女がオシャレをしていたらとにかく褒めろ話はそれからだ
前回までのあらすじ
飛月によって日和の秘密を聞いた王真は
ショタコン疑惑で鎌をかけ日和から真相を聞く
思いっきり遊びたいという日和の願いを叶えるため
大型スポーツ施設でデートをすることになった
ハーレム作戦10日目。
今日は日和とのデート当日。
作戦上最も大事な日と言うのはわかっている、わかってはいるんだが――。
「いくらなんでも待ち合わせの5時間前に出発って気合入りすぎじゃねえか?」
「初デートで女子を待たせるなんて論外ですので、これくらいは男として当然です」
今から30分ほど前、飛月は気持ちよく寝ていた俺にビンタを浴びせて起こし『いつまで寝ているのですか、早く準備をしてください』と唐突に言われ、寝起きの俺は寝ぼけながらも支度をして外に連れ出された。
そうして現在早朝4時、太陽よりも早起きした(強制)せいで星明りに照らされる暗い夜道を飛月と共に歩いている。
「わかっていると思うが今日のは一応デートだからな、妹設定のお前と同伴ってわけにはいかないんだぞ」
「改めて言わなくてもそれくらいわかっています。私がついてきたのはあくまで監視とハプニングが起きた際にフォローをするためですから、待ち合わせ場所に着き次第邪魔者は急いで離れてあげます」
夜空を見上げながら歩いていた飛月はやれやれと言った様子でこっちに視線を向ける。
「邪魔者なんて言ってないだろ、つうか、それなら日和にばれない様に地味な服装にするべきだろ? なんでそんな気合の入った服装なんだよ、普段はそんな可愛い服着ないのに」
眼鏡と髪型はいつも通りだが普段の飛月の私服姿はTシャツとズボン(って言うと必ず『パンツです』と抗議される)だと言うのに、今日はタイトめなニットのトップスにふんわりとした少し長めのスカートという組み合わせ、いかにも女子らしい服装だ。
「まとめて洗濯したせいで着られる服がたまたまこれしかなかったので着ただけです。そもそもにに様に見せるために着たわけではないのですから、求めてもいない感想を言われても不快です」
「まるでデート用の服装みたいな恰好をしてるからちょっと気になっただけだろ」
「……私からしてみれば、にに様の服装のほうが気になります」
ちなみに俺の服装は動きやすいように下は黒ジャージ、上は白地のTシャツ。
「ん? 俺の格好どこか変か?」
「どう見てもデートに行く服装ではないと思いますけど」
「つってもなぁ、今日は日和の遊びに付き合うのが前提条件だから動きやすい服装じゃないと色々不便だろ」
「仮の話をしますが初デートで彼氏がこんな格好をして来たら、私だったらその場で殴って服屋で新たな服を買わせます」
「たかだか服装くらいで大げさだな、服装なんて奇抜な奴じゃなきゃなんでもいいんだろ?」
「そんなことを言っているからトリプルDなのですよ」
っく、そこを突かれるとぐうの音も出ないが、だからと言って別に飛月がモテまくりと言うわけではないので(俺の知る中で)飛月の意見はあまり参考にしなくていいだろう。
「それだってお前がそう思うだけなんだろ? 今日俺がデートするのはお前じゃなくて日和なんだよ、日和は良い奴だからきっとお前みたいなことを思わないし殴っても来ねえよ。それこそ求めてもいないお前の意見を言われても不快なだけだ」
「そうですね、そうでした。私なんかとは違い大空は良い奴ですから心配いりませんでしたね。よかったですね、今回の攻略対象が黄色い髪で目つきが鋭く性格も悪い長身眼鏡女ではなくて」
「口も悪いが抜けてるぞ」
「……そうでしたね、忘れていました。まぁ、とにかくそう言う最悪な女が攻略対象ではないのですから頑張ってきてください」
「頑張ってきてくださいって、なんでそんな他人事――って、どこ行くんだ?」
「にに様の言うことも一理ぐらいはありますので目立たない服装に着替えようかと、今から帰れば多少は乾いているでしょうし、面倒ではありますが1度アパートへ戻って――」
「待てって、なにもわざわざ帰ってまで着替える必要もないだろ」
いつも通りの平坦な口調だったが俺にはわかった、せっかく着てきた服を着替えた方が良いと言われたことに不満があるんだろう、不機嫌そうに踵を返しアパートへ戻ろうとする飛月の腕を掴んでとっさに呼び止める。
「なんですか、離さないとセクハラ裁判を起こしますよ」
このまま帰すと機嫌を悪くした飛月が職務放棄して帰ってこない可能性があると思って思わず引き留めたが、さすがに1人でデートに向かうのは心細いから帰らないでくれなんて言えるわけもないし、ここはとりあえず機嫌を治してもらうしかないな。
