辛いのはお好きですか?
前回までのあらすじ
主を置いて逃げ出した飛月に説教しようとするが
上手く話を逸らされる
水無瀬の態度が急変し避けられるように
それでもなるべく話かけることに
ハーレム作り15日目。
今日までの2日間、水無瀬に逃げられ続けた。朝の挨拶から放課後までなるべく言葉をかけようと立ち回り、少なくとも7回は逃げられている。
水無瀬が登校時に通るだろうルートを把握し、偶然を装い一緒に登校しようと水無瀬を待ち伏せしたり、水無瀬の部活が終わるまで校門で水無瀬を待ったりと我ながらかなりの努力したんだが全くもって成果が出なかった。
声をかけようとすると、顔をそらされ全速力で逃げられる。
いくら俺が忌み嫌われる次期魔王だからって言ってもここまでされるとさすがに凹む。
しまいには飛月に『離れたところから見させてもらっている第三者として言わせてもらえば、今のにに様はモテないのに頑張っている惨めな片恋男子もといストーカーですね』と言われる始末。
『お前の考えた作戦だろうが』そのときはそう言い返したが、たしかに傍から見れば水無瀬が迷惑そうにしているにも関わらずしつこい粘着野郎と周りからは思われているだろうな。
そんなことを考えている間に4限目の授業が終わり昼休みになる。
「にに様、昼食にしましょう」
飛月がいつものようにそう言って近寄ってきて、いつも朝早くから作っている弁当を2つ取り出し片方を俺の前に置く。
転校して最初のほうはこの光景を見てクラスの奴らが『2人とも仲良いんだね~』とか『兄妹揃ってご飯食べるんだ~』とか面白がって囁いていた。そう、囁いていたと言うのがポイントで現在まで俺たちに話しかけてくるようなクラスメイトは存在しない。それもこれも飛月が転校初っ端から始めた無茶振りなどのせいで、俺たち兄妹はクラスメイトからの『変な奴ら』と思われているらしい。簡単に言うのなら俺たちと関わりたくないと言うことだ。
仲良くなった日和も昼はクラスの友達と食べているから、この時間は余計疎外感がある。
そういう訳で、俺たちはこのクラスで浮いているから水無瀬がそんな俺たちと関わりたくないと思うのも仕方ないことなんだが……。
「なにかいやらしいことでも考えているのですか?」
「は? なんで?」
「私の手料理に箸をつけようとしないのですから、私の手料理よりも重要なことを考えていたと言うことになります。つまりはエロ方面」
「お前、俺のことをかなりの変態と思ってるだろ?」
「思っていますけど?」
それが何か? と言いたげな顔をしながら何を当たり前のことを聞いてくるんだこの馬鹿は、と言っているかのような口調で即答してくる。
「あのなぁ、変態と言うより俺はむしろ紳士だろうが」
生まれてこの方俺は女子に対して変態的なことはなにもしていない、変態的な行動どころかエロ行為すらしていない。その俺が変態と言われるのならこの世にいる者すべてが変態と言えるだろう。
「紳士と言うよりただのチキンと言うべきだと思いますが」
飛月はから揚げを箸で突き刺しながらそう呟き、口の中へ唐揚げを運ぶ。
「変態よりはマシだろ」
「そうですね、チキンは私も好きですから」
あれ? 飛月の好物はたしか生肉であって、鶏肉ではなかった気が(勿論鶏肉が嫌いと言うわけではないけど)
「なにを黙っているのですか、私が鶏肉を好きだと言ったら駄目なのですか? おかしなことは言っていないはずです」
「いや、そうだけど、お前ってそんなに鶏肉好きだっけ? どっちかと言うと――」
喋っている途中で飛月は俺の言葉を止め、聞き耳を立てる。
「どうやら水無瀬は友達と一緒に食堂へ行くようですね、そうとわかればこんな話をしている場合ではありません。急いで食堂へ行きましょう」
そう言って立ち上がると俺にも立ち上がるように急かしてくる。
「急いでって言われても、俺はまだ弁当を食べ終わってないんだが」
「そんな物よりも今は攻略が優先です。食堂に行き水無瀬と同じ物を注文し、共通の話題を作って水無瀬と打ち解けるのです」
「……わかったよ」
とりあえず納得し席から立ち上がって廊下に出ようとすると、一瞬だが俺のほうを見ている日和の姿が目に入った。
日和の目線と言うか表情が少し暗く寂しそうに見えたのが気になったんだが、飛月から『大空はすでに攻略したのですか、あまり関わらないでください。1度攻略した女に使う時間なんてありませんから』なんて言われてるから、日和とはここ数日疎遠になってしまっている。本当はもっと仲良くしたいんだが水無瀬の攻略が難航しているせいで遊ぶ余裕もない。だから何故日和があんな顔をして俺を見ていたのか、今の俺にはわからない。
気にはなるが、今はとりあえず水無瀬の攻略に集中しようと食堂へ向かう。
食堂に着くと、水無瀬といつもの友達は食券を買うために自販機の前に立っていた。
飛月に背中を押され、俺は水無瀬たちの後ろに並ぶとその友達のほうが水無瀬よりも先に俺に気づき、ニヤニヤしながら水無瀬の肩をつつき、俺の存在を教える。
「き、雉君! え、えっと、その、それじゃあ!」
水無瀬は焦ったように自販機のボタンを素早く押して出てきた食券を手に取りカウンターへ駆けて行く。
