神獣、そして不穏。
学校への道を、私はせっせと走っている。
心地よい風に、髪が靡く。
舗装もされていない、田舎の道路を走る。
進行方向には、奇妙なダンスをしている幼馴染、石田るるが居た。
右手をあげ、左手をタコのように動かし、左足は側溝の中へ。右足は90度横へと。
それならばまだ良い方だ。
彼女は今日の朝、一時間も校庭を走り、先生に叱られても元気でいる。
一足す一を未だ五と言う、奇行製造機のような事を平気でしでかす。
そのおかげで、彼女のあだ名は「ポジティブなバカ」である。
因みに、彼女は、身長七十七糎
彼女はどうやって高校に受かったのだろうか。
「おーい、るるー! 学校遅れるよー!」
彼女は後先考えない性格のため、「大丈夫だから先行っててー!」と返してきた。
だが、彼女は不思議と皆勤賞を獲得している。
多分、バカは風邪をひかない。というやつだろう。
私は、また走り始める。
見渡す限りの畑。見飽きた通学路。
ふぅ、ふぅ。私は荒い息を吹き出し、校門へとたどり着く。
急いで下駄箱から上靴を取り出し、それを履く。
教室に入ると、るるはもういた。
……一体、どういう技術を使ったのだろうか。
さて、HRが始まった。
今日は何について話すのだろう。
自分を見直す機会だとか、そういうどうでもいい話をするのだろう。
……黒板に書かれた題材テーマは__
殺し屋について。
「とても、重大なことです。」先生はこう言って、チョークの先でトントン、と黒板を叩く。
先生が、一人の男の写真を貼る。
その男は、和装で、私たちから見る方の右目を、紫色の髪で隠し、それを後ろで小さく縛っている。
「殺し屋の一員の〈黒虎〉こと、百九人殺しの杉浦人志が、この周辺で目撃されました」
あたりが騒然とする。
「皆さん、静かに。」
先生の淡々とした声が響く。
「杉浦は、黒い刀身の刀を使います。その刀はおよそ二米にも及びます。つまり、近づいてはいけません。不審者を発見した際は、絶対に警察に通報するように! 以上で、今日のホームルームを終わります」
__時は進み、下校時。
下駄箱で、るるが例のダンスを踊っていた。
その隣に、謎の生物。強いていえば、紺色の犬のような生物が堂々と座っていた。
るるには見えていないようだ。
では、なぜ私に見えるのか。
それは、私に能力があるからだ。
瞬間移動
その名の通り、行ったことのある場所に移動が可能。
そして、それ以外も能力者は複数いる。
その力は、どこから出て来るのか?
それは、神獣という常人には見えない生物からだ。
そして、少なからず能力者と神獣の間には、魂のつながりがある。
だから常人で変人のるるには見えない。
私は、犬を呼び、抱き上げた。
周囲から見れば幻想に支配された人間のように見えるだろう。
私は、急いで裏路地に行き、自分の家前へと移動した。
あくまでも私は普通の人間でいたい。
靴を脱ぎ、自室へと急ぐ。
__とある高層ビルの最上階にて
「……神獣が、ついに見つかりましたね」
「だが、小娘に保護されてしまったねぇ……これは困る。」
「おや! 良い人がいるじゃないか。」
「杉浦、ですか?」
「正解だよ。今すぐにでも派遣してねー。」
「は、仰せの通りに。」