大空 日和の謎2・友達なんていない・・・
前回までのあらすじ
仲良くなれそうだった日和の態度が一変して素っ気なくなってしまう
何か嫌われることをした覚えもなく何故そうなったのか見当もつかない
この状況を打破するには再び情報収集を徹底するしかないので飛月が探りを入れる
その間嫌われながらも日和の特別な存在になるために傷つきながらも声を掛け続けることに
ハーレム作り8日目。
今日も進展のないまま学校が終わり、現在は無気力状態で家のソファに1人座っている。いつもなら飛月の姿もあるんだが、情報を集めることになったあの日から飛月は単独で日和についての情報を集めている。だから帰宅時間が俺よりも遅くなっている。
「あいつのほうも苦戦してるんだろうな」
「あいつとは誰のことですか?」
天井を見上げ独り言のつもりで呟いた何気ない言葉に、ついさっきまでいなかった飛月が答えてくる。
「なんだ帰って来たのか、今日は収穫あったか?」
「収穫がなければ帰って来てはいけないような言い方ですね。まったく随分偉くなったものです」
「いや、俺、次期魔王なんだけど」
「だからなんなのですか? 血筋だけで取った地位を誇るなんて小物臭いですよ。どうせならもっと面白いことを言ってください」
「はいはい、つまらなくて悪かったな」
「はぁ、こんな主のために頑張って情報を得たのかと思うと馬鹿らしくなってきます」
「情報を得たって日和について何かわかったのか!?」
「はい、少し時間はかかりましたが、攻略に役立つであろう情報を得ました。ここで説明するよりも直に見たほうが早いと思いますので」
飛月はそう言うとスマホを取り出し動画を再生した。
スマホの画面に映ったのはキャップを被りジャージ姿で少しそわそわしながら辺りを見渡している日和の姿だった。
「おい、これって」
「とある日の大空の行動を撮影したものです」
「撮影って、どう見ても盗撮にしか見えないんだが?」
「今はそんなことはどうでもいいのです。それよりも大空を見ていてください」
スマホのほうに視線を戻すと、黒のキャップを深く被り、おおよそ女子が好んで着ないような上下地味なジャージ姿で小さな虫かごを首からかけて、楽しそうな顔をしながら雑木林の中を歩いている日和の姿があった。
「日和の奴、なにをしてるんだ?」
「見ていればわかりますよ」
再び視線を戻すと、日和は周りを軽く見渡すとすごい跳躍を見せて木の枝上に着地した。
「今の魔術か?」
「そうですね。私が集めた情報によりますと大空は脚力を強化する魔術を得意としているようです、なので今の跳躍は魔術によって脚力を強化したものだと思われます」
飛月が日和の魔術について説明を終えると同時に日和は木の枝から地面に飛び降りる。
綺麗に着地すると、首にかけていた虫かごを嬉しそうに眺めている。
「(そう言えばこの前も……)まさかとは思うが、日和の趣味って昆虫採取?」
「ええ、そのようですね。ここ数日調べた結果、大空は友人たちにも内緒にしている趣味があるのです」
「その言い方だと、昆虫採取以外にもありそうだな」
「ええ、にに様にしては察しがいいですね」
動画の場面が雑木林から広場に変わり、さっきと同じ姿をした日和が小学生位と思われる小さな男子たちに混ざって野球をしていた。
「この映像から見てもわかるように大空はショタコンなのです」
「いや、この映像を見る限りただ野球を楽しんでるようにしか見えないんだが」
「なにを言っているのですか考えてもみてください、性別が逆だった場合小さな女の子たちが遊んでいる中に1人の男子高校生が居たら危険な匂いがするのと一緒で、この光景もかなり危ないものです」
「どう見ても子供たちと健全に野球を楽しんでる女子高校生にしか見えないんだが」
日和は砂にまみれながらもすごく楽しそうに広場を駆け回っている。
その笑顔は初めて話したときの笑顔よりも、もっとずっと輝いて見えた。
「でも、大空は子供たちを完全に掌握しているじゃないですか、どう見ても食べ放題です」
