家族になろう
初投稿失礼します。
初めて小説を書きました。なんか三万文字超えててびっくりです。割と時間かかったなー()。
今回のお話は、獣人がいる世界での日常青春?恋愛?人間ドラマ的な小説です。鬱展開も少しばかりあるので、気をつけて。
あ、ちなみに、みかん君は身長は190越えです。めっちゃゴツイです。
むかしむかし、あるところに人間の言葉を話せる獣がいました。獣は人間に興味を持ち、人間に猛アタックをした結果、結婚することになりました。やがて一人と一匹の間に子供が産まれました。その子供は人間の体格をした獣のような体で、いわゆる獣人です。そして、獣人は数を増やしていき、ついには人間よりも多くなっていきました。いつしか、ある獣人は気づきました。
「人間は獣人よりも力もないし、かといって他に特別な能力もない。はたして人間は必要な生き物なのか?」
人間はだんだん獣人に支配されるようになり、ついには獣人の奴隷となっていきました。人間はとても辛い労働をさせ続けられました。人間はどんどん死んでしまい、数を減らされていきました。そんな日々が続いていた時
1人の狼獣人が言いました。
「人間だって生き物だ。一緒に仲良くするべきだ。」
その獣人は皆に言い聞かせ、その言葉に賛同した人々は人間を奴隷から解放するために運動を起こしました。それが成功し、獣人は人間に権利を与え、みんなで楽しく過ごすことになりました。めでたしめでたし。
俺が小さい頃、母は子供用の歴史の絵本をよく読んでくれた……ていう夢を見た。狭い自部屋で布団がぐちゃぐちゃの状態で起きた。現在四月七日月曜日、朝の七時十五分。いつも目覚ましをかけてる時間より十五分遅く起きた。あんな夢を見て、そんな時もあったな。て思った。俺も狼獣人だから、絵本に出てくるあの獣人みたいに、誰かを助けたいとか母に言いまくっていたのは記憶にある。父と母は交通事故で俺が小学生の時死んだ。つい最近まで一緒に住んでいた母方のばあちゃんも、認知症で老人ホームに行ってしまった。いや、行くしか無かったんだ。ただでさえ両親がどっちもいないのに、一人でばあちゃんを介護するなんて普通に無理だった。何とか中三までは介護をしたが、する方もさせる方も満足できるほどのことが出来なかったので、老人ホームに入室した。別れは少し寂しかった、毎週顔を出しているので、そこまで自分が一人暮らしになるという不安はそこまで大きくなかった。
心機一転して、今日は四月の七日。高校生活二年目の始まりの日だ。ダラダラ朝ごはんを食べ、制服に着替え、ボロボロのバックを手に取り、七時四十五分に家を出た。
俺の家、もといアパートは俺の通ってる高校から徒歩四十分くらいのところにある。自転車で通って良い学校なのだが。つい先月にぶっ壊れた。直したいのは山々だが、そんな金があるなら教科書代とかに回したいので諦めた。学校の最後に驚くほど長い階段がある。本来は十分くらいで登っているのだが、体感は三十分くらい登ってるように感じる。俺が本当に学校が久しぶりだからだと思うが。
八時半。学校に着き、高校二年目のクラスがエントランスに紙で貼られている。俺は…二年五組の、十二番だ。しっかりと「佐々木みかん」と書かれている。早速二年五組のクラスへ向かう。三階にあるので、階段を上る。ガラッと扉を開けると、七割位の人がもう席に着いている。扉を開けるのが少し強かったのか、何人かがこちらを向いた。俺に嫌悪感を抱く人は若干嫌な顔をしているのは、すぐにわかった。まあ、俺が「あんなこと」した奴だから。当然のことだ。俺は誰とも目を合わせず自分の席に座った。
チャイムがなり、学校が始まった。最近は簡単に大勢で集まれないから、始業式は皆各教室で音声だけ聞くという形式になっていた。校長は春の季節がうーたらかんたら言ってたが正直どうでもいい。聞いてるだけだと暇だから窓の外を見ようと左を向いた。そしたら、左の席の人と目が合った。人間だ。明るいグレー?みたいなのロングヘアで、小柄で、身長は大体百五十前半くらいのちっちゃい女子だ。珍しい。人間はだいたい二百人に一人いるかいないかくらいだから。…出席番号六番、名前はなんだろう。さっきのクラス分けの紙写真取っておけばよかった。なんて思ってたら、人間は俺に笑顔で親指と人差し指を交差した手をこちらに見せてきた。…何あれ。何を意図としてあんなことやってるんだ?とりあえず、よく分からないので俺も同じ指の形をさせて返事しといた。他の人は俺の事を煙たがってるはずなのに、今の人間はそんなこと無かった。ああ、多分あの事件のことを知らないのだろう。いずれにしろ、同じクラスになったのだから他の女子が「あれ」を話して嫌いになるだろう。
なんてやっているうちに始業式が終わった。思ったより早かった。一つの場所で集まるよりはるかにスムーズだということはわかった。そして、担任が話し始める。
「おはようございます!皆さまはじめまして!私の名前は小野鞠子です!。」
と、元気すぎる三十前半の羊の先生だ。!が語尾に必ずつく。二年前からここの高校にいたらしく、授業は面白いらしいのだが、無駄にホームルームが多いらしく、担任としてはハズレな部類らしい。まあ、そこそこ人気の先生だが。おのまり先生とかの愛称でよばれてる。
「それでは次は皆さんが自己紹介をする番です!名前と住んでいる地域と、部活、趣味とかいろいろを教えてください!出席番号一番の人からよろしくお願いします!」
と言われ、一番の人が自己紹介をする。どんどんと自己紹介をしているが、自分は何を言うかずっと迷っていたら五人終わっていた。今のところ全部聞き逃してる。…友達が少ない理由はこれなんだろうな。とか自分を客観視できる。さすがに、次はちゃんと聞こうとした。あ、あの人間だ。
「はじめまして!私は黒瀬ユリです!見ての通り人間です!隣町からきてます!好きな食べ物は、みかんゼリーです!吹奏楽部に所属してて〜趣味は〜人と話すことと人に勝手にあだ名をつけることです!あ、彼氏も募集中です!」
……この子苦手だなって思った。小うるさい感が醸し出してる。いや、でも拍手の大きさは今までで一番大きいので多分この子は陽キャなんだろう。そりゃそんなだから、さっき俺に謎の指を出してきたんだろう。…あ、また五人終わってる。自分の番だ。
「えっと…佐々木みかん。です。今は、帰宅部で、趣味は、、造花作り?です。よろしくお願いさます。」
自分の思い込みだと思うが、周囲の目が冷たく感じる。睨んでるように見える。コミュ障みたいな話し方になった。いや実際コミュ障だった。てか、頭から出てきたことを適当に言ったからだが、造花作りってなんだよ。それ、たまにやってる内職の内容だろ。あと、自分の名前もあまり好きじゃない。みかんってなんだ。かわいい部類の名前だ。俺はそんなキャラじゃないし。身長は二メートル弱あるんだぞ。…とか考えてたら全員終わってた。……自分が嫌いになりそうな自己紹介だった。
そんなこんなで学校が終わった。皆は教室の真ん中で集まってライン交換してる。そのさらに中心に黒瀬がいる。やはり陽キャだった。最初そんなかでライン交換でもしようかなとか思っていたが、出来なかった。静かにわたわたしてる自分が恥ずかしい。机で、顔をうつ伏せにしてた。もう学校終わってるんだけどな。
あ、寝てた。現在午後十二時半。軽く二時間くらい快適な睡眠をしていた。今日はバイトが二時からだからいいが、この二時間を失ったのははすごい喪失感がある。
「…バイト行くか。」
今日は近くのドラッグストアのバイトだ。と言ってもただのレジ打ちだがな。今日の高校二年生のスタートダッシュは見事に失敗した。憂鬱すぎる。今日は仕事のミスが多発しまくっていた。割とダメージを受けているらしい。店長さんに、
「体調悪いなら帰りな。」
って言われた。普段はミスはしないので心配してくれた。今日はバイトする気0だっので、お言葉に甘えて帰る準備をし、バ先をあとにした。
足が重い。現在午後五時。本来は八時くらいまでの予定だったが。やっと、アパートの前まできた。今日は早く寝よう…とか思っていたが、ふと右を見た。空き地がある。前からあった空き地だ。子供がたまに勝手に入って遊びよく近所の人に怒られてるのを見ている空き地。今日はなんか。誰かがいる。こどもじゃない。だれか。匂いが違う。狼だから敏感だ。あの匂いは…うちの高校の制服だ。特別な素材を使ってるとかだった気がするから多分間違いない。あの奥の大きい木の裏にいる。俺は気になってそちらへ向かった。
木の裏を覗いてみる。
「黒瀬…さん?」
なぜか、なぜか黒瀬ユリが寝てた。困惑でしかない。なぜここで寝てるのか。てかなんで寝てるのか。この子隣町の人でしょ。なんで?なんで?
