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前編

お越しいただきありがとうございます。


お楽しみいただければ幸いです。

「子爵家のリュミエール嬢はいるだろうか?」

 

 最寄りの学科の性質上、普段使う第一食堂より、よく言えば活気のある、雑多な喧騒に包まれた第三食堂に訪れる事になったのは、俺の事を何でもしてくれる便利な兄貴分か何かだと思っている従妹からの頼まれ事のせいだった。


 入り口近くにいた学生に先の質問を投げると、俺の姿を見て僅かに目を見開いた後すっと表情を無に戻し、少しお待ちくださいと言った後食堂の奥へと向かっていった。


 その背中はピンと伸び、服の上からでもわかる鍛え上げられた肉体と身に纏う黒い制服も相まって、十中八九騎士科の学生だろうと当たりをつける。

 

 食堂入り口の壁に背を預け、どうして俺がこんな事を……と遠くを眇めてみる。

 最近周囲がばたついていて、疲れが溜まっているのもあって、思わず深い溜息が口を吐く。


 ……まぁ、何だかんだと従妹に甘い俺が悪いのだが。


 探し人を待つ間、足を踏み入れた事のない第三食堂を観察する。

 やはりこの食堂の利用者は騎士科の学生が多いようだ。

 他の学科とはその目的から異なる黒を基調とした実用一辺倒の制服を、食堂にいる多くの人間が着用している。


 つまり、明らかに装飾過多で実用性の低い白を基調にした特別科の制服を着た俺は非常に目立つ。

 不躾ではないのだが、日常に紛れた異物に対する探るような視線は多い。

 それは騎士科の性質上致し方ないのだが、居心地の悪いものである事に変わりはない。


 暫く待っていると、床に落としていた視線の先に二人分の影が差した。

 ふと顔を上げると、先程人探しを依頼した男子生徒と、もう一人。

 そこには小柄な女生徒がいた。

 侯爵家の後継として他者に感情を悟らせないよう表情筋を鍛えてきたはずなのに、彼女の姿を見て思わず目を見張る。


 蜂蜜を思わせるような艶めいた金髪を後頭部で纏め上げ、髪色より僅かに濃い蜂蜜色の瞳は理性的な色を湛えてこちらを見上げている。

 自慢ではないが、普段からご令嬢から意味もなく秋波を送られる身であり、見知らぬ女性からでも好意的な視線に晒される事が多いのだが、彼女の視線にはそう言った色は一切なく、その蜂蜜色の瞳は、表情は、無の一言だ。

 そして彼女は、彼女を探すよう依頼した男子生徒と同じ意匠の黒い制服に身を包んでいた。

 唯一異なる点と言えば、彼女が黒のくるぶしに届く長さのスカート姿である事だろうか。

 ……騎士科の制服は男女共に同じだと思っていたのだが。


「……君が……病弱で見舞いを盾に幼馴染の令息に物品を貢がせる気弱だという子爵家のリュミエール嬢……?」


 彼女の纏う黒い制服に対する動揺から、あからさまな言葉が口を衝いてしまった。

 俺の言葉に案内を頼んだ男子生徒はピクリとも表情を崩さなかったが、笑いを堪えているのか口元を手で押さえているし、身体が僅かに震えている。

 そして連れてこられた女生徒は相変わらず瞳に無関心を乗せながら、眉根を寄せてこちらを見上げた。


 そんな彼女の、化粧っ気のない唇から吐き出されたのは……。


「……お言葉ですが、私の制服を見て病弱だと思われるなら、この学園の入学案内を一から読み直した方がよろしいかと存じます」


 蜂蜜色の甘そうな見た目とは裏腹の鋭い舌鋒に、反論する言葉もなく、だよなぁと同意するしかなかった。





 この学園は何代か前の王弟が、王都と地方の貴族令息における教育格差を是正すべく立ち上げられた王立学園だ。

 当時、最先端の学問は王都にしかなく、王都にタウンハウスを持てる高位貴族と、地方から滅多に出てくる事はない中低位貴族とでは、どうしても学びの環境、質に格差があり、それが領地経営にも色濃く反映されていた。 


