今朝の霧
冴えない主人公と学校のマドンナ
「今朝の霧」
山中千
霧が立ち込めている。近くは見えるのだけれども、遠くは見えず。老眼の逆。
そんな感覚に陥った朝だった。
受験まで、4ヶ月をきった。
日々努力を積み重ねているが、試験当日を思うと恐怖が立ち込める。前が見えなくなる感覚に陥る。
人生で、始めて追い込まれたというこの凍てつき。現実。こんな試練が何度と続くとなると思うと、生きるのが億劫になる。
「おはよっ」
この声はと思い振り返ると、やはり岬ちゃんだ。
岬ちゃんは、母親が福岡の人でお目々がくりくりで、小柄で、ショートカット、今日は赤色のマフラーをしていた。
「おはよう」
声が緊張で、少し固くなる。
ふふっ、と笑った岬ちゃんが
「さすがにマフラーは、ちょっと早すぎたかな?」
「す、すごく似合ってるよ!」
「ほんとに?」
少し怯えた様子。
「ほんとに、ほんとに」
精一杯の相槌を何度もした。
「真司くんにそう言って貰えると、すごく嬉しい」
満開の桜のような笑顔。
花より団子ではない!華だ!
「よかった」
「ありがとう」
とても丁寧なありがとうの言い方だった……。
その後、志望高の話になった。
真司は、難関私立を志望し、岬は保育士の夢のために専門学校に行くみたいだった。
お互い地元を離れ、新天地に行くことを応援の意を示していたが、心の何処かで離れたくないと感じていた。
将来という先は見えないが、手前の幸せというのは、くっきりと見える二人であった。
続きは頭の中にあります