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八章 蘇る私怨

 

 更地と真新しい道路。初めて視た者は、そこが豊かな水を湛えた田畑であったことなど想像することもできなかった。

 時を経て──、いま視る田畑の景色は得難く、尊い。戦後の復興期からひとびとが多くの死を乗り越えて築き、継承したものだ。育った食物がひとびとの命を育んでいった。

 

 天才と呼ばれた幼少期から少年期、悪童や犯罪者と忌避された少年期から青年期、その後、二極化した見方が混在・定着した一人間。ときに散歩と称して寄り、ときに遠くから眺めて、この国の景色を尊ぶように日向像佳乃はその人間竹神音を見守ってきた。

 日向像佳乃はお茶を飲み、ハンディカメラと息子の位牌を置いた仏壇に手を合わせて、散歩に出た。行先は竹神音達が住んでいるサンプルテ。

 九八歳の日向像佳乃は健脚。第三田創魔法学園高等部では年に一度剣術指南を行っている。竹神音の心を開くことが叶わず無力を感じたこともあった。悪行に及ぶでもなければ国に仇為すこともなく、彼は悪性に傾かない。心配無用と断じていい。

 そう思ったときだったから、と、いうのは後付けの理由か。日向像佳乃は竹神一家の変化を目の当りにして動揺、長らく封じてきた怒りを禁じ得なかった。

 竹神羅欄納曰く、竹神音が離婚届を置いて家を出た。竹神羅欄納は離婚届を役所に届けるなどして、今は気持の整理をしているとのこと。

 竹神音が出ていったのはなぜか。竹神羅欄納改め(セント)羅欄納が詳しく語らなくても何かあったことを日向像佳乃は察した。元気が取り柄の竹神音羅がその日から数日にわたって家を出なかったことや、出勤する次女・三女の表情が重重しくなっていたことが、日向像佳乃の考えを確証づけた。

 ……オトラさんに何かがあった。

 竹神音がどのように関わっていたかそのときは知りようもなかった。傍目に大きな変化のなかった竹神家にかつてない重大な出来事があったのは確か、と、推測はした。

 竹神音が以前野宿していた場所を訪ねることにした。五四川の最下流に位置する閘門の先、堤防の斜面に雑草が伸びきっており川に滑り落ちるおそれもあって、橋の下には足を運びにくい。竹神音の根城となった理由はそれのみならずであろうが。

「オト君、お久しぶりです」

「おはよう。久しぶりやね、お婆さん」

 五四橋の橋台で横になっていた彼が上体を起こして座り、日向像佳乃を見下ろす。予見していたかのように冷静な目差であった。

「オト君はこんなところで何しとるんですか」

「離婚して気儘な一人暮し。お婆さんこそなんか用なん、刀なんか持って」

 死角に忍ばせた得物を見抜いた竹神音が観察する。「時折訪ねてきたのも監視かね」

「物騒なものじゃありません。ただただ何もないことを祈っとったんです」

 日向像佳乃は、二振りの刀を掲げて見せた。

「いつかの約束でしたね、為合しませんか」

「真剣で」

「場合によっては。まこと真剣に取り組みたく思っとります」

「理由を聞こうか」

「申し訳ないことに、理由は今のところありません。オト君から話を聞いてからと考えとりますので、それ次第です」

「ふうん」

 両手をついた竹神音が前のめりに、「聞きたいことはなんかな」

「内情ながらオト君には難しいことではありません。離婚の理由を聞きたいんです」

 長女竹神音羅の稀な欠勤、次女・三女の曇った表情。

「先程、ララナさんに会いました。離婚して聖姓に戻ったようですね(なも)

「それがどうかしたん」

「表札観ると(みっと)娘さん方()竹神姓のまんまで親権()オト君にあるよう(あらよぉ)

「訛りそんなキツかったっけ」

「……、失礼しました。応答はできますかね」

「状況はお婆さんが観たまんまやろうね」

「いささか薄情ですね」

「素直にいったんやけど」

「……」

 なんだろうか。竹神音に不気味な変化を感ずる。何かがズレているような、変化だ。それに加えて、この辺りに不浄な空気を感ずる。彼が操っているのではないようだが彼に纏わりつくようで、不気味だ──。

 刀をひとまず下ろして、日向像佳乃は竹神音を観察する。

「オト君。あなたは、娘さんをちゃんと育てる気があるんですかね。親権を持ちながらこんなところで暮らしとっては娘さんも寂しいでしょう」

「ひとは必ずしも平穏な生活に身を置けるわけじゃない。お婆さんなら解るんやないかな」

「戦後は確かに──」

「俺が指したのはそこじゃなく、お婆さんがここにおる理由やよ」

「……知っとったんですか」

 日向像佳乃は竹神音を敵性分子としてずっと観察していた。内心の話だ。口にしたことなど一度たりともない。

「ひとは怨みを隠せん」

「達観しとるという次元ではないように感じます」

「白状してくれんかな」

 竹神音が首を傾げるようにして窺う。「手に掛けたいから来たんやろ」

「先程ゆうた通りですよ、為合をするために来ました」

「『為合』とは互いに何かをすることをゆう。俺は、お婆さんを斬る気がないんよ」

「……(これ)は受け取らないと」

「昔、田創の刃物製造技術で造られた業物〈業田(ごうでん)〉……危険な代物やからってわけじゃなく、不要。為合なんかせんよ」

 日向像佳乃は念のための質問をする。

「わたしの孫を知っている。そうですね」

「二つ先輩やったか。この世にもうおらんよ」

「いつですかね」

「驚かんのやね」

「推測はしとりました」

「じゃあ答えよう。橘鈴音が死んだ日やよ」

 なぜその日だったか。口にした通り日向像佳乃は理由を推測していた。殺害された橘鈴音の家から飛び出していった三人の不良がいた。竹神音が追っていったその三人のうちの一人が、日向像佳乃の孫だった。