 それにより地方との貧富の差も拡大し、国力にも影響が出ていたのだ。

 それを憂いた当時の王弟が、王都の王城近くに学園を設立し、成人前の全ての貴族令息に対し、十六から二十までの四年間学園に必ず在籍し、必要な学びを得られるようにしたらしい。


 近年の学園はその門戸を広げ、貴族令息のみならず、貴族令嬢、果ては意欲のある平民も受け入れている。


 それにより、現在の学園では初年度に語学や算術などの基礎学科を修め、二年次以降に各々の進路に必要な専門学科を選択する形となっている。


 その専門学科は経営、商業、淑女、そして特別科と騎士科の五つに分かれており、大半の貴族令息、特に家を継ぐ嫡男や文官狙いの令息は経営科で領地経営に役立つ内容を学ぶ。

 嫡男以外の貴族令息及び平民は商業科へ、主な貴族令嬢達はこぞって淑女科へ進むのが一般的だ。


 そして私が所属する特別科は王族や主に高位の貴族令息が所属する科である。

 今は王族である第二王子殿下も所属している。

 もちろん、特別の名に恥じぬよう学ぶ内容は多岐に渡り、よりハイレベルな内容を課せられている。

 爵位だけでなく、高い学力と教養が求められる為、学園内ではその名の通り特別視されている科だ。

 それに相応しいようにと妙に装飾性の高い白の制服は、他学科の生徒達から尊敬の念を持って視線を送られるが、着ている本人としては堅苦しい事この上なく、あまり着心地も居心地も良いものではない。


 そんな特別科より更に特殊な位置付けにあるのが、騎士科だ。


 騎士科に進むには、二年次の進級の段階である程度の学力はもとより、体力、武芸における実力を備えてなければならず、科に進む為の試験は他のどの科より厳しく、身分による忖度すら一切ない。


 その代わりに騎士科の学生となった時点で、その生徒は准騎士の扱いとなり、授業の一環として街の巡回や、警護、遠征等実務を割り振られるようになり、それに見合う給金も出る。

 更に無事に騎士科を卒業した段階で、卒業生は騎士爵を賜る事ができることから、実家の爵位を継げない貴族令息や、平民から貴族への足掛かりを目指す者にとって非常に人気が高い科なのだ。


 もちろん、そこまでの利点がある故、そもそも騎士科に入るのが完全実力主義の狭き門であり、騎士科に入れたとしても、厳しい鍛錬を課せられた結果の脱落者も多いと聞く。


 そういった騎士科の特性を踏まえると、この目の前にいるぱっと見小動物のような儚げな見た目をした蜂蜜色のご令嬢は、その見目を裏切り、騎士科に所属できるほどの実力を兼ね備えた人物であり、病弱やら気弱である可能性は毛の先程もないのだ。


 つまりは……従妹からの案件が非常に面倒くさいものになった瞬間だった。

 思わず手で顔を覆って天を仰いでしまった俺は悪くないと思う。





「先の条件で私をお探しと言うことは、貴方様はマイヤーズ侯爵令息様の御関係者ということで宜しいでしょうか?」


 皿の上に大盛りの肉と野菜を優雅な手つきで、次々とその小さな口に運んでいくのはリュミエール嬢だ。

 なんと言うか……小動物のような見た目に反してギャップがすごい。

 私の前にある皿の二倍近い量が盛られていたはずなのに、既に食べ終わりそうだ。

 ……そんな彼女の隣にいる男子生徒は三倍の量だったが……。しかも既に食べ終わってるが……。


 先の発言を舌鋒鋭く切り返された後、とりあえず午後の訓練があるので食事を摂りながらということになって相伴にあずかっているが、普段使う特別科専用の食堂やたまに覗く淑女科の生徒が多い第二食堂とのギャップがまた……。