「懐かれてるみたいだけど、どう見てもガキ大将って感じだろ? つうか俺からしてみればこのハートフルな映像がそんな風に見えるお前のほうがよっぽど危ないと思うんだが」
全力で野球を楽しみ活躍したり、捕ってきた虫を子供たちに見せたり、本当に楽しそうに笑っている日和の姿を見てなんだかこっちまで顔が緩む。
「だったら、なんで変装までしてこんなことをしているのですか? それにただスポーツがしたいのなら同世代の友達とやればいいと思いますけど」
たしかにそれは一理ある。なにか後ろめたいことがあるからあんな格好をしているんだろうし、同世代の友達がいるにもかかわらず遊ばないのは遊べない理由があるのかもしれない。
「やっぱり大空はショタコンですよ、間違いありません」
「それは無いにしてもなにか隠しているのはたしかだろうな、とりあえずは明日探りを入れてみるか」
ハーレム作り9日目。
昨日手に入れた情報の真相を日和から聞こうとクラスでいつものように話しかけたんだが、いつものように素っ気なく返され、席で落ち込んでいると後ろの席の飛月が1枚のメモ用紙を渡して来る。
『放課後あの空き教室に集合』そう書かれたメモ用紙に目を通し飛月のほうを見て頷く。
「それでこの教室でなにをするんだ?」
放課後になり、やって来たのはハーレム作り2日目に訪れたあの空き教室だった。
「普通に声をかけても大空は会話してくれそうにないので、私が知恵を振り絞った結果、最初の作戦を再び使うことにしました」
「最初の作戦って、まさか――またここから飛び降りるとか言わないよな?」
「はい、お察しの通り、現状これしか大空と会話できる方法が思いつきませんでしたので」
たしかにあの時は日和もご機嫌だったし、それなりに会話もできたと思うが、少しばかり安直な気もする。
「だからってなぁ……」
「嫌なら仕方ありません、私が暴力を用いてここへ連れて来たのち、ちゃんと会話してくれるように優しくお願いしてみます」
「わかった、わかったから。飛び降りればいいんだろ」
優しそうに微笑みながらも目が据わっている飛月を見て、こいつなら本当にやりかねないと思い、半ば脅されるような形で承諾してしまう。
「大空はもうすぐ下を通りますから姿が見えたら飛んでください、私は前のように下でスタンバイしていますので」
ため息をつきながらも窓枠に足をかけ、日和が真下に来た瞬間に覚悟を決めて飛び降りた。
あえて言う必要もないんだろうけど、日和を狙って落ちるのはさすがに危険すぎるので前と同じように日和の後方に着地、もといめり込んだ。
「お、王真君!? 大丈夫!?」
正直無視されたらどうしようかと思ったが日和の声が聞こえ安心して顔を上げると、アングル的にちょうど日和のスカート中が見えてしまう。
そう、見えてしまっただけで故意的に見たわけじゃない、ちなみにスカートの中はパンツではなくスパッツだった。
それにしても日和の奴、随分無防備だな。この位置関係ならスカートの中を覗かれているかもしれないと思って防衛行動の1つでも取っていいはずなのに、まったく気にする素振りも見せずに俺の心配をしてくれている。
まぁ、スパッツを履いているからってこともあるかもしれないが、それにしてもこれだけ無反応だと逆に心配になってくる。
このまま眺めていたいと言う気も勿論あったんだが、後で飛月になにを言われるのか、わかったものじゃないのでこの辺にして立ち上がろうとすると、日和が前と同じように手を差し述べてくれたのでその手を掴み立ち上がる。
「ありがとうな、日和」
「この前、気をつけてねって言ったのにまた落ちてくるなんて思わなかったよ」
「この前のこと覚えてるのか?」
「当たり前でしょ、空から人が降ってきたなんてそうそう忘れられるものじゃないよ」
笑いながらそう言った日和を見て半信半疑の不安いっぱいだったが飛月の作戦も意外と悪くなかったんだと思いながら、日和の後方にいる飛月を見てみるとすでに準備万端といった様子で、カンペを使って指示を出してくる。
「(ショタコン疑惑を追及しろか、まぁ、無駄だとは思うが鎌をかけてみるのは悪くないか)ちょっと日和に聞きたいことがあるんだけどいいか?」