「……。オト君がスズネさんを殺したという自白は」

「重要なのは孫の件やろう。安易な表現なら、復讐、と、いうことになる。お婆さんの孫を含め三人の男を殺した。録音はしたかな、お婆さんならその手の機材を使えるやろ」

「使えますが、『いいえ』」

 日向像佳乃は音声記録が可能のハンディカメラを家に置いてきた。両手を挙げて、刀以外の得物を持たないと示した。

 竹神音の自白を聞いた。躊躇の必要がないことが判った。復讐に次ぐ復讐などドラマの筋書きのようだが日向像佳乃の行動に演技はない。

「これから行うことはわたしのエゴイズムです。どんな理由があろうと許されることはありません。従って、証拠を必要としません」

 竹神音を殺すとなれば聖羅欄納達に遺恨を残す。竹神音が孫を殺害した確たる証拠がない現在、法に許された殺害逮捕も当て嵌まらない。日向像佳乃の行動に、正義はない。

「妙やね」

 竹神音が腕組。「あの一件に孫が絡んどったことをお婆さんはとっくに気づいとった。俺の復讐対象になってこの世にないことも想像の範囲やろう。なぜ、今だ」

「……もう一つ、確認したいことがあります」

「どうぞ」

 竹神音が気負わず面していた。

 日向像佳乃は、最後の質問をする。

「魔力漏出症は、どうしましたか」

「娘のお蔭で寛解した」

 それが何を意味するか竹神音が知らないはずはなく、日向像佳乃が存ぜぬとも思っていないだろう。他者に知られて痛くも痒くもないのか、竹神音は隠し立てしないのである。

 日向像佳乃は、刀を抜いた。両手に一振りずつ握って、竹神音を見据えた。

「刀というのは両手握りが基本やけど、必要ないかな、お婆さんには」

「問答は終わりました。為合と、参りましょう」

 刀を携えると心は般若の如く。

「どうぞ」

 掌で、踏み込みを促す竹神音。無抵抗に観えるが躱す余裕がある。

 日向像佳乃に魔力はない。無魔力個体、齢九八の老婆である。侮られても仕方がない。

 剣道は、他者との理解であり、競い高める道であり、果ては生かすための魂である。だが、殊に刃物で振るわれる剣技は他者との決別であり、衝突であり、未来を潰えさせ、生き物であれ物言わぬ物体であれ一閃のもとに屈服させる暴力である。

「後悔してください、オト君。あなたは生きてはなりません」

「──」

 口許に笑みを秘めた竹神音に、日向像佳乃は容赦なく斬りかかった。一〇メートルほどの距離を一瞬で詰め、橋台の彼の首を横一線。日向像佳乃の右手首を左手で摑み、竹神音が下方へと滑り込んでいた。残像を残した首。その位置はもっと下で、刎ねられていない。

 堤防斜面の裾、川を背に佇む竹神音が、構えることもない。

 橋台奥に刺さった刀を支えに振り返った日向像佳乃は、刀を引き抜きつつ竹神音へ飛びかかる。それも躱した彼が急接近して右の刀を弾き飛ばすと左手を押さえ込んで顔を迫らせた。

「ほんのちょっと前ならね、言われるまでもなく斬り伏せられるしかないと思っとったよ」

「現世に未練でもありますか。我が子を傷つけてまで!」

「憎むべき相手を失うのもそれはそれでつらいんよ」

「……」

「剣客に型を説くようなもんやったな」

 距離を取った竹神音が問う。「殺したい、と、お婆さんは本気で思うん」

「はい。世のためには、あなたは生きるべきでない」

「孫の復讐。俺の娘の憎しみ。お婆さんが実行する必要はないように思う。世に罪が増える」

「自決するならわたしは手を下さず済みます。残念ながらそうは参りません。あなたのせいです、オト君」

 娘を傷つけて生きることを選んだ竹神音に、口にしたような自死の意志はない。

「その通り。俺のせいやな──」

 落ちていた刀を手に取り、「竹刀かスポンジでやりたかった」

「ようやく本気で為合う気になりましたか」

「年長者の願いを聞かんのも不本意でね。どこまで本気を出せるか知れんが、それでもいいなら」

 以前のように構えることなく刀を右手に握った竹神音に、日向像佳乃は感情をぶつける。

「参ります!」

 踏み込みざまに超至近距離で放つ無色透明の剣圧〈真空斬〉。生身に当てれば両断してなお何メートルも吹き飛ばす威力がある空気の塊である。それを刀で受け流した竹神音が、刀と一体であるかのように空中に打ち上げられた。

 ……侮れない。初めて握る刀にもう馴染んでいる。

 日向像佳乃は追撃する。空中の彼に放つのは目にも留まらぬ一二連続の真空斬で逃げ道を塞いだ上での、無色透明の弾丸のようなもの。切っ先で押し出した真空斬の刺突版〈空衝点(くうしょうてん)〉。金属をも貫く破壊力があるが、竹神音が峰を翳して全ての攻撃を撥ね返した。

 ……あれは〈神威(かむい)〉。

 魔法すらも反射する圧倒的な防御性能と攻撃力を併せ持つ剣技である。神威で撥ね返されたものは神威と同じ性質を有し、神威で撥ね返すことができない。

 日向像佳乃は右前方へ駆ける。撥ね返された剣圧と弾丸を避け、後方の地面が弾け飛ぶのを見ることもなく、地に突き立てた刀で巻き上げた土砂を、着地前の彼へ差し向けた。纏まった一個小隊なら一撃で壊滅させ軍隊が相手なら轟音による攪乱も狙える剣技だが、土砂が何かに吸われるようにして竹神音の右肩上方の一点に集中した。

 ……〈虚捉円(きょそくえん)〉までも習得しているとは。

 日向像佳乃は驚いた。彼が天才と称された由縁は魔法の才能に限ったことではないと知っていたが剣技においては自分のほうが何枚も上手との自信があった。認識を改めなくては。彼は紛れもなく天才だ。性質が悪に傾こうとも身につけた技は失われない。

「お婆さん。手が止まっとるけど考え事」

「わたしも、まだまだ甘かったのだと思い知らされました」

「ならば、握り直しなさい」

 無表情が常の竹神音が、どこかにこやかに言った。「こちらも遠慮なく迎えましょう」

「ある種の光栄ですね。参ります──」

 小手先の剣技では通用しない。神威で撥ね返せず、虚捉円で受け流せないような、奥の手を出すしかない。竹刀や木刀が耐えきれず剣道では使いようがなかった、魔物との実戦で磨かれた究極の剣技を。

 堤防を駆け下りた勢いのまま迫る竹神音に日向像佳乃は刀を三日月の如く振る──。常人ならば両断されていただろう瞬間に竹神音が後退して堤防に降り立つ。しかし動けまい。日向像佳乃の仕掛けた剣技で揺れた地面に膝をついている。

「剣豪ここにありですね」

 とは、竹神音の弁である。「まさかこれを使うとは」

「話す余裕があるなら」

 その口を塞ぐ(!)

 日向像佳乃はさらに刀を振った。二〇メートルは距離があろうか、竹神音を捉えんと無色透明の刃が空を駆ける。真空斬を研ぎ澄ませた上位剣技〈超震波(ちょうしんは)〉。通り抜けた場所のあらゆるものを切断して激しく揺さぶる究極の剣技。先程彼を後退させて動きを封じたのもそれであった。彼の足下の堤防は既に斜めに両断されて激震している。揺れ動く足場では立ち上がれず正面から迫る超震波を凌げるわけがない、はずだった。力を入れた様子もなく彼は刀の峰で超震波を受け止め、

 ……よもや打ち消すとは──!

 天才の本気とは、これほどまでに鬼気迫るものか。恐らくは、超震波だ。それも、日向像佳乃が放った超震波をまっさらに打ち消すよう同等の力に調節したもの、さらには周囲に被害を与えないものだ。

 間もなく竹神音が跳躍、構えた刀が陽光を背負って──、まるで勇者の如く、されども鬼神が如し。いずれにせよ見蕩れるほど美しい一閃を描くだろう。

 秒を待たず訪れる未来を直感し、日向像佳乃は、刀を鞘に治め、瞼を閉じた。

 ……僥倖。復讐は、成すことができる。

 虎の威を借る狐であった悪童。そんな孫でも早逝した息子の忘れ形見であった。もしかすると出来が悪かったから可愛かったのか。放っておけなかった孫に日向像佳乃は目を懸けた。孫は、時折不器用に優しかった。最新の魔導家電やおいしいものを買ってきて、気まぐれに肩を叩いたりしてくれた。

 そんな孫が、ダゼダダには稀な降雪の日、姿を消した。

 

 又隣の部屋から立て続いた密かな物音をやり過ごすと、

 ──落ちぶれたヤローのどこがいいってんだよ。抵抗しやがった報いだ、報い!

