2話 『目で見て、耳で聞いて』
兄は、軍に所属しているらしく、軍の訓練場に連れてこられた。
「は! やあ!」
「いい太刀筋だぞ! 弟よ!」
俺は今、兄に剣の稽古をつけてもらっている。
「お前は剣を極め、この国を守る剣豪になるんだ!」
「うっ…はあ」
「どうした? まだ調子が悪いのか?」
「はぁ、はぁ…すっ、少し休憩を!」
兄さんは手加減をしているらしいが、剣を初めて持つ俺にとっては地獄だ。
前の体の持ち主はどんなきつい訓練をしていたのだろう……
「起きてからいきなりの稽古は少ししんどいか…。分かった、長めに休憩を取るから日陰で休みなさい。私は少し話をしに行ってくる。戻ってきてたときに私がいなかったら、そうだな……準備運動でもして待っていてくれ。」
「分かりました。ありがとうございます」
レートは、近くの木の陰に座り込んだ。
「レート、大丈夫?」
「稽古キツすぎ。前世では運動できた方なんだけどな。てかやっぱり、お前の姿って他の人には見えないんだな」
「そーだよ」
「それにしても、兄さんって熱い人だよな。声もでかいし。勢い任せ過ぎだし。体力根こそぎも持ってかれたよ」
「お疲れのところ悪いんだけど、レートの家族のこととか、ここがどこなのかとか、わかったことがあるから教えるね」
「うん、お願い」
「まずこの国の名前はナトリダムス 。大きな魔法学校と、剣術学園を持っていて、結構発展しているみたい。そして君が今いるのは、マーリア海の海域にある島の中でも1番大きい島、『ガルラング島』大きな騎士団を持つのが特徴の国内屈指の軍事地区さ」
「へー。物騒だなぁ。」
「あとは、家族の話。君はアトアルド家の末っ子、アトアルド=レート。両親と兄と姉がいて父の名前はアトアルド=ブリュード、兄の名前はアトアルド=ファルコンで、どちらも騎士団に所属しているよ。母はアトアルド=フィーリー、姉はアトアルド=メローネ、どちらもかなりの魔法の使い手みたい」
「なるほどな。家に高そうなものいっぱいあったけど、俺らって貴族かなにか?」
「そうみたい。アトアルド家の血筋は体が頑丈で、魔力量も他の人よりも多く持って生まれてくるみたいだから、その才能を活かして国の人々を守ることで富を得てるみたいだよ」
「へー。意外とすごい血筋」
「後なにか話すことあるかな…………あ! あそこの石像にもたれかかってる人! あの人は、スコア=ゲオナって言って、この島の軍の軍隊長。今この島で1番強い人だよ」
「1番強い人……」
そこにいたのは22歳ほどの女性で、腰に強そうな剣を1本さしている。どのような人なのだろうと思い、しばらくそちらを眺めていると、彼女と目があった。彼女は驚いたような顔をして立ち上がり、こちらに駆け寄り、
「レートー!!」
ドガッ!ズザザザー−!!
「ウベェ!」
俺に飛びついてきた。
「心配したぞ、レート!! 怪我したっていうから、めっちゃ心配してたよ」
勢いのすごい人だな
「お……おかげさまで…怪我、治りました」
「そうか、良かった! ……ん? 見ない顔だな、君は誰だ」
「何いってるんですか? 僕はrっ」
「いや、レートじゃなくて、ほら、そこの、浮いてるお嬢ちゃん」
と、パチャイカの方を指さして言う
「!!?」
「ぼぼぼ、僕の名前は、ぱ、パチャイカ、よろしく」
「…………」
俺は驚きすぎて声が出せなかった。パチャイカはつまりながらも、なんとか自己紹介をした。
「た、ただのレートの友達だよ。ねー、レート」
「う、うん」
「今の子って、魔法か何かで浮けるのか? すごいな」
なぜパチャイカが見える? なぜ話せる? ……わからない。
「なぜそんなに戸惑ってるんだ? 何か隠してる?」
「い、いや。そんなことh」
「あ!! レート!」
ゲオナは腰のポケットからブレスレットのようなものを取り出した。
「はい、これ、昨日で16歳だよな。誕生日おめでとう」
「ありがとうございます。いまつけてもいいですか?」
「ダンジョンで手に入れたものだから何かしらの効果があると思うけど、」
俺はブレスレットを腕につけた。するとブレスレットがキラキラと輝きながら消えてしまった。
「え……」
「消えちゃった、ブレスレット……」
「なにか変化ない?」
「よくわかんない」
「じゃあ、ステータス見てみれば。なにか変わってるかも」
〈ステータス〉
《スキル》
???
