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いもうと飛月は素直じゃない

前回のあらすじ

異世界(魔界)からやって来たフェル(雉 王真)は使い魔のツァイル(飛月)と

日本のとある人工島に住む天敵の魔術師候補の美少女たちでハーレムを作ることになる

ハーレムを作れなければ魔王になることも出来ないどころか帰る事も出来ない

正体がバレてしまえば殺されてしまう状況で無事ハーレムを作ることが出来るのか――


「対魔族用魔術師養成学校なんて言うからもっと厳つくて特殊な学校かと思ったけど、なんか拍子抜けだな」

 5月6日金曜日、ラブコメアニメだけを見続けたゴールデンウィークが終わり、今日からは転入生として学校に通うべく、対魔族用魔術師養成学校の校門前まで飛月と来ていた。

「生徒数も多くありませんから施設はあまり大きくないですし、外見は一般的な高校と大して変わらないそうですよ。変わっているのは校舎の中に魔術を使える教室がいくつかあることや学校の敷地内に複数の体育館や色々な施設があるということぐらいですね」

 飛月は俺が人間界に来る前からこの学校に転入していたらしく、集めた内部情報をもとに色々説明してくる。

「フェル様、聞いているのですか?」

「聞いてるよ。つうか、俺のことを魔界での呼び名で呼ぶなって」

 周りが敵だらけな以上どこで誰が聞いているかわからないから、魔界での呼び名は人間界にいる間はなるべくしないって、昨日決めたんだが、こいつもう忘れたのか。

 ちなみに以下、昨日リビングでかわされた作戦会議。

「こっちでの呼び名の件ですが、私こう見えても主に敬意を持っていますので、仮の名とは言えフェル様のことを呼び捨てにするなんて――」

「えっ」

 急にしおらしいことを言いだしたので心配になりながらも、今までこんなことを言われたことがないので少し焦ってしまう。

「(こいつ、俺のことをそんな風に――)」

「おい、王真~じろじろ見てねえで、とりあえずアイス買ってこいよ~」

「そうだよなぁ、お前はそういう奴だよなぁ!」

 この立場を利用し嬉々として躊躇なく俺の名前を呼び捨てにしただけでなく、ヤンキー風に絡んできたので、とりあえずアイアンクローをしながらキレ気味にそう返す。

「ったく、主に対する敬意や忠義心がお前に無いことが改めてわかったところで、これから俺のことは王真って呼ぶのか?」

 まぁ、この流れは大体読めていたのですぐに開放し(そうは言っても飛月は顔色1つ変えずにいたので全く効いてなかったようだったが)話を戻す。

「さっきのはちょっとした冗談ですよ。設定上私は妹ですから、妹が兄を呼び捨てにすると言うのはある意味アリなのかもしれませんが、それではせっかく手に入れた妹と言う強力な属性を有効に使えているとは言えませんので普通に妹らしく呼びます」

 なんていうか、普通は隠すようなあざとい計算を平気で口に出しているから逆に清々しく聞こえるのが飛月らしい。

「そうですね……よっ、『童貞』って呼ぶのはどうです?」

「(妹関係ねえぇぇ!)――はぁ、あのな、それだと多くの男子生徒が振り向くだろ」

「その心配は必要ありません。人間界で16にもなって童貞なんて野郎はクラスに2人か3人程度しかいませんから」

「おいおい、いくらなんでもそれは言い過ぎだろ、まったく冗談ばっかり言いやがって」

 つまらない冗談を言うなよと言う態度で呆れる俺に対して飛月が可哀想な奴を見るような目を向けてくる。

「……まぁ、真偽は置いておくとして、話を戻しましょう」

「待て、真偽を聞かないと今晩は眠れそうにない」

「大丈夫ですよ。今夜もベッドを1人で広々使えるのですから嫌でも熟睡できるはずです」

「お前のせいで今日は枕が濡れるから眠れねえよ」

「次期魔王のくせに枕しか濡らせないのですね、情けない」

 心の傷に塩を塗られ、痛む心をポッキリと折られた俺は真偽を確かめることも出来ずに白旗を揚げることにした。この話をこれ以上広げると心の傷が広がるだけなのは今までの経験でわかっているからだ。