「…おーい。」
と呼びかけても寝てる。おそるおそる、体を揺さぶってみたけど、まだ寝てる。いろいろ聞きたいのだが、どうしていいのか分からず、五分くらいここらで悩んでいる。すると、雨が降ってきた。天気予報で曇りだったから降らないと思っていたのに。雨が降っても以前と寝てる黒瀬。そんな寝る?てくらい寝てるぞ。このままだと風邪引く。仕方がないので俺のアパートに入れるために、抱えてはこんだ。幸い、誰も周りにいなかったので人間をお姫様抱っこみたいな体制で運んでるのを見られていないのはよかった。
早めに退散したおかげで、どちらも濡れなかった。黒瀬をぐちゃぐちゃになった布団に置いとく。…なんて言えばいいんだろうか。いや、先になんであそこで寝てたのかを教えてほしいが。寝室から出てリビングへ向かう。とりあえずあの子のためのお茶でも用意しとこうと思い、水を沸騰させてる。待ち時間で、今日の学校の事を思い出してしまった。…あー、俺ってこんな高校生活を送るはずじゃなかったんだけどな…。そんな事を思い、ため息をついた。
「どうしたの?元気ないの?」
黒瀬がいつのまにか後ろにいた。思わず「うおぅ!」て情けない声を出してしまった。
「くっ、黒瀬さん?」
「佐々木くんだよね?お家に入れてくれたの?ありがと」
突然すぎてよくわからない。とりあえず聞きたい事を質問する。
「えっと…黒瀬さん、外の空き地で寝てたんだけどさ、なんで外で寝てたんだよ。」
「ん?あー…ちょっとねー…親と喧嘩しちゃってー。逃げ回った後疲れて寝てたんだよね。」
どんな理由だよって思ってるけど、まあそういう事なんだろう。お湯が沸いたので、とりあえず黒瀬にお茶を出す。
「お!ありがと!佐々木くんはやさしいね!」
優しい…のかな。やっぱり「あのこと」を知らないから言ってるんだろうな。それでも普通に嬉しい。とか思っていると、黒瀬が周りをキョロキョロと見てる。
「ねえみかん君。みかん君って一人暮らし?」
突然の名前呼び。びっくりした。この子は今の少しの会話のやり取りで苗字呼びから名前呼びにランクアップしたのか。陽キャってそんなもんなのかな。
「あー、まあ、そうだよ。」
「あれ?独り立ちってやつ?」
「…ばあちゃんは老人ホームに入って…親は、」
話してる途中で、黒瀬は部屋の隅にある仏壇を見て、ハッとする。
「あ、ごめんね。やな事聞いちゃったね。」
「いや、大丈夫。うん。」
会話ができなくて、気まずい雰囲気になりそうなのが怖い。とりあえずなんか言わなきゃ。何か。
「あ、あの…黒瀬さん?あのさ、」
「ユリでいいよ。ユリで。呼び捨てでいいよ。」
話を遮って言ってきた。僕に急に名前呼び兼呼び捨てなんていきなりすぎる。けど、それを無視して黒瀬呼びは流石に自分が空気を読めなさすぎる。
「あのさ、ユ、ユリはさ、朝なんで俺に変な指見せてきたの?」
「…キュンです知らないの?」
「…きゅんです?」
そう言うとユリは笑った。「みかん君は面白いね。」さっきの優しいねとは違くて馬鹿にした感じがすごいする。
「キュンですってのはね、胸がときめいたって意味。」
…よくわかんないな。本当に。やっぱり少しこの子は苦手だ。考えてることはよくわからない。早く帰って欲しいな。とか思いながら話してた。が、今度はあちらから話そうとしてる。ユリはなんだかさっきとは打って変わって申し訳ない顔で言い始めた。
「…あのさ、みかん君。一週間だけさ、家に泊まらせてくれない?」
「は?」
でかい声が出た。だって突然すぎる。
「いや、本当無茶なお願いなんだけどさ、うち親とヤバめだからさ、お願いしますぅ。みかん君一人暮らしでしょ?家事とかいろいろ手伝うからさ!ね!」
「いやーー。いや、いやでも、えーーー。」
変な声しか出ない。
「…一週間も家あけて大丈夫なの?」
「うん。うちの家は放任主義だからだいじょーぶ。」
「なんで俺の家なの?」
「…なんでだろね。なりゆき?なんとなく?まあ、安心できそうだから?」
…安心できるかと言われればそんなことないと思うが、むしろ一人暮らしだし、十分なことできないだろ。
「お願い!ほんとに!私の生命の危機なの!私の命の恩人になってよ!」
「ちょっ、ちょっと待って、考えさせて。」
一回、寝室にこもって考える。どうする。どうする。ていうか正直あの子がここに泊ることで発生するデメリットがない。けど、本当に俺でいいのか。てかそもそも会話が続くのかすら怪しい。あっちが喋ってくれるのを期待するしかない。
…命の恩人か。俺が断ったらどうなるのか。また、いつもの日常が始まって、みんなから煙たがられて、何も楽しいことがないまま高校生活が終わっていく気がする。ユリといれば、何かが変わるのかもしれない。ちょうどあの絵本みたいに人助けができるかもしれないし。と、気持ちが傾いてきた。ていうか、そうしようって思った。…俺はリビングに戻ってユリに伝える。
「…いいよ。一週間だけね。」
我ながら決断が早い。こんな会って初日のやつのいきなりすぎる頼みを受け入れる自分が不思議だ。ユリは「やったぁ」と喜んでる。そうして、俺たちの一週間が始まった。
四月七日月曜 一日目 「色々と、決めよう。」
「色々と、決めよう。もう今日すぐに泊まるんだな?学校のものとかは平気なのか?」
「うん。今日から。私、学校のやつはぜーんぶ置き勉してるからへーき。」
「…あと、着替えは?」
「着替えかー……。貸して?」
「俺のはでかいし嫌でしょ。男もんだぞ。」
「いいの。そんなん気にしない。外にいるときは基本制服だし、パジャマはぶかぶかでも全然問題ない。あ、でも下着は後で自分で買うから安心して。」
なんだか、ユリはすごい楽しそうだ。ちっちゃい体でよくはしゃぐ。そんな親と喧嘩したのか。まあ、喧嘩できる相手がいるだけでおれはあの子が羨ましい。
「あと、このことは学校の人に言うなよ。」
「わかってるって!」
「まあ、今から夜ご飯作るから、さっさと買ってきな。」
「はーい!あ、ちょっと待ってね。みかん君スマホ出して。」
ユリはスマホを出す。言われるがまま、俺もスマホを出す。俺のスマホは、貯金からはたいた、激安スマホだ。ユリはぽちぽちユリと俺のスマホと触り、
「はい。連絡先交換かんりょー。」
俺が今日誰とも連絡先を交換してなかったことに気づかれてた。ちょっと恥ずかしい。
「じゃあ気を取り直して、いだっきまーす!」
満面の笑みで家を出て行った。俺はいつもより二倍の量のご飯を作り始めた。
今日は、冷蔵庫の余り物で作った野菜炒めがメインだ。仕方ない。俺ん家でご馳走なんて夢のまた夢だ。これで、文句言ってきたら速攻で追い出す。とか決めながら作った。お米は冷凍庫で固まってるやつを温める。味噌汁はインスタント味噌汁だ。後はー、いや、もうこれでいいや。お腹空いたら適当にコンビニで買ってきてもらおう。八割型作り終えていると、ユリが帰ってきた。「ただいまー!」とでかい声が聞こえる。
「もう少し声を下げて。近所に迷惑だから。」
「おっとっと。ごめんね。お母さん。」
あー。このノリすきじゃねぇぇ。まあ、許してやろう。「お母さんじゃありません」と答えとく。
「ほら、ご飯できたから手洗って。」
ユリはどたどた洗面所に行った。何気に騒がしいのが少し楽しい。久しぶりな感じ、いや、初めてかもしれない。ばあちゃんといたときはただ、静かに会話をしている感じだが、ユリといるのはなんか、ガヤガヤする感じだ。
「わ!すっっごい美味しそう!作ったの!」
「…まあ、ほとんどあまりもんだけど」
予想以上に喜んでたのが嬉しい。ちょっと自分の顔が赤くなった気がする。
「「いただきます。」」
一緒に食べた。気まずくなるんじゃないのかと思っていたが、案外そんなことはなかった。ユリは吹奏楽で、サックスを吹いているらしい。後、ユリは二人兄妹で、兄は頭が良いらしい。両親は医者らしい。すごいエリートだな。恵まれてるじゃん。って言ったら苦笑いしてた。俺もなにかと話した。今のバイトの愚痴とか、内職の内容とか。いろいろと。一日目はなんとか終わりそうだ。不思議な状況だが、普通に対応できてる自分が変に思えてくる。ご飯も食べ終わった。ユリからは大絶賛だった。すごい褒められたが、恥ずかしいので途中でストップさせた。
「とりあえず、風呂は沸かしたから、入って。」
「私先でいいの?」
「俺が入ると毛が浮くだろ?。不快になると思うから。」
「そーなの?じゃあお言葉に甘えて。あ、でも見ちゃダメだよ?いくら、獣人は人間に興味ないからってダメだからね?」
「いや、見ないって。」
獣人は人間のことを恋愛対象として見れない。逆も然り。だけど、流石に女子の風呂を見ちゃダメとか当たり前のことを言われて、子供じゃないんだから。ユリが風呂に入った。こちらも、後で入るがその間、内職でもしてよう。
ユリが風呂に入り終わった。ユリのパジャマはとりあえず俺のパジャマをあげた。ぶっかぶっかだからどこから出したのかわからない紐を腰に巻いてる。ちょっと面白かった。次に俺が入る。シャワーを浴び、湯船に浸かる。…色々ありすぎて今日は疲れた。なんだか寝ちゃいそうだ。が、こんなところで寝たら死ぬので、あまりあったまってないがさっさと風呂を出た。
「ほら、明日も早いし。早く寝な。」
「…なんか、本当にありがとね。」
今日で一番柔らかい声で喋った。本当に感謝された。
「まあ、恩を返したいなら、明日から洗濯物とか、皿洗いとか、風呂洗いとか頼むよ。」
「…うん。」
ユリの寝室どこにするか…て思ってたら、
「あのさ、みかん君。…同じ部屋で寝ていい?」
「…いやいや、流石に。異性なんだし。いくら獣人と人間だからって。」
「…お願い。私いびきとかかかないし。」