 ここでの一食分を見てしまうと、淑女科の昼食などここではおやつにもならないだろうと思えてしまう。


 ついでに先程彼女を探してもらった男子生徒も同席しているのは、婚約者でもなく親族でもない女性と二人で話をしていた事で変な誤解を招かない為だ。


「……あぁ、改めて。

 私はシエル・ブラックシール。マイヤーズ殿の婚約者の従兄にあたる」


「お名前をいただきありがとう存じます。私、バテル子爵家が一女リュミエール・バテルでございます。

 ……ブラックシール侯爵令息様のお従姉妹様と言う事は、マイヤーズ侯爵令息のご婚約者様はゴスリングス公爵令嬢なのですか?」


 護衛も担当する騎士科とあって、貴族の血族関係は把握済みらしい。貴族名鑑に絵姿はないから、顔までは知らなかったようだが。

 ますます従妹から聞いている、『病弱や貧乏を理由に己の婚約者に纏わりつく幼馴染(どろぼうねこ)』のイメージから乖離していく。

 だが……。


「……知らなかったのか?

 失礼だが、マイヤーズ殿とは幼馴染で親しいと聞いていたのだが……」


 そう告げた途端、リュミエール嬢が見てわかるほど顔を顰めた。

 そのわかりやす過ぎる顰めっ面に、不快感が湧くどころか、なんだか愉快な気持ちになってきた。


「幼馴染の定義が幼少時少々の交流があった程度でよろしければ幼馴染と言えますが、ここ何年も大した親交はございません」


「へぇ。それは私が聞いた話とは違うなぁ。

 従妹殿によると、幼馴染の子爵令嬢は病弱で、具合が悪くなると直ぐにマイヤーズ殿を呼びつけるらしいよ。

 なんでも幼い頃から親しく、弱っている時に支えてくれる兄の様に思われてるとかで……。

 で、マイヤーズ殿は見舞いに行くのに手ぶらだと格好がつかないから、それなりの品を持って行かざるを得ないから、婚約者に贈るプレゼントもままならないらしい。

 そんなお優しいマイヤーズ殿は、直近ではつい一昨日、学園が休みの日に体調を崩して自宅で療養していた幼馴染を見舞いに行ったとかなんとか……」

 

 悪いと分かっていても微苦笑が滲んでしまう声色でそう告げると、明らかに嫌そうな表情を彼女は浮かべた。


「私の祖父が、先代のマイヤーズ侯爵様と親しくさせていただいていたご縁で幼少の頃多少の交流がございましたが、十を数える前に最後にお会いして以来、今日(こんにち)までお会いした事はございません。

 まして実の兄がおりますのに、高位のご令息様をわざわざ兄と慕う必要などございませんし……。

 強いて言うなら、一昨日は自宅療養しておりましたが、マイヤーズ侯爵令息様がお見舞いに来られた事実はございません」


「……へぇ?」


 意外な発言に思わず声が低くなり、探るような視線を向けてしまう。


「……騎士科の学生は基本的に寮生活だって聞いてるけど、一昨日はたまたま自宅に居たの?」


 言外に、マイヤーズの言い分通り自宅にいたのなら、一気に彼女の言い分が疑わしくなると含みを持たせて告げてみる。

 それをわかっていての発言かと、あからさまに疑いの眼差しを送る。

 すると彼女は一つ嘆息して口を開いた。


「その前日に学園内で事故に巻き込まれまして。

 その際頭を軽く打ったので、寮ではなく自宅での療養を命じられました。

 ……こちらは学園の治療室に問い合わせて頂ければ、書面でも残っておりますかと……」


 はっきりと述べる彼女に嘘はないのだろう。

 とすると、少なくとも彼女が平素から病弱では無く、侯爵令息による見舞いの必要もない事は確かだ。まぁ、そもそも騎士科に在籍している時点でその可能性は無きに等しいが。


「……すると、びんぼ……いや、ご実家の財政が心許ない為、マイヤーズ殿から少なくない物品を受け取っていると言うのも……」


「あり得ません。下世話な表現で申し訳ございませんが、生まれてこの方金銭面で苦労した事は一度もございませんし、侯爵令息様のお手に取るようなレベルのものであれば、侯爵令息様のお手を煩わせなくとも手に入りますので。

 それにご覧の通り武骨な科に所属しております故……」


 きっぱりと言い切る彼女の様子に思わず片眉があがる。


「一度も?