「っで、話を戻しますが、フェル様があまりにも可哀想なのでもっと妹らしい可愛い呼び方で呼んであげます。そうですね……、兄兄あにあにとかどうですか?」

「さっきとは打って変わって急に可愛くなったが、なんか個性的すぎないか? 普通にお兄ちゃんとかでいいんじゃないのか?」

「妹になったのですから、どうせなら『にぃに』みたいな、妹萌え共を悶え殺せるような斬新な呼び方を考えたいじゃないですか」

「(変なところで意識高いな)斬新なのはいいが、お前のクールフェイス&クールボイスで兄兄とか言われても萌えねえよ、むしろ怖い」

「それじゃあ、兄様あにさまでどうですか?」

「兄兄よりはマシだがイントネーションを間違えると夏の一大行事になるから止めとけ」

「文句が多いですね、そんなに文句ばかり言うのでしたら少しはフェル様も斬新な呼び方考えるのを手伝ってください」

「え、俺が考えるのか?」 

 真顔で黙って頷く飛月、まさかの無茶ぶりだが、ここでマシな呼び方を作らないと変な呼び名が定着してしまうのは目に見えている。

「そうだな……ここはあえて――」

「あっ、思いつきました、お兄様をアレンジしてにに様にします」

「あっ、うん、もうそれでいいや」

 最初から俺の話を聞く気がないことがわかったので早々に諦めることにした。

 そんなくだらない作戦会議が終わり。

 現在、俺は飛月と別れ1人職員室に寄っていた。

 それと言うのも、どうやら俺は海外の魔術師養成学校からの転校生ということになっている(飛月の奴も魔力を使って偽装したその設定で転入したらしい)飛月は『兄はこっちに来るのが遅れています』と事前に教師へ言っていたようで話はスムーズに進み担任の先生を紹介されたところだ。

「先生の名前は高橋たかはし 卯火うかって言います、これからよろしくね」

 椅子に座りながらこちらを向いて自己紹介してくれたこの女教師が俺の担任らしい。

 髪は茶髪のボブカット、カジュアルなスーツを着ていて、可愛いと言うか綺麗と言うか、整った顔つきをしているのは間違いないんだが、なんというか全体的に地味な印象を受ける顔立ちをしている。

 俺は簡単に自己紹介(当然、人間界設定のほう)をすると、学校の基本的なことやクラスのことを軽く教えられて、その後チャイムと同時に俺が編入するクラスへと案内され、しばらく廊下で待っていると高橋先生が俺を呼び込んだのでクラスの中へ入っていく。

「転校してきた、雉 王真です、よろしく――」

「お、お兄ちゃん!? な、なんで、お兄ちゃんはあのときに……死んだはずなのに」

 俺の自己紹介が終わらないうちに席から立ち上がり迫真のシリアス演技でそう言ってきたのは勿論、妹の飛月である。クラスに入ったときに飛月の姿が目に入ったので同じクラスになれたことを少し喜んでいたんだが、今となっては前言撤回をせざるを得ない。

 見てみろやこの雰囲気、何も返せず困る俺、迫真の演技を続けるお前、ざわつく教室に、困惑する教師、なにもかもが最悪の状況。

「(無茶振りしやがって――)」

 今の俺の状態を見てもらえばわかる通りこれはハーレム作りのためとかじゃなく、ただ単に飛月のアドリブだ。

 大方、死別したと思っていた兄が突然、転校生として目の前に現れて困惑する妹というのがやりたいんだろう、さすがにこの最悪な状況で無視なんてしたらそれこそ大事故になってしまうので、兄として妹アドリブもとい茶番に付き合ってやることにした。

「飛月か、随分大きくなったな。まぁ、あれから10年も経っているんだ、無理もないか……」

 飛月の設定を汲み取り、会えない内に流れた月日が嬉しいような寂しいような、そんな哀愁漂う兄を俺なりに精一杯演じてみる。

「あ、……うん」

 俺からの返答があると思ってなかったのか、面を食らったような返事をして、何事もなかったかのように席に座った。

 どうやら特にオチも考えていないどころか続きすら考えていない完全な見切り発車のようだった。

「(ふざけんな! 茶番に巻き込んでおいてそれはねえだろ! めちゃくちゃ見られてるし、どうすんだよ、このクラスメイトたちからの困惑の視線)」

 やり場のないモヤモヤ感の籠った視線を受け、一時はどうなるかと思ったが高橋先生がなんとかその場を流してくれたので、俺はクラスメイトたちに注目されながらも開いていた飛月の前の席(窓際の列の後ろから2番目)に座り朝のホームルームを終えた。