「な、なんでそんなに一緒の部屋がいいんだよ。」
「…一人で寝たくない気分…?だから。」
「…好きにしな。」
ユリはまた嬉しそうに「うん!」と答えた。この子の考えてることがわからない。
寝室に布団を二個並べて敷いた。ばあちゃんの布団があるのでなんとかなる。
「じゃあおやすみ。」
「ありがと。おやすみ。」
…ユリは今日は感謝が多い。そこまでして、家に帰りたくないのか。まあそんなことは今はどうでもいい。俺も疲れたので寝る。明日は、今日よりはマシな一日になりますように。
四月八日火曜日 二日目 「かぞくとやりたいことのーと」
起きた。時刻はちょうど七時。しっかり起きれた。よいしょ、と起き上がっ、ろうとたんだが、できない。なんでだ。横を見る。ユリが俺の体をしっかりとホールドしてる。てか、手を俺の腹から服の中に入ってる。「っっっ!」言葉に出ない叫びで若干暴れながら無理やり起き上がった。
「もう…何ぃ。」
「何じゃない!俺のことを抱えて寝るな!びっくりしたぞ!」
俺は顔を真っ赤にして、怒る。多分顔を赤くしたのは怒ってるからなのも、そうなのだが、お腹を直に触られて恥ずかしいからだと思う。
「ごめんごめん。みかん君もふもふで気持ち良くてさ、いつのまにか近づいてた。」
寝ぼけながら言ってる。なんだこいつ!昨日といい今日も距離感がバグってる。まあ、これ以上怒っても仕方ないし。早くしないと遅刻するから、ご飯の支度をするために一足先に、部屋を出る。二枚の食パンをオーブンで焼く。その間に、昨日作って冷蔵庫に入れてる弁当の具材を出して弁当箱に詰める。ユリはまだ寝ぼけてるがなんとか部屋を出てくる。
「ぐっすり寝れたかー。」
「うん。久しぶりの快眠。素晴らしい。うん。」
はいはい、さっさと椅子に座りな。って言う。
「「いただきます。」」
朝ご飯はパンにジャムをつけるだけ。うちは、ロクな収入源がなく、あるのは、母と父の遺産と俺のアルバイトと内職代のみ。ちなみにら俺のアルバイトとかの身元保証人は隣人のおじさんに頼んでる。ばあちゃんの年金は全部老人ホームにつぎ込まれてる。だから、最低限の生活しかできない。昨日のご飯が最大のもてなしだ。あれ以上のものはそうそう作れない。カレーの日の時は基本カレーと野菜だけだ。朝は、パン一枚それは絶対だ。それでもユリはいつも、「ありがとう」と言ってくれるのは嬉しい。きっと親の教育が素晴らしいのだろう。食べ終わり、一緒に家を出る。学校までの四十分間、ユリはずっと話してた。コミュ力お化け。俺も見習いたい。
学校に着き、教室に入る。ユリと同じタイミングで入ったが、クラスの人は違和感を覚えられることはなかった。多分偶然だって思ってるのだろう。席に荷物を置いた後、すぐにユリは友達の方へ向かっていった。やっぱ。クラスに入ったら俺はほぼ赤の他人みたいなものになってしまうのだろう。とか思ってる。俺はクラスに友達がいないので、静かに座る。今日はもう英語の小テストがあるからそれの予習をしておく。
一時間目、数学II。特に難しくないので、てきとーにノートを埋めている。ユリは頭を抱えていた。目がぐるぐるしていた。ここ去年の復習だぞ。授業の後半は問題演習だったが、ユリが俺に紙切れを投げてきた。「問ニと問五がわからないから教えて」て書いてある。やっぱ、学校でも距離が近くなってる。俺は裏紙に解き方を書いて渡した。
二時間目、物理。おのまりの授業だ。横を向いたらユリがぐっすり寝てた。…昨日ずっと寝てたじゃん。おのまり先生は、一人ずつ順番に問題を答えさせる人だ。そろそろユリの番なので、誰にもバレないように足で椅子を軽く揺らす。ユリは起きた。おのまりに答えを聞かれたが、ユリは「わかりません」と元気に言った。えー。
三時間目コミュ英。最初に単語テストがある。一昨日と今朝に軽く勉強したので、余裕で解けた。答え合わせとして、隣と交換する。ユリの答えは全然合ってなかった。珍回答しかない。肉という意味のfleshを「ふれっしゅ」とそのまま書いてるし、〜のためのみたいな意味のsakeを「危険な飲み物」とか書いてる。よくわからない。とりあえずユリはあんま頭がよろしくないことがわかった。あいつの両親どっちも頭いいだろ。うちの高校、偏差値そこそこあるぞ。よく合格出来たな。
昼。うちの高校は六十五分授業なので、三時間目終わったら昼だし、一日は五時間で終わる。みんな前を向いて食ってる。俺も静かに食っている。一部の女子は数人で集まって喋りながら食べてる。その中にユリがいる。ユリは俺が作った弁当を美味しそうに食べてる。作ってよかった。と思った。まあ、頭がよくなくても、コミュ力があれば世の中生きていけるので大丈夫だ。そういう点で考えれば、俺は大丈夫な部類ではない。
四時間目、体育。新学期最初の体育は、基本軽いウォーミングアップしながらのクラスの仲を深める。的なことをやる。まず、ペアを作れと言われた。…ぼっちの俺には最悪のイベントだ。どんどんペアが作られる中、やはり一人余ってしまった。ついでにもう一人の男子も余ったので、余り者同士でペアが完成した。相方は、ネズミの獣人。身長は一メートルもない。確実に組む人まちがえてる。むこうも、ずっとキョロキョロして、こちらに目を合わせようとしない。…ほんとにごめんな。俺と一緒で。体操や柔軟とか、つまんないことをずっとやらされてた授業だった。力加減が分からなすぎて終始怖かったです。
五時間目、化学。先生が面白くなさすぎたので、いつの間にか寝てた。…家帰ってから復習しよ。
学校が終わった。結構な人数が帰って、誰も見てないところで、ユリが話しかけに来た。
「あのさ、私今日部活あるから、帰ってくんの遅いよ。」
「…あー、何時?」
「えっとね、大体六時くらいかな。」
「それだったら俺の方が遅いよ。バイトが八時まであるから。なら、はい。」
俺は家の鍵を渡した。
「とりあえず、家帰ったら洗濯物取り込んで、風呂洗っておいて。ご飯は昨日の残りがあるのと、味噌汁はインスタントで。」
「おっけー!ありがとねー!」
少なくとも、昨日よりは楽しい。会話する相手は一人だけだし、なにより女子だけど。一人よりははるかにマシだ。その日のバイトは一回もミスしなかった。
家に帰った。
「おかえりー!」
ユリが元気な声で言った。本当にここに住んで二日目なのか。
洗濯物はきれいに畳んであるし、風呂も沸かせる状態で、やることが少なくて、すごく楽だ。ユリは教養があって本当に素晴らしい。
「「いただきます。」」
昨日とほぼ同じメニューだったが、他の人が作ったご飯は美味しい。
「ユリがここに来てくれてよかったかも。」
って言ったらユリは照れてた。
「褒めてもないまでないよ〜。ほら、さっさと食いなはれ〜。」
続けてユリは話した。
「てか、今日の体育の時間、遠くから見て面白かったよ。みかん君。柳城君とペアだったよね?体格差で戸惑ってるみかん君好きだった。」
「…あの人柳城っていうの?名前ごつくない?」
「え?名前知らないでペアやってたの?話さなかったの?」
「いや、なんか、うん。」
「えー。あの子私と同じ中学校。めっちゃおもろい子だよ。サッカー部でのイジられ役。」
全然そんな感じじゃなかった。俺と一緒は流石に気まづいよな。
「てか、あんなちっさいのにサッカーできんの?」
「できるからサッカー部なんでしょ。実際、さいきょーさいきょーって男子におだてられてた。」
「その子それ、ほんとに褒められてるか?」
「その子じゃなくて、柳城君ね。柳城 剛久」
「名前もごついな。」
「いいじゃん。ギャップ萌えあって。わたしはみかん君の名前、ギャップ萌えで、可愛くていいと思うよ。」
名前が良いって言われると少し照れる。
「てか、みかん君、今日とか昨日とか全然他の人と話してなかったよね?」
「…あー、うん。」
「みかん君、もうちょっと話さないの?クラスのみんなと。」
「いや、まあ、話すべきなのは知ってるけどさ…」
「?」
「いや、なんでもない。ご馳走様。」
あまり、その話には突っ込んでほしくない。あれを聞かれたら、ユリに嫌われてしまうから。
「風呂沸いたから、入ってきな。」
ユリに言う。「うん。わかった」と返事をする。風呂へ向かった。
一人の時間が出来た。少しリビングが散らかっていたので、片付ける。ユリのバッグから筆箱が落ちてたので拾って中に入れる。…ユリのバッグに何か変なノートがある。勝手に見て申し訳ないが、好奇心が勝ったので見る。「じゆうちょう」だった。小学生が使うようなやつ。昔の見たことあるキャラクターが表に描かれている。中を開いてみる。
「かぞくとやりたいことのーと?」
そう書かれていた。ページをめくる。
「そのいち みんなとたのしくおしゃべりする」
と書いてある。そして上から丸がついている。多分達成したってことなんだろう。
「そのに おかあさんにたんじょうびぷれぜんとをもらう」
これもまるがついてる。なんか、これを毎日持ってるのか?本当は両親のことが好きなのだろう。なんやかんや仲がいいのだろう。今回の一週間の家出はとても大きな喧嘩だったのだろうか。次のページを見ようとしたが、ユリが風呂から出てきた。急いでしまう。…てか、勝手に女子のバッグを見るのって最低だな。この無神経さがダメなんだ。自分を変えていかないと。
俺も風呂を入って、寝る。今日も同じ部屋で寝たいらしい。
「いいか、今日の朝みたいに俺に抱きつくなよ。」
「わかってるって。おやすみ。」
「おやすみ。」
四月九日水曜日 三日目 「私、今ね、すっごい幸せ」
また、抱きついてる。
「あああああ」
と覇気のない声を出しながら振り解く。
「「いただきます。」」
今日もパンを食う。
