海水浴
それは晴れた日の事だ。
姉の発言から全ては始まった。
「弟よ海に行くわよ」
「は?」
藪から棒に何いってんだ?
このクソ姉。
「何よ顔を歪ませて」
「インドア派の僕に死ねと?」
「コミケで多くの戦利品を勝ち取る猛者が何か言ってる」
「コミケと海水浴は違う一人で行けば」
僕は今年の戦利品を読み姉を手で払う。
汚物を払い除けるかのように。
「運転手が欲しい」
「免許取れば?」
クソ姉の戯言を一笑。
「コミケの軍資金を貸して上げたのは誰かな?」
「……」
「お願いよ~~今度こそ彼氏が欲しいの」
「普通に逆ナンしろよ」
「できると思う?」
このクソ姉。
陸上とかしてのでスタイルは良い。
良いんだが……顔が今ひとつ。
しかも服のセンスもイマイチ。
なので普通に逆ナン無理。
見た目モブ顔のダサい女を引っ掛ける男は居ない。
但し例外は有る。
それが海水浴&プール。
このスタイルに黒いビキニは凶悪と思う。
実の弟である僕が前かがみに成ったんだ。
お察しであろう。
だが今までの戦果はゼロ。
ヤリチンや軽薄なナンパ野郎しか声がかかりません。
そんな時は僕の出番です。
アロハシャツとサングラスをすればあら不思議。
その道のプロになります。
コミケで生き残るには筋肉は必須。
以外に本は重いのよ。
うん。
「貸しが有るよね~~」
一万円でグダグダと。
煩いな~~。
僕は眼前の姉を睨む。
だが思いなおしため息をつく。
仕方ないと言おうと思ったその時。
「「話は聞かせてもらった」」
聞き慣れた声がする。
「何?」
「海に行きたい」
「同じく」
僕の言葉に両親がお強請りしていた。
おい。
「二人共免許持ってるよね」
「ビール飲みたい」
「焼酎も」
頭痛がする。
「飲めば」
「「海水浴に行って飲みたい」」「子供か」
理由が酷かった。
「というわけでお願いね」
「あいよ」
いい笑顔で言うねクソ姉。
数日誤。
海水浴に連れて行かされた。
家族に。
無理やり……。
何でだよと言いたい。
オタクという生き物は海水浴というイベントは似合わないと思う。
「ふうう~~どう?」
「クソ姉~~実の弟を誘惑してどうする」
「ガソリン代の代わり」
「身内のビキニなんぞ面白くないんだが」
「ほう」
「というかガソリン代は払えよ」
「え~~」
嘘です。
めっさヤバイです。
股間が。
クソ姉スタイルだけは良いからな。
「おや~~弟くん何してるのかな~~」
「うぜ~~」
クソ姉から逃げる僕。
そんな時だった。
「泳ぐぞ~~」
「何年ぶりの海かしら」
思わずクソ姉と両親の方を見た。
「「……」」
その瞬間白くなりました。
両親の水着に衝撃を受けたせいだ。
「あ~~」
「うわ~~」
僕とクソ姉の目は死んだ。
両親よ。
無理やり連れて行かれた良いんだが……。
「久しぶりの海ね」
母よ。
四十五歳にスクール水着とは正気か?
色々垂れてますが?
主に垂乳根が。
それにそのスク水はクソ姉のですよね。
中学生の時の。
パッツンパッツンです。
現実逃避したいです。
「あれ中学生の時のスク水」
クソ姉が。
糞姉が死んでる。
目が死んでる。
僕もですが。
「滾るの~~」
それとお父さん。
その海水パンツは僕が子供のときに買ったやつですね。
家族で海水浴に行った時のやつ。
ブーメランパンツは良いですが股間が膨れてます。
ええ。
猛烈に死にたく成る。
クソ姉と僕はその日一日死んだ。
両親のあんまりの姿に。
数時間後。
彼氏を作りに来たクソ姉。
精神的に燃え尽きたらしい。
「帰るか」
「そうだね」
「お土産何にする?」
「サザエの殻」
最後の思い出にサザエの殻を持って帰る事にした。
人数分。
普通に何か買えば良いんだろうが……。
無駄金を使いたくなかった。
それだけです。
クソ姉が。
というか精神的に疲れて買いたくなかったというのが理由だ。
両親は遊び疲れて買い物の気力がなかったと言おう。
なぜサザエの殻をお土産にというか……。
クソ姉がサザエの殻を耳に当てると波の音が聞こえると言ったせいだ。
いや。
良いんだが。
「しやあああっ!」
何故かサザエの殻を威嚇するクソ姉。
え~~と?
「何してるの?」
「サザエの殻にヤドカリが居た」
「いや良い」
疲れた。
精神的に疲れた。
サザエの殻を持って帰ることにした。
ええ。
数日後。
家族の様子がおかしい。
目に光が無い。
一日中ぼお~~としてる。
仕事には行く。
それにご飯も食べる。
それだけだ。
何にたいしても無気力だ。
変だ。
明らかに変だ。
「クソ姉」
「……」
「お父さん」
「……」
「お母さん」
「……」
何処かを見ている。
何処を?
「なあ……」
「「「……」」」
こちらを見た。
光のない目で。
力なく何も映さない目。
生ける死人。
そんな言葉が出る。
部屋の隅から隠れる様に観察する僕。
その時だ。
ふと気がついた。
耳から何かが見える。
赤い。
赤いナニカ。
小さく赤いナニカ。
ハサミのような赤い……。
その瞬間僕の耳に痛みを感じだ。
思わず耳の穴に手をやる。
痛い。
何かに指を切られた。
ハサミのような何かに。
血が出てる。
血?
待て。
マテ。
マテ。
マテ。
指からの血は少ない。
それより床を汚してる血。
これは何だ?
何なんだ?
かなり血が多い。
痛いっ!
何だっ!
右耳が聞こえないっ!
いや……それより何かが耳の中に入って……。
そこから意識は無くなった。
此の日を堺に此の家族は失踪した。
その原因は今も知れない。