 転校生と言うのはこの1時限目が始まる間の休み時間にクラスメイトたちに囲まれ色々質問攻めをされるのが定番のはずなんだが、俺の周りには誰も近寄ってこなかった。

 俺の目つきが悪いことも影響しているんだろうが、主な理由はさっきの茶番のせいだろう、現に俺のことをチラチラと見る奴らは多いが目を合わせようとはしない。

 完全に警戒されていると言うか距離を取られている。

 こうなった原因である飛月をクラスから連れ出し、人気のない廊下の隅まで連れて行く。

「なんですかフェル様、こんな人気のない場所まで連れて来て、まさか告白ですか? いくら私が美少女だからと言っても駄目ですよ。私は攻略キャラではないのですから」

「お前のせいで転校初日からとんだ目にあったからな、文句の1つでも言おうと思っただけだ。あと俺のことはにに様じゃなかったのか?」

「ああ、忘れていました。それにしてもにに様はまた文句ですか? いい加減私に文句を言うのは止めてください、迷惑です」

「お前の茶番に付き合わされて迷惑したのはこっちだ! ……ったく、なんであんなくだらないことをしたんだよ」

「はい? 特に意味はありませんけど」

 不思議そうに首を傾げながら悪びれることもなく謝ることもなく、そう言った。

「あのなぁ、俺ら的にはこの学校で目立たないほうが色々と都合がいいんだ。だからこれ以上不必要なことはするな、いいな」

 本当にただの見切り発車だったのことを確認したのでささやかだが報復として、眼鏡で隠れていた飛月の眉間を指で摘みながらそう忠告する。

「わかりました、にに様」

 敬意を全く感じないどころか煽っているようにさえ感じる敬礼をしながら、そう言ってくる飛月に反省の色は全くない。

 わかっていたことだが、これからの学校生活はかなり大変そうだ。

 放課後は学校の内部や施設を飛月に案内してもらい、下校途中では大型ショッピングセンターへ寄ってテーブルやソファなどの家具を買い揃えアパートに帰った。

「それにしても今日は学校の案内とかばっかりでハーレム作りに関してはなにもしてないけど、あれだけでよかったのか?」

 転送魔法によってダイニングに送られてきた4人掛けのテーブルの椅子に座りながらキッチンにいる飛月の背中に声をかける。

 ちなみに他の家具もしっかり送られて来たので殺風景だった隣のリビングにもテーブルの他にソファなんかも置いてある。

「登校初日ですからあれくらいでいいのです」

 学校から帰って来るなりすぐに料理を始めたので、飛月は制服にエプロンと言う組み合わせでキッチンに向かっている。惜しむべきはそれらを着ているのが飛月だと言うことだ。そりゃあ、飛月は美人だし、スタイルもいいけど、さすがに腐れ縁過ぎて全く嬉しくない。

「はぁ、もったいない」

「なにがもったいないのですか?」

 手際よく完成した料理を俺の目の前に置きながら飛月は首を傾げる。

「いや、別に……」

「ああ、わかりました。そうですね、たしかに私ももったいないと思っていました。にに様に私の手料理なんてもったいなさすぎますよね。今から野良猫にでもあげてきます」

「ちょっと待て! 誰もそんなことは言ってねえよ、つうか俺は野良猫以下なのかよ?」

「えっ、知らなかったのですか? 生まれた段階で自覚している物だと思っていました」

「(そんな当たり前みたいな顔で言われても)仮にそうだとしたら野良猫以下の俺なんかに仕えてる、お前のほうがかなり惨めな存在ってことになるぞ」

「ええ、そうですよ。私は野良猫以下の存在であるにに様に無理やり服従させられ、それ以降は使い魔として嫌々ながらもこうして身の回りのお世話をしないといけなくなった可哀想な美少女悪魔ですから」

 さも自分が悲劇のヒロインで同情を誘う様に嘘泣きを始める飛月。

「過去を捏造するな、俺はお前を無理やり使い魔にした記憶はない」

「なにを当たり前なこと言っているのですか? 相変わらず面白くない主ですね」

 理不尽なダメ出しをされ、若干イラつきながらも飛月の手料理に手を伸ばす。

「――それに嫌な主に仕えるくらいなら普通に死を選びます」

「は? それって……」

 ボソッとそう付け加えた飛月の言葉に、俺は料理を食べようとしている手を止めて顔を上げてそう反応してしまう。

「なにジロジロ見ているのですか? これ以上見るならお金を――いえ、やっぱりいいです。これ以上、にに様の視線にさらされるなんて、たとえ国家予算並の大金を出されたとしても割に合いませんから」