「今日俺、バイト無くて、ばあちゃんのところに行くから。」
「え?今日私部活休みー。」
「…一緒にくる?」
「え!?行く行く!行きたい!」
というわけで放課後一緒に老人ホームへ行くことになった。
「ちなみにさおばあちゃんの名前って?」
「あー。りんご。」
「りんごぉぉ!」
「ちなみに母さんはれもん。」
「れもんんん!」
「父さんは牡丹。」
「かわいいい!」
学校へ一緒に行く。人と学校に行くのは楽しい。暇じゃない。
一時間目、地理。眠い。先生が一方的に話すだけだから、割と辛い。寝かけた時に。ユリがペンで俺の頬をついてきた。眠い時に起こされるのって割と不快なんだなって思った。
二時間目、現代文。最初に漢字の小テスト。俺はこのテストの存在を忘れていたが、なんとか悪い点数は取らなかった。が、ユリに負けた。あいつはどうやら国語は得意らしい。国語の時間だけ楽しそうだ。なんだか、楽しそうなあいつを見るとこちらも楽しくなる。
三時間目、物理。おのまりーずれっすん。さっきとは打って変わって、ユリが全く楽しくなさそうな顔をしてる。この顔を見るのもやっぱ楽しい。
その後の昼も四、五時間目は特になもなく終わった。
放課後になった。
「ほら、いこいこ!」
俺は「はいはい」と言い、一緒に学校を出た。何人かからの視線があった気もするが、今は無視しておこう。老人ホームは学校からだいたい十五分のところにある。年金内の価格で、入れる施設なので、割と質素だ。中の従業員さんに、案内してもらい、ばあちゃんの部屋まで案内してもらった。部屋に入る前にユリに忠告する。
「ばあちゃんは認知症だから。俺の事、俺の父さんだと思ってる。」
「…」
「多分、ユリも誰かと勘違いするかも。それかどなたですかって聞いてくると思う。勘違いしてたらそのまま、その人として貫いて。」
「わかった。」
部屋に入る。
「お義母さん、来ましたよ。」
「あら、こんにちは。牡丹さん。」
「こんにちは。」
「あなたは…れもんかい?」
「…はい。」
「嬉しいわ。会いに来てくれて。いつぶりかしら。」
「僕は五日前です。れもんは…久しぶりなんじゃないかな。」
「そうね。でも、そろそろみかんも私のところに来てくれればいいのに。あの子、私の事がいつもいつも大好きで、休みの日なんか、私にずっとくっついちゃって。私とお出かけする日なんか、嬉しくて走り回って、転んで。よく泣いていたわね。本当に可愛い孫だわ。それなのに、どうしてしばらく来ないのかしら。」
「…みかんは、きっと忙しいんだよ。僕から、おばあちゃんは元気だって伝えときますね。」
「ありがとう。れもんも、たまには私のところに来てね。嬉しいから。」
「うん。行くよ。これからは、たくさん。」
「それは嬉しい。じゃあ私、眠いから、貴方達もう大丈夫よ。今日はありがとう。」
「はい。おやすみなさい。」
そうして俺達は部屋を出た。
老人ホームからの帰り道、ユリが聞いてきた。
「…思ったより早かったね。終わるの。」
「うん。ばあちゃん、気分屋だから、眠かったらそっちを優先する。」
「可愛いおばあちゃんだこと。」
「…ねえみかん君。どうして、ずっとお父さんの役をしてるの?」
「…ばあちゃんが認知症になったタイミングって、俺の両親が事故で死んでからなんだ。多分そのショックで、ああなったんだと思う。」
「…」
「だからさ、ばあちゃんはとうさんたちが死んだことを知らない。というか受け入れようとしない。今更真実を教えても、可哀想だろ。だから、ばあちゃんが見てる世界を否定するんじゃなくて。元からそういう世界だったことにして、ばあちゃんが生きてる間は、ずっと幸せなままでいて欲しいんだ。だから。」
「みかん君は優しいね。」
「…まあな。」
俺は、笑顔で答えた。悲しみが混じった笑顔。多分初めてユリに笑顔を見せたと思う。ユリは突然俺の前に立ち、
「今からさ、川に行こうよ。」
「川?」
「ふふーん。今からみかん君を楽しませてあげる。」
女子の気まぐれ?かな。
「ちょっとよくわかんないけど、いいよ。」
俺達は家の近くの川へ向かう。名前は、「川鳴川」だ。そこそこ川の水が多くて、透き通って見える綺麗な水だ。夕焼けで、綺麗なオレンジ色が反射してる。近くに「三段橋」が川を跨いでいる。川岸に着いた。ユリはバッグを川辺に置き、靴と靴下を脱ぎ、川に足をつける。
「ほら!みかん君も!来て!」
この時の、ユリは今までで一番。綺麗に見えた。獣人が人間を好きになる事はない。もちろん俺がユリのことを好きなったわけでもない。が、今のあいつはとっても。素敵な女性に見えた。俺も楽しかなってきた。俺も靴と靴下を脱ぎ、ズボンが濡れないよう、まくる。川に足をつける。思ったより冷たくて、ビクッとした。ユリはそれを見て笑う。なんだか、初めて、ユリの自然な笑顔が見れた気がする。
「私ね!辛い時とか悲しい時はね、いつも川に行くの!川はね、どんなに嫌なことだって全部流してくれる気がするから!良い空気で、綺麗な水で。素敵な場所でしょ?」
そして、水を俺にかけてきた。またビクッとなる。またユリは笑ってる。こっちだってずっと負けてるわけにはいかない。俺もユリに水をかけた。俺の手がデカすぎて、水の量が多かった。ばしゃーん!とかけてしまい、あっ。と思ったが、ユリは大笑い。楽しそうでよかった。急にユリはこっちにきて、抱きついてきた。びっくりした。何事かと思って、俺は固まった。
「私ね、今、すっごい幸せ。」
「…俺も。」
えへへと笑顔でこっちを向く。その時、ユリがバランスを崩し、横に倒れる。体全体が、水にっっこむ。どっちもびしょ濡れ。少し黙ってから、俺もユリもまた笑った。ああ、この生活が長く続きますように。
四月十日木曜日 四日目 「あいつは、最悪な男」
朝になった。また、抱きついてる。
もう慣れた。普通に起きた。今日は昨日よりも早起き。夕飯を作り置きする。昨日、店長さんからもらった鮭を焼く。そして冷蔵庫にぶち込む。ご飯は新しくとぐ。それで、終わり。
昨日みたいに、朝はパンだけ。
「「いただきます。」」
流石にもうこの生活に慣れた。何もかも。俺とユリは一緒に学校へ行った。
今日は全部が早く終わる気がした。現に今は、五時間目が終わったところだ。今日も俺はバイトなので、ユリに作り置きしたものを指示して、ユリを教室に置いてバイトへ向かった。…あ、数学の教科書、机に置いてきた。取りに戻りにいった。すると、話が聞こえてきた。クラスの女子三人と、ユリの会話だ。
「ユリさ、最近佐々木と一緒にいるよね。」
「ん?あー。なんか、家が近くて。ちょっと話してるだけ。」
ユリはなんとなく口が軽いイメージだから、何かしら言ってそうで不安だが、ちゃんと隠し通せていたので少し安心した。
「あのさ、ユリ。正直あいつと関わるのやめた方がいいよ。」
一人の女子が言った。俺はドキッとした。あれを言われてしまう。もう二人の女子が続けて言う。
「あいつはさ、一年の頃、人間の女子を体育倉庫で襲ったの。あいつは、人間の体が好きな男なの。」
「その女子を助けに行ったサッカー部の先輩三人が、逆に佐々木の返り討ちにあって、血が出て、骨折して、全治三ヶ月だよ。そのあと、大会があるのにだよ。そのせいで、サッカー部はあの大会で負けたの。」
一人サッカー部のマネージャー、らしい。
「あいつは、最悪な男。だから、ユリのために言いたい。襲われる前に、あいつから距離をとっときな。」
言われてしまった。あいつは、なんて返事するのだろうか。
「…うん。わかった。気をつけるね。」
…この瞬間俺と、ユリの関係は終わったと思った。俺は忘れ物を取るのをやめた。
その日のバイトはミスが多かった。多分過去最多。でも、帰るとユリに会うので、最後までやり切った。
家に帰る。あたまが痛い。悪寒がする。
「おかえりー。」
ユリが言う。もうご飯が用意されてる。
「いただきます。」
ユリだけが言っていた。今日のご飯は、あまり、味がしなかった。あと、会話はほぼ全部ユリの一方通行だった。
どちらも風呂を入り終わったあと、ユリは聞いてきた。
「みかん君…どうしたの?」
「別に、帰ってもいいんだぞ。」
「どうして?」
「俺のこと怖いだろ。俺がお前を、襲うかもしれないって。」
「…聴いてたんだ。」
ユリはあのとき、「わかった。」って言っていた。それが本音だろう。俺みたいなやつといるより、しっかり愛してくれて、大切にしてくれて、喧嘩するほど仲の良い家族のもとにいた方が何百倍もいいだろう。
「私は、ここにいたい。」
「嘘だ。」
強い言い方をしてしまった。
「嘘じゃないよ。私は、みかん君の事は怖くない。みかん君のことを信じてる。」
「嘘だ。嘘だ。何が怖くないだ。何を信じるんだよ。」
もっと強く言った。少しユリはビクッとしてた。でも、胸を張って、
「大丈夫。私はみかん君のこと、知ってるから。今、知らない事はこれから知るからだから、平気。」
「だから、俺の何を知ってんだよ!」
俺は、怒鳴った。ハッとした。あちらも、おどろいている。沈黙が続く。早くこの場から、去りたい。
「とにかく、もう俺といるのは、やめろ。」
俺は布団を前ばあちゃんが使っていた部屋に持って行き、そっちで寝た。
最悪最悪最悪最悪最悪最悪最悪最悪最悪最悪最悪最悪最悪最悪最悪最悪最悪最悪最悪最悪最悪最悪最悪最悪最悪最悪最悪最悪。
あいつには知られたくなかった。この生活が楽しかったのに。たった数日で終わった。俺が、例えあいつに弁明しても、ユリが周りから冷たい目で見られてしまう。それだけは避けなきゃ。あいつは、この話に関係ない。また、暴力を振るった。なんでいつも俺はこうなるんだ。自分が嫌い。嫌いだ。嫌いだ。明日なんかくるな。いやだ。いやだ。