 そんな声がはっきりと聞こえて、日向像佳乃は恐る恐るドアスコープから外を窺った。孫、それから孫といつもつるんでいる二人が橘鈴音の家から飛び出してゆくところだった。

 何かあったことは物音で察していた。日向像佳乃は動けなかった。橘鈴音の家で行われた犯行を察してひとえに恐ろしかった。俗にいう不良の孫でも、そんな罪を犯すとは思っていなかった。悍ましくて、そこへ踏み込めなかった。真実を知りたくなかった。

 間を置いて、竹神音の絶叫が聞こえた。

 恐ろしくて離れていたドアスコープに、そっと顔を近づけ、外を覗く。と、竹神音が孫の足跡を追って走り去るのが見えた。

 その日を境に、孫は帰らなかった。

 勘が働いた。孫は竹神音に命を奪われた。同時に、降雪の日に橘鈴音を暴行したのが孫であることも。

 ニュースによれば橘鈴音は最悪の暴行を受けていた。抵抗する橘鈴音を孫は連れとともに暴行し、殺したのだ。生きていたとしても日向像佳乃は許さなかった。どんなに可愛くても警察に突き出すほかなかった。

 それをせずに済んだ。

 ある意味では、竹神音のお蔭だった。

 竹神音がいなければ、孫は生きていた。そうとも、考えずにはいられなかった。

 命を繫ぐのが人間の命題ではないか。どんなことがあっても人間が人間を生み育てることを拒絶してはならず、人間が人間を殺すこともあってはならない。孫が凶行に及ぶきっかけを作り命題に逆らった橘鈴音に非があり、橘鈴音の非を咎めず孫を殺した竹神音にこそ大きな罪があるのだとも、日向像佳乃は思った。

 そう思い込もうとした。

 できるわけがない。日向像佳乃は狂ってはいなかった。

 橘鈴音は生きているのが奇跡であるほど衰弱していて、それでも必死に抵抗した。そんな女性を乱暴しようと考え、あまつさえ犯行を踏みとどまれなかった者のほうがどうかしている。贔屓目を加えても総毛立って戻すほどに、日向像佳乃は孫らの行いを嫌悪したのである。

 広域警察には届けなかった。孫の犯行である証拠がない、と、心のうちで理屈を捏ねて、竹神音が自白したと知っても黙っていた。押入れに押し込むように、気持の整頓をした。

 

 美しき一閃は押入れに叩き込んだ現実。そのように受け入れることもでき、竹神音に新たな罪を犯させることで広域警察に逮捕のきっかけを与えることにもなるだろうと姑息な思考も働き、日向像佳乃は、止まったかのような時の流れに身を任せていた。

 いつまで経っても、身が裂かれることはなかった。

 ……、……。

 瞼を開けた日向像佳乃の前に、音もなく竹神音が立っていた。瞬間、日向像佳乃の刀を空の彼方へ弾き飛ばし、彼が掌を向けた。

「お休みなさい、お婆さん」

「──」

 日向像佳乃は気を失った。

 目が覚めると、広域警察内のベッドの上だった。全身打撲の重傷。その旨を、横についた広域警察の治癒魔術師が伝えた。

 ……わたしは、生きているのか。

 竹神音は、宣言通り日向像佳乃を殺さなかった。一方的な展開に為合も成立していなかったといえよう。聞けば、日向像佳乃がここにいる委細を広域警察も知らないようだった。

 生かされたのか、生殺しにされているのか、日向像佳乃は判らない。

 ……いっそのこと殺してくれれば。

 忘れ形見の罪とその死に思い悩むことなく楽になれただろう。その上で竹神音が罪に問われていれば完璧だった。

 日向像佳乃は、周囲に刀がないことを確認し、治癒魔術師に尋ねた。

「わたしのほかに誰もおらんかったんですかね。堤防は綺麗だったそうですが」

 日向像佳乃の放った超震波によって右岸堤防が決壊して堤内地(ていないち)にある田畑やその先にある家屋の浸水被害が考えられたが、そんな話が欠片も伝わってこない。終いには、

「混乱しているんでしょうね」

 と、日向像佳乃の状況について、再び丁寧に説明してくれる。「あなたは堤防から滑落したんです。そこらじゅうに打撲痕がありましたし、滑落の痕跡が斜面とあなたの服、双方にありました。通りかかった住民が通報してくれたから無事に済みましたが一時は意識不明で危うかったんです。お大事にしてください」

 竹神音の名など微塵も出てこない。天敵たる彼を捕まえたなら広域警察関係者は悦んで話しそうなもの。メディアへのリークを懸念して箝口令を()いているとしても、警察署内部が浮足立っていていいはずであるがその気配もない。要するに竹神音は捕まっていない。日向像佳乃が事故で怪我を負ったように偽装して竹神音は立ち去ったのだ。

 ……わたしのエゴも、問われない。

 生殺しだ。日向像佳乃が病院ではなく広域警察に運ばれているのは、通報者が事件性を感じるよう竹神音が誘導したか、目覚めた日向像佳乃が即刻状況を理解できるよう竹神音が通報したのだろう。日向像佳乃は、竹神音の都合で襲撃の罪を問われず、不完全燃焼に終わった復讐心と怨みを抱えて生きてゆかなければならない、と。

「あ、そう、そう」

 と、治癒魔術師が思い出したように口にした。「これ、傍に落ちていたんだそうです。たぶんあなたのものですよね」

 刀か。日向像佳乃はぎょっとしたが治癒魔術師が手渡したものは、

 ……お守り。

 やや古惚けた様子の、〔安全祈願〕。

 日向像佳乃はお守りを持ち歩いていない。

 ……オト君の、いや、それ以外の誰かの……。

 しばらく眺めて、はっとした。

 ……これは──!