セカンドストリート
契約:パチャイカ
・追記
ステータスとは、この世界にいる人達が自分の持っているスキルや能力を確認する方法だ。(他人には覗けない)
「セカンド……ストリート」
「なにそれ、もとからあった?」
「いや、そんな覚えない」
「じゃー、きっとそれがブレスレットの効果だな。ブレスレットをゲットしたダンジョン、コラムに近くて結構敵強かったから、スキル入ってても納得だな。で、何ができるんだ? そのスキル」
「うー……なんも、できない」
「何か発動する条件があるんじゃないかな! 例えば、名前大声で言うとか?」
「……試してみるか」
レートは大きく息を吸い、言い放った。
「セカンドストリート!!」
シーン
「何も…起きない」
「何も……起きないね」
「まあいずれ分かるんじゃないか? 使い方わかったらまた教えて」
ゲオナと長く話しすぎてしまった。兄を待たせているかもしれない。
「うん、プレゼントありがと。稽古戻るね」
訓練場に戻ろうとした途端、何処かから声が聞こえてきた。
『た……けて、たす……けて…』
「れ…と、レート!レート!」
「っ!?」
「大丈夫? どうしたのレート」
「い、いや、なんか、いきなりボートして、立ちくらみ?」
「たぶんレート、疲れてるんだよ。 初めてのことばかりだったから」
「そうかな。てか助けてって何? パチャイカ」
「? 僕、そんなこと言ってないよ」
「あれ? そっか……」
不思議に思いながらも、訓練場に戻った。
「休憩してきました、兄さん。早速稽古の続きを、」
「いや、レート、少し急用が入った。今日の稽古は終わりにしよう。用事が終わるのは、夕方くらいになると思うから、先に屋敷に帰っていてくれ」
兄さんは、いつもより少し真剣な声色で話す。
「わかりました」
それからファルコンはゲオナのところに行き、何か話を始めた。遠くて何を言ってるのか聞こえない。
「なにか問題でも起きたのかな……」
パチャイカが心配そうに話す。
俺は帰る支度を済ませ、訓練場を出ようとしていた。すると、途中に明かりの付いた建物があり、そこから話し声が聞こえてきた。
「……にか他に報告はないか」
「はい、有力な情報が入りましたので報告します。拉致されている民間人の件についての追加の情報です」
何やら重要な話をしているようだ。兄さんとゲオナも中にいる。はなしの内容が気になる。
「ここに隠れて少し聞いてみよ」
「盗み聞きは良くないよ」
パチャイカは乗り気ではないようだ。
…………
「今回わかったことは主に3つ。1つ目はここ最近の民間人の失踪と、以前の少女誘拐の件の犯人が同じであることです。犯人は、ガルラング島南部に拠点を構えるカルト集団。少女の精霊術の力を使って、以前と引き続き、憤怒の魔法陣の復活を測っているようです。そして2つ目は、民間人の拉致の目的です。もちろん人質として、我軍に圧力をかけるためでもあるのでしょうが、禁術を使用する際に発生する代償の、身代わりをさせる目的もあるようです。そして3つ目は、拉致された人々が捕まっている建物がわかったことです。北門と南門があるのですが、北門からのほうが近く、その門を入って直進、馬小屋を左に曲がり、次の角を右に曲がる。その道の右手、手前から3番目がその建物です」
「いや、5番目。右手を5番目」
「ん? どうしてそこに!? まだ帰ってなかったのかレート?」
「え……その、はい」
「どうゆうことだレート」
「拉致された人のいる建物は、三番目じゃなくて五番目です」
「なぜそう言い切れる?」
兄さんが少し強い主張で話す。
一連の話の中で引っかかる部分はいくつかあった。全く知らない話のはずなのに、聞き覚えがある。
それと、…………なんだろう、心が……悲しい……
「違うんです。誰かの声が聞こえて来るんです。助けてほしいって何度も。その声を聞くと、悲しくなるんです」
その声はだんだんとはっきり聞こえてくる。妖精のような声だ。そして頭では、名も知らない少女が、衰弱している様子が浮かんでくる。悲しそうで、寂しそうで、辛そうで。それらは、自分の感情にまで伝播してくるようだった。
「な……何を言ってるんだレート」
「………………」
また、声がする
『助けてあげて、
救ってあげて、
私の声を聞いて、
絶対に助けると思って、
彼女の命を大切に思って、』
「レート! どうした!?」
激しい頭痛と耳鳴りで意識が遠のく。
『助けに来て!!』
脳に直接焼かれたように、人々が拉致されている建物、周辺の景色、そこまでの道のりが、色濃い彩度を持って、視界に現れる。
「た……たす…けに……いかない……t」
大気の温度が変わる。少しヒヤッとした風が肌に当たり、もうろうとしていた意識がもとに戻った。
「あれ? 外? 俺は何をして」
見覚えのある建物、その奥に見える少し高めの壁、遠くから聞こえる馬の鳴き声、
風に……乗ってきて
「この建物って」
目の前には白い建物。ここには多くの民間人が、幽閉されている。