四月十一日金曜日 五日目 「独りになんかさせない。絶対」
布団には入ったが、寝れなかった。あたまが痛い。多分風邪だ。一昨日川にダイブしたのが原因か。眠いし頭が痛いし、悪寒がするし、すごく気持ち悪い。昨日のことを思い出すともっと気持ち悪い。学校とバ先に休みの連絡をする。今日は安静にしてよう。…昨日のことで、あの事を思い出してしまった。
去年の秋のこと。一年生の時。その時は俺は、柔道部に入っていた。友達も多くは無いが、いた。割と、充実していたんだなと今は思う。たぶん見た目と名前のギャップか知らないが、かわいいかわいい言われていた。それで、よく話しかけに来た女子がいた。人間の女子。「牛山 シホ」だ。漢字で書くと「蒡穂」らしい。ただ、漢字が難しいし、読みにくいので、シホは自分の名前をカタカナで書いていた。シホは入学当初俺と隣の席だったからか、絡むことが多かった。ユリみたいに明るくて、優しくて、女子にも男子にも人気があった子だった。俺もシホといて楽しかったのも事実だ。
そして、文化祭の日のこと。そろそろ文化祭が終わる時間。夕方の時。俺たちのクラスは屋台の片付けが終わるころ。俺は、使った道具を片付けるのを忘れたので、やや遅い時間だけど、体育館倉庫へ向かった。ひとりで。着いた。開けようとした。…何か音が聞こえる。男三人と、女子の声。女子は、何か抵抗してるような声がする。誰だかわからないがとりあえず扉を開けた。男は…二年生の先輩だ。トラと、ライオンと、黒豹だ。確かサッカー部のレギュラーの三人。女子は…
「シホ…」
シホは三人に抑えられている。服が乱れて、先輩がシホの体を触っている。先輩が言った。
「ん?一年か?ちょうどいい。仲間が増えたな。この人間を今からヤろうとしてんだけどさ、お前も一緒にどうだ?」
突然すぎて棒立ちだ。
「どうして…何が…」
「どうしても何も、俺達はこいつとは、もともとそういう関係だったんだよ。こいつの家、貧乏らしくてな、お金が足りないらしいんだよ。だから、俺達がお金をあげるかわりに、ヤってた。多分、俺達三人以外にもそういう関係持ってるやつはいるだろうよ。」
「…」
「たーだー。ちょっと飽きちゃって。だから、今日三人でヤることにした。それをこいつに提案したのに、拒否りやがってよ。ちょっとむかついたから、今までのことを先生に話したり、写真ばら撒くぞって脅したけど、抵抗し始めてー。で、めんどいからここまで連れてきて、ヤろうかなってところ。」
「で、一年ヤる?ヤらん?」
今までのシホのイメージが全て崩れ落ちた。シホは俺の方を見た。シホは俺に向かって言った。微かな声で
「助けて」
俺は先輩を殴っていた。それが正解なのかわからなかった。シホは、よくないことをしていたのは事実だ。ただ、あの普段の優しいシホは本物だ。それは絶対に。その優しいシホを襲っている先輩が許せなかった。一人の先輩が逃げて先生を呼び、先生が俺を止めるまで俺はあいつらを殴っていた。シホは泣いていた。
俺は全ての罪を、最初は着せられていた。シホを襲った罪。先輩を殴った罪を。先輩が先生に俺が犯人だと言ったので、先生が、俺が全ての元凶だと思っていた。シホは、あのお金をもらっていたことを隠したいがために、最初、黙っていた。このままだと、俺は退学まっしぐらだ。この情報が高校中に発信され、俺が「最悪な男」として、名が知られた。だが、シホは罪悪感からか、お金のことと、犯人は先輩の方だということを話した。先輩三人は停学となった。俺も、シホを襲った容疑は晴れたが、殴りすぎ。ということで、そこから今年度の三月まで学校を停学することとなった。部活もやめた。というか、辞めさせられた?かな。学校内では、まだ、俺がシホを襲ったこととなっている。シホはそれを弁明する前に転向してしまったからだ。でも、俺も弁明する気はない。いちいち説明してもどうせ信じてもらえないだろうし、見苦しい。たとえ信じて貰えたとしても、そいつらは、俺とつるんでることで周りから冷たいて目で見られてしまうのも明白だ。そんな目で見られるのは俺一人で十分だ。あの時、俺は怒りに身を任せてしまった事がだめなんだ。俺は俺が許せない。
あの事件も風化されていることを信じて二年生になり、学校へ行ったが、まったそんなことはなかった。俺は、誰とも関わってはいけない人物になった。浮かれてた。ユリに、優しいって言われて、あんなに友達みたいに、してしまって。ユリは俺みたいなやつといちゃだめなんだ。俺といたら、最悪なことになってしまう。だから、もうあいつを俺の家にとどまらせてはいけない。そうだ。そうに決まっている。
寝ていた。もう夕方だ。気づいたら、頭に氷水が乗っかっていた。夜ご飯も用意されてる。横に、ユリが寝ていた。あんなひどいこと言ったのに…ユリは俺が起き上がった事に気付き、起きた。
「こんにちは。」
「帰れって言っただろ。」
「やだ。まだ親と喧嘩中。」
「こんな奴といるの、やだろ。」
「やじゃないよ。だって楽しいもん。一緒にいるの。あと、みかん君は、シホちゃんを襲ってなんかしてない。ていうか、その話私元から知ってたし。みかん君が停学になってたこととかも。」
「…どうして。」
「だって、シホちゃん。私と同じ部活だし、おんなじ中学校だったもん。あの子がお金を手に入れるために色々してたこと、知ってたんだ私。」
「…」
「あの事件のことはシホちゃん言ってなかったけど、この数日間一緒に暮らして、わかったもん。みかん君は絶対にそんなことする人じゃない。誰よりも優しくて、でっかくて、可愛くて、面白い人だって。」
「…」
「周りの意見なんて、私たちには関係ない。私はみかん君とただ一緒にいたいの。だめかな?」
温かい。ユリといると温かい。
「俺だって、一緒にいたいよ。」
涙が少し出た気がする。ダメかダメじゃないかを聞かれたのに、違うことを言ってしまったが、ユリには俺の気持ちが伝わった。
「ユリ、一つ…聞いて良い?」
「なに?」
「なんで、あのこと、知ってたのに、俺の家で、住むこと、えらんだの。」
「んー。…偶然。誰の家とか、どうでもよかったんだよ。でもね、私は、みかん君のこと選んでよかったって思ってるよ。」
俺は静かに泣いてた。ユリは俺に抱きついた。
「うん。私はね、君を、独りなんかにさせない。絶対に。」
四月十一日土曜日 六日目 「…多分寂しいかも。」
起きた。隣にユリがいる。今日は、何もない。店長に大事をとって今日も休めって言われた。
「ユリ、起きて。」
「んんん。あー。うん。」
全力で寝ぼけながら起きた。
「「いただきます。」」
今日も今日とてパン。
今日が実質ユリとの最終日みたいなものだ。もちろん明日も、ユリ入るが、俺が一日バイトで、あいつは、一日部活だと。だから、ユリとずっと一緒にいるのはほぼ今日が最後みたいなものだ。だから、ユリは言った。
「今日さ、二人で遊ばない?」
というわけで、俺は年中金欠なので、あまりお金がかからない程度ならOKということで、遊んだ。
「どこ行くの?」
「ふふーん。秘密!着くまでのお楽しみだよ!」
というわけで、家を出発した。俺は街の中では、家と学校とバ先とスーパーと老人ホームくらいしか行かないので、他の場所を歩くのは少し新鮮だ。
「お金がかからない遊びという事なので、みかん君の街で遊ぼうのコーナー。その一〜。どん!」
映画館だ。いや、金かかるやんって言おうとしたが、ユリは何かの紙を出してきた。
「なにそれ。」
「これはね、映画ペアチケットといいましてね、これがあれば、む、りょ、う、で、映画が見れるわけなんですよ〜。」
「おお。」
拍手しちゃった。
「しかもね、なんと4DXなんすよ〜。」
「おお?」
よくわからないが、拍手
というわけで、最初は映画を見る。ポップコーン?そんなものは俺の世界的には存在してはいけないので、買わない。高すぎる。そこはケチる。映画の名前は「ひゅーまん?」だ。なんか、海外で有名になった映画らしい。内容は、獣人の夫婦から生まれた人間が色々な場面をコミカルに乗り越える、という話。これが実話ということには驚いた。人間を主役とした題材は珍しい!みたいな感じで有名になった。初めて映画を観るので大きい音が出た時毎回ビクッとする。あと、水とか出てくるし、なんか場面にあった匂いも出てくる。軽いカルチャーショック?的なのを受けた。映画の感想としては…。面白かった。ギャグが万人ウケな感じがした。最後の無理矢理泣いてくださいみたいな展開はそんなに好きじゃなかったけど、全体は良かった。映画館を出た。ユリに感想を聞く。
「俺は面白いって思ったけど、どうだった?」
「うーん。最初の展開がなんか軽すぎたけど、それ以外はよかった。」
「最初って?」
「ほら、あのー、人間が」
「それが軽いってなに?」
「なんかさ、獣人の両親のノリが軽いって言うか、人間が生まれてきたのに、案外すぐに受け入れるんだなーって。」
「…普通、親は子供が大切だから、どんな子でも好きなんじゃないのかな。だから、受け入れられるんじゃないの?」
「…たしかに。なら、この映画は良作ですな。」
俺もそう思う。よかった。駄作が俺の初めて観る映画にならなくて。
映画を見たら、もうお昼近くだ。
「次はどこ行くの?」
「次はね、ご飯です。」
ユリが選んだ店は、なんか、イタリアのファミリーレストラン。高そう。
「ここね、高くないんすよ。というかここ超絶安い。ハンバーグステーキが四百円。」
「おお。」
拍手しといた。店に入る。中はお洒落な感じ。ファミレスお洒落とか言ってるやつ俺くらいだろ。座ってすぐに、ご飯を頼む。店員さんを呼ぶ。
「私はー。このドリアとー、この青豆サラダで!」
「ハンバーグステーキ一つで。」
