初めての手料理はやっぱりカレーライス
前回までのあらすじ
愛南の好感度の上りが遅く
一か月の期限内に間に合わない
新たな作戦として思いついた
飛月はバケツをひっくり返し
愛南はずぶ濡れになってしまう
愛南と昼食を一緒に食べるために食堂に向かおうとしたんだが、愛南は自分の席で気怠そうに机に伏せていた。
「おい、愛南どうかしたのか?」
品行方正な愛南が机で伏せて寝ているなんて始めて見たから心配になり声をかける。
「――王真君、大丈夫、なんともないから」
顔を上げてニコッと笑ったが、その声に覇気はなく顔も少し赤いように見える。
「あまり体調が良さそうには見えないんだが?」
「本当に大丈夫だから、少し楽にしていれば大丈夫」
元気なくそう言うと力尽きるように再び机に伏せてしまう。
これ以上話しかけるのもしつこいかと思いここは飛月の下へ一時撤退をする。
「水無瀬とお昼を一緒にしないのですか?」
「なんか、愛南の奴具合が悪そうでな」
「そうですか、具合が悪そうですか、それはそれは心配ですね」
白々しくそんな上辺だけの心配を言葉にする飛月。
「全然心配してるようには見えないんだが?」
「そんなことはありません、きっちり心配しています。それより水無瀬に振られてから私のほうに来たと言うことは私の手作り弁当を確保するためですか?」
「まぁな、水無瀬がああなってる以上食堂で飯を食べる意味がないからな」
「……そうですか、しかし、私の弁当を食べる必要はないようです」
飛月はそう言って指差したのでその指の先を見てみると、自分の席に座っている日和と目が合い、そして瞬時に目を逸らされた。
「先ほどから手作り弁当が入っているであろう袋を手でモジモジいじりながらチラチラとにに様のことを見ていますよ」
「ん? だからなんだ?」
「……こんなところでトリプルDの力を発揮しなくてもいいと言うのに、全く仕方ありませんここは私が一肌脱ぐとしましょう」
やれやれと言わんばかりのジェスチャーを交えながら、そんなことをため息混じり呆れ混じりに言ってくる。
「ふんっ、わからず屋のにに様の弁当なんて作ってきてなんかいないんだからね!」
ツンデレ風の妹口調でそんなことを大きめの声で急に言いだしたので(こいつとうとう頭がおかしくなったか)と思いながらも冷静に反論する。
「いや、弁当箱が2つあるだろ?」
飛月の机の上に置かれている大小2つの弁当箱を冷静に指差す。
「勘違いしないでよね! これは両方私のなんだからね!」
安っぽいツンデレ口調にイラッとしながらも、飛月からなんとか弁当を手に入れようとして思いついた言葉を口にする。
「太るぞ」
「殺すぞ」
主に対してこの口の利き方である。
本当に殺意の籠った目で間髪入れずにそう返してきた飛月に若干の恐怖を覚えていると、飛月が小声で声をかけてくる。
「空気読んでください」
その言葉の真意がわからずに首を傾げていると、飛月は仕方ないと言わんばかりに顔を歪め舌打ちをする。
「とにかく、にに様に弁当なんてあげないんだから、そこで飢えて死になさい!」
そう言うと2つの弁当手に持って教室から出て行ってしまう。
「なんだあいつ」
心の底から出たそんな独り言を呟くと、後ろから肩を叩かれ振り向こうとしたが上手く振り向けなかった。そうと言うのも肩を叩いた奴は俺の肩に手を置いたまま指を伸ばしていたようで振り向いた際に俺の頬に指が当たり、首の動きが途中で止まってしまう。
「や~い、引っかかった」
悪戯が上手くいって楽しそうな笑顔を浮かべているのは日和だった。
「日和、なにくだらないことしてんだよ」
俺は日和の人差指が肩から離れたところで振り返りながらそう言う。
「なんとなくだよ、なんとなく。王真がどんな反応するか気になってさっ」
無邪気な笑顔を浮かべている日和を見ていると怒る気がなくなっていく。
「それで、なんか用か? なにもないなら――」
「そんな素っ気ないこと言うんなら弁当恵んであ~げない」
「え?」
「王真、飛月さん怒らせて弁当貰えなかったんでしょ? だからウチが恵んであげようと思って、食べるでしょ?」
「なんだ、そう言うことなら勿論食べるよ」
「でも、どうしようかな? さっき素っ気ない態度取られたしな~」
「なんだ、くれないのか? だったら食堂に――」
