キセキのバスケ
前回までのあらすじ
待ち合わせ4時間前に日和と合流
日和が走っている間に飛月と作戦を話すつもりが
王真の不用意な言葉で飛月は怒ってしまい通信拒否
それでもなんとかデートらしいやり取りで乗り切り
開店した総合運動施設へと入って行くのだった
男用の脱衣所を通り貴重品をロッカーに預け、進んだ先で日和と合流することになっているんだが、女子更衣室から日和が出てこない。
日和も俺と同じで元々動きやすい服装をしていたから着替えに時間がかかるはずないんだが……、そう思い少し心配になり始めてから数分後、日和は軽い足取りで出てきた。
「おっ待ったせ~、それじゃあまずはなにしよっか?」
無邪気にそう聞いてくる日和にまずは聞かなければいけないことがある。
「日和、なんだその恰好?」
日和は着替えていた。
正確には脱いでいたが正しいんだが。
日和の格好はインストラクターみたいな人たちと変わらないオレンジ色のスポーツブラに紺色のスパッツだけ、良い言い方をすればスポーティなファッションだが、見方を変えれば肌色多めなファッションだった。
「あれ、ウチの格好なんかおかしい? 今から動くからこれくらいラフなほうがいいと思ったんだけど」
たしかにここはスポーツ施設内とは言え、さすがにここまでスポーティな格好をしている女子はかなり少ない。なにより、日和の奴はどうやら着やせするタイプの女子だったらしく、キャラ的に飛月(元)くらいのまな板を想像していたんだが、それなりのものが主張しているのではっきり言って目のやり場に困る。
「おかしくはないが、なんて言うか……、まぁ、日和がそれでいいならいいんだが」
「ん? よくわからないけどウチはこれでいいよ。さぁ張り切って遊ぼう!」
元気よく駆け出した日和の後を追いかけようとすると、インカムを通じて飛月の声が聞こえてきた。
「『なにを欲情しているのですか? にに様は本当に変態ですね』」
「『(まだ若干怒っているようだが、時間が経ったおかげか大分治まったみたいだな)欲情なんかしてねえよ』」
「『顔を赤らめて胸を見ていたくせによく言いますね』」
「『なっ、お前、どこから見てるんだ?』」
てっきり飛月は中に入ってこないものだと思っていたが、どうやら中に入ってきて近くから俺のことを見ているようで、飛月の姿を探そうと辺りを見渡す。
「『そんなことはどうでもいいんです、それより早く大空を追わないと見失ってしまいますよ』」
そうだった、さすがにデート中の相手を見失うわけにはいかない。すぐに日和へ視線を戻すと、飛月と話している間に日和の背中はかなり小さくなっている。
「『そうだな。その、さっきは悪かったな』」
「『……そんな心のこもっていない謝罪で許すと思っているのですか? その口調からみても何故、私が怒っているのかもわかっていないようですし、そもそもわかっていて心から謝罪しても許しませんし、とにかく今は私のことより大空のほうを優先してください、なんのために私がサポートを再開したと思っているのですか?』」
「『ああ、わかったよ』」
俺は日和の後を急いで追ってなんとか追いついたんだが、追いついた先はバッティングセンターでもなければフットサルコートでもなく施設内のバスケットコートと書かれた場所だった。
「ちょうどコート空いてるし、1on1しよう?」
「(ワンオンワン?)なんだそれ、犬の映画のことか?」
「あっはは、あれはどっちかというとワンオーワンでしょ、相変わらず王真くんは面白いね」
「『このタイミングでボケられるなんて随分進歩しましたね?』」
どうやら傍から見れば俺がボケを狙ったように見えるらしいが、言うまでもなく俺自身そんなつもりは全く無い。
「あれ、もしかして王真くんって本当にバスケ知らないの?」
どうやら察せられるほど呆けた顔をしていたようで、日和がその事実に気づく。
「名前くらいは聞いたことあるが実際にやったこともないしルールもよく知らない」
「そうなんだ、それじゃあバスケは止めておこうか」
少し残念そうな日和を見て、しまったと思いフォローしようとすると、それよりも早く飛月からのダメ出しが聞こえてきた。
「『なにデート相手に気を遣わせているのですか? バスケくらいならルールを知らなくてもなんとかなりますから1on1を受けてください』」
「『今お前、世界中のバスケファンを敵に回したぞ』」
飛月の言葉の内容はともかく、せっかく親密度を上げるチャンスを無駄にするわけにはいかないか、なんとかワンオーワンとやらを日和と出来るように仕向ける。
「止める必要なんてねえよ、ワンオーワン? 受けて立つぜ」
「えっ、ホント!? あ、でもルールわからないって」
「大丈夫、バスケくらい細かいルール知らなくてもなんとかなる(らしい)から」
これくらい挑発じみたことを言わないとワンオーワンができなかったとは言っても、この瞬間に俺もバスケファンを敵に回してしまう。
「それじゃあ、早速1on1をやろう! 久しぶりにバスケするから楽しみだな」
ウキウキしている日和を見てホッしながらもかなり焦っていた。
「『そういうことだから、急いでお前の知ってるバスケのルールを教えろ』」
俺はワンオーワンが始まる前に飛月からできる限りバスケの簡単なルールの説明を受け、ワンオーワンを始めたんだが、ルールをある程度把握した後半すら、日和には敵わずに女子に歴史的大敗をしてしまった。
バスケの性質上、背の高いほうが圧倒的有利なはずなのに俺は圧倒された。ちなみに身長差は大体20センチくらい(ちょっと見栄を張ったので実際は15センチ程度)あるにも関わらずシュートは防がれるし防げないしで、9回やって1回も勝てなかった俺は冷たい床で仰向けに倒れている。
「あっはは、やっぱりウチの圧勝だね、最後の1本くらいは王真くんも頑張ってよ」
日和は余裕の笑みを浮かべながらそう言ってボールを手渡してくれる。
「『それにしても1本も取れないとは随分情けないですね、私が教えたようにミスディレクションを使って抜き去るとかフリースローラインからダンクしてみればいいじゃないですか』」
「『魔力があるって言ってもそんなキセキみたいな技を使えるわけないだろ? だいたいこっちは初心者なんだからこんなもんだろ』」
「『そうは言ってもさすがに情けなさ過ぎです。このまま見せ場なしだと大空をときめかせることは出来ません』」
「『つってもなぁ、日和の身体能力は魔力ありとはいえかなりのもんだから、簡単には――』」
「『私に策があります』」
飛月の策とは、ワンオーワン開始直後からのシュートだった。
勿論ゴールに入る可能性は低いが、日和の虚を突くこの作戦ならブロックされる可能性は低い、つまりは純粋にゴールに入るか外れるかの勝負になる。
「『でもそれ、ゴールに入る可能性少ないだろ?』」
「『今まで通り百発百中でブロックされるよりマシです』」
「『……まぁ、それもそうか』」
日和に一矢報いるために立ち上がった俺はコートの中にいる日和と向かい合う。
「なんか、さっきまでとは目が違うね」
「ああ、やられっぱなしじゃないところを見せてやるよ」
日和とそんな会話を交わし、日和にパスを出してパスが返ってきた瞬間、俺は素早くシュート態勢に入り、ジャンプシュートを放った。
「えっ!?」
作戦通り虚を突かれた日和は放たれたシュートが孤を描き落ちていくのを目で追うことしかできなかった。
「(頼む、入れ!)」
外せばそれで終わりの1投は、俺の祈り(次期魔王が祈るって言うのもおかしな話だが)が届いたのか、ボールはリング内に吸い込まれていき、なんとか一矢報いることに成功したのだった。
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