「ご飯いらないの?」
「これ一つでお腹膨れるから、平気。」
店員さんが、注文を聞いて、奥へ退散する。二十分くらいかかるかなー。とか思ってたら、五分足らずで来た。え、俺ら頼む前から作ってた?って位のスピードだった。食べてみた。…これで四百円?値段表記ミスってないか?めっちゃ美味しいぞ。
「どう?ハンバーグ美味しい?」
「…うん。外食、一年ぶり。」
美味しくて、ハンバーグをどんどん口にいれる。
「良いねー。でも炭水化物ないじゃん。はい、私のドリアちょっとあげる。」
「ん、あひはほう。」
くちを押さえながらしゃべったけど、「食ってから言いなさい」とユリに言われた。ユリに礼儀で注意されて、ちょっと恥ずかしくなった。
「次は?」
「次はねー、ここです。」
「…カラオケ?」
カラオケって、歌うだけでお金がとられるやつか。一時間で千円?バイト一時間分?すごいやだ。
「ここのカラオケはですね、高校生だけの利用だと〜なんと、部屋代0円!で、ワンドリンクオーダーにすれば、三百円ちょいで三時間以上滞在する事が可能です!」
「おお。」
拍手。とりあえず、入ろう。個室だ。
「なんか、部屋暗くね?」
「私、カラオケする時部屋暗くしたい人だから。」
「へー。」
「よーし、じゃあ、三時間ぶっ通しで歌うぞー!みかん君なに歌える?」
歌か、バンドの曲とか、アニメの曲とかよくわからない。
「うーん。小中学校で習った曲は歌える。」
「え笑?それカラオケで歌う人存在するんだ笑。面白いから、みかん君それ歌ってね。」
なんか馬鹿にされてるようだけど、まあ楽しそうだし許す。
俺は俺の知ってる曲を歌い、ユリは流行りの曲とか、気分が上がりそうな曲を歌ってた。
「…ユリさ、自分の好きな曲歌わないの?」
「え?」
「いや、なんか、テンション高めな曲歌ってるけど、他のジャンルの曲歌いたそうな感じがして。」
「…いい?全力で静かな曲だけど。」
「どうぞどうぞ。」
ユリは宣言通り、静かーな曲を歌った。なんか、あなたがいなかったら死ぬのがマシだわー。みたいな曲。ユリ、こういうの好きなんだ。って思った。
今四時。そろそろ夕方に差し掛かる。
「他、どっか行く?」
「うーん。あ、私の買い物の手伝いしてもらって良い?」
「全然。いいよ。」
ユリは服を買いたいらしい。春ものを。俺達はたくさんの服屋を回った。レディースのコーナーに男がいるのは少し恥ずかしかったが、まあ、ユリの買い物だから、仕方ない。ユリは試着で俺に服を見せる。
「どお?可愛い?」
ワンピースを来てる。おれは、人間の可愛い可着くないはあまりわからない。けど、
「うん。すごい、似合ってる。」
本音だ。それだけは確か。だって着てるユリはすごい楽しそうだから。ユリはそのワンピースを買った。もう時刻は六時。
「帰るか。」
「うん。」
「今日はさ、ありがとな。」
「こちらこそ。みかん君かわいかったよ。」
なにがかわいいんだか。よくわからないが、まあ、いっか。
この生活は、もうほぼ今日で終わる。なんだか、早かった。すごく。終わってほしくないが、ユリがずっと親と喧嘩してるのだけは避けなきゃいけないので仕方ない。帰り道、歩きながらユリは言った。
「実はね、親と電話したの。」
「ほう、どうだった?」
「無事にね、仲直りできたよ。」
「お、良かった。てか、どうして、喧嘩してたの?」
「あー、…進路とか、もろもろと。」
「まあ、喧嘩するほど仲がいいっていうから。この状況で使う言葉かよくわかんないけど、親は大事にしろよ。」
「…うん。」
若干返事が弱かった。まあ、仲直りあとは少し気まずいのかな?俺は親と喧嘩した記憶なんかもうないから知らないけど。
「だからさ、みかん君、私のこともう心配しなくていいよ。」
「ユリがそういうなら、そういうことなんだろう。」
「みかん君、わたしがいなくて寂しくなっちゃうんじゃないのぉぉ?」
「…多分寂しいかも。」
ユリの足が止まった。
「…私も寂しいよ。」
小さい声で言った。
「まあ、学校で会えるから、平気だよ。平気。また、家遊びに行くからさ!」
なんか、雰囲気が変だな。気のせいか?気のせいか。ユリは再び歩き始めた。家に着き。夜ご飯を食い、風呂に入り、俺達はすぐ寝た。疲れた。ずっと外にいるのって、大変だなって思った。明日が来なきゃいいのに。そんなことを思いながら。寝た。
四月十二日日曜日 七日目 「一人」
おはよう。
「「いただきます。」」
「もう、家、出るのか?」
「うん。このあと一日部活だし、そのまま家帰るよ。」
「忘れもんないか?」
「へーき。大丈夫。」
「あ、みかん君、」
「何?」
「頭、ポンポンして。」
「え?」
「良いから。」
「…」
ポンポンした。ユリは嬉しそうにしていた。
「じゃあまた、明日な。」
「うん。明日。」
ユリは家を出た。
扉を開けて、外に出た。
扉が閉まった。
俺は一日バイトだ。
俺はユリが出た一時間後に家を出た。
バイトは特にミスをしなかった。
帰った。
一人。
ご飯も一人。
風呂は自分で洗う。
寝室の布団は、一つ。
一人って、寂しいな。
でも大丈夫。
明日、
明日になればあいつに会える。
早く明日にならないかな。
おやすみ。
四月十三日月曜日
ユリは学校に来なかった。携帯でメールを送った。どうしたって。返信が来た。熱が出た。と。明日には来れるって。なら良かった。
四月十四日火曜日
ユリは学校に来なかった。携帯でメールを送った。返信が来た。熱が下がらなかったと。多分明日には来れるって。
四月十五日水曜日
ユリは来なかった。メールを送った。まだ、熱があるって。大丈夫だよって。
四月十六日木曜日
来なかった。あっちからメールが来た。ごめんね。って
四月十七日金曜日
来ない。ごめんねって。メールが来た。
明らかにおかしい。何か、引っかかる。あいつはそんなに病弱だったか?川にダイブしても、平気だったのに。一週間も熱があるってのは、流石におかしい。土曜日遊びに行った時の帰り、親と仲直りしたって言ってた。本当に仲直りしたのか?わからない。俺は何かできることはあるのか。ただの熱なら、それはそれでいいのだが、そういうのじゃないって、そんな感じがする。
「お見舞いいくか。」
って心の中で決めた。よし、今日行こう。学校終わったら行こう。…ユリの家ってどこだ?隣町ってことしか知らない。行けないじゃん。…いや、行ける。あの人に頼めば、
「あ、あの、剛久くん?」
あの体育で同じペアになったネズミくん。
「あのさ、剛久君ってさ、ユ、黒瀬さんと同じ中学校だったよね。あの人の家、わかる?」
ユリ以外だとへっぴり腰の俺。情けなさがすごい。
「…なんで君が黒瀬の家を知りたいの。」
「えっと…、おみまい?かな。」
「お見舞いねぇ。」
あの事件を知ってるから、疑いの目がすごい。
「ほら、席が隣だったから、割と話すことが多くて。五日連続で休んでるからさ、ちょっと心配でさ。」
「僕は君が黒瀬に会うってことが心配だけど。」
「じゃ、じゃあさ、一緒に黒瀬さんの家、行ってくれない?それなら、安心じゃないかな?」
「…僕部活あるんだけど。」
「じゃあ部活終わった後で!おねがい。」
「…」
数秒剛久は考えて
「まあ、俺も黒瀬のこと心配だし、いいよ。ただし、あいつのこと手出したら許さんからな。」
「手なんか出さないよ。」
放課後になった。ユリには事前にメールを送ったが、特に返信はこない。剛久とは校門前で集合ということになってる。剛久の部活が終わるまで、近くのコンビニでユリの好きなみかんゼリーでも買っておく。あいつが、元気なら喜ぶかなって。元気じゃなくても俺が元気させる。
部活が終わったらしい。剛久と合流する。
「じゃ、行くよ。」
ずっと冷たいけど、なんやかんや付き合ってくれてる剛久はいいやつなんだろう。二人で歩く。全く話題を考えてないから黙ってユリの家に向かってる。き、気まずい。歩いてから二十分くらい経ってから、
「佐々木はさ、黒瀬の中学校時代。知ってる?」
急に話しかけてきた。
「え、知らないけど。」
「…あいつはな、中学校の時おとなしいやつだったんだ。」
あのユリが?信じ難い話だ。
「だから、高校のキャラ…というか、性格、なんか、無理し元気を出してるような気がする。だから、佐々木の心配って気持ちはわかる。」
「…」
「佐々木はさ、黒瀬の事、好きだろ。」
「え、」
「だって、この一週間、お前ずっとソワソワしてただろ。黒瀬がいなくて心配だったんだろ。そんなに心配するのって、好きな人とか家族くらいだろ。」
…俺は、ユリのことが好きなのか?好きだから、こんなに必死なのか?
また、沈黙が始まった。そのまま歩き続けた。時刻は夕方六時半。ユリの家に着いた。両親が医者ってだけあって、豪華な家だった。インターホンを鳴らした。「はーい。」という声が聞こえた。多分、母親だ。出てきた。
「え」
ユリの母親は、犬獣人だった。いや、正確に言うと、人間の血も入っているように見える。多分獣人と人間のハーフだ。
「ごめん言い忘れてた。黒瀬の両親ってどっちも犬獣人だから。」
こそっと剛久が俺に報告してくれた。あの映画みたいなことってこんな身近であるんだ。
獣人から人間が生まれてくること。それはごく稀な例。父も母も獣人と人間のハーフの場合、純粋な人間が生まれてくることがあるらしい。それがユリだったのだ。
「あ、剛久君。久しぶり。それと…どちら様ですか?」
母親が言った。
「俺は佐々木です。ユリさんの友達です。ユリさんっていますか?」
丁寧口調で言う。
「ユリは、今寝てるわよ。」
「熱、まだ下がらないんですか?」
「そうね、確かまだ熱が下がらないみたいで、結構辛いらしいわ。」
みたい?らしい?