「うん、いいけど、急にどうしたの?」
「この前さぁ、日和が小学生くらいの男子たちと広場で一緒に遊んでるところをたまたま見かけてさ」
「な、なんのこと? ウチは小学生となんか遊ばないし、そもそもインドア派だから人違いじゃない?」
「まさかとは思ったけど、隠すってことは日和って本当にショタコンだったんだな」
「ショタコン? なにそれ?」
「幼い男の子のことが好きな変態の総称だよ」
「なっ、そんなわけないでしょ! あれは一緒に遊んでくれる人が周りにいないから一緒に遊んでるだけで――」
「やっぱり、一緒に遊んでいたんだな」
「あっ、……で、でも本当にそう言うんじゃなくて、ウチ、ショタコンなんかじゃ――」
「わかってるよ、日和がショタコンじゃないことぐらい。でもなんで変装なんかしてたんだよ? あれじゃあ変な疑いをかけられても文句は言えないぞ」
「だって、ああするしかなかったから……」
肩を落として力なくそう答える日和はどこか辛そうに見える。
後ろで『今こそ押し倒せ』と書かれたカンペが出ていたが無視して、日和に質問を続ける。
「さっき、一緒に遊んでくれる人がいないって言ってたけど、日和は友達が沢山いるみたいだしその子たちと遊べばいいんじゃないのか?」
当然の疑問を聞いた日和は力なく首を横に振る。
「友達――ね。あんな風に――男の子たちみたいに思いっきり一緒に遊んでくれる友達なんていないよ」
さっきまで見せていた明るい笑顔がとても魅力的な日和の姿はすでにない、寂しそうな感情を悟られないように無理に笑う日和の姿を見て、なんとかしてやりたいと思ってしまう。
「よくわからないんだが、ようするに日和が遊びたいことを一緒にしてくれる友達がいないってことだよな、だったら俺じゃダメか?」
「えっ?」
「いや、だからさ、俺が日和のやりたい遊びを一緒に遊んでやるのはどうかなって、こう見えても体力には自信があるし、どうだ?」
「――ホント!? 本当に一緒に遊んでくれるの!?」
「ああ、思いっきり遊んでやる」
「やったっ!! それじゃあ、ちょうど明日は日曜日だし、明日ラウンドパークの入り口に朝9時集合ね、ちゃんと動きやすい服装でね」
一気に表情が明るくなって目をキラキラと輝かせながら小さくガッツポーズをして、少し興奮気味で上機嫌になった日和の笑顔を見ると、ホッとしている自分がいた。
「あっ、そうだった。部活に行かないと、ごめん王真君、ウチ部活に行かないといけないからもう行くね。明日すごい楽しみにしてるから!」
日和は焦りながらも嬉しそうに手を振りながら走り去って行ってしまった。
「デートの約束を取り付けるなんて、トリプルDのにに様にしてはよくやったほうですね」
日和が去ったのを確認してから飛月がこちらに歩いてきて、珍しく褒めるようにそう声をかけてくる。
「どうだ凄いだろ、もうトリプルDとか呼ばせないぜ」
「……そうですね、凄いですね。それじゃあこれからは私の手伝いなど不要でしょうからあとは1人で頑張ってください」
「おいおい、なに言ってんだよ、つうか、なんかお前機嫌悪くないか?」
「別にいつも通りです。ただ私のカンペも無視していたようですし、もう私は必要ないと思っただけです」
「(なんだ、そんなことを怒ってるのか)あれは仕方ないだろ、あんなことしたら完全に嫌われるっての、それくらいお前だってわかってるだろ?」
いつもなら軽口と言う名の暴言を1つや2つ返してくるところだが飛月は何も言わず体を反転させると校門のほうへと歩き出した。
いつもと様子の違う飛月に首を傾げながら一緒にアパートへ帰ったあとも飛月の機嫌は悪かったんだが、俺への暴言を吐くたびに徐々に機嫌は直っていき、寝る頃にはすっかりいつもの飛月に戻っていた。それにしてもカンペを無視したくらいであんなに不機嫌になるなんて珍しいなと思いながらも明日のデートを脳内で想定しながら眠りについた。
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