「お前、俺のこと嫌いすぎだろ」

「そうですか? まぁ、にに様がそう思うのならそうなのでしょう。それじゃあ逆に聞きますが、にに様は私のこと嫌いですか?」

「普通だよ、普通」

 素っ気なくそう返して再び手を動かし、目の前の料理ナポリタンを食べ始める。

「……にしても、お前ってキャラ的に絶対家事とかできないタイプなのに、全体的にそつなくこなすよな」

 明らかに仕事ができますと言った感じの女子に限って実は料理が苦手だったりするものらしいが、飛月はデキル見た目に反してと言うか見たままと言うか、飛月の家事スキルは中々のもので、このナポリタンと言われる料理も普通に美味い。

「基本的に私はスペックが高いですから、この程度のことはこなせて当然です。それより、味についての感想はないのですか?」

「普通に美味いよ。いつも通り安心できる味だな」

「これだけ家事もできて仕事もできるのに、私のことは普通なのですね」

「お前の場合は口が悪い分のマイナスポイントが大きいから差引きしてゼロだな」 

「……それじゃあ、口が悪くなければ私のことは比較的好きってことですか?」

「……どうだろうな、そうかもしれないけど、口が悪くないお前なんてお前らしくないからな(想像しただけで気持ち悪い)お前は今のままの普通なお前でいいよ」

「そうですか、まぁ、にに様がなんて言おうが私は今の自分を変えるつもりなんて最初からありませんし、にに様の意見なんてどうでもいいですけど」

 せめて頬を赤らめながら言ってくれれば少しは可愛げもあるんだが、いつもと変わらない冷めた口調で顔色1つ変えずに淡々と話す飛月を見て、ため息が出る。

 夕食を終えた俺たちはリビングに置かれた2つの2人掛けソファに各々座り、明日から始めるハーレム計画の打ち合わせを始める。

「まず1人目の攻略ですが、この子がいいと思います」

 飛月が取り出した写真には、橙色のショートヘアで可愛らしいサイドテールが特徴的な、いかにも活発そうな美少女が体操着姿で写っていた。

「私たちと同じクラスの大空おおぞら 日和ひより、16歳です。事前に集めた情報によりますと身長153センチ、体重40キロ中盤、現在は茶道部に所属していますが元々は陸上部だったようで運動神経は抜群だそうです」

「よくそこまで調べたな」

「私は優秀ですからね。この情報はある筋からの情報ですのでほぼ間違いないかと」

「ふ~ん、それじゃあ、なんでその子を最初の攻略対象として選んだんだ?」

「魔王様から美少女であり魔術師であると言うことが攻略対象としての条件だと言われていましたので、去年男子の中で秘密裏に開かれたと言う校内美少女コンテストを参考にしたところ大空は全校生徒の中で3位になっていたらしいのでこれなら魔王様も納得するでしょうし、大空は活発で明るい性格なので比較的に話やすいと思ったのも理由の1つです。つまりはトリプルDであるにに様にはちょうどいい相手だと思いまして」

 ものすごく馬鹿にされているみたいだが、実際、話しやすい人のほうが攻略はやりやすそうだし反論はしないでやるか。

「俺はこっちに来てまだ日が浅いし学校の女子のこともよく知らないからな、とりあえずお前が勧めるその大空って子を今回は攻略対象にするか」

「そう言うと思いまして、この私がアニメを参考に大空 日和用の攻略策を準備しておきましたので、今晩中にしっかり覚えて明日から攻略を開始すると言うことでいいですね?」

 そう言って渡された資料をパラパラっと見て、飛月の顔を見るとなぜかドヤ顔、この攻略作戦に相当な自信を持っているみたいだが、正直言ってこれで大丈夫なのだろうかと不安になる内容だった。


ここまで読んで頂きありがとうございます

文字数5000~7000程度を目安に書いていきます

ペースは変わらずむしろ早めに投稿したいと思っていますので

これからもよろしくお願いいたします

高評価、ブクマ登録などして頂けると頑張れますので

応援のほどよろしくお願いいたします。

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