 緒を緩めて逆さにすると、一〇ラル硬貨が出てきた。

「あ、懐かしいですね。お守りの中のおまじない」

「……充実しますようにとね」

「充実のジュウと数字を掛けてるんですよね。うちも母さんなんかがよくやってくれます。五ラル硬貨も一緒に詰め込まれますけど」

「ご縁がありますように、ですね」

「ちょっと焦りますけど、気持はありがたくいただいてます」

「……そうするといいですね」

 日向像佳乃は、お守り袋に一〇ラル硬貨を戻し、緒を締めた。

 このお守りは憶えがある。孫とともに返ってこないと思われた、日向像佳乃が贈ったものだった。竹神音が持っていたのだろう。

 ……あなたは、わたしをどうしたい。

 竹神音の意図はなんだろうか。考えてみれば存外簡単に答が浮かんだ。

 ……、……わたしの思うようにせよ、か。

 エゴイズムで襲う。その宣言を聞きながら竹神音は日向像佳乃の罪を広域警察に悟られないよう立ち回った。日向像佳乃が再び襲いかかることもあるだろうに、見逃した。

 日向像佳乃は竹神音に幾度となく襲いかかることを許された、と、いうことになる。そこには彼なりのエゴイズムがあるだろう。娘を傷つけてまで生を繫いだのは、同じ病に罹っていた橘鈴音の分まで生きる意味も多分に含まれているはずだ。

 ……お互いのエゴイズムのために。

 いつか、再び彼と為合うだろう。無論、日向像佳乃の目的は彼の命を奪うことだ。

 ……わたしもまだしばらく、現役ですね。

 引退などしていられない。彼を討ち滅ぼすためには、研鑽が必要だ。

 老い先短し。だとしても、日向像佳乃はまだ確かに健脚で、前へと突き進む活力がある。

 ……諦めない。

 何時(なんどき)も、その気持で立ち向かってきた。一〇〇歳を超えてもその気持がなくならなければ歩みが止まることはない。

 

 

 これは、一〇年ほど前のことになる。

 刑期を終えた先輩雛菊鷹押が音羅の家を訪ねてきたことがあった。

「──世話になった。礼をいいたくて、寄った」

 そう切り出した鷹押が晴れやかな表情で伝えたのは、別の土地の仕事に就いたことと、弟雛菊虎押(とらお)と恋人知泉(ちせん)ココアと変らず仲良くしてほしいという願いだった。

「わたしからもお願いしたいことです」

 と、音羅は返した。「鷹押さんも、ずっと仲良くしてくださいね」

 寡黙にうなづいた鷹押の背中を、そうして見送った。

 

 あのときの鷹押が、罪を償って晴れやかな気持で新たな生活へと踏み出したのだとしたら、今の音羅は、真逆の立場にあるといえる。

 ……どうやって踏み出せばいいかな。

 秘密の一端が公になったことで音羅達が支えになれた鷹押と今回の音羅は状況が異なる。父を救うための手段は、間違っても音羅が口に出せるものではなく、妹も同様だ。両親も言うわけがないから、家族以外が知り得ない秘密になる。友人や知人に、隠し事をすることになる。そんな自分は自分らしくないと思う反面父の名誉のためには絶対に口に出せない、と、思う自分を自分らしいとも思う。

 複雑だ。

 誰かに暴露してほしいとは思えないが、暴露されたほうが黙っていないで済む分、楽になれるような気がした。でも、そんなことをしたら父が、さらに母あるいは妹までが、奇異の目で見られるようになってしまうかも知れない。そう考えたら、あの夜のことはやはり秘して家族でどうにかすべきことだと解った。

 離婚して家を出ていった父がいない生活は、いつぞやと重なって不安が湧く。あの頃と違うのは、自分の行動が父の留守に深く繫がっていて他人のせいにする余地がないこと。後悔を多分にしていて、同時に、していない部分もある。

 これもまた、複雑だ。

 人間というのは、そういった、複雑な感情や環境の中で必死にいろいろなことと折合をつけて暮らしているものなのだろう。生まれた頃には理解できなかったことを、音羅は今、嫌というほど理解し、感じている。油断すると、折合のつかない葛藤に沈んでしまいそうになる。こんなものを求めて教育していたのだろう父を責めたくなるが、責めきれない。父さえいなければこんなに苦しむことはなかった。そう確かに思っているのに、どこかで嬉しくも思うのだ。やむなく恋人を殺したという父はきっとこれよりもつらい葛藤をずっと抱えてきた。そんな父に、少しだけ近づけたような気がしたからだ。

 そんなふうに考えを深めながら、音羅は数日を寝て過ごすこととなった。

 一つだけ考えが纏まった。

 父がいない状況に絞れば年少二姉妹のように免疫がないわけでもない。動揺に暮れては穏やかな生活を取り戻してあげられない。

 ……まずは、それだけだ。

 鈴音や謐納を、普通の生活にできるだけ早く戻してあげる。

 ……行動の責任を取る。当り前のことだ。

 今の家を守るべきは父を失わせた自分。音羅はそう考え、責任の取り方を決めた。父がいないことはどうしようもないので、その分、家を明るくしてみんなを励まそう、と。

 水曜日に花の見舞を受け、木曜日に仕事に復帰した音羅は、その週の土曜日の勤務を終えた帰途、商店街の一郭で納月、子欄と()った。第三田創魔法学園高等部卒業後、納月と子欄は揃って治癒魔法研究所に就職した。食品会社に就職した音羅と定時の帰宅時間が同じくらいなのでこうして遇うことがある。

 二人が留守だったときに花と話したことを伝えたくて、音羅は商店街外れの焼鳥屋(やきとりや)に誘った。幼い頃はひとがごった返すこともあった商店街はウイルス感染症による自粛要請や時間短縮営業の影響でひとが少ない。それでも変らず灯された燈に、勇気をもらえる。

 立ち吞み居酒屋風の焼鳥屋の店内もひとが少ない。燈に満ちた手狭な空間を貸し切ったようで、沈んだ妹の表情を明るくしてくれた。

「こういう店は久しぶりですねぇ」

「わたしも」

 壁に所狭しと張り出されたメニュを子欄が眺めて、「お姉様方、何を頼みますか」

「わたしはまずウーロン茶とモモ塩かな。なっちゃんは」

「う〜ん、醤油ダレ、ヒナで。あとビールですかねぇ」

「もう、ダメだよ」

 納月はまだ一六歳。この国では未成年に当たり、健全育成の観点から飲酒・喫煙などの制限がある。

「堅いこと言わんとぉ」

「そんなときだけ方便なんだから」

「えっへへ。子欄さんは」

「緑茶とサラダです」

「焼鳥屋だよっ」

「サラダは駄目なんですか」

「同じものを食べられないのは残念だなぁ、と、思って」

「ふむ、それには同感ですが、気分的に野菜にします」

「食べたいものを食べるほうが愉しいよね」

 メニュの範囲なら注文は自由。サラダが充実している店だったので幸いである。

 注文して一分ほど経ち、店員の持ってきた品を音羅は早速頰張った。

「んふふぅ〜ん、これ、これ。これだよね、やっぱり」

「動物性油脂ぃ、アルコールぅ、最高ぉ、ビールがうまいでしゅ〜……」

 ……え。なっちゃん、なんで酔っているのっ!

