日和に迫る魔の手
スポーツ施設に入り最初に始めたのはバスケだった
王真は初見だったがルールを聞きながらプレーをする
初心者とは言え体格差で有利かと思われたが惨敗
最後の1本を決めるための奇襲として
開始直後のシュートを放ち見事に決めて見せた
「あっはは、やられちゃったな、まさかそんな不意打ちしてくるなんてね」
「苦し紛れだったけどな、上手くいったのは偶然だ」
「そうだね、きっと偶然だと思うけど、その偶然を起こしたところは少しかっこよかったよ」
ニコッと笑う日和にこっちがときめきそうになりながらも、とりあえずカッコはついたようなので一安心。
「『やりましたね。手元にある好感度メーターもさっきより上昇していますよ』」
「『それ、持ってきてたんだな』」
「『当然です。それよりも順調にきているので日和をこのデートで攻略してください』」
「『はぁ? そんなもん急に言われても無理に決まってんだろ、今回は好感度を上げるくらいの軽い気持ちで来てんだよ』」
「『攻略が長期戦になればトリプルDであるにに様のボロが出てしまうので短期決着にしたほうがいいはずです、なので早速ですが手を繋いでください』」
「『なっ、なに言ってんだ! 急にそんなこと出来るわけないだろ』」
「『にに様のほうこそ、この程度でなにを言っているんですか、この前だって立ち上がるときに手を貸してもらっていたじゃないですか』」
「『それとこれとは違うだろ、そういうのはちゃんと順序ってものが――』」
「『今の好感度なら拒絶されるとは思えませんので、早くやってくださいと言うか、やれ』」
そう言われ、大きなため息をつき日和の右手に視線を移す。
たしかに起き上るときに手を貸してもらったことはあるが、あれはそういった意識が全くなかったから自然に繋げただけで、あらためて手を繋げなんて言われても……。
「王真くん、ボーっとしてどうかしたの? もしかして疲れちゃった?」
「いや、そういう訳じゃないけど、少し考え事を」
「考え事かぁ、でもさっ、ここはスポーツ施設なんだから難しいことを考えるよりパーッと汗を流したほうが楽しいと思うよ」
「まぁ、そうなんだろうけどな」
そんな風に頭を空にして遊べたら楽なんだろうな、なんて日和の屈託のない笑顔を見て思っていると、日和は突然俺の左腕を掴む。
「そんな難しい顔しないでよ、そうだ! 次行こう! 次! スポーツをすれば少しは気が晴れるかもよ」
俺の腕を引きながら日和は無邪気に走り出す。
その後姿を見て、なんて言うか男らしいと言うか少年らしさみたいなものを感じると同時に、日和はもしかすると俺のことを異性として見てないんじゃないかと思ってしまう。
それから、俺たちはテニスと言うラケットスポーツをしてから昼休憩を挟んだ後、日和の得意種目である200メートル走を走り終わったところで今日はこの辺にしておくことになってお互い更衣室へ向かい、一足先に着替え終わった俺は施設のロビー内で日和を待っている。
「『結局手を繋げないまま遊び惚けていましたね。美少女と一緒に汗を流すのはさぞ楽しかったのでしょうね』」
「『いや、まぁ楽しかったのは認めるよ。正直あっちに居た時はこんな風に遊んでる余裕なかったからな』」
「『……昔から魔王になるための試練続きでしたからね』」
「『ホント、たまの休みにお前と2人で遊ぶくらいしか楽しみなかったからな』」
「『ええ、私も――って、昔話くらいで誤魔化されませんよ。なんで手を繋がなかったのですか?』」
「『(別に誤魔化したわけじゃないが)仕方ないだろ、お互いに対戦する形式の競技ばっかりだったんだから、手なんて繋ぐチャンスなかっただろ』」
「『全く、言い訳だけは昔から上手ですね。とりあえず好感度はかなり上がりましたし、トリプルDのにに様からしてみればよくやったと見るべきですか』」
かなりの上から目線が気になるところだが、それよりも日和の態度が少し気になっていたので傍から見ていた飛月に聞いてみる。
「『なぁ、日和って俺のことどう思ってんのかな?』」
「『なに乙女みたいなこと言っているのですか? 普通に気持ち悪いのですけど』」
「『真面目に聞いてるんだよ。好感度が上がったとかお前は言うけど、実際はどうなのかと思ってな。俺自身はたしかに仲良くなってきてる気はするけど、同時に異性としての距離感じゃないって言うか、同性の友達と接してるみたいでちょっと引っかかるんだよ。だからお前から見て日和は俺のことをどう思ってるように見えるのか聞きたくてな』」
「『それを私に聞きますか……容赦ないですね』」
「『は? なんのことだ?』」
「『いえ、なんでも。私から見てもたしかに大空はにに様を異性としてではなくただの仲のいい友達として見ているように見えますが、それ自体は悪いことではないと思います』」