「あっ、待って待って、ちゃんと恵んであげるって、もう、王真はノリが悪いんだから」
よくわからないが理不尽に怒られているのだけはなんとなくわかる。
頬を膨らませながらも日和は持っていた弁当を俺に差し出してきた。
「結局くれるのか? だったら、遠慮なく貰うけど」
弁当を手に取り蓋を開いて中身を見た瞬間、俺の顔が引きつる。
「なんで、弁当にカレーライス?」
ボックスティッシュと同じくらいの大きさの弁当一面カレーライスだった。
昼のランチにカレーライスを食べるのはまだわかるが、弁当にカレーライスを入れてくる日和のセンスはわからない。人間界の常識に絶対の自信があるわけじゃないがおそらくカレーライスは弁当に入れるもんじゃないはずだ。
「なんでって言われても、ウチがカレーライス好きだし、初めての料理は簡単なほうがいいと思って」
「えっ、日和は今まで料理をしたことがないのか?」
「うん、手料理なんて面倒だと思ってたから、1回も作ったことなかった」
日和はどう見ても器用なキャラじゃなく、1回も料理を作ったことがないか、飛月の話によればそう言うキャラが作る手料理はかなり危険らしい。意識が無くなるなんて当たり前で場合によっては生物兵器と揶揄される物まであるらしい。
俺の中で恐怖と不安が増大していったが日和の純粋な笑顔を見ると今更『食べない』なんて言えるわけもなく、日和から手渡されたプラスチックのスプーンでカレーをすくい、生唾を飲むのと同時に覚悟を決め、食べる。
「ど、どうかな?」
「…………」
日和の言葉に俺はなにも答えられない。何故なら、無味だからだ。
「(なんだこれ、味が全くしねえ! 今俺が食べたのって普通のカレーだよな、新しく作られたノンカロリーカレーとかじゃないよな!?)」
香りは間違いなくカレーなのだが味が全くしない、たしかに食べたはずなのに、たしかにカレーを食べたはずなのに、口の中には無味のなにかがあるという感覚しかない。
「ねえ、どうなの?」
心配そうにしながらも感想を求めてくる日和。
「(味がないのにどうって言われてもなにも言えねえよ!)」
これならまだ驚くぐらい不味い料理のほうがマシだったかもしれない。無味の物を食べるのはこれが初めてだが、正直気持ち悪い。得体知れないなにかが口の中を占拠しているんだから無理もないが、そんな素振りなんて日和に見せられるわけもなく、なんとか絞り出した感想は「うん、食べられる」だった。
そんな苦し紛れの感想に日和は怒るかと思ったが思いのほか好反応で、どうやら料理が苦手なことは自覚しているらしく、自分自身へのハードルがかなり低かったようだ。
美味しくないとはいえ、日和が一生懸命作ってくれたのは今見せている笑顔でわかる。だから俺はカレーライスのような物を無理やりにでも胃に流し込んで、弁当箱を日和に返す。
「おお、全部食べてくれたんだ! ありがと、すっごい嬉しい!!」
「こっちこそ弁当ありがとな、それはそうとお前の昼飯はどうするんだ?」
見たところ弁当箱は俺に渡した1つだけで、日和の分の弁当箱が見当たらない。
「えっと、きっと美味しくないだろうし王真が残したカレーを食べる予定だったから用意してない、でも大丈夫、休み時間のたびに購買でパンを買って食べてるから」
「(相変わらずの燃費の悪さだな、まぁ、弁当のほうはそうじゃないかとは思ってたけど)ちょっと待ってろ」
俺は廊下へと出ると、窓際を背にしてこちらを向いて立っている飛月を見つけ声をかけようとした瞬間、俺の分の弁当箱を投げ渡してくる。
俺の言いたいことがわかったようで、阿吽の呼吸でその弁当を受け取ると、教室に戻って日和に手渡す。
「お返しだ、飛月が作ったから味は保証する」
「えっ、いいの貰って?」
「俺に食べさせるのが嫌らしいからな、日和が食べてくれると残飯が出なくてありがたいんだが――」
「食べる! 食~べ~る~!!」
嬉しそうにそう言ったので日和に弁当を手渡すと、よほど弁当が美味しかったのか日和はテンション高めのまま弁当を食べきった。
そんなほのぼのとした昼休みが終わって午後からの授業が始まったんだが、開始10分ほどでクラス全体がシリアスな空気に包まれる。
席に座って授業を受けていた愛南が急に椅子から崩れ落ちたからだ。
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