 注文したのは子ども用ビール──泡があるノンアルコール飲料──だ。確認しても、

 ……ん〜、やっぱりお酒じゃないな。

 納月の思い込みか。すっかり酔っているようなので心配だ。

「納月お姉様、弛みすぎですよ、もう……」

「吞んでなきゃっ、やってられましぇんよぉっ。誰のミスで論文が台無しだなんてぇっ、知るもんでしかぁ!」

 一口のノンアルコールでトップギア、おまけに管を巻いて絡むタイプは稀だろう。客が少なくてよかった。

「しーちゃん。なっちゃんは仕事でなんかあったの」

「後輩の不始末に関して部長に──」

「しょうなんでしよ、ヒドイでしょーお姉しゃまぁ。わたしだって自分の仕事に追われてたのにちょーっと見せられた向日葵(ひまわり)の事務報告書のミスなんか知ったもんでしゅかっ」

「(論文じゃなかったっけ。)デスクワークも大変そうだね」

「そぉなんでしよっ!なのにあんのヒツジ被りなパワハラ部長がぁっ!」

 どうやら私怨が混じっている。

「荒れているね……」

 納月がたまにこうなる理由は部長が原因であるが、その部長が納月を頼っていることの顕れでもあることは納月が一番よく解っているだろう。二者間には特別な関係があるがそれはまた別の話である。

「しーちゃんは大丈夫」

「わたしは、ええ、そつなく」

 ノンアルコールをぐびぐび吞み干して焼鳥を頰張り、テーブルに手をつく納月。

「子欄しゃんがいなければわたしなんかミスを押しつけられて破滅してましたよぉ」

 そう言ってテーブルにぺたんと突っ伏すと寝息を立て始めた。

 ……あらら。

 音羅の身の上話をしようとしていたのに、本題に持ってゆけなかった。

 串を皿に置いた音羅は、ウーロン茶でリセットして別の焼鳥を頼んだ。品が届いて間もなく子欄が納月を眺めて尋ねる。

「音羅お姉様、……体は、もう」

「うん、平気。少し痛いけれど、動けないほどじゃないから」

「……そんなに、痛いものなんですか、その、あれは……」

「どうだろう。本当なら共同作業だよね。それで、片方が気を失っていて何もできないおかしな状態だったから、なのかも知れない」

 父も同じように、もしかするともっと痛いのかも知れず。「言葉は変かも知れないけれど、わたしじゃないね、被が……傷つけられたのは」

「……」

 浮かない表情の納月と子欄を数日観ていて、自分のことを思って苦しんでくれていることを音羅は感じていた。

「なっちゃんは寝ているかな、でもなっちゃんも、しーちゃんも、ありがとうね」

「いいえ、わたし達は、」

 子欄が緑茶の入ったコップを包み込むようにする。「わたし達は純粋に音羅お姉様の心配をしていたのか、はなはだ疑問です。わたし達の創作魔法が失敗していなければ、お姉様は、行動しなかった、せずに済んだ、体を痛めつけるような行為に及ばず済んだ──、そんな、勝手な考え方を、してました」

「魔法を試したこと、後悔しているんだね」

「……仮定の話ですが、試さずに後悔するより、もしかしたら、後悔しているのかも知れません。お姉様の寝込んだ姿を観ていたら、そう、思いました」

「ごめんね、心配させてしまって」

「いいえだから、わたし達の責任を感じてるんです。お姉様は何も悪くなくて……」

 レタスを咀嚼するあいだに子欄が言葉を選び、口を空にして語る。「お姉様の背中を押したつもりでじつは強要していたんだと、わたしは思ってます。みんなが同じ意見だから、と、甘えて、迫る死を、受け入れられなかったからお姉様の将来も考えず最終手段を押しつけてしまったんだ、と……」

 数日考え込んで行動を振り返った子欄の答を、

「それは間違っている」

 音羅は一蹴した。「パパを助けたいって気持がずっとあった。できることならなんだってする、って、思ってもきたんだ、行動があの夜になっただけでね。しーちゃんの後押しやほかのみんなの気持があったからこそじゃなくて、それがなくても、きっと同じことをした。それがわたしの中の真実だよ」

 納月が眠っているが音羅は妹に伝える。

「後悔してもしきれないことをこれからも繰り返していくと思う。その度に、結局立ち上がることを諦めたりしない。だったら前向きになる。後ろ向きじゃ歩きにくい──。それが、みんなと学んだことだと思うから、裏切らない生き方をしていきたいって思うんだ」

 子欄が目頭を押さえた。

「お姉様と同じ時間を過ごしていたはずなのに何を学んでいたんでしょう。とても弱くて、後悔への立ち向かい方が判らなくなってました」

「しーちゃん……」

 音羅は、追加で頼んでいた焼鳥を一本、子欄に渡した。受け取った子欄を、音羅は認める。

「道に迷ったり何かが判らなくなったりするのは普通のことだ。そうなったときはこうやって話せば理解が深まるかも知れないし、道が拓けるかも知れない。なんて、都合よくいかないときもあると思うんだけれど、いいと思う。わたし達はまだまだ学んでいる最中なんだから」

 子欄が焼鳥を一口、食べた。

「見習いたいです。お姉様の寛容さはいったいどこから来ているんでしょう」

「パパ、あいや、ママかな。なんだかんだでパパのことを許したりしちゃうでしょう」

「お父様もときに寛容ですが、何を考えての寛容さか判らない辺りに、お姉様との違いを感じます」

「ふふっ、どちらにせよ、わたし達はまだまだ道に迷いそうだね」

「……頑張らなくては、ですよね」

「立ち止まっても、また歩き出そう」

「はい──」

 酔い潰れた納月を子欄と担いで、音羅は家路についた。

 夜風が冷たく、途中、納月が目を覚ました。

「あぁ、なんだか億劫ですぅ」

「家に帰りたくないの。それとも、歩きたくないの」

「いいえ、そうじゃなくて、前のお父様みたくテーブルにくっついてたいとゆうか……」

 仕事のことを引き摺っている様子だ。家に持ち込みたくない気分を消化できないとき足が重くなることはままある。

 父のいない家が、目の前。

 久しぶりに一緒にお風呂に入ろうか、などと気を紛らわせるように話していると到着した。ここを開けても、あのだらけた姿はもう見られない。声も、聞けない。わずかの躊躇いを振りきって、音羅達は玄関扉を開けた。

「おかえり!」

 と、玄関ホールで待っていたらしい鈴音が出迎え、何やらあわあわと掌を奥へ向けている。

「どうしたの、すーちゃん」

「あ、あの、お姉さん達、早くっ!」

「『早く……』」

 顔を見合わせた三人は鈴音を追うようにして家に上がった。ダイニングに入ると、鈴音が慌てた理由が解った。

「パパっ!」

「『お父様っ!』」

 三人して呼んでしまった。母曰く離婚届を置いて出ていったはずの父が以前のようにテーブルに突っ伏していた。その姿をここで見ることはないだろうと思っていた姉妹は「本物か」と一様に見入ってしまった。見間違うはずもなく本物であった。父の背中に手を置いてじっと佇む謐納の姿もある。

 斜向いの席についた母が、帰宅した音羅達に顔を向けた。

「お戻りいただきました」

「お戻り、って。どこから。パパはどこに行っていたの」

 母の言葉に反応した音羅とは別に、担がれていた納月が自分の脚で歩み父の横についた。

「よくも、のうのうと帰ってこれましたね……」

「納月ちゃん。聞こえませんでしたか」

「聞こえました、お母様が強引に連れ帰ったってことですよね、お父様ならお母様を振りきるくらいワケないはずですが。最初から家出は本気じゃなかったってことでしょう」

 音羅が寝込んでいたことも手伝って、父が不在だったことに苛立ちがあったよう。仕事の鬱憤もあるか。

「ひと様に迷惑掛けといて謝ることもなく平気な顔で帰ってくる神経がわたしには理解できません。それに、お父様はお母様と離婚したんですよね。とっとと出てってくださいよ、他人と住む気なんかありませんからね!」

