3話 『ヒント』
「レート!? レートが消えたぞ!」
「どこに消えたんだ?!」
レートとパチャイカが突然姿を消した。建物の外を見渡しても、どこにも姿はない。
『ああ! 緊急事態! やばいよゲオナ。レートは今、カルトの基地にいる。敵に囲まれたらレート、死んじゃうかも!早く助けに来て!』
「パチャイカ? どこにいるんだ?」
『いま直接、ゲオナの脳内に話しかけてるんだよ。 そんなことより、レートを助けに来てよ』
『レートは無事なのか?』
『今のところ大丈夫だけど、敵の基地のど真ん中だから今にも見つかっちゃいそうだよ』
『分かったすぐに行く、そこで少し待っていてくれ』
零斗は少女やその他の人質達が拉致されている、敵軍の基地に飛ばされてしまったようだ。
「ゲオナさん、パチャイカって」
「ファルコンくん!! レートはカルトの基地にいるみたいだ」
「え、なぜわかるのですか?」
「わかるんだ! なぜかは後でだ。はやく助けに行かないと……。そうだな、一旦は私1人で行く。部隊を組んで大勢で行くと敵にバレやすいし、もしバレたら、人質の人たちの命を危険に晒すことになる。人質を保護したら連絡するから、援軍をお願い」
「わかりました。私は軍を組んで待機しておきます。レートを頼みました」
「わかった、行ってくる」
同時刻、場所を移って、カルトの基地,レートサイド
「この白い建物……きっとそうだ」
さいわいあたりに見張りはおらず、敵に見つからずに茂みに隠れることができたレート。
突然目の前に現れた白く大きな建物。あまりの出来事に驚きつつも、大きく深呼吸をし心を落ち着け、状況を整理していた。
「ここはたぶん基地の城壁を越えた先で、少女と人質がいる建物だ。ゲオナたちには今、パチャイカが知らせてくれている。ここは事を起こさずに抜け出すのが正解か? いや……待てよ…」
「レート?」
考え事をしていると、パチャイカが話しかけてきた。
「レート、大丈夫?」
「ああ、なんとかな。俺のいる場所、ゲオナたちにうまく伝わったか?」
「うん、大丈夫。ゲオナが今こっちに向かってるよ。だからずっとここに隠れてようよ。」
「……いや、」
確かにここに隠れてゲオナを待つのも手段だ。だけどそれは少しリスキー。ここの基地は確か城壁周りの見張りの数が特に多く、もし見つかれば人質を盾にされて、思うように動けるはずがない。いくらゲオナでも、誰にも見つからずに基地に侵入するのは、至難の業だろう。そして何より、人質を助けたいという気持ちが強い。だから……
「俺は、人質を助けに行くべきだと思う」
「え!? あぶないよ! 待ったほうがぜったい良い」
「パチャイカって、運の神様なんでしょ。ならさ、僕に賭けてよ」
「……わかった。でも、絶対に無理しないで!」
「わかってる。敵にバレることさえなければ、いける! まずは、建物の扉を開けるための鍵を」
「しー! 見張りが近づいてきてる」
見張りはこちらには気づいていないようで、そのまま通り過ぎていきそうだ。
「チャリ」
通り過ぎる途中、見張りは何かを落としていった。
「あれって、鍵?」
レートは敵が周りにいないことを確認し、茂みから飛び出した。レートは複数の鍵が束になった物を拾い、その鍵を建物の鍵穴に差し込んでみた。すると、
「カチャ」
「え、扉空いた! ラッキー」
「そう、きみはいま運がいいんだよ! でも、運を掴むチャンスを見逃してしまってはいけないよ。運は見つける努力をしなきゃ見つからない。ささいな事にも気を配って」
「わかった」(要するに周りを見ろと…)
運にもからくりがあるのだろうか。疑問も多々あるが、パチャイカは僕を信じて、俺にかけてくれた。俺もパチャイカの言葉を信じよう。
扉を開けて中に入った。中には二人ほど寝ている大人がいた。
「ん〜? なんでガキがこんなところに。なにかようか〜?」
「多分牢屋の子供ですよ先輩。僕が送ってきますんで、まだ寝てていいですよ」
「ん? あぁ……よろしく」
1人は酒で酔っているのか、顔が赤く、喋り方もなんだか気が抜けている。
もう1人はまだここに来て間もないのだろう。俺が人質の1人だと思っているようだ。
「この目隠しをつけろ、牢屋まで送る」
「もしかして、気づいてないんじゃ……。レート、ラッキーだね!」
このまま黙ってついていけば、牢屋まで辿り着けそうだ。
「階段があるぞ」
建物には地下があるようだ。階段を降りていくに連れ、少しずつ空気が冷たくなる。静まり返った空間は、二人の足音と、どこからか聞こえてくる水滴の音を際立てている。レートは階段を降り、その後少し歩き、牢屋までたどり着いた。
「じゃあな、いい子にしてろ」
男は牢屋の鍵を締め、何処かへ行ってしまった。
「もう目隠し外していいかな」
「いいんじゃない?」
レートは目隠しを外した。
「なんとかたどり着いたね、レート」
「うん、ドキドキした」
その牢屋の中には少女がいた。
「掴まちゃったの? あなたは誰?」
どうやら、精霊術を扱える彼女は、召喚魔を視認できるようだ。
「違う、俺は君を助けに来たんだ。俺はレート。」
「助けにって……ははは。残念ね、ここに来ちゃったらもう助からない」
「いや、絶対に助け出すよ」
牢屋の前は広めの空間になっており、その部屋の壁に沿っていくつか牢屋が並んでいる。その中に人が二人ずつ、合計14人ほどが捕まっていた。助け出すとはいったが、大人数でここから出ようとすれば、バレるのは当然。
『でもどうやってここから出るの? レート』
「そーだな……ここにいて、この人達を助けられるのは俺とパチャイカだけ。何かいい方法は……」
そう考え込んでいるときだった。牢屋の外に、突然人が現れた。
「レート!!」
「ゲオナ!!」(あれ、なんで今までゲオナのこと忘れてたんだ)
「今この牢屋を切る」
「ちょっと待って!! 開くかも牢屋」
そう言ってレートは、ポケットから鍵を取り出した。
「どこでそれを」
俺は、ここに来るまでに拾ったと伝えながら牢屋の鍵を開けた。
『ねえゲオナ、レート、少し作戦をねろうよ。』
「そうだな。ところで、ゲオナはどうやってここまで来たの。バレずに」
「君の姉に魔法をかけてもらったんだ。レートの命が危ないと言ったら、すぐに認識阻害をかけてくれた。」
※姉、アトアルド=メローネのスキルについて少し説明
認識阻害とは、スキル、ホワイトアウトのことを示しているゾ。このスキルにかかると姿が見えなくなるだけでなく、スキルをかけられたものは、他のものから存在を忘れられてしまうのだ!! 認識阻害は、ものに触れようとしたり、他人との会話を試みたりすると解けるゾ!
