大空 日和の謎1・虫かごとジャージ姿
*1月8日に内容がわかりやすいようにタイトルを変更しました
前回までのあらすじ
日和との出会いを成功(?)させたのだが
会話があまりハマらずイマイチな成果になってしまう
自宅に戻り飛月と反省会を行っているとどちらが悪いのか決着をつけることに
結果的に飛月が負けて罰ゲームとしてアイスを買いに行かされるのだが
徒歩5分の所にあるはずのコンビニから1時間経っても帰ってこないのだった――
「『事件に巻き込まれているんじゃないか』そう思い立ち上がった頃には時すでに遅く、可愛く大好きだった飛月は下種な男共に強引な手段で玩具にされ、無残な姿に変わり果てていた――」
そんなくだらない妄言をいつもの平坦な口調で淡々と喋りながら、いつも通りの無表情でリビングに入ってきた飛月にため息が出る。
「勝手に人のモノローグに入ってくるんじゃねえって何回言ったらわかるんだよ、あと大好きとか勝手なこと言うんじゃねえよ。それで、なんでこんなに遅かったんだ?」
「コンビニでアイスを買って戻る途中、黒のキャップに黒のジャージ姿の大空が虫かごを首からかけて歩いているのを見かけたので、攻略のヒントになるかもしれないと思い少し尾行していたのです」
「は? 大空って日和のことか? なんであいつがこんなところにいるんだよ。あの学校の生徒は基本的に学校の寮で生活するんだろ?」
このアパートから学校の寮までは徒歩30分ほど離れているだけじゃなく、この島は魔術学校を中心に作られているから、学校から離れれば離れるほど田舎臭くなるので、学校の寮に住む生徒がこんな島の外側に来ることはあまりないはずなんだが。
「そうですね、私の事前の調査によると大空 日和が学校の寮に住んでいるのは確かです。何故大空がこの辺りに来ていたのかと私に聞かれてもわかりませんが、格好から見てどうやら昆虫採取をしていたようです。寮の門限は19時、大空を見つけたのがちょうど19時だったので門限を過ぎていました。門限破りには厳しい罰があるようなのでどうやって寮の中に入るのかと思い後をつけていたら、大空は寮の裏側にある竹林に入り、古そうな井戸に飛び込んだのです」
「飛び込んだって、それって大丈夫なのか?」
「大空はまったく躊躇しませんでしたし、様子を見ている限り慣れた感じでしたので、私も少し時間を置いてから飛び込みましたが、高さ3メートルもないので問題ありませんでした。井戸は完全に枯れていましたからもう使われていないのだと思いますが奥に道が続いていたので、もしかするとそのまま奥に進めば大秘宝が――」
「ねえよ」
「なんでそう言い切れるのですか? もしかしたら『ひとつなぎの大秘宝』とか『賢者の石』とか出るかもしれませんよ?」
「そう言うのは必死に探し回って見つけるからこそロマンがあるんだろ、たまたま見つけた井戸の奥にそんな物があったってロマンの欠片もないだろうが」
「え? 栗の欠片がほしいのですか?」
「マロンじゃなくてロマンだ」
「ああ、私としたことがケアレス・スミスです」
「なんでウィル・スミスみたいな言い方してんだよ。くだらないボケはもういいから話を戻すぞ、えっと日和が井戸の奥へ進んで行ったって話だったな、俺の予想だと、その井戸の奥へ進んでいくと女子寮内のどこかに繋がっているんだろうな」
「つまり、その井戸を使えば女子寮に潜入できると言うことですね。どうします? やはりお風呂から覗きますか?」
「なんで女のお前がノリノリなんだよ」
「にに様ノリが悪いですね。ああ、わかりました、にに様的には風呂ではなくトイレでしたか、さすがは次期魔王様、使い魔の私が思わず気持ち悪いと思えるほどの変態レベルですね」
「勝手に推測しておいて、変態扱いするんじゃねえよ。むしろそんなことを簡単に思いつくお前のほうが変態だろうが」
「いいのですか、そんなことを言って、私にはにに様が変態だと言う証拠があるんですよ」
「はっ、証拠だぁ? そんなもん本当にあるなら出してみろ、本当にあるならな」
「『お兄ちゃんと出来るもん』『スポーツ少女と体育館倉庫』と言うタイトルのいかがわしい雑誌を持っていることはすでに知っています」
なんで知ってやがる!? 飛月にはバレない様に細心の注意を払ってこっそり買った物なのに……。
「も、もし、そう言う本を俺が所持していたとして、それのどこが変態だって言うんだ。こっちの世界のことを知るための参考になると思って買っていたとすれば問題ないはずだし、例えそうじゃない目的で持っていたとしても俺ら位の年代なら持っててもおかしくないはずだ」
「私が変態だと言っているのは、仮にも妹がいると言う設定にもかかわらず妹物を買ったり、これから攻略する対象の大空 日和に似た女子高校生がでている女子高校生物を買ったりするところが変態だと言っているのです。どうせその妹物を見ながら私のことを思い、妄想しながらしているのでしょ。本当に気持ちが悪いですね、死ねばいいのに」
