素直も可愛いが不器用も可愛い
前回までのあらすじ
飛月に早朝ビンタで起こされ2人でデートスポットへ向かう
待ち合わせ4時間前にもかかわらず日和が先にいた
日和に悪いと思いつつも待ち合わせまで飛月と待機することに
だが日和の様子を見て思い直し日和の元へと向かった
「(なんで逆立ち?)……随分早起きなんだな」
軽い運動のつもりだろうが逆立ちをしている日和の背中を見て、なんて声を掛けようかと一瞬悩みながらも結局は普通にそう声を掛けてしまう。
「うん、楽しみすぎて眠れなくて来ちゃった……って、王真くん!? なんでこんな早くに?」
驚いた様子で逆立ちを止めて俺の姿を確認すると信じられないと言った様子で目をぱちくりさせているんだが、俺から言わせてもらえばお互い様なんだよな。
「まぁ、俺も似たような感じだ。ちなみに俺はよく知らないんだが、ここっていったいなにをする施設なんだ?」
なんて言っているが、実際はこの施設については事前に飛月に調べさせたので大体は知っている。あくまで話の種として聞いているだけだ。
「王真くんは転校生だもんね。それじゃあこの施設のことよく知らないのも無理ないよ。ここはスポーツを楽しむ総合運動施設なんだ。メジャーなスポーツならなんでもできるんだよ」
そう、ここは総合運動施設。ここで俺は日和とスポーツデートをすることになることぐらいは予想できたのでこの国でメジャーなスポーツである野球とサッカーについてのルールと技術を事前に会得してある。だからタッチアップやオフサイドなどの専門用語が日和から出てきても対応できる。
「ちなみに日和はなんのスポーツが好きなんだ?」
「ウチ? ウチはねえ、なんでも好きだけど1番は走ることかな。王真くんは知らないだろうけどウチ徒競走じゃ敵なしだったんだから、あ~、話してたら走りたくなっちゃった。ゴメン! ちょっとその辺走ってくるね~」
待ちきれないといった様子で俺に手を振り走り出すと、あっという間に日和の背中が見えなくなってしまった。
「『女子の割に無駄体力ですね』」
インカムを通じて呆れるような飛月の声が聞こえてくる。
「『その言い方はどうかと思うが、体力が有り余ってるのはたしかだろうな、それにしても日和の奴、学校のときとは態度と言うか様子と言うか、なんか全然違うな』」
「『仕事とプライベートは分けるみたいな感じじゃないですか? 裏表のない人間なんていないと言いますし、ましてや女と言う生き物は嘘と秘密を着飾って生きる生き物ですから、それくらいは普通だと思いますよ』」
「『ふ~ん、そんなもんか、それじゃあ種族は違うが女(一応)である飛月にも俺に言えないような秘密があるのか?」』
「『ええ、私にもありますよ。にに様だけには絶対に言えない秘密が』」
「『――だろうな、まっ、その秘密の中身は知ってるんだけどな』」
「『えっ、………………き、気づいていたのですか、私が――』」
「『お前といったい何年主従関係でいると思ってるんだ。それくらい気づくに決まってるだろ? お前が昨日の夜中、俺に隠れてお菓子(ちょっといい値段の奴)を食べていたことくらい』」
「『――そうですよね、にに様が気づくはずないですね』」
「『え、違うのか? 絶対にこれだと思ったんだが、それじゃあ俺に言えない秘密っていったいなんなんだよ?』」
「『……乙女の秘密を暴こうとする者は嫌われると言いますよ』」
「『あぁ、それくらい俺だって知ってるけど』」
「『――ッチ、トリプルD』」
「『お、おい飛月、飛月?』」
舌打ちをされたかと思うとそう捨てセリフを吐かれ、通信を切られた。
飛月は態度や言葉遣いが平坦で冷たい印象なんだが、当然感情があるから喜怒哀楽を表現することも多々ある。その中でも舌打ちは飛月が最も機嫌の悪い時に起こす仕草なので相当怒らせてしまったようだ。
「なんか怒らせるようなこと言ったか?」
「うん? どうかしたの?」
俺の独り言にそう返してきたのは走って行ったはずの日和だった。
どうやら今、戻って来たらしく軽く息切れをしながら俺のほうを見てくる。
「いや、なんでもない。それよりどこを走って来たんだ?」
「ラウンドパークの周りをぐるっと1周」
「周りって、ここ結構広いと思うんだが、いったいどれくらい走って来たんだ?」
「う~ん、正確な距離はわかんないけど感覚的に3キロくらいかな、魔力も使っちゃたし思ったより疲れちゃった」
「この短時間で3キロ走れば誰だって疲れるって、そこのベンチで少し待ってろ、自販機で飲み物買ってきてやるから」
「え、奢ってくれるの!? 本当に!?」
「ん? ああジュースの1本くらいなら」
「やったぁ! それじゃあスポーツドリンクがいいな」
嬉しそうな笑顔を浮かべ、テンション高めの日和に「ああ、わかった」と言って俺は近くの自販機へ向かった。