「なるほど、だから少しの間、ゲオナのことを忘れていたんだ。で、どうやって脱出するか……」
「ここには人質がみんないるみたいだから、今なら全員を保護できるし、今からファルコンくんに連絡して援軍を呼ぶから」
『そうだね、それがいい』
「レート、これを渡す。お前なら自分の身は自分で守れる。お前は自分が思っているより強い! 自身を持て」
俺は真剣を受け取った。
「…………」
自分の身は……自分で守る。
「援軍が到着したら作戦開始だ。できるだけ迅速に避難。絶対に生きて、全員で帰るぞ!!」
「はい!」
それからしばらくして…………
「ウゥーーーーーー!!!」
サイレンが鳴り響く。援軍が到着したようだ。
「よし!! 逃げるぞ」
ゲオナの掛け声とともに全員が牢屋から飛び出した。広場を走り階段を上がると、そこには見張りが2人いた。
「何だお前ら!! 牢屋にもどれ!!」
ゲオナが2人に斬りかかる。
「うわ!!」
「ボス! 人質が暴れ出しました!! うわぁ!!」
ひとまず建物からの脱出は成功。北門と南門から援軍がこちらに向かっているので、とりあえずどちらかと合流する。それまでは、ゲオナと自分を中心に、剣を扱えるものも戦い、みんなを守る。
「やぁ! やぁ!!」「たぁッ!」
「ぐはぁ! うッ!!」
「人数を確認!はぐれたものはいないか!」
「……10、11…12、13、14!全員います!」
「よし、北口からの援軍がかなりいいスピードでこっちに来ているな。北と合流するぞ。ついてきて!」
かなり順調だ。ゲオナが強いのもあるが、かなりの数の敵でも人質を守り、的確にいなしながら、着実に歩を進められている。
「あともう少し!合流できる!!」
「ジッジジジッジ…ジジジ…………グワン!」
「きゃあ!!」『レート! 女の子が!!』
いきなり空間が歪み、そこから出てきた手が少女を掴んだ。
「助けて!!」
「届け!!」
ギリギリ少女の腕を掴むことに成功したが、そのまま俺やパチャイカ、少女は、裂け目に吸い込まれてしまった。
「レート!!! くそ! ……早く人質の人たちを預けて、助けに行かないと!」
そして、裂け目に吸い込まれたレートたちは、
「フッ、要らないガキが、一人ついてきてしまったか」
「誰だお前は!! その子を返せ!」
「私の名か? なぜ教える必要がある。まあいいか。私は、ルム=バリオスだ。いきなりの進軍に、人質の反乱。非常にびっくりしたよ。まったく」
「さっき使ってた術、禁術でしょ。禁止されていて、使ってはいけないはずよ。」
少女が言った。
「何を言っている。術は使うためにあり、それを禁止することのほうがよっぽど不自然じゃないか?使われない術は錆びていき、やがて朽ち果てる。この空壊の渾天も素晴らしい技術だ。そんな素晴らしいものがこの世界から一つ消えてしまうのは、もったいないだろう?君の使う精霊術と何が違う?もっと公平に、全ての術が貴重にされるべきだ」
「その子を離せ」
「お前に興味はないぞ、ガキ。そうだな、反乱したものの見せしめとして、公開処刑にでもかけてやろう。お前はそこに座っていろ。少女を牢屋に連れて行く。」
「その子を離せって、……いってんだ!」
シュ
「ワープか? 面白い」
カキィン!!
剣を受け止められた。
「だが、不用意に近づくのは、感心しないな」
ドッ!
「うわぁ!」
強く蹴り飛ばされてしまった。
スキルをうまく使いこなせない。スキルが暴発してしまう。このままでは、スキルに足を引っ張られかねない。このスキルのトリガーは何なんだ
「くそ!」
「ワープも便利でいい。素晴らしい術だと思わないか? だがそのワープも禁術なんだ。確かに、禁術は十分に魔力を使わないと、非常に不安定で危険だ。お前のように、十分に魔力を注がずに使うようなものがいるから、危険だ危険だと言われる。」
なるほど、そういうことか。
「レートくん! 禁術使っちゃだめ!」
「……大丈夫だよ。」
たしかに見た目はワープそのものだが、これはスキル。禁術とは別物だから問題はない。
そして幸運にも、敵からワープをコントロールするヒントを貰った。禁術の知識がスキルと関係あるかわからないけど、本番はここからだ。
「ここからだ。クソ野郎」