「な、納月お姉様、その辺りで──」

 思い込みながら酔いの勢いもあるのだろう。ヒートアップの納月を子欄が止めようとしたが火に油を注ぐような物言いを父がした。

「離婚は事実やけど籍に入っとらんのは羅欄納だけ。お前さんらは竹神籍だ。アパートは羅欄納名義やから出ていくなら竹神籍の俺達全員だ」

「相っ変らず屁理屈を。迷惑だと言ってるのが解らないんですか」

「悦ばされとるな。頭を冷やせ」

「だっれが悦ばされてんですかぁっ!こちとらパワハラ上司の理不尽に毎日付き合わされておるんですよぉっ!家でくらいゆっくりさせやがりなさいよぉっ!」

「耳が潰そう」

 と、父が煩わしそうに言った。その言葉を否定してやりたいところだが、音羅や子欄も、今の納月に非がないとはいえないのである。

「なっちゃん、お風呂に入ろうかっ」

「そうですよ、冷静になりましょう、お姉様」

「うぅぅぅぅぁっ」

 嚙みつきそうな勢いの納月を引き摺ってお風呂に入れた音羅と子欄は、自分達がさっぱりするより先に納月の思い込みを解くことを重視した。水を飲ませたりぬるめの湯を浴びさせたりして時間を置くと、納月がぽつりと零した。

「……なぁにしてんでしょぉねー、わたし……」

「なっちゃん……」

「ほんとぉは……次に会えたら、謝ろー、って、思っれらのに……」

 魂器拡張魔法の失敗、理性欠損のことを。「こんら……あんなふうにさせるために研究しれたんじゃらいの、っ、っないのに……!」

 父への発憤は自身を罰する気持の裏返しだったのだろう。自分を過小評価するきらいがある納月だから先の失敗を重く受け止めすぎて必要以上に自責の念をいだいてしまう。

「納月お姉様、それは、わたしだって同──」

「すみましぇん──」

 シャワに打たれて子欄の言葉は聞こえなかったか、納月が零し続けた。

「すみ、ません…………」

 ……なっちゃんも、すごく、複雑な気持でいるんだな。

 当然のこと、だろう。

 ……、……覚悟、していたのにな。

 行動した責任を取る。そのつもりでいるのに、思った以上に、現実が重い。どうしたら、納月の気持を軽くしてあげられるか、音羅は判らない。納月の酔いが覚めるように髪を洗ってあげながら、音羅は、もう一人の妹に声を掛ける。

「しーちゃんも、苦しいよね……。大丈夫、って、訊ける立場じゃないのは解っているんだけれど、でも、訊いてしまうのを、許して」

「構いません、わたしは、大丈夫です。納月お姉様の主導で動いていたようなもので、勿論、失敗したのは不本意で、力不足を痛感していますが、計算上、仕方のないことだと、理屈を捏ねられている分、幾分マシだと思うので」

「計算上、って、なんのこと」

「わたし達が開発していた魂器拡張の魔法、あれは、不完全な理論の段階でも、とても二人でやれるものではなかった。治癒魔法に長けた人材を集めたり、その上で、細かい打合せをしたり、そういった、細かいこと、を、する時間が足り、っ……」

 理屈で塗り固めたとて、泣き崩れることを避けられない。子欄の苦しみを打ち消すには、どうしたらいい。

 音羅ができるのは、感謝することだった。

「無理かも知れない、そう、解っていたから、きっと、すごく恐かったよね。それでも、何かできるかも知れない、って、信じて、二人で頑張ってくれんだ」

 絶望的な状況、気持も乱れて、普通なら魔法を使える精神状態でもなかっただろうに、立ち向かった二人を、音羅は素直に尊敬した。

「ありがとう、しーちゃん、なっちゃん」

 納月は反応がなかった。

 小さくうなづいた子欄が、苦しい現状を大きく変化させるのが何か、明示する。

「根本的なところで許すか許さないかは、わたし達が決められることではありません。音羅お姉様が言ったように、きっと、傷つけられたのは……」

 父。

 父の言葉で決まる。自分を許していいのか、許してはゆけないのか、全てが。

 体温として冷えているのでもないのに、凍えるような体を寄せ合って湯に浸かった。

 浴室を出て服を着たとき納月が酔いから覚めていた。

「お父様、キレてませんかね……」

 喧嘩腰の記憶が変に残っていたらしい。青ざめて疲れ果てた声を漏らした。

 気持を察して、音羅は安心づける。

「平気、平気。思い込みも込みで、酔っていたことには気づいていると思うから」

「思い込みって」

「あいや、こっちの話っ。とにかく大丈夫だよ」

「だといいんですけど、お父様、こうゆう粗にはめちゃくちゃ厳しいですから」

「ま、前向きに行こう。ね」

 こんなときに人生訓を伝えるのもなんだが間違ってはいないだろう。

 びくびくしている納月を背に庇って、音羅と子欄はダイニングに戻った。

 変わらない父の姿が、ある。以前も感じたはずの悦びは、儚くて、尊くて、ひどく得難いものに感じた。一夜で失いかねないことを、その恐ろしさを、知ってしまったから。

 感慨に耽ってばかりはいられない。父と話をしたい。父も、話があるだろう。鈴音と謐納が席についており、音羅達もそれぞれの席についた。

「ママ、すーちゃんやひーちゃんは夕飯を済ませたんだよね」

「はい。あとは音羅ちゃん達です」

「解った。先に、話をしよう」

 父がもっさりとうなづいた。顔を上げないのも相変らずだが、弱りきった姿を観たためか、微妙な変化を感じた音羅である。

「パパ、もしかして、疲れている」

「耳が疲れた」

「す、すみません……」

 納月が素直に頭を下げた。

 ……気疲れ、なのかな。

 魂器拡張は無事に済んだと母から伝わっていたが音羅は父の様子を窺う。

「体は大丈夫。わたし、しばらく仕事を休んでいたんだ。パパも痛むところとか……」

「気にせんでいい」

「……うん」

 音羅は、父の変化の理由が判った気がした。

 ……わたし達と、距離を置こうとしているんだな。

 そうしなければ音羅のように手を挙げる者が出て、後悔する者が増える。そう察して。

 父の配慮に反するような答を、音羅は持っている。

「パパ。わたし達に気を遣わないで。そんなことをされると、わたし達の行動こそ間違いで、後悔せざるを得ないことなんだって突きつけられるみたいで嫌だ」

「事実、間違いやよ」

 これ以上ないほどに重く受け止めて理解しているつもりだ。

 ……けれど、ね。

「何か言いたそうやね、子欄」

 父が顔を見ることもなく指名した。

 子欄は何を考えているのか、無言であった。父のように心を読めないので音羅は胸中を窺い知れない。

「はっきり言ぃ」

 と、父が溜息混りに。

 すると、子欄ではなく納月が口を開いた。

「さっきは失礼しましたが、冷静に、今の意見を言わせてください」

「どうぞ」

 と、父が割込みを許可。

「酔いに任せて言ったのは間違いでしたが、概ね本音です、記憶もあります。だから、改めてゆうまでもないと思いますが言わせてください」

 穏やかな口調だがまた喧嘩腰だ。本当は謝りたかったはずなのに、どうしてそうなる。

「……なっちゃん、駄目だよ」

「お姉様は黙っててください」

「……」

 音羅は、納月の目差に反論できなかった。怒っているだけではなく、自責の念に苛まれているだけでもない、強い目差だった。

「わたしは、お父様は出ていくべきだと思ってます。竹神籍のわたしも同じとゆうなら、癪ですけど、一緒に出ていってもいいです。ただ、お父様、理解してますか、この状況を──」