 ……失礼だが、君の家は子爵家だろう?それなら、失礼だが侯爵家が手に入れるようなレベルの……。

 ……ん?バテル?バテル家ってまさか…!?」


「バテルさまっ!!こちらにいらっしゃいましたのねっ!!」


 彼女の家名から導き出された答えを口にし終わる前に、ひらりと飛び込んできた軽やかに飜る臙脂色で俺の視界は塞がれた。


「あぁ、先日の……。

 あの後体調などは大丈夫でしたか?ご令嬢」


 すっと立ち上がり胸元に手を当て、突然割り込んできた令嬢に対しても騎士然と対応する蜂蜜色の彼女は、小柄なのに随分と大きく見えた。


「バテル様に守っていただきましたもの。傷一つありませんでしたわっ!

 それよりもバテル様の方が……頭を打たれたせいで寮ではなくご自宅での療養を指示されたとか……。

 わたくし心配で……」


 割り込んできた令嬢が、紅茶色の髪をゆらりと揺らし、瞳を潤ませてリュミエール嬢の手を取る。

 ……本来であれば上目遣いの一つもキメたい場面なのだろうが、生憎リュミエール嬢の方が背が低かった為、不発に終わっていた。


「自宅療養は頭を打ったので念の為です。特に大事ありませんでしたよ。

 それよりご令嬢にお怪我が無くてなによりです。お守りできて良かった」


「はぅっ!」


 先程まで俺に向けられていた無の瞳を蜂蜜のようにとろりと溶かし、甘やかに微笑むリュミエール嬢にあてられて、淑女科の制服を着た令嬢が挙動不審になった。と言うか……。


「カチェ、バテル嬢と親しいのか?」


「あら?シエル?貴方、何故ここにいるの?」


 くるりと臙脂色のワンピースを翻し、こちらを振り返ったのは、間違いようも無く俺の従妹、この面倒事を押し付けてきたカティアーチェ・ゴスリングス公爵令嬢本人だった。


「いや、何故って……。お前が頼んできたんだろう?

 お前の婚約者が入れ上げてる幼馴染(泥棒猫)とやらを探しにきたんだよ」


 カティアーチェが首を傾げた事によって、今日もバネのようにクルクルに仕上げた紅い毛束がバサリと揺れる。


「え?何処に(くだん)の泥棒猫がおりますの?」


「いや、子爵家のリュミエール嬢はそこにいる……」


「何を言ってますのっ?!バテル様が『病弱や貧乏を理由に己の婚約者に纏わりつく幼馴染(どろぼうねこ)』な訳ございませんでしょうっ!

 何せバテル様は騎士科の女性騎士の中でトップの実力者ですのよ!?病弱な筈ないですわっ!

 しかもご実家は言わずと知れた王都一の商会をお持ちのバテル子爵家!貧乏な訳ないでしょう?!