「…いつから、熱なんですか?」
「確か…土曜日からだった気がするわ。」
土曜日?
「他に何かあるかしら。渡したいものとか。」
なんだか、今母親に渡してもダメな気がする。みかんゼリーは持ってるが、
「いや、特にないです。」
「いえいえ、それじゃあ。さようなら。」
ドアを閉められる。なんだか、ここでドアを閉められたら、多分、一生後悔する気がする。俺は、体が勝手に動いた。
「待ってください。」
ユリの母が閉めようとしたドアをガシッと押さえた。俺の図体がデカくて、威圧感があったのか、ビクッとされた。
「やっぱり、ユリに会わしてください。渡したいものがあるんで。」
「…渡したいものがあるなら私が渡すってさっき、、」
「土曜日は、俺とユリは一日中ずっと、いました。ずっと元気でしたよ。あなたは、何故嘘をついたんですか。」
ユリの母はドキッとしていた。
「…あー。間違えた。日曜よ。日曜。日曜日の昼くらい…から、だったわ。」
「日曜の昼って、ユリはその時部活だって、言ってましたよ。」
ユリの母は、汗がでている。焦っているのか。
「ごめんなさい。とりあえず、今、部屋が散らかってて、とてもとても人を入れれる様なものじゃなくてね、、」
…俺は、非常識な行動に出た。
「…ごめんなさい。お邪魔します。」
勝手に家に上がった。だって、怪しいんだよ。おかしいんだよ。多分、こんくらいしないと、ユリに会えないと思った。
「ちょっと!」
ってユリの母が言ってたけど無視した。
「おい…」
剛久は困ったように呼びかけてきたが、無視させてもらった。家を上がり、ユリの部屋を探す。一階はリビングがあったので、多分、二階に部屋があると思い、階段を上がる。二階には、二つの部屋が近くにあった。手前の扉から開けて確かめる。一番手前は、男もののフィギュアとか、男ものの家具が綺麗にあった。多分ユリの兄の部屋だ。もう一つの部屋がユリのだ。ごめん。開けるね。と言い、扉を開けた。
真っ暗な部屋には、ユリはいなかった。さっきの綺麗なユリの兄の部屋とはうってかわって、ぐちゃぐちゃな部屋だった。床には紙がしわくちゃな状態で落ちてたり、本は引き裂かれてるものもある。服も、何もかも、ぐちゃぐちゃだ。ゴミも溜まってる。ゴミ袋が部屋の隅に集められている。
唖然とした。
「…なんだこれ。」
追いかけてきた剛久も唖然としていた。ユリの母も来た。俺は、ユリの母に聞いた。
「ここ、ユリの部屋ですか。」
「…ええ。そうよ。」
「ユリはどこですか。」
「…」
「どこだって聞いてんだよ!」
「し、知らないわよ!ずっと話してなんかないんだから!」
ずっと?どういうことだ。何もわからない。ユリはどこにいるんだ。すぐに電話をしてみた。…何も繋がらない。どこだ。どこだ。どこだ。
周りを見渡した。なにか、手がかりはあるのか…。
「あ」
床に、見覚えのあるノートが落ちていた。
落ちてたそれを拾ってみる。
「かぞくとやりたいことのーと。」
何か、わかるかもしれない。…かぞくとやりたいことのーとを開いてみる。続きを見てみよう。。何かがわかるかもしれない。
「そのさん おにいちゃんとあそぶ」
…丸がついてない。「そのいち」と「そのに」は、丸がついていたのに。未達成ってことか?
「そのよん おかあさんとおふろにはいる」
丸がついてない。
「そのご おとうさんとどらいぶにいく」
丸がついてない。
だいぶこのノートには書いてある。ページを飛ばしてみる、
それ以降は全て丸がついていなかった。
「そのにじゅうさん ようちえんのはっぴょうかいをおかあさんにみてもらう」
「そのさんじゅうご ともだちとわたしのいえであそぶ」
「そのよんじゅうに かぞくとごはんをたべる」
その五十後半から漢字が使われ始めた。
「その五十七 お兄ちゃんとなか直りする。」
「その七十三 家ぞくとねる」
「その八十 家ぞくと話す」
百を超えてから、完全に漢字が使われてる。
「その百三十 お兄ちゃんは、私のことを殴らないでほしい」
「その百三十一 お母さんは私のことを無視しないでほしい。」
「その百三十ニ お父さんは私のことを動物みたいに扱わないでほしい」
ここらへんは、「したい」じゃなくて「しないでほしい」と言う内容だった。
「その百五十七 家族として、私を愛して。無視しないでほしい」
「その百七十九 愛してくれる家族がほしい」
さいごは、家族とやりたい事、とか関係ないことが書いてある。
「その二百 死にたい」
ここでノートが終わった。鳥肌がたった。この「その二百」は、最近書いたものだと思う。まずい、これは、やばい。
ユリが死ぬ。
あいつは、家族と仲直りなんかしてない。あいつは、恵まれてなんかいない。あいつは、家族に
家族として見てもらっていないんだ
あいつは、今どこにいる。なにをしてる。多分自殺するための場所へ向かっているはず。まだ、間に合うはずだ。だけど、ユリがどこにいるのかがわからなければ何もできない。あいつが、行きそうな場所。死にやすい場所。どこだ。どこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだ。あいつの言葉が浮かんだ。あの、川で遊んだ時のセリフ。
「私ね!辛い時とか悲しい時はね、いつも川に行くの!川はね、どんなに嫌なことだって全部流してくれる気がするから!良い空気で、綺麗な水で。素敵な場所でしょ?」
ここだ。それで自殺しやすい場所。…橋だ。そこだ。そこしかない。すぐにユリの母に向かい、問いただす。
「なあ!ここから一番近い橋はどこ?早く!」
「えっ、なに」
「いいから!このままユリが死ぬ!早く教えて!」
「え、えっと、ここから一番近いのは、ここから右に出て、歩いて三十分くらいの、一文字橋っていう、白洲川を跨いでる橋があって、」
俺はすぐにその一文字橋へ向かった。家を飛び出した。走った。自分の学校のバッグはそこらへんに捨てて、あのノートだけ持って走ったお願いします神様。あいつを、助けたいんです。お願いします。お願いします。
私の名前は黒瀬ユリ。人間だ。私は、ほぼ犬獣人の両親から生まれました。上に兄が一人います。兄も獣人です。私は、家族から、家族としての扱いを受けたことが一度もありません。なぜなら、私が元奴隷の歴史がある。人間だから。人間は、立場が弱いんです。運動能力に秀でているわけでもない。かと言って特別な能力があるわけでもない。凡人なんです。だから、人間が嫌いな獣人は一定数います。だから、凡人だから、エリートな両親と兄からは、いらない子なんです。両親は兄を溺愛してました。私の愛の分も兄にまわしていました。兄は絶対にエリートになる。兄は、絶対にたくさん勉強すべきだと言って。私は兄から暴力を受けてました。サンドバッグみたいに私を扱って、ビンタして、腹を殴って、倒れたところで蹴って、私の頭を踏んだり。でも、両親は兄のことは何にも言いません。なって私が傷ついていようがいまいが、どうでも良いからです。近所の人から、悪い目で見られないよう、服をきて、見えないところは、殴って良いって。兄に許可を出してました。幼稚園の頃から、私は家族と一緒にご飯を食べたことがありません。ドライブだって私抜きで楽しんでいました。祖父母や親戚や近くにいないので助けなんて呼べませんでした。近所の人に助けを求めるという思考には至りませんでした。でも、ちゃんとおしゃべりはしましたよ。まあ、基本私のことを罵倒しただけだけど中学校の時まで、そんな生活が嫌で、ずっと学校は静かに暮らしてました。ただ、そんなことをしても、なにも変わらない。ただ、自分だけが辛いだけです。だから、高校から元気でいようって。ちょっと疲れるけど、周りからは幸せに見える。私も、幸せな気分になれた気がした。身体中のアザとか擦り傷とか、そんなものも忘れるくらいに。
高校二年生になった初日。お兄ちゃんが私のことを殴ってきました。今回はいつもと違う。本気で、殴ってきました。テストで悪い点数を取ってしまったかららしいです。私は逃げました。怖くて、つらくて。気づいたから、隣町まで来てました。私の高校がある町へ。少し疲れたので、空き地の奥の木の陰で休みました。起きたら、家の中にいました。寝室でしょうか。外に出たら、お湯を温めてる佐々木君がいました。たしか、シホちゃんを襲った狼獣人。人間を襲った最悪な獣人。なんで私を部屋に入れたのでしょうか。人助け?もしくは私を襲うために?そんなことはどうでもいい。
私は一回、家離れがしたくなりました。家に帰ると、鬼の形相をして私を殴ってくる兄が怖いので、一週間離れて、兄の怒りがおさまるまで、他の人の生活に混ざってみたくなりました。聞いてみると、佐々木君は一人暮らしだそうです。なら、一週間滞在しても平気そうだなって思いました。あの、人間を襲ったらしい獣人と暮らします。正直、私は佐々木君に、「襲われたかった」です。なぜなら、今まで私は生きている意味がない人間でした。生きていても死んでいても、あまり変わらない存在でした。でも、佐々木君が私を襲ってくれたら、私は佐々木君にとって、性の対象になる。それは私が初めて「生きている意味ができる」瞬間です。だから、襲われたかった。
でも、いくら経っても、みかん君は私を襲いませんでした。隣で寝ても。わざと抱きついても。襲いませんでした。私はいつのまにか、みかん君が、好きになっていました。私を私として認識してくれた獣人です。みかん君の特別な人になれました。初めて生きててよかったって思いました。クラスの子に「あいつは最悪な男」と言われても、信じない。その時はとりあえず「わかった。」って、適当に返事をしたけど、あのみかん君がシホちゃんを襲ったわけない。だって、あんなに優しいのに。おばあちゃんに対しても、あんなに優しいのに。
