日和の陰に触れる
前回までのあらすじ
日和の友達だと思っていた3人組は日和の陰そのものだった
3人から酷いこと言われ傷つく日和を追いかけた先で
日和は男に絡まれていたので王真が助けに入る
日和の手を取り走った先で過去を話し始める
「ウチね、中学1年までずっと自分が男だと思ってたの」
「え、それってどういう」
「えっと、ウチにはお姉ちゃんがいてね、そのお姉ちゃんはずっと弟が欲しかったみたいで『お前は元気のいい男の子で私の弟だ』って小さい頃から言われ続けてたんだ。それ自体は別に嫌じゃなくて、お姉ちゃんも優しいし大好きなんだけど、ずっと男の子らしい遊びとか喋り方とかばっかりしてるうちに、自分でもウチは男の子だと思うようになってて、そのせいで昔から女友達よりも男友達が多くて、ウチは男の子と一緒に走り回ったり虫を捕まえたりするのが大好きだったからよかったんだけど、でも中学に上がっても同じ調子で男子と話してたらいつの間にかクラスの女子から嫌われるようになってて……」
同性に接するように男と気軽に接していたってことか、これだけ明るくていい奴なら男友達からすれば話しやすいだろうし、きっと日和の周りには日和と仲良く話す男子が結構いたんだろうな、それを見ていたクラスの女子たちが面白くないと感じたってわけか。
「それで……色々あって、ウチが悪いんだって思って、変わらないといけないって思って、女子らしくなろうとして、男の子になるべく関わらないようにして、男の子がやるような遊びもあんまりやらないようにして、でも、どうしてもやりたくなったら誰にもばれない様に変装してこっそり遊んでたんだけど」
「(それで、あんな格好をしてたのか)」
子供たちと混ざって野球をしているときも昆虫を取っているときも、今日ラウンドパークに来たときもあんな地味なジャージと帽子を着ていたのは知り合いにばれない様に、ってことか。
「それで、色々ってなにがあったんだ?」
「色々は色々だよ、他人に詳しく話すことじゃ――」
「話せよ、少なくとも俺はもう日和のことを他人だなんて思ってないんだぞ」
「………………」
日和はすごく悩んでいるような表情をして、俺から顔をそらすように俯いた。
「クラス女子たちから……、い、嫌なことをされたの」
悔しそうに歯を軋ませ、体を震わせながらそう告白してくれる。
「それってイジメって奴だよな、でも日和の性格なら黙ってたわけじゃないんだろ?」
「うん、最初のほうは負けないように頑張ってたし、反抗もしてたけど、そのうち段々イジメの数が増えていって、質も悪くなって、出鱈目な噂とか流されて、そのせいでウチの周りにいた男子たちにも迷惑がかかって、ウチの居場所もなくなっていって、なにをすればいいのかわからなくなって、それで、もう、あの子たちに逆らうのを止めて、自分が悪かったって謝って、イジメられないように女の子らしく振る舞うことを決めたの」
思い出すことでその時の悔しさ哀しさ痛みを思い出したのだろう、ポロポロと涙をこぼしながら話してくれる様子を見れば、どれだけ酷いことをされて来たか想像できる。
俺は再び湧き立つ怒りを鎮めながら自分自身に冷静になるよう言い聞かせて、頭の中を整理すると日和がクラスで素っ気なかったのは、そう言う過去があったからだとようやく理解した。
俺と親しく話しているところをあいつらに見つかれば日和自身はもちろん、俺にも害が及ぶことがわかっていたから。
「それで、その、あの子たちって言うのはさっきの女子たちなんだろ? あいつらが日和をイジメてた奴らなんだよな? だったらあいつらに復讐したいとか思わないか?」
「えっ?」
「もし、日和がそう思うなら手伝ってやる」
「……ううん、それはいい、たしかにムカツクけどウチも悪かったって思うし」
「俺はそうは思わないけど、――日和がそう言うなら復讐の手伝いはしない」
「うん、そうして、ってどこ行くの?」
「結構走って喉乾いたから飲み物買ってくる。そうだ、日和の分も買ってくるからそこで待ってろ、すぐ戻ってくるから」
気づかれてなかっただろうか、ちゃんと笑って言えただろうか、グツグツと煮えたぎり始めた怒りをちゃんと隠せただろうか、不安に思いながら駆け足気味に公園を出る。
「『ツァイル、あの糞女共の居場所を今すぐ調べろ』」
「『そう言うと思っていましたので、すでに調べてあります』」
「『それで、場所はどこだ?』」
「『ここから1キロ先の廃ビル1階にいます』」
「『廃ビル? なんでそんなところに?』」
「『人目のないところのほうが、色々するには都合がいいだろうと思いまして』」
「『……お前は相変わらずこういうときだけは頼りになるな』」
「『それはお互い様です』」