 シエル……貴方、調査能力が落ちたのではございませんこと?」


 あからさまに残念な者を見る目を向けられ、若干イラッとする。

 『子爵家』で『リュミエール』と言う名だけを手掛かりに、半日程度で淑女科の所属ではなく、第三食堂に出入りしているらしいと当たりを付けたのだ。

 しかも本来の護衛対象である第二王子殿下に不用意に近づいてくる男爵令嬢を捌きながら。

 我ながら頑張ったと思うのだが……。


 いや、言い訳はやめよう。

 リュミエール嬢が『バテル』子爵家の人間で、主に騎士科が利用している第三食堂に出入りしている時点で、事実は明らかだった。

 マイヤーズが『口実』に使っている『幼馴染』が虚構の存在であると。


 ガシガシと頭を掻き思考をまとめ、意識を切り替える。

 リュミエール嬢を真っ直ぐと見つめ、口を開く。


「すまない。リュミエール嬢。どうやらおかしな誤解をしたようだ」


「いえ、マイヤーズ侯爵令息様の件につきましてはこちらも迷惑しておりまして。

 と言っても、直接こちらに何かある訳でも無く、なにぶん向こうのほうが爵位が高い為、こちらとしても動く事が出来ず……。

 ブラックシール様にこうして弁明の機会をいただけた事、ありがたく存じます」


「どうかシエルと……」


 にこりと微笑んだリュミエール嬢の笑みに誘われて、思わず言葉が口を吐く。

 その台詞に意外性を感じた故か、カチェの片眉が訝しげに上がった。

 まぁ、確かにご令嬢に自分の名を呼んで欲しいなどと願ったのは初めてなんだが。

 そんな令嬢にあるまじき顔をするのはやめとけ。淑女科トップが台無しだ。


「分かりました。シエル様」


「ありがとう。リュミエール嬢。ところで、カチェとは何処で……?」


「先日階段から落ちた所を助けていただきましたのよ!」


「階段から落ちた!?」


 さらりと告げられた衝撃の事実に思わず素で驚いてしまう。


「えぇ、その際たまたま階段下にいらしたバテル様に受け止めていただきましたの。そして颯爽とわたくしを抱き上げると治療室まで運んでいただいて……。

 ……お素敵でしたわ……。まるでこの前見た舞台のヒーローのようで……」


 妙にうっとりしているカチェの様子が気になるが、その際(階段から落ちた時)に頭でも打ったのだろうか?小柄なリュミエール嬢がカチェを抱き上げている(さま)はなかなかシュールだと思うのだが。


「いえそんな……。

 結局受け止めきれず、壁にぶつかってしまいましたし……」


 苦笑を浮かべるリュミエール嬢を見て、先程の会話を思い出す。

 どうやらカチェを受け止めた時に、壁に頭部をぶつけるなりしたのだろう。

 いくら騎士科とは言え、カチェの方が背も高い事から、小柄なリュミエール嬢では受け止めきれなかったのだろう。

 頭部への衝撃は時間が経ってから症状が出る場合もあるので、個室となっている寮ではなく、人目のある自宅での療養を指示されたのかと得心が行く。


 それを何処かで聞きつけた、いやむしろリュミエール嬢本人が本当に屋敷に居なくとも、言い訳としてマイヤーズはリュミエール嬢の存在を利用していたのだろう。

 そもそもリュミエール嬢が騎士科に在籍している事すらマイヤーズは知らない可能性も出てきたしな。


 そこまで思い至り、不愉快さが募る。


「恐らくマイヤーズ殿はリュミエール嬢を隠れ蓑にして本来の浮気相手に会うなり貢ぐなりしているのだろうな。

 全く以て腹立たしい事だ。

 カチェ、これからどうする?」


「婿養子となる人間が今からこの体たらくではどの道必要ありませんわ。

 顔も性格も好みませんし……。むしろそこの貴方様!どちらのお家の方かしら?公爵家への婿入りに興味はございませんことっ?!」


 唐突に最初リュミエール嬢を探してもらった男子学生にぐいぐい迫り始めるカチェ。

 まぁ、それは放っておこう。どうせ放っておいてもカチェの思う通りになるのだから。


 後はマイヤーズの真の浮気相手だが……。


「……マイヤーズ侯爵令息について、お耳に入れたい事が……」


 そう言って近づいてきたリュミエール嬢から、ふわりと蜂蜜のような甘い香りが漂う。

 それに引き寄せられるように、リュミエール嬢を見つめてしまう。側から見れば甘く見つめ合う男女に見える状況だが……。


「実は……」


 リュミエール嬢の口からもたらされた情報はちっとも甘くなかった。


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