それにしてもジュース1本くらいでこんなに喜ぶなんて……、いや、もしかしたら女子って言うのはこれくらいが普通なのかもしれない。とりあえず飛月の意見を聞こうとしてインカムを通じてテレパシーを送るがなんの返答もない。完全に無視と言う奴だ。
あいつかなり怒っているな、ここまで怒るなんて今まででも数えるほどしかないんだが、そのどれもはこっちが悪かったと認めざるを得ないようなことをやらかしたからまだわかる、でも今回に関してはなんであんなに怒っているのか全くわからん。理不尽にあんなに怒るのも珍しい。
ここに来て飛月からのアドバイスを貰えないのはかなり厳しいが今のところ上手くやっているし、このまま乗り切るしかないか。
そう思いながら俺はスポーツドリンクを片手に日和が座っているベンチに向かうと日和の頭が大きく上下に揺れていたので何事かと思い近寄って見れば、「寝ちゃダメ、寝ちゃダメ」と目を閉じながら寝言のように呟いているので眠気と戦っているようだった。俺は睡魔に負けないように援護するつもりで日和の頬に冷たいスポーツドリンク(ペットボトル)を押し当てる。
「ひゃっ!」
そんな驚いた声を出した日和は完全に目を覚まし、キョロキョロと辺りを見渡している。
どうやらなにが起きたか把握してないみたいだ。
「どうだ、目は覚めたか?」
「お、王真くんかぁ、びっくりしたよ、もう~」
日和はようやく状況把握したようで少し恥ずかしそうな顔をしながら頬を膨らませる。
「驚かせるつもりはなかったんだが、ほい、注文通りスポーツドリンク」
「わぁ~、ありがとう、王真くん!」
純真無垢な表情を浮かべスポーツドリンクを受け取る姿は同い年の少女と言うよりはどこか子供のように見える。
スポーツドリンクを手渡した俺は日和の隣に座り、次はなにを話そうかと話題を考えている間に日和はスポーツドリンクを一気に飲み干す。
「あ~、美味しかった、ご馳走様」
はにかんだ笑顔の日和はかなり可愛かったので俺はすぐに目を逸らしてしまう。このまま黙っていれば気まずくなるのは明白、とにかく話題だ、話題。話を振らない……と?
急に右肩が重くなったので視線を移すと俺の右肩に日和の頭が寄りかかっている。
「(……えっ、えええ!? 急になんでこんな状況に、こういうのって恋人同士がやることじゃ――)」
予想外過ぎて確認した状況を理解するのに一瞬フリーズしてしまったが、どうやら日和は頭を俺の肩に預けているようだ。急な距離間に驚いた俺は彼氏でもない男にこんなことをするなんて意外と日和は男慣れしているんじゃないかと思い、ここは大胆に肩でも抱いたほうがいいのかとも考えたんだが、日和の寝息が聞こえてきたおかげで冷静になれた。
「なんだ、寝てるのか」
覗き込んで確認して見たが、気持ちよさそうな顔をして寝ている。
それにしても楽しみすぎて眠れないとか、走って疲れて眠るとか、なんて言うか本当に子供のような奴だと思いながらも肩を貸してやることにした。
ビンタで叩き起こされたせいで眠かったんだろう、それから俺も寝てしまったようで朝の陽ざしを受けて目を覚ますと、周りにはラウンドパークへの来場者と思われる人たちが続々とラウンドパークに入って行く。中には俺らのことを見てクスクス笑う人やニヤニヤしながら見ている人や憎しみの視線を投げかけてくる人など色々いたが、傍から見ればバカップルがお互いに寄り添い合いながらベンチで寝ているようにしか見えないはず、少し恥ずかしくなりながらも急いで日和を起こす。
「おい日和、起きろ」
「うぅぅん、今、起きるよぉぉ」
そう言いながらも気持ちよさそうに寝たまま目を開けようとする素振りすら全くない。
さて、どうするか、飛月なら俺に対して容赦なくビンタとかで起こして来るんだが日和に対してそれは出来ない、つってもこのまま寝かせておくわけにもいかないし、仕方ないこれくらいなら許してくれるだろう。
「ほら、起きろって」
俺は日和の柔らかな頬を掴み軽く引っ張りながら起きるように促した。
餅のように柔らかく伸びる頬の感触に少し感動していると、そこまでしてようやく日和の重たい瞼が開いた。
「あれ、王真くん? なんでウチの部屋に?」
「寝ぼけてるのか? それともお前の部屋はラウンドパーク前のベンチなのか?」
「……あっ、そっか、走って疲れたら急に眠たくなっちゃって、そのまま寝ちゃったのか」
ようやく思い出したようなので、俺は先に立ち上がり日和に手を差し伸べる。
「いくら寝起きって言ってもこれくらい手を借りなくても楽勝だって」
日和はニコニコと笑いながら俺の手を取らずに立ち上がった。
「それじゃあ、行くとするか」
「うん、案内は任せといて!」
嬉しそうに飛び跳ねる日和の後についていき、ラウンドパーク内に入るのだった。
ここまで読んで頂きありがとうございます
日曜にもう一本投稿頑張りますので(出来なかったらすみません)
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