「勝手に出ていったのに戻ってきていること。傷つけた娘に承諾もなく戻ってきていること。謝るべき対象に謝らずにいること。などの理由で、空気が淀んでいること」

「さすがです。じゃあ、まず、やるべきことをやってくださいよ」

「同様に」

 父が顔を上げて、五姉妹を睨み据えた。理性欠損のせいか、無表情にみえてそうではない。狂気にも似た怒りを宿した眼に、皆が慄え上がった。

「お前さんらも、俺に謝ってもらおうか」

 父の状況説明は不足している、と、納月があえて指摘しなかったこと。それが()()()()()()である。

「状況は、全て、お前さんらの行動が始まりだ。俺を助けようとしたからこうなっとる」

「待って、それは、」

 音羅の反論を、

「オト様、待ってください」

 と、母が遮り、父を見つめた。「先達てお話した通り、延命手段を提案し認めた私にこそ責任がございます。先程の納月ちゃんの論理と同じです。すべき制止をせずあまつさえ行動を認めたのですから、罰を受けるべきはその場の責任者であった私です」

「結構」

 父の眼光が母に向かった。暴風に煽られているかのようだった音羅達は人心地ついたが、母が嵐に放り込まれた恰好である。

「妻として、母として、誤った選択をした償いを、謝る相手と同じ高さでできると思うんか」

 同じ高さの椅子に座り、同じテーブルの上で語らってきた家族には、あり得なかったこと。それは、土下座の催促だった。

 おもむろに席を立った母が、五姉妹の制止も聞かず、膝をついて、頭を下げた。

「申し訳ございません。私の選択は音羅ちゃんのみならず家族全体にまで影を落としました。心から反省しております」

 平等のはずの家族間でこんな状況は異常で、屈辱的だ。

「パパ、無理に行動したのは飽くまで──」

「その件は、」

 父に、慈悲はない。「今後の母親次第で済むことに決した」

 その母の存在などないもののように通りすぎた視線が、音羅達に移った。

「空気はより淀んだがその点も含めて、謝ろう」

 席を立った父が膝を揃えて額を床につけて、「……すまない」

 沈黙が場を支配した。

 ……、本当に、謝っているのかな……。

 と、音羅は、少し疑った。責任を取らなければならないにも拘らず母に守られた立場だから余計に、謝りたいのに謝れない納月や子欄の心境も知っているからなおのこと、父の話の流れに開き直りを感じてしまった。音羅自身が開き直ったような状況にあって、もし母に庇われていなくてもこの場で謝れたかどうか判らないほど口が重かったから、あっさりと謝った父の態度に疑いを持ってしまった。

 が、その認識を、すぐに改めることになった。一〇秒ほど頭を下げていた父が、顔を上げて言い放ったのだ。

「一生、後悔しろ……」

「っ──!」

 言葉は、辛辣だった。けれども、

 ……何を考えていたんだろう。開き直りなわけ、ないのに。

 顔を伏せるまでのほんのわずかのとき、影となった父の目許に──。

 ……そうだよね、パパが、一番複雑だよね……。

 決行した音羅とは違う。心の準備など全くできず、生き延びていることを目覚めとともに認識した瞬間から、取返しのつかない傷を娘につけてしまったことを重く受け止めたに違いないのだ。負の感情を煽る教育方針で父がどれほど自分を大切にしているか音羅は痛いほど理解していたのに、そんな父が絶対にしたくなかったはずのことに対して行った謝罪を開き直りなどと捉えてしまった。開き直りのはずがない。音羅達が大切だから、何より先に謝ったのだ。それでも親の立場で指導することもしなければならなかった。そのつらさは、子の立場からは想像も理解も追いつかないほど、きっと重いものだ。

 ……わたしこそ、謝らないといけない、感謝しないといけない、なのに──。

 胸を押し潰すような圧迫感を吞み込むばかりで、言葉が出てこない。

 同じような心境なのだろう。妹も、揃って項垂れた。

 ……、……ああ、……わたしは──。

 項垂れてなお頭が重く、体の内側をじわじわと侵蝕する震えがあった。

 立ち上がった父が天を仰いで脱衣室へ向かう。

「お湯、いただきます」

 誰も言葉を発することができなかった。父は冷血なのではないかと思ったことも数知れなかった。

 先の一瞬間、誰も見たことのない父がいた。

 ……いってらっしゃい。

 心で見送って、口許に手を当てた。皆がそうであるように音羅も、名状し難い感情を怺えられず、声を押し殺すのに必死だった。

 

 

 演技。

「……」

 湯に沈んで、長長と息を吐き出して、息が切れてもそうして、体を追いつめて、浮上した。

 辛い湯。

 偽ることの重さならば記して余りあるほどに知っている。といえども湯を上がれば演技せねば。慣れっこだ。子の頃からやってきたのだ。慣れっこだ。呼吸を止め・整えて、血液の逆流するような吐き気を治め、額から感情を奪うように拳を固め、奥歯を嚙み締めた。

 

 

 深い夜が明けて、休日。

 新しい日の到来を告げる眩い窓。

 顔を洗って髪を結い上げると、音羅はテーブルに突っ伏した父の無表情を眺めて庭へ出た。

 挨拶は起きたときに済ませた。父の挨拶がちゃんと返ってきた。離婚前と何も変わらない日常がそこにあるようだった。ただ一点、父が母を無視していることを除いて。

 一晩にいくつの後悔が生まれたのだろうか。いくつも後悔を重ねて今日に至っているが、父の魂器拡張に関わる後悔は自分一人にとどまらず家族全員に及び、それぞれに生ぜさせた後悔が一つではないように音羅は思う。後悔すると予想してはいたものの想像を絶する現実を突きつけられて、気が塞いだ。

 眩さの融けゆく空を仰ぐ音羅のもとに、子欄がやってきた。

「お姉様。おはようございます」

「おはよう、しーちゃん。希しくわたしのほうが早かった」

「考え事をしていて、眠るのが遅くなってしまって」

「考え事」

「はい。家を、出ようと思います」

 明るいとも暗いともいえない、子欄の表情。

 家を出ろ、と、母が積極的に言わない限り、離婚した父でも出てゆく必要がないだろう。それなのに、

「……どうして」

 子欄が出てゆかなければならない理由は、なんだ。

「お姉様、察しがいいですから、解るんじゃないですか。って、よくないですよね、そうやって、ひとの憶測に委ねて逃げるのは」

 子欄が両手を合わせて呟くように話した。「昨日、わたし、お父様に呼ばれても答えられなかったでしょう。『もしわたしが音羅お姉様の立場だったら同じように助けていた。』本当はそう言おうとしてたんです。間違いだといわれても、あの場のみんなが同じことをしようとしていたと、伝えたかったんです」