「『なんでだ? ハーレムに加えるための攻略ってのは好感度を上げて異性として好きになってもらわないといけないんだろ、だったら――』」
「『そうですが、現在のにに様は大空にとって唯一無二の友達ですので、順調と言えます』」
「『唯一無二って、日和には他にも友達がいるだろ? ほら、いつも日和の席の周りで日和と喋ってる女子たちが――』」
「『ですから、あの者たちは――』」
「お待たせ~、ん? 王真くんどうかした?」
更衣室から出てきた日和に背後から突然声をかけられ、驚きのあまりインカムの通信を切り、焦りながら振り返る。
「い、いや、なんでもない。それより、なんか変な匂いしないか?」
「あっはは、やっぱ匂うよね、このジャージ汗かいたまま置いてたから、匂いがきつくなっててさぁ~」
逆立ちやジョギングなどをしていた早朝に着ていたジャージに再び袖を通しながら照れているように頭をかく、着ているジャージの襟をつまみながら、どこか恥ずかしそうに頬を赤らめた。
その仕草を見てよくよく考えてみれば、女子相手に『変な匂いがする』なんて言ったのは間違いだったことにようやく気づき、インカムの通信を入れて飛月に助言を求める。
「『この状況で俺は日和になにをしてやればいいんだ?』」
「『そうですね『お前の匂いなら気にならないよ、むしろずっと嗅いでいたい』とか言って抱きしめて、くんかくんかすればいいのでは?』」
「『それ、お前がやられたらどうする?』」
「『とりあえず、殺します』」
「『だろうな! そういう悪い結果が見えてる案を提示するなよ。他に何かないのか?』」
「『でしたら、無難に新しい服とか買ってあげればいいのではないですか?』」
「『それだ! 飛月にしては普通にいい案だ』」
「なぁ、日和、それなら服を買いに行かないか?」
「う~ん、それも考えたけど、ウチお小遣いが――」
「心配すんな、それくらいなら俺が買ってやるから(試練中に使う金は経費で落ちるからな)」
「ホント!? あっ、でもやっぱりいいよ、ジュースと違って服はさすがに高いから悪いよ」
「『まずい、断られそうなんだが』」
「『仕方ありませんね、私の言葉をそのまま言ってください』」
飛月の言葉を一言一句間違えないように気をつけながら追いかけるように口にする。
「気にすんな、服の1着くらい高いとは思わない、なんせ汗臭い女と一緒に歩くよりは断然マシだからな」
「『――って、なに言わせるんだよ! 日和の奴俯いちまったじゃないかよ!』」
ちなみにだが日和の名誉のために言っておくが別に臭いと言う訳じゃない。
そんな抗議を飛月にしている間に、傷ついているであろう日和は勢いよく顔を上げる。
「えへへ、だよね、汗臭い女は嫌だよね。ごめんごめん、それじゃあ悪いけど服を買ってもらっていい?」
恥ずかしそうに頬を赤らめ、照れ笑いしながらそう言ってくれた日和にホッとしつつも、とりあえず上手くいったようなので、ロビー内にあるスポーツウェア専門店に入る。
「うわー! たっくさん種類があるね! ねぇねぇ、これとかどうかな?」
日和はテンション高めに店内を歩き回りよさそうな服を手にとっては、軽く自分の体に合わせながら俺に意見を聞いてきた。大したことも言えない俺に嫌な顔1つせずに笑いながら話してくれる日和は、やっぱり良い奴だと思う。
「『なんですか、その締まりのない顔は、にに様は落とす側であって落とされる側ではないのですよ』」
「『言われなくてもわかってるっての、それでも可愛いものを可愛いと思うのは自由だろ』」
「『はぁ、さすがはトリプルDですね。ちょっと優しくされたりちょっと笑顔を向けられたりするだけで惚れるなんて、チョロすぎですね。言っておきますが大空の好感度は未だ友達の域を超えていないのですよ、つまりは恋愛感情を持たれていないのですから勘違いしないでください、作戦に支障がでます』」
「『……そこまでいわなくてもいいだろ、俺だってそれくらいわかってるっての』」
ここぞとばかりに攻めてくる飛月の言葉から、飛月が完全に不機嫌になっていることを悟り、これ以上余計なことを言えばまた通信を一方的に切ってくるかもしれないので、多くは反論しないでおこう。
「これ、このオレンジのジャージどう? 似合う?」
そのオレンジ色を基調としたジャージは日和の橙色の髪と合っているせいか、今まで合わせたジャージの中で1番似合って見えた。
「今までの中で1番似合うな」
「それじゃあ、これにする~」
日和は軽い口調でそう言って、ジャージの上下を嬉しそうに持ちながらレジへと向かう。
「『ちょうどいいですから、にに様も同じジャージを買ったらどうです? 同じ物を買えば好感度が上がるかもしれませんよ』」
「『いや、さすがにそれは引かれるんじゃないか? ペアルックって奴だろ?恋人でもないのにそれは無いだろ』」
