表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

野次馬 〜漫才ネタ〜

作者: いのうえうのい

A「今朝、俺の家の近くで事故があったみたいでさ。野次馬がすごいのなんのって」


B「あー、たしかに。事故とか起きるとやっぱ、ついつい見ちゃうよな。俺も野次馬しちゃうから良くわかるよ」


A「あれ、俺、いつも素通りしちゃうんだよなあ」


B「あ、そうなんだ。あんまりそういうの気にならないタイプなんだ」


A「いや、そういう訳じゃ無いんだけど。なんか、イマイチ勇気が出なくてさ。だから、俺、昔から野次馬ってヤツを、一回、やってみたかったんだよね」


B「え、野次馬を⁈ 」


A「うん、そう」


B「いや、野次馬だよ? 昔からやりたかったってそんな、子供の頃からの夢みたいに言ってるけど、野次馬だよ?」


A「そうだよ」


B「おまえ、ちょっと変わってんな」


A「な、頼むよ。一生のお願い!」


B「おまえの一生のお願いをこんなのに使うの? ま、まあ、いいけど」


A「じゃあ、俺、野次馬やるから、おまえ車の役やって」


B「いや、車って! せめて人間にしろよ、人間に!」


A「えー、ワガママだなあ。それじゃあ、死体役で」


B「いや、確かに人間にはなってるけど! そうじゃなくて、台詞ないと練習にならないだろ⁈」


A「うーん。……じゃあ、お互いに野次馬同士ってことで我慢するよ」


B「なんで急にテンション下がってんだよ! おまえがやりたいって言ったんだろうが! どうすんだ? やんのか? やんねえのか?」


A「あー、ごめんごめん。やる!やるから」


B「そんじゃあ、いくぞ」


A「え、どこに?」


B「どこにも行かねえよ! 何言ってんだよ、おまえは! 野次馬の練習するんじゃねえのかよ⁈ 」


A「あ、そっちね! 悪い悪い」


B「しっかりしてくれよ、全く。それじゃあ、俺が先に事故現場を見物してるから、おまえが後から来て俺に話しかけてくる。これでいいな」


A「オーケー。わかった」


B「あーあー。これは酷いな」


A「あのー、すいません。これ、いったい何の騒ぎです?」


B「見りゃあわかんだろ。事故だよ、事故」


A「うわあ、ほんとだ。可哀想に」


B「俺じゃねえよ!って、俺の顔見て「可哀想に」ってなんだよ!失礼な奴だな」


A「あ、ごめんごめん。あっちか。あー、あの電柱にぶつかってるヤツか」


B「ああ、飲酒運転だったらしいよ」


A「あらあら、テキーラ飲んで運転なんかするから」


B「いや、それは知らねえけど!」


A「え? ああ、テキーラっていうのは、リュウゼツランの一種の茎の汁を発酵させて蒸留した酒で……」


B「いや、そうじゃなくて! 俺だってテキーラくらいは知ってるよ! 俺が知らないって言ったのは、運転手がどんな酒を飲んだのかを知らないって言ったの!」


A「あ、なんだ、そっちか」


B「そっちか、じゃねえよ。まあ、明け方だったから歩行者もいなかったし、巻き込まれた人もいなかったみたいだし、幸いなことに運転手も軽い怪我ですんだらしいよ」


A「ほんとに! いやあ、本当に良かったー。すっごい心配してたんだけど。運転手、無事だったんだ。あー、ほんと良かったー」


B「え、なに? 運転手のお知り合いの方?」


A「いえ、違いますけど」


B「え? でも、すごく喜んでらっしゃるから」


A「ああ、なんとなく。その方がいいかと思って」


B「え、なんとなく?」


A「はい、ノリで」


B「紛らわしいよ、おまえ。しかも助かったのを聞いて喜ぶことは別に悪い事じゃないし。絶妙にツッコミ難いんだよ!」


A「どうも、恐縮です」


B「まあ、つまりはだな。被害は車の破損だけってことだ」


A「なるほどね。と、いうことは犯人はあなたですね」


B「どんな解釈の仕方だよ!」


A「え、違うの?」


B「違うよ! 話聞いてた? これは飲酒運転なの。自損の事故。わかる?」


A「ああ、そういうこと」


B「やっと理解したのかよ」


A「うん。全然わかんない」


B「もう、いい。おまえに付き合ってると日が暮れちまうよ」


A「まあまあ、落ち着きなって」


B「おまえが言うな! おまえのせいでこうなってるんだろうが!」


A「でも、あれだな、やっぱり野次馬やるのって難しいもんなんだな」


B「いや、そんなことなはない。ただただ、おまえがややこしくしてるだけ!」


A「そうかなぁ」


B「そう! そうなの!」


A「じゃあ、ちょっと配役変えてみないか? そしたら上手く行くかも」


B「配役を変えてって、どうすんだよ」


A「俺が電柱にぶつかった車の役をやるから、おまえは死体の役やって」


B「さっきも言ったけど、それの設定は無理があるって」


A「大丈夫だって! な、一回だけ」


B「えー! だっておまえ、またボケまくるじゃん」


A「大丈夫だって。今度はちゃんとやるから」


B「まあ、……じゃあ、一回だけな」


A「俺は車だから、そこに座るだろ。で、おまえは死体だからそこで仰向けで寝転がってて」


B「え、おい! 漫才中に俺寝そべるの? え、なあって!」


A「じゃ、本番行くよ。いいな」


B「あ、ああ。ま、まじかよ……」


A「………………」


B「………………」


A「………………」


B「………………」


A「………………」


B「………………」


A「………………」


B「………………」


A「………………」


B「………………なあ、ちょっといいか」


A「………………」


B「なあ」


A「………………」


B「なあ! おい、って!」


A「なんだよ、おまえ。今、死体の役なんだから喋ったらダメだろ」


B「これ、何の時間? 野次馬まったく関係なくなっちゃってるし。なんなら漫才も放棄しちゃってるけど」


A「なあ、俺からもひとつ言っていいか」


B「なんだよ」


A「野次馬の練習ってこれ、意味あるのか?」


B「おまえが言うな。もういいよ」


A.B「どうもありがとうございました」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 前2作も拝見しました。どんどん面白くなっていますね。これからも、いっぱい楽しませてください。で、一つ思いついたのは、野次馬って他人の不幸を娯楽にするのですよね。この自動車事故が高級スポーツ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