酷い言われようだが、まぁ、そう言われても仕方がない全面的に俺が悪い、悪いのだが、1つ言い訳をさせてもらえるのなら、いわゆる女子の属性と言うものを知っておくための参考資料として買ったと言うのもあながち嘘じゃないんだが、そんなことを言おうものなら『ここに来て言い訳ですか、見苦しいですね』みたいなことを言われるのは目に見えているのでさっさと白旗を上げておくか。
「あ~、はいはい、どうせ俺は変態野郎だよ。それは認めるがなんでお前ちょっと楽しそうなんだよ」
「楽しそう? そう見えますか?」
「ああ、楽しそうと言うか少し嬉しそうと言うか」
声もわずかではあるが高揚していたようだし、明らかにこの状況を楽しんでいた。
「……それはたぶん、相手がにに様だからですね」
「俺を罵るのが楽しいってことか?」
「はい、羽虫を捕まえ羽を千切り地面に落として、元羽虫が地面に這いつくばっている姿を見下ろしているときの感覚みたいで楽しいです」
ニコリとわずかに笑う飛月の目には俺と羽虫がほぼ同格に映っているらしい。
「それで、どうするのですか? 秘密の花園に行くのですか?」
「行かねえよ。今の日和との仲で会いに行ったら確実に悲鳴を上げられ捕まって殺される」
「悲鳴を上げる暇もなくやればいいじゃないですか」
「なにをやるんだよ。とにかく今女子寮に侵入するのはリスクが高すぎるし、侵入した際のリターンが確定していないから今日は行かない」
「にに様が夜中に寮へ侵入した変態生徒として捕まえられる姿が見たかったので少し残念ですが仕方ありません。それでは作戦会議――をする前に聞きそびれてしまったのですが、ついさっき私がリビングに入ってきたときに言っていた妄言を覚えていますか?」
「ああ、あのありえない話な」
「たしかにこの私がそこら辺の男共に玩具にされるなんてありえませんが、もし本当に私がそういうことをされたらどうしますか?」
「それが作戦に関係あるのか?」
「いえ、気になっただけです、言うなればただの雑談です」
「そうだな~、考えたこともなかったし、そん時になって見ないと何とも言えないが、もしそうなったらお前に復讐のチャンスを作ってやるかな?」
「はい? どういうことですか?」
「俺がお前の代わりにその男たちを殴るのは簡単なことだが、それじゃあお前にとっての復讐にならないだろ? だからその男たちを捕まえて、お前の前に連れて来て好きなだけ復讐させてやるだろうな」
「もし、私が復讐なんてしたくないなんて綺麗ごとを言ったらどうします?」
「そんときはそんときで自分のしたいことをするんじゃねえの? 経験ないからよくわからんが」
「そうですか、意外な答えですね。きっとにに様のことですから、『ふ~ん、災難だったな。とりあえずシャワー浴びて来いよ臭いから』とか言うと思っていました」
「どんな鬼畜だよ! ったく、お前の中の俺はどんだけ低評価なんだよ」
「そうですね、少しばかり低評価にしすぎていたようです、今の答えを聞いて子猫の次くらいに上方修正しておきます」
「(それって、褒めてるのか?)」
どうやら野良猫以下の羽虫のような存在から子猫以下にまで昇格(?)したらしい、もっともそれが飛月からみてどの位置にいるのかはわからないがとりあえずはよかったと思っておこう。
「それはそうと、俺が頼んだアイスはちゃんと買ってきたんだろうな?」
「勿論買ってきましたよ」
そう言ってレジ袋を手渡して来る飛月。
レジ袋を受け取ったが全くもって嬉しくない、そもそも別にアイスが食べたかったわけじゃないからテンションが上がらないというのもあるが、もうこの展開的に買ったアイスは溶けていて残念食べられませんでした~と言う流れになるに決まっているからだ。
「(なんて言うか、ありがちなオチだよな)」
そう思いながらカップアイスの蓋を開けてみると、溶けたアイスは――ほとんどなく、と言うかむしろカップの中のアイスが95%くらい消失していた。
「お前……」
「はい、正解は溶けちゃったではなく、溶ける前に食べちゃったです」
「なんだよ~、そっちか~、どっちか迷ったんだよな~」
「よく考えないからそんなケアレス・スミスするんですよ」
「そうだよな~、これからは気をつけ――って、おかしいだろ! あと気に入ったのかは知らねえけど、さりげなくケアレス・スミスを再登場させてんじゃねえよ、鬱陶しいんだよ!」
「なんか情緒不安定ですね」
「お前のせいでな!」
そんなくだらないやり取りをそのあとも続け、結果としてハーレム作戦のほうはとりあえず『ガンガン仲良くなろうぜ』に決まった。
ここまで読んで頂きありがとうございます
今回は少し短めになってしまいましたが
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