「『なにを勘違いしているのですか、別に着なくてもいいのですよ。同じ物を買ったということだけで話題作りにもなりますし、同じ価値観を持っていることをアピールできます』」
「『(珍しくあざとい観点だな)それでも、絶対に引かれると思うけどな』」
「『いいじゃないですか、引かれてもここは攻めの一手です』」
正直迷ったが飛月のアドバイスは、なんだかんだ言って上手くいっていることが多いような気もするし、なによりも俺自身の考えがあてにならないからここは飛月の考えに賛同し、同じジャージ(男用のサイズ)を手に取りレジで俺を待っている日和のもとへ向かった。
「あれ、そのジャージ」
「ああ、なんて言うか、俺も汗をかいたから着替えたいなぁ、って思ったから、どうせなら同じ物を買おうかなぁって」
「やったっ、それじゃあお揃いだねっ」
引かれないか不安だったが思いのほか好反応で、ホッとしながらも会計を済ませる。
「『飛月、お前結構すごいのな』」
「『……まぁ、予想通りです』」
なんというか、予想通りの割には面白くないと言うような口調に聞こえたような気がして問いただしてやろうとしたんだが、日和に話しかけられたので日和との会話を優先する。
「それじゃあ、早速着替えてくるね」
「ああ、俺はここで待ってるから」
「え? 王真くんも着替えるんじゃないの? せっかくだし一緒に着ようよ」
なんとか丁重に断ろうとしたんだが、よくよく考えてみれば汗をかいているからと言う理由でジャージを買ったのに着替えないのはおかしいわけで、仕方なくペアルックになることを覚悟し、更衣室で着替え終え再びロビーに戻ると、少し遅れて同じオレンジのジャージを着た日和が、嬉しそうに手を振りながら小走りで向かってくる。
「おっ待たせ―、あー! 王真くんそのジャージ凄く似合ってるよ」
「そうか? 日和のほうこそすごく似合ってると思うけど」
「そうかな、えへへ、あんまり格好を褒められることないから嬉しいよ」
女子は服を褒められないとキレるという飛月の時の反省を生かし、すぐに日和の服を褒めると嬉しそうに、はにかみながらその場でクルッと回って見せてくる。日和のジャージ姿はお世辞抜きで可愛いんだが、気になることがあった。
「あれ、そう言えば帽子とか、今まで来てたジャージはどうしたんだ?」
「それなら更衣室内にあった転移ボックスから寮の自分の部屋に送っちゃった。王真くんも転移ボックス使えば楽でいいよ」
そんな便利な物があるとは知らず、日和に転移ボックスの使い方を教えてもらい、俺も今まで来ていたジャージをアパートに送り身軽になる。
ペアルックと言うのはかなり目立つようで周りの人たちの視線が結構きつかったが、日和は全く気にしていないようで、むしろ機嫌よく楽し気な笑顔が見られたのなら、どうと言うことはないような気になってくる。
外に出ると陽が少し落ち始めていたので時刻を確認するとちょうど時計は4時を示していた。
「もう4時だったんだね、楽しい時間ってすぐ過ぎちゃうよね?」
「ああ、そうだな、これからどうするんだ? 寮に帰るのか?」
「うん、そうだね、まだまだ王真くんとは遊びたいけど、久しぶりに全力で遊んだからちょっと疲れちゃったし、今日はこのまま帰るよ」
「そっか、それじゃあ送っていく」
「ええ、いいよ、王真くんに悪いし」
「どうせ、女子寮は家に帰る途中にあるんだから気にしなくていい」
「そうなの? でも……それじゃあ近くまでお願いしようかな」
照れるように笑う日和と共に俺たちは女子寮へ向かって歩き始める。
「『これはチャンスです、寮に着く前に手を握ってください』」
「『無茶言うな、今はそんな雰囲気じゃないだろ』」
現在、俺と日和は今日1日を振り返りながら楽しげな会話を交わしている最中で、恋人同士の距離感と言うよりは部活帰りの同性友達のように楽な気持ちで話しているので、手を繋ぐような雰囲気ではない。
「『ここまできたら雰囲気とかどうでもいいのです、手を握り合ったと言う既成事実を作っておくことが最優先事項です』」
「『だからって、突然手を握るなんておかしいだろ? 普通に嫌われるわ、せっかくこのデートで好感度が上がったんだからここは慎重に行くべきだろ』」
「『なに悠長なことを言っているのですか、女と言うのは男が思っているほど貞操観念が強くないのですよ。大空だって明日になったら他の男といやらしいことをしているビッチかもしれないじゃないですか、こういうのは早い者勝ちです』」
「『あのなぁ、日和はそんな奴じゃ――』」
そこまで言って、さっきまで隣を歩いていたはずの日和が居なくなっていることに気づき、後ろを振り向くと、2、3メートル後方で立ち止まっている日和の姿があった。
「おい、ひよ――」
名前を呼ぼうとしたとき、日和の目はなにかに怯え、体も震えていることに気づいた。
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