「ここからアパートまでは結構かかるし、そこまでしてわざわざ着替えに戻るほどのことでもないと思うぞ、ちゃんと距離とればそう簡単に気づかれないだろ? それにその服似合ってるんだから」
「似合っている? ――今更お世辞ですか? 散々酷評していたくせに随分と都合のいい舌ですね?」
「酷評なんてしてねえよ、俺は最初から可愛いって言ってただろ」
「可愛いなんて言っていましたか?」
「言ってただろ、言っておくがあくまで『服が』だからな、勘違いするなよ」
「そうですか、まぁ、私もわざわざ帰るのは面倒だと思っていましたので主のにに様がそこまで言うのでしたら、仕方なくこの服で1日いることにします」
服を褒めたのが良かったようでなんとか機嫌を治した飛月と共に待ち合わせであるラウンドパークの入り口付近に着くと、遠目ながらも見覚えのある黒のキャップに地味なジャージを着た奴が立っていた。
「おい、飛月、まさかとは思うがあいつ日和じゃないよな?」
「現在は早朝5時ですので普通に考えればありえません。待ち合わせの4時間前から待っているとか正直ドン引きレベルですので」
「そう思うんならなんで俺はこんな時間にこんな場所にいるんだろうな!?」
飛月の眉間辺りを引っ張りながらそう言う俺に飛月は『ちゃんと理由はあります』と言ったので一旦解放してやる。
「理由は簡単です、面白そうだったから」
そのくだらない理由を聞いてすぐさまアイアンクローに切り替え締め上げた。
「ったく、それでこの状況どうすんだ? 声かけたほうがいいのか?」
俺の必死の抗議にも相も変わらず何事もなかったかのように涼しげな顔をしている飛月にそう尋ねて解放してやる。
「声をかけてもいいのですが、ラウンドパークが開くまでざっと4時間。その間2人で居続けられることが出来るのなら声をかけたほうがいいと思います」
これからデートだと言うのにデート前に4時間もフリートークなんてしたら絶対にデート中の話題がなくなるし、それ以前に4時間もフリートークなんてできるはずもない。
「ここは日和には悪いがしばらく声をかけずに隠れてるとするか」
「にに様にしては賢明ですね」
飛月と共に近くにあったベンチに座り、日和の観察をしながらラウンドパークが開くのを待つことにした。
それにしても日和の奴なんで、こんな朝早くに?
その疑問は日和の行動を少し見ていればすぐにわかった。
落ち着きがなくその場をグルグルと回って見せたかと思うと、おもむろにジャンプしたり足踏みしたりしている姿を見れば、日和にとってここはずっと来たかった場所だったことがわかる。それで普通以上にテンションが上がっているんだろうと推測できたんだが、日和のそれらの行動はどれも可愛いらしいもので、まるで散歩に行きたくてうずうずしているペットのようだった。
いつまでも見ていられる愛らしさはあったが同時に罪悪感もあった。
この時間に普通は来ないからこのまま待っていてもいいんだろうが、待ち合わせの場所に来ていると言うのに声を掛けずにただ見ているのはどこか心苦しく、日和のもとへ行こうと決めて立ち上がる。
「トイレにでも行くのですか?」
「いや、日和のところへ行くよ。あんな姿見せられたらただ待たせるのも悪いと思ってな」
「そうですか、私より大空を選ぶのですね」
「なにドラマみたいなこと言ってんだよ」
「いえ、1度言ってみたかったセリフですので、しかし――2度と言いたくないセリフですね」
飛月の顔がなぜか少し寂しげな顔になったかと思うと、すぐにインカムのような物を手渡される。
「それは装着者同士の思念を通信する道具です。簡単に言えば、これを使えばテレパシーで会話ができます。私も装着しますのでなにかあればアドバイスを送ります、ですので心配せずに行ってきてください」
「……飛月、こんな便利な物があるならカンペなんて使う必要なかったんじゃ?」
「ええ、まぁ、あれはただ私がしたかっただけですから」
「ああ、そう」
諦め気味そう言いながらも恋愛経験皆無の俺が恋心や乙女心をわかるはずもないので、なんだかんだ言ってもこれはありがたい配慮だった。
「それじゃあ行ってくる」
俺はインカムを耳につけながらそう言って日和のもとへ向かった。
ここまで読んで頂きありがとうございます
少し予定より遅れてしまったので今週はあと2話投稿したいと
思っていますのでよろしくお願いいたします
高評価、ブクマ登録などして頂けると頑張れますので
応援のほどよろしくお願いいたします。