「『それもそうかもな、それじゃあ、俺のことはもういいからあとは日和につけ、俺が戻るまで日和のことを頼む』」
「『いいのですか? 相手は3人ですよ』」
「『あのなぁ、俺は次期魔王なんだぞ、あんな奴ら相手じゃ苦戦すらしねえよ』」
「『そうですね、フェル様は魔力と戦闘能力(馬鹿力)に関してだけは魔界1でしたから』」
「『そうそう、それくらいしか誇れるものが、ってなに言わせてんだよ!』」
「『ふふっ、それでは私は我が主の命に従い、主の帰還を待つことにします』」
「『ああ、大人しく待ってろ』」
ツァイルとの会話を終えて、指定された廃ビルに走って向う。
どうやってここへ誘導したのか知らないが、なにも知らない糞女共が廃ビル1階にいるのを見つける。
「あたしらを呼び出したのって、もしかしてあんた? って、よく見たらさっきの転校生じゃん、あたしらになんか用?」
「お前ら日和をイジメたらしいな」
「なにそれ、日和から聞いたん? 人聞き悪いなぁ、あたしらは教育をしただけじゃん」
「教育?」
「そっ、あんなことしてちゃ、クラスに馴染めないぞって教えてあげただけじゃん、あたしらが教育したお陰で日和は今のクラスで浮いてもないし、イジメられてもない、悪い噂もない。感謝されることがあってもイジメなんて言われる筋合い内ないつーの」
「……その教育とやらは一体何をやったんだ?」
「なに、興味あんの? じゃあちょうどいいからあんたも受けていきなよ、どうせこうなったらあんたにも教育しないといけないだろうし」
そう言い終わると同時に脇の2人の女子は躊躇することなく俺に魔術を行使してくる。
魔術によって召喚された十字架に一瞬で磔にされてしまう。
「(拘束魔術か)」
「どう? こうなったら身動き取れないでしょ? こう見えてもあたしら優等生で通ってるから先生とかにチクられても困る訳、だからぁ、転校生にはあたしらが正しかったって言ってもらえるように教育してあげる」
そう言うと十字架を出している女の逆サイドにいる女に合図を出す、それに応じて女が魔術を使ったかと思うと頭上からかなりの水が流れてくる。まるで滝に打たれているかのような衝撃と冷たさを感じていると、すぐにその水は流れ去って消えてしまう。
「磔にしてからの水攻めを受けた気持ちどう? こっちから見てる分にはびちゃびちゃ過ぎてめっちゃ滑稽だけど?」
「まるで悪魔の真似ごとだな? それでも対魔族用の魔術師か?」
ゲラゲラ笑う奴らを鼻で笑う様にそう言ってやると、女子らは笑うこと自体は止めたが余裕のある笑みを浮かべる。
「へぇー、意外と威勢いいじゃん。大体はこの辺で泣いて謝って来るんだけど、でもそうじゃなきゃ、日和とつるんでる奴がこの程度で音を上げるわけないしね」
ようやく真打登場といった様子で魔術を行使した女は、俺より一回りくらい大きい体格のゴーレムを召喚する。
「やっちゃって」
女がそう命令するとゴーレムはゆっくりと動き出し1歩ずつ俺との距離を詰めて1mもないところで止まり、俺の腹部を強打してくる。
「ったははっ! いったそ~、頑張れぇ転校生、ちなみに日和は3発も耐えたぞ~」
石で作られたゴーレムの強打、魔力を帯びてない人間なら一撃で気を失うほどの威力、さすがにこれは俺でも痛い。
1発殴るごとに女子たちは笑う、まるでギャグアニメを見ているかのように品の無い笑い声を上げる。
腹部に2発、顔に1発、きっと日和にも同じことをしたんだろう。次期魔王の俺でさえ普通に痛い、この拷問のようなイジメを受けたのだろう。
身動きを封じられ、水をかけられ、一方的に殴られる。どれ程の恐怖でどれ程の屈辱でどれ程の痛みだったのだろうか、少しでも理解しようと受けてみたが結局のところわからない。俺は俺で日和は日和、魔力も違えばメンタルだって違うし体の強さだって違う。きっと俺が感じた物とは比べ物にならない恐怖と屈辱と痛みを経験したのだろう。
それにこれだけじゃない、日和が言うには噂まで流され精神的にも追い詰められていたんだろう。
本当に魔族みたいな奴らだ。だが、これ以上お株を奪われる訳にはいかない。
「殴ってもリアクションしないんじゃ白けるって、痛いなら痛いって言わないとドンドン殴っちゃうぞ」
その言葉に従ったゴーレムは俺に向かって4発目の強打を顔に入れてこようとしたのだが、グータッチをするかのように俺はゴーレムの拳を打ち砕いた。
「……は?」
崩れ落ちるゴーレムの腕を見てそんな馬鹿みたいな声を出す女子、どうやら俺が右腕の拘束を引き千切ってゴーレムの拳を砕いたことを理解してないようだった。
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