痛む心、込み上げる怒り
前回までのあらすじ
スポーツデートを満喫した2人
帰り際にお揃いのジャージを買う
ペアルックでスポーツ施設を後にする
日和を寮に送り届ける帰り道
急に日和の足が止まり見つめる先には……
日和の怯える視線の先は俺ではなく俺の後方、つまりはさっきまでの進行方向を見ているようだった。なにを見て日和が怯えているのかを知るために振り返ると、そこにはこちらに向かって歩いてくる3人組がいた。
どうと言うことのない普通の女子たちになぜ日和が怯えているのかわからない。でも、この女子たちどこかで見た気もする。
とりあえずこういうときは日和の近くにいたほうがいいと思い日和の方へ足を踏み出す。
「こ、来ないで!」
そう力いっぱい拒絶される。
さっきまで楽しく笑いながら話していたのに、急に態度が変わった。
まるで、クラスにいるときの日和みたいに。
「あっれ~、日和? 日和じゃん、なに大声上げてんの? ん~? あっ転校生じゃん、そいつ日和の彼氏? 」
3人組の1人が日和に向けて軽い調子でそう声をかけてくる。
その声を聞いて、ようやくクラスでいつも日和と一緒に居る女子たちだと気づく。
「ううん、違う。この人は彼氏とかじゃないよ、この人とウチはなんの関係もないから」
「ふ~ん、でもさぁ、それペアルックじゃん? たまたま道を歩いてたら関係ない人とペアルックってそんな偶然あるの?」
「それは……」
「なんだ、やっぱ彼氏なんじゃん、隠さなくてもいいって」
「違う! 王真くんは彼氏なんかじゃないよ!」
「え~、彼氏じゃないんだ~、それじゃあ遊びって奴? さすがモテる女は違うな~」
「そう言うのじゃ……」
「今更隠す意味なくない? 日和は中学のときから周りは男子ばっかりでいっつも男子と仲良く話してたじゃん、男子からも『話やすい』とか言われて、好かれてて調子乗ってたじゃん」
「そんなこと……」
「でも、あれから全然男子と話さなくなったから、てっきり男漁りは止めたのかと思ってたけど、またやってるなんて日和は男大好きだね~、さすがは中学のとき陰で糞ビッチって言われてただけのことはあるね」
そう言われた瞬間、日和は反転して寮とは真逆の道というか、さっきまで歩いてきた道を引き返すように逃げ出した。あんなことを言われて日和がどんな気持ちだったのかわからないし、表情も見えなかったが、反転するときに日和の目から涙がこぼれたのだけはわかった。
状況をよくわかってはいないがとりあえず日和を追いかけようとすると、さっきまで日和と喋っていた女子が俺を呼び止める。
「悪いことは言わないからさ~、日和と関わるの止めなよ。あいつ昔から男受けが良くてさぁ、中学のときなんて男友達ばっかで、そいつらからチヤホヤされていい気になってて。クラスの女子たちからは嫌われてるってのに、あいつお構いなしでさぁ、あいつは悪女、関わるとあんたもろくな目に合わないよ」
「……お前らさぁ、日和のなんなんだよ」
「なにって友達だよ、友達。すっごく仲のいい、ただのと・も・だ・ち」
煽るような、にやけ面で含みのある言い方でそう言うと、他の女子はそれを聞いてクスクスと耳障りな笑い声を発する。
「そうかよ、忠告ど~もっ」
状況は未だによくわからないが、とりあえずこんな奴らの相手をしている場合じゃない事だけはわかったので、嫌味を残して3人組に背を向け日和が逃げて行ったほうへ走り出す。
「日和の奴は3股、4股なんて当たり前だから、苦労するぞ~」
そんな罵倒や中傷に等しい言葉と品のない笑い声を背に受けながらも、俺は日和を追って走る。
「『だから言ったじゃないですか、女なんてものはこんなものです。これでわかったら幻想なんてものは持たずに――』」
「『ツァイル、いくら冗談だとしてもあんな糞共と同じようなことを言うのは止めろ。さすがに気に障る』」
「『――申し訳ありません』」
ツァイルを黙らせて俺は必死に走り続ける、さすがに日和の足は速く、この姿だと追いつけるどころか、さらに離され背中も見えなくなってしまう。それでも今の日和を放っておけるわけもなく、さっきまでいたラウンドパークまで戻る。
陽も沈みかけているせいか周りに人はほとんどいない。日和はここには来ていないのかと思いながら藁にも縋る気持ちで辺りを見渡していると、敷地内の隅に置かれた3人掛け用のベンチで、膝を抱えて座っている日和の姿を見つける。
