花々が印刷された、きれいな封筒。中はお揃いの便箋が入っている。……そしてそれには、1年記念日を迎えた喜びと、これからもよろしく的なことを書いてあるはずだった。


「…………!…………!!」


 言葉が出てこず口をぱくぱくさせる私に、橘が「読んでいい?」と言って返事も聞かずに封を開けた。


 彼の目線が文字を追っている。


「…………………………!!!!」


 私はがくっとうなだれた。ーーーー恥ずかしすぎる。橘が好きなチョコレートと一緒に渡して、家で読んでもらうはずだった手紙を、まさか、目の前で読まれるなんて。


「……ちょっと散歩に行ってきますお茶ここに置いておくのでテレビとかもつけていいので自由に過ごしてくださいでは」


 ロボットのようにそう言い、本当に玄関へ向かおうとしたとき、後ろからぎゅっと抱きしめられた。

すりすりされる。


「あ、あの……」


「ん?」


 橘の声が甘い。甘えん坊モードに入ったようだ。


「聡子」


「……なんです?」


「俺も、聡子のことが、大好き」


 橘が一句一句、大事そうに発音する。振り返ると、彼は照れくさそうに、でもなんだか泣きそうな表情で微笑んでいた。

もう一度、ぎゅっと抱きしめられた。


「わりぃ、この気持ちをどう言ったらいいか、わかんねー」


 すりすり、すりすりとしてくる姿はまるで大型犬のようだ。


「……1番近いのは『愛しい』かな?あーまじで泣きそー」


「……忘れては、いなかったんです。すみません嘘ついて」


「いーよ。お前が意地っ張りだっつーのはわかってっから」


「私だって、あなたが甘えん坊のロマンティストだってのは、わかってますよ?」


 そう言いながら、見つめ合う。お互い、微笑んだ。


「これからもよろしくな」


「はい、こちらこそ。たくさん甘えてくださいね」


「……このやろ」


 交わしたキスは、とてもとても甘かった。湧き上がってくる幸福感を噛み締めると同時に、ーーそれに少し怯えてもいた。

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