そんな姿を楽しそうに見ている友達は『それじゃあ』と言うと、自販機のボタンを押し、出てきた食券を持ってカウンターへ向かって行った。
「やっぱ、逃げられるか」
そう呟くと、飛月が少し睨むように水無瀬の友達に視線を送っていることに気づく。
「飛月、どうかしたのか?」
「私は水無瀬の態度が急に変わったのか今の今までわからなかったのですが、今のやり取りを見て原因がようやくわかったような気がします」
「本当か、それでその原因ってなんだ?」
「ここでは説明できませんので、とりあえずにに様は水無瀬と同じものを注文し水無瀬と近い席で食べてきてください」
「そう言われてもなにを押したのか早すぎて見てなかったぞ」
「水無瀬がなにを押したのかわからないということですか? 全く、にに様は本当にどうしようもないですね」
ため息交じりに飛月はボタンを押して食券を取り出し俺に手渡すと『さっさと行って来い』と言わんばかりに顎で指示され、俺はカウンターへ向かい食券を出すと、すぐに料理が出てきた。目の前に出された料理は寿司だった。日本と言えば寿司と言われるくらいに有名らしく、この前、飛月が作ってくれてかなり美味しかったことを覚えている。
寿司が8貫の乗った皿を持って飛月の指示通り、水無瀬の隣に座ろうかと思っていたんだが水無瀬は大衆用の長テーブルの端の席に座っていてその隣には友達が座っているから水無瀬の隣に座るのは無理そうだ。仕方なくできるだけ近くに座ろうかなんて思っていると、その友達が俺のことをチラッと見て『あー、そう言えばあたし委員会の集まりがあったような気がー、そういうことだから、愛南、頑張るんだよ』と水無瀬に向かって親指を立てると、まだ全然食べ終わっていないにもかかわらず、その友達はそそくさと後片付けをして食堂から出て行った。
残された水無瀬は何故か挙動不審と言うかテンパっているような感じであたふたとし始めていたが、ちょうど席も空いたことだし、隣に座ろうと思い水無瀬に声をかける。
「水無瀬、隣いいか?」
「え、えっと、う、うん」
今の水無瀬には植物園で会ったときの落ちついた和美人らしさが全くと言っていいほど感じられず、頬を少し赤らめながら視線を落としている。
「えっと、水無瀬って寿司が好きなのか?」
「そ、その、う、うん、好きかな」
「その割にはあんまり食べてないみたいだけど?」
水無瀬は注文した寿司にはほとんど手をつけずに残している。
「そ、そんなことないよ」
水無瀬はマグロの握りを口に入れると、顔をしかめて地団駄を踏みながらもなんとか飲み込み『うぅぅ』と口を押えながら苦しそうにしている。
「どう見ても好きそうには見えないんだが?」
「その、お寿司は好きなんだけど、ワサビがちょっと……」
ワサビって言ったらたしか寿司の中に入っている緑色の辛い奴だよな、でも、飛月の奴は『ワサビが入っているから美味しいのです』とかなんとか言っていたような……。
「ワサビって寿司には入ってるもんなんだろ? だったらなんで寿司を選んだんだ?」
「えっと、その、雉君を見て焦っちゃ――、あ、その、な、なんでもない、わたしのことは気にしないで」
どうやら、水無瀬は間違ってボタンを押したみたいだな、しかも多分それは俺のせいだ。
寿司を食べて少し涙目になっている水無瀬を見て、本当にワサビが苦手みたいだからなんとかしてやりたいんだが、飯についているワサビだけを完全に取り除くのは難しそうだし。
なにかいい案はないかと思い、近くに座っているであろう飛月に助けを求めるために振り返ると、飛月の目の前にはたくさんの料理が並んでいた。おおよそ男が1日に必要とするエネルギーを1食で摂取できるほどの量を目の前にしながら飛月の奴は平然と食事をしていた。
「(あいつ何やってんだよ!?)」
水無瀬攻略の手伝いよりも目の前の料理に目を輝かせている飛月は役に立たなさそうなので、とりあえず俺が思いつく中で最善と思われる行動を選択する。
「水無瀬、この学食でおすすめのメニューってなにかあるか?」
「え? えっと、わたしのおすすめはオムライスかな」
それを聞いて俺は自販機に向かいオムライスの食券を手に入れて、カウンターでオムライスの乗った皿を受け取ると、水無瀬の前に置いた。
「え、え? これって?」
「いや、ワサビが食べられないんじゃワサビ入りの寿司は食べられないだろ、だったら食べられる奴を食べればいいかと思って」
「そ、それは駄目だよ、残すのは勿体ないから」
「寿司は俺が食べてやるから、水無瀬はオムライスを食べる、それならいいだろ?」
俺の言葉に水無瀬は小さく『うん』と頷いてオムライスを1口食べる。
「美味しい」
笑顔になった水無瀬を見て少しホッとしながら水無瀬の前にある寿司の乗った皿を手に取り自分の前まで持ってくる。
「……ありがとう」
さっきよりも若干頬を赤らめ俯きながらそう呟いた水無瀬の言葉を聞いて、上手くいったみたいでよかったと思いながら寿司を食べきった。
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