安堵すると同時にすぐに声を掛けようと思い近寄っていくと、日和に声を掛けようとしている2人組の男たちが目に入った。
「ねえ、そこの彼女、なんでこんなところに1人でいるの?」
「暇なら俺たちと遊ばない?」
見るからに遊び慣れている風貌の男たちは軽そうなノリで日和を誘う。
「遊ばない、あっち行って」
「そんなこと言わずにねっ、俺たちストレス発散できるいい場所を知ってるんだよ、一緒に行かない? きっと楽しいよ」
「行かないったら行かない!」
日和はふさぎ込んでいた顔を上げると、日和の目は赤くなっていて遠目から見ても涙が流れた後がわかるほど辛そうな表情をしていた。
「なんだ、泣いてたの? 可哀想に彼氏にでも振られちゃった?」
「大丈夫だって男なんて腐るほどいるし、なんなら俺たちがしてあげようか?」
明らかに落ち込んでいる日和の姿を見て軽く笑ったあと、そんなことを言って男たちはさらに日和に近寄ろうとすると、日和は本当に嫌そうな顔をする。
これ以上はさすがに見ていられない、ただでさえさっきの奴らの言葉で気が立っているのに日和の嫌がる顔を見せられ、沸々と沸き上がる怒りを抑えながら、なんとか冷静さを取り繕って日和に駆け寄っていく。
「おい、日和ちょっと来い」
「えっ、王真くん、なんで――」
男たちを押し退けて俺は有無を言わさず日和の腕を掴んで立ち上がらせ、そのままこの場を後にしようとしたところで、後ろから肩を掴まれる。
「おい、おい、急に出てきてそれはないんじゃない? その子に先に声かけたのは俺たちだからさぁ~」
「悪いが、こいつは俺の友人なんだ。ここは手を引いてくれ」
「はっ、友人とか知らんし、手を引くのはそっち――」
ここは敵地、少しでも人間じゃないと疑われるような軽薄なことをするべきじゃない、それはわかっている。だから日和が何を言われようと冷静でいようと理性で押し込めていたのだが、さすがに面倒になった俺は掴んできている手を払いのけて振り返り、払った手を握手するように握ってやる。
「頼むよ、こっちも色々あって色んなもんを抑えるのが限界なんだよ。なぁ、わかってくれるよな!」
握った手を徐々に締め上げるように力を加える。
あふれ出る魔力を必死に抑えながら出来る限りの加減をして握る。
少しでも気を抜けばアルミ缶を潰すように、握り潰してしまいそうになりながら握る。
これ以上、俺の勘に触ることを言わないでくれと願いながらその男を睨む。
「っぐ、ったたた、わ、わかった。わかったから放してくれ」
「……助かる」
その言葉を聞いて俺は心底安堵して手を放し、再び日和の手を引いて走りだす。
男たちは追ってくることもなかったので走る必要も無かったんだが、なんとなくあの場から早く離れたくて日和と一緒に走り出す。
「日和、もっと早く走れるか?」
「……うん、もちろん!」
逃げるように走っているが実際は追っ手もいない逃亡劇、それでも走る足を止められない、なぜなら走っている間は余計なことを考えずにいられたからだ。
とても心地の良い風を受けながらしばらく日和と共に走って気持ちも落ち着いて来たが、さすがに俺の方が疲れてしまい、たまたま近くにあった公園に入り2人掛けのベンチに2人で座った。
「さっきはありがとうね、助けてくれて」
「あれはなんて言うか考えるより体が先に動いたって言うか、俺がしたかったからしたって感じだ」
「そうだとしても凄く助かった。なにかお礼しなきゃね」
「それなら、お礼にあの女子たちが言っていた話を詳しく聞かせてくれ」
「……言いたくないって、言ったらどうする?」
「土下座してでも聞き出す」
「そっか……助けてくれた恩人に土下座させるわけにはいかないね。うん、それじゃあ王真くんになら話そうかな、最初に言っておくけどあんまり面白い話じゃないよ」
その言葉に俺は頷くと、日和は自分の過去を話し始めた。
ここまで読んで頂きありがとうございます
少し投稿間隔が空いてしまいすみません
今週は頑張ります(ペースを上げるとは言ってない)
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