フェルカーモント
前回までのあらすじ
日和の過去を聞き出す
いじめをしていた3人組へ報復を決意する
廃ビルに3人を集め問い詰めるが魔術戦へ
日和の受けた痛みを知るため受けて立つ王真だったが・・・
「ちょ、なんで? 動けないはずでしょ、それにあたしのゴーレムを素手で壊すなんて――」
「動けない? こんなもんで拘束してたつもりか?」
俺はメキメキと音を立てる十字架を無視するように力を入れて体を動かすと拘束していた魔力の糸はブチブチと音を立てて切れていき、何事もなかったかのように十字架から抜け出して見せる。
「そんなわけ、今まで誰も抜け出せなかったのに、一体何をしたの!?」
「何もしてねえよ、見てなかったのか? ただ千切っただけだ」
十字架を出した女は随分と自信があったようで、目の前で起きていることが信じられないといった様子で取り乱していたので一応やったことを教えてやる。
「み、水よ! 溺れさせて失神させるの、ほら早く!」
そう促され焦るように俺の頭上に半径40cmくらいの水球を召喚してそのまま俺の顔を覆うつもりだったのだろうが、その前に俺が殴って消し飛ばす。
「わ、わたしの水魔術が、消された」
正確に言えば消したわけじゃなくて砕いただけなんだが。
まぁ、そんな事わざわざ教えてやる義理も必要も無い。こいつらはここで終わるんだから。
「(まずはあの2人から)」
「きゃっ!」
「ヤメッ――」
一瞬で間合いを詰めて水の奴と十字架の奴の腹部を蹴飛ばし、壁に打ち付け黙らせる。
「今よ、やって!」
残った女の声に呼応するように背後に忍び寄っていたゴーレムが、俺の後頭部を狙って拳を振り下ろしてくるが、当然その動きは見えている。
「(これで背後を取ったつもりか)」
拳を軽くかわし、無防備になっている頭部をお返しと言わんばかりに殴り砕いてやると、そこに魔術的コアがあったのか、全身がボロボロと崩れていく。
「う、嘘でしょ、あたしのゴーレムをあんな簡単に壊せるやつなんて学校にも――」
このハリボテに余程自信があったのだろう、崩れた残骸が消えていくのを見て、そんなことを口にしながらヘタリとその場で膝をつく。
「その様子じゃ、もう終わりってことで良いのか?」
「ま、待って、み、見逃してよ。あたしの負けだからそれでいいでしょ? もう抵抗もしないし、転校生には関わらない。そ、それでいいでしょ?」
「いいわけないだろ?」
「え?」
この状況で日和や俺に謝りもせず、つるんでいた仲間が気を失っているのに一切心配もせず、自分だけ痛みから助かろうとしている。
救いようもないクズだ。
「日和なぁ、お前らの勝手な言い分でろくにやりたいこと出来ず、あの無邪気な笑顔もむしり取られたんだぞ! ――それに俺はこれだけの傷を負った、何より俺の友人である日和の体と心を傷つけた。暴力と暴言を使い他人を傷つけておいて、負けそうになったらそこで終了なんて都合のいいことがこの世界の常識なのか?」
「ちょ、近づいて来んな。あたしは優等生で、女子なんだからあんたが殴ったら問題に――」
「知るか、クズ」
何を言い出すかと聞いてみたはいいが、どうでもいい耳障りな雑音を吐き散らかし出したので、憎しみと侮蔑を込めて顔面を殴りつける。
「友人の体と心を一方的に痛めつけておいて、反撃したら問題になるっていうならそれはこの世界の常識が腐ってるだけだ」
どこの世界にそんな常識があるのだろうか、魔界だろうが自然界だろうが痛みを与えれば与えられるのが常識、生物として命や仲間を守るために戦うことは本能であり権利だ。
男だろうが、女だろうが、地位だろうが、他種族だろうが、そんなことで自分たちを雁字搦めにして、やられたらやり返すなんて簡単なことを躊躇しているのはお前ら人間だけだ。
「所詮、人間なんてこんなもんか、生かす価値もない」
どの道、魔王になれば人間界を滅ぼすつもりだった訳だし、少し気は早いがクズの掃除をしておいても結果は一緒だろう。
顔の骨を砕いたので至る所から血が垂れ流れているが、まだ息はある。このまま放っておけば死ぬだろうが、治癒魔術を使える魔術師もいる可能性を考えれば確実に終わらせておくべきか。
「フェル様、そこまでに」
床に倒れている頭部を目掛けて足を上げた瞬間、後方からツァイルの声が聞こえて来る。
「……日和のところに付かせたはずだが?」
「寮まで安全に送り届けましたので様子を見にやって参りました。それ以上やられればその女は確実に死にますよ」
「そのつもりだったんだが?」
「ここでどんなやり取りがあったのかは、把握していませんが、ここでその女どもを殺すとハーレム計画に支障が出ます」
「どう支障が出る?」
「魔術師候補生が殺されたとなれば、魔術教会が動きます。奴らが本気で調べれば遅かれ早かれ我々にたどり着きます。魔界に帰られない状態で、たった2人で奴らと争うのは自殺行為です」
魔術教会、こっちの世界の魔術師たちトップ組織だったな。魔族たちからすれば憎き相手、実力も認めたくないがこいつらとは格の違う奴らが100人程度はいるだろう。
ツァイルの言う通りこれ以上は自殺行為か、だが。
「友人を傷つけられ、俺自身も傷を負った。それにも関わらず次期魔王であるこの俺がここでこいつらを終わらせなければ、それこそ魔界の威厳に関わる」
「何を言っておられるのですか? いえ、何を言っているのですか? ここに居るのは私の兄、雉 王真でしょう。人間である以上魔界の威厳は損なわれませんし、何よりこんなことで正体がバレ、魔術協会の奴らに殺される方が魔界の威厳に関わります」
「…………」
「我々の魔界に3度も攻め入り、同胞を殺した魔術師どもを憎む気持ちを今回の1件で思い出したのでしょうが今はその時ではありません。魔術協会のクソどもを殺すのはこの試練を成し遂げて、魔界を統べる魔王となってからでも遅くはありません。違いますか、にに様?」
珍しい笑顔だった。
諭すように慈愛に満ちた姉のような微笑みを見て、ようやく雉 王真に戻れたような気がした。
「……すまん、頭に血が上った」
上げていた足をスッと地面に落とし、目的を完全に見失っていた自分の未熟さを反省するように俯きながら飛月に頭を下げる。
ここまで読んで頂きありがとうございます
前話と間隔を空けたくなかったので今回は短めです
引き続き週2~3ペースで投稿していきますので
よろしくお願いいたします
高評価、ブクマ登録などして頂けると頑張れますので
応援のほどよろしくお願いいたします。