 伝えられなかった。子欄は父の拒絶に臆してしまったから。

「わたしは、とことんお父様に弱いみたいです」

「それは、しーちゃんだけじゃないよ。わたしだって……」

 父のあんな眼は、二度と見たくない。似たようなことが以前もあったが、──昨日の父は、間違いなく本気で怒っていた。

「一生後悔しろ……。そう言っていたね」

「お姉様と同じことをしたらこうなるんだ、と、わたし達にも釘を刺したんだと思います」

「……家を出るのは、そういうことだよね」

「はい……」

 家から出ることで、父の言葉を吞み込んだことを示すのである。

「すーちゃんやひーちゃんは、理解できたのかな。すーちゃんはともかく、ひーちゃんはまだ小さいし」

「謐納さんは案外()()ですから、理解はしていると思います」

「じゃあ、しーちゃんみたいに、家を出るのかな……」

「ええ、たぶん。納月お姉様も、鈴音さんも、出ると思います」

 怒りにも優る感情。あれが追打ちだ。将来を思えばこその感情と理解できたから、反抗できない。

「お姉様は、どうしますか」

「……、……」

 音羅はすぐには答えられなかった。単純にその選択肢を考えていなかったという理由もあるが、子欄の意見を聞いたら、自分の場合、家を出ることこそが間違いのように思えた。

「……ゆっくり考えるのがいいと思います。お姉様は行動して、唯一、救ったんですから」

「……」

 会釈して部屋に入った子欄が、父のもとへ向かった。決断を伝えているのだろう。

「姉上」

「おぉっ、ひーちゃんいたのっ」

「うん……」

 びっくりした音羅の後ろにびっくりさせられた様子の謐納がいた。

「ひーちゃん、おはよう」

「おはようございまする。姉上達が家を出るようなので、わたしもそのうち出ようかと」

「えっ」

 両親の記憶を多少継承していても、生まれてまだ一週間の謐納である。

「学園とか、通ったりしないの」

 と、音羅は謐納に何度か勧めていた。謐納が登園拒否を宣言したように聞こえたので音羅は改めて勧めたが、謐納は短絡的ではない。

「姉上の勧めゆえ学園には通おうかと。ですが、その後は独居を見定めて動きまする」

「(ど、ドッキョ、一人暮しのことだよね。)難しい言葉を知っているなぁ、ひーちゃんは。そっか、そうなんだね……」

 生まれて一週間といったら音羅は両親と離れたくないと駄駄を捏ねていた頃ではないか。

 ……確かに、ひーちゃんは早いな。

 悦ばしいのに長女としては複雑でもある。

「ねぇ、ひーちゃん、またうちの会社のプリンを持ってきてあげるよ。好きだよね」

「む、いただきまする」

 謐納がきらっとした目差で答えた。

 ……よかった。

 まだまだ幼いのかも知れない。こうしてお菓子を受け取ってくれるあいだは。

 ……いつかは離れていっちゃうのかな……。

 子欄が言ったように、納月や鈴音が家を出ていって、謐納まで出ていったら、家はがらんとしてしまうだろう。

 

 音羅は、寂しい。

 

 そもそも、父が亡くなることを受け入れられなかったのは一人でも欠けてほしくなかった。一人も離れず、傍にいてほしかった。我儘は承知だ。いつかの花の言葉は現実になっていて、社会に出て生活リズムが変わって納月や子欄とも一緒の時間が減ったくらいだ。けれど、一人も離れてほしくない。欠けてほしくない。やはりそう強く思うのである。空気がどんどん薄れて、自分から元気が薄れてゆくように感ずる。

 ……どうして、こんなに寂しいんだろう。

 離れても縁が切れるわけではないのに。

 食事会を開いたり出掛けたり、感染症の流行が始まってからは通信で繫がって、第三田創の仲間との交流は続いている。なのに、家族の縁が脆そうに感じてしまうのはなぜだろう。仲間と同じ。一度離れても一生会えないなんてことはない。会おうと思えばまた会える。同じ世界の中にいて同じ空気で繫がっている。それなのに、なぜ。

 ……わたしは、成長しないな。

 駄駄を捏ねたくて仕方がない。離れたくない、と。みんな一緒がいい、と。

 ……こればかりは、きっと叶わないんだな。

 竹神一家は誕生からこれまでどこか普通ではなかった。一般的な家庭と比べたら逐一おかしな点が見つかっただろう。父や母にミルクを飲ませてもらったり、夜泣きをあやしてもらったり、はいはいを見守られたり、抱っこされてお湯に浸かったり、立ち上がったところを悦ばれたり、おんぶされて夕焼けを眺めたり、みんなで泥んこになって遊んだり──、幼い出来事がなかった家庭だ。それでも、ひとびとが語る家庭と同じような和気藹藹の食卓があって、自分達に取ってはこれが普通なのだと音羅は納得してきた。不和のあとも解り合えた実感でもって手放しがたく、丸く治まった、よかった、そのように家族を、父を、おもってきた。音羅の行動の結果、父が極端な拒絶の姿勢を執り、妹は家を出る決断に迫られたのである。竹神一家の行きつく先は、離散だった。穏やかな一家のままではいられなかった。どんなに取り繕われていても、()()ではなかった──。

 ……駄駄を捏ねられることじゃないな。

 父を見捨てたら離散しなかったのか。父の死を受け入れれば丸く治まったのか。父が欠けたあとだったらこういった状況を防げたのか。父が欠けただけでほかのみんながいるからいい、と、納得できたのか。そうではないだろう。でも、行動したことで、父を救ったことで、離散を避けられなくなった。これが事実だ。気持にどう折合をつけたらいい──。

 再び空を仰ぐ。

 すると、隣の謐納も同じように。

「姉上、父上に手を上げたはまことですか」

「えっ」

「それで父上を──」

「ふぇっ、あ、(そ、その先はたぶん外で話すようなことじゃ──)」

 音羅は慌てて謐納を抱っこして家に引っ込んだ。末妹には驚かされるばかりで、気を緩ませる暇はなく、忙しない。

 ……けれど、ありがとう、ひーちゃん。

 自分を追いつめるばかりの思考から脱して、音羅は少しだけ気が紛れた。

 

 

 幼き時分にも解っていたことがある。それは姉の決意が全てを変えてしまったこと。しまった、とは、否定的な事態を招いたがゆえの表現であるが、家族の在り方を変えるほどのエネルギを姉が生ぜさせたこともまた動かしがたい事実であった。

 変わることのない事実を見つめていた妹の一人として、家族にできることはないか。逃げ出すようにただ家を出るだけでなく、何かしらの形で貢献することができないか。そう考えて、謐納は、生きてきた。

 行きつく答は()()だ。

 ……全ては、あなたから始まっているのですよ、姉上。

 謐納は、月を灯す刃に過去を思い、眼下の姉音羅に振り翳した。

 

 

 

──八章 終──

 

 

 

 

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