一緒に映画とか、カラオケとか。楽しかった。初めて、「自分の好きな曲歌ってもいいよ」って言われた。嬉しかった。周りの人から見たら、どうでもいいことかもしれない。けど、私にとっては最高なことなんです。
ああ、みかん君。私の、大好きな人。愛したい人。私にあたたかいごはんを作ってくれる人。お風呂を先に入れてくれる人。話を聞いてくれる人。一緒に寝てくれる人。笑ってくれる人。頭を撫でてって言ったら、撫でてくれる人。
私の好きな人。
日曜日、本当の家に帰ってきました。兄の怒りは収まるばかりか、さらに増していました。サンドバッグが不在だったので、イライラしてたのでしょう。私を蹴りました。顔にアザができました。両親からこの状態で家から出るな。虐待だと思われる。と言われて、学校を休みました。その後も兄に殴られ蹴られ、顔や、足や、手など、見える場所にアザなどができて、どんどん学校に行ける姿ではなくなってきました。そして、気がつけば、五日間休んでいました。
こんなことをされても私が生きているのは、一回、親からプレゼントされたことです。全然相手にされなかったのに。中学一年生の頃、誕生日プレゼントをもらったんです。黒いユリの花束を。それが生きる糧だったのです。あんなことされても、私は両親や兄は愛してます。だって家族なんだから。
でも
今日、
気づきました。
それはプレゼントじゃないんです。呪いなんです。
黒ユリの花言葉は
「呪い」です。
私は、黒瀬家の呪いなんです。邪魔な存在だって、という意味で両親からもらったのです。
私の名前、「黒瀬ユリ」は、黒ユリからきています。私は生まれた瞬間から、「呪い」という存在だったのです。
だから、私はいらない子。もう、どうでも良くなって、二階の自分の部屋の中で暴れました。物を投げました。壁に当たったり、窓から飛び出た物も何個かありましたが、どうでもいい。
私は、夕方六時に家を飛び出しました。走りました。
私は、いらない子。だから、私は、今から、この
「三段橋」から飛び降りて死にます。三段橋は大きくて、高さは大体二十メートル以上はあります。飛び降りれば簡単に死ぬでしょう。
誰も悲しまない。むしろ、親からは喜ばれる。これよりいいことなどないでしょう。
それでは、今までありがとうございました。私は柵の外側に立ちました。
さん
にー
いち
飛び降りました。橋から飛び降りました。こんなに気持ちのいいジャンプは初めてです。神様今までありがとう。短い人生でしたが、楽しかったです。今は、夜七時十二分三十三秒。それが私の最期です。
「ユリ!!!!」
手を掴まれました。上を向きました。
「…みかん君。なんで、いるの。」
俺は思った。ユリが好きな川は「白洲川」なんかじゃない。ユリが好きなのは、綺麗な空気と綺麗な水が流れてる、「川鳴川」だ。だから、川鳴川の三段橋にいると思った。途中からルートを変更して走った。よかった。間に合った。
「ユリ、死んじゃダメだ。絶対に。」
ユリは泣いてた。
「…もう、いいの。私は生きてる価値なんかないの。ただ、お兄ちゃんに殴られるだけの人間なの。お願い。手を離して。」
「絶対やだ。お前は、俺を助けてくれたんだ。俺を独りじゃなくしてくれた。だから、今度は俺がお前を助ける。」
「…私が生きてていいことってあるの?ねえ、答えてよ。私を助けたいんだったら、私が生きてていいって思えるようにしてよ!」
「俺がお前のことが好きだから!お前以外に好きなやつは一生いない!だから!生きろ!」
俺は、ユリが好きだ。獣人は人間を好きにならないとか、そんなん知るか。俺は、ユリが好きなんだ。優しくて、笑顔が可愛い女の子なんだ。俺は、あいつを守りたい。
ユリは、ハッとした。ユリはぶらんとしてた反対側の手で俺の手を掴んだ。
「よし!引き上げるぞ!」
精一杯の力を使ってユリを引き上げる。
…助けられた。命を助けられた。
「ユリ…」
ユリはまだ泣いてる。
「私、これからどうすればいいんだろ。」
ユリはこのまま変わらない生活をすれば生き地獄のままだ。だから、俺がそれを変えよう。
「なあ、ユリ、これ、返すよ。」
「かぞくとやりたいことのーと」を返した。
「え、なんで持ってるの。」
「お前の部屋にあった。勝手に入ってごめん。あ、後、勝手に中見ちゃった。ごめん。」
「…」
「確か、その百七十九、だっけ?それなら、俺がお前の願いを叶えるよ。」
「その百七十九 愛してくれる家族がほしい」
「なあ、ユリ」
「俺たち、家族になろう。」
ユリは数秒固まる。
「えっ」
ユリの顔が赤くなる。
「えっ、えっ、嘘、えっ」
「嘘じゃない。本当さ。なあ、ユリ。俺はお前といた時が幸せだった。だから、家族になって、一緒に暮らそう。な。」
今全部勢いで言った。我に返った。急に恥ずかしくなった。
「あ、でも、あれな!家族って!別にまだ、そういう段階の話じゃなくて!その、一緒に暮らすっていう比喩的な表現っていうか!えーと。えーと。」
あたふたしてたらユリは笑った。
「ふふ。そんなことはわかってるよ。みかん君。これからもよろしくお願いします。」
「…うん。よろしく。」
遠くから声が聞こえた。
「お前らここにいたのか。一文字橋にいないから焦ったぞ。」
「お、たけたけじゃん!」
ユリは剛久をたけたけと呼んでる。
「たけたけ言うな。平気か?黒瀬。」
「うん。今、平気になった。ありがとう。」
「俺が、佐々木を案内したんだからな、感謝しろよ。」
「うん。ありがとう。」
「佐々木も、黒瀬を救ったんだろ。ありがとう。はい、これ。お前が道端に捨てた荷物。」
「うん。こちらこそ。」
帰りの、月明かりが美しい。剛久とも、別れ、ユリと二人で帰る。
「月、綺麗だね。」
ユリが言ってきた。
「…うん。死んでもいい。いや、今は、死にたくないな。」
少し、どちらも黙った。ごめんね。今は、恋人にはなれない。
「家族になるってことはさ!苗字も変わるよね。」
「そうだな。」
俺とユリは家族になる。恋人ってことじゃない。今、ユリが必要なのは、「家族」だ。俺とユリが恋人になるのは、もうちょっと後にしようって決めた。
「じゃあ私の名前は今日から、佐々木ユリですな。これからもよろしく!」
「よろしくな、ユリ。」
家に帰った。ご飯を用意する。
「「いただきます。」」
「あ、これ、みかんゼリー。」
「え!いつもケチなのに!ありがとう!」
「一言余計だぞ。」
ユリは笑って。ゼリーを食べた。
「「ごちそうさまでした。」」
風呂に入る
布団に入る。寝室で布団を二個並べる。
「じゃあ、おやすみ。」
「おやすみ。」
二人で寝るのは少し久しぶりだ。それだけで俺は幸せだ。ユリは俺の布団に入ってきた。
「ちょっ、ユリ、」
「いいでしょ?今日くらいは!一緒に寝ようよ!」
「っっ、まあ、いいよ。」
俺の顔が赤くなった。
俺達は一つのベッドで寝た。
四月十八日土曜日 「キュンです」
起きた。隣に寝てたユリは何故か体が寝る前と向きが反対になって、足で俺の顔を蹴ってる。
「おはよう。ユリ。」
「わぁぁぁ。おはよう。みかん君」
これからは、これがいつもと変わらない毎日になる。
「「いただきます。」」
ユリは、本物の家族から離れた。家に置いてある。この土日で、ユリは自分の荷物とか保険証とかいろいろを、こっそり持ち出したらしい。そして、手紙を置いた。
「今までありがとう。手続きとか諸々はもう書いたので、ハンコ押しといて郵便局とか色んなところに提出しといてください。私は、もうあなた達の家では住みません。私を育てるのがめんどくさくて、私の養育費を一気に金を入れて用意した口座ももらっときました。ありがとう(笑)」
この「(笑)」にどのくらいの気持ちが入っているのだろうか。それはユリしかわからない。あと、ユリの今までの家族との話とか、なんで俺と住むことを選んだのかの本当の理由を教えてもらった。ちょっとショックだけど、本当のことを話してくれて嬉しかった。この話をしてた時、ユリがまた泣いてたので、俺は背中をさすった。
「ねえ、みかん君。」
「…なに?」
「あの、あのノートに、丸をつけれるように手伝ってくれない?」
「かぞくとやりたいことのーと」のことだ。あのノートには、ユリが今まで家族とやりたかったことが全部詰まってる。ユリは家族とは、そのやりたいことは達成できなかった。けれど、今の家族は俺だ。俺とユリなら、あのノートに書かれてることは、きっとできるはずさ。
「ああ、もちろん。手伝うよ。ただし、その二百は絶対に丸はつけさせないから。」
「…ありがと。」
これからは佐々木みかんと佐々木ユリの二人の生活だ。俺はまだ。クラスに馴染めてないし、ずっと嫌われてる。ユリだって根本が解決したわけでもない。ただ、俺達はまた、一緒になれたんだ。一緒になれたんだから、どんなことだって乗り越えられる。だって家族なんだから。家族は最強なんだ。な、ユリ。
次の月曜、二人で登校した。
なんも変わらない授業。眠くなりそうだ。ふと、俺は横を見た。ユリと偶然目があった。
ユリは親指と人差し指を交差した手を見せてきた。…確か「キュンです」だったよな。俺も、その「キュンです」をやった。今度は、ちゃんと。その意味を込めてユリに送った。
最後まで読んでくれてありがとうございます!
みかん君とユリちゃんのお話はどうでしたか?家族になるとか言いながら、最後の最後にいっしょに暮らすことが決定しただけですけどね。
でも〜初めてにしては伏線とか頑張って張ったつもりなんですよ。褒めてください。褒めて!!!!
裏話的な感じですけど、元はユリちゃんの位置は他の雄獣人の予定だったんです。BLとかではなくて、ほんとに家族としてなる?みたいな?感じだったんですけど、やっぱ異性で異種族の方が萌えるので、変更しました。
続編は〜まあ、ぼちぼち作ろうかなって思ってますわ。それではいつの日か。