第八章 『続・消照闇子』
次に紹介されたのは、『笈川無限』。
既にドラマ化も決定した超人気恋愛推理小説『私と彼の後期クイーン問題』シリーズの作者だ。
第一巻だけ読ませてもらったが、キャラ造形が見事でとても面白かった。
ヴァン・ダインが第三則『不必要なラブロマンスを付け加えて知的な物語の展開を混乱させてはいけない。ミステリーの課題は、あくまで犯人を正義の庭に引き出す事であり、恋に悩む男女を結婚の祭壇に導くことではない』に真っ向から反する意欲作だった訳だが、何より主人公コンビが推理小説の男女ペアでは極めてよくある関係なのにものすごく魅力的だった。
作風としては霧舎巧に似ているが、かなり論理に振ったあれよりも、バカミス的で叙述トリック満載、推理小説初心者にはぴったり。
あとヒロインが萌え萌え、イケメン(探偵役)も素敵。
とても力量のある小説家なのだろう。
ぜひ彼女のデビュー作『∃W ⊥∀∃』シリーズもぜひ読みたいと思う。
隣に座っている小説家本人は、司会者への返答で明らかに声が裏返っていることからも、おそらくこのように人前でしゃべることに慣れていないのだろうと思われる。
まあそれは日本の人口一億五千万人の99%近く(なんせ二千万人近くに見られているのだ)が該当する話だろうが、どうも彼女のうつむきがちな基本体勢からして、そもそも人と話すこと自体に慣れていないのかもしれない。
司会が次のゲストに話を振ると、ようやく彼女は緊張から解放されたようで、彼女が大きく安堵のため息を吐いたのが分かった。
とにかく後の休憩時間に話に行ってみようと私は決意した。
次は『折田分布』。
彼は累計数千万ビューという大記録を持つ超有名ブロガーである。
現在21歳の大学生で、中学の時からブログを始め、常人にはまねできない企画でじわじわと知名度を上げていた。
そして二年前、某広告代理店の主催する某ネット記事コンテストにて『見開き10ページに150個のジョジョネタが仕込まれた漫画』で優勝。
さらなる人気を獲得し、現在に至る、そうだ。
件の『見開き10ページに150個のジョジョネタが仕込まれた漫画』はファンの作った解説と一緒に読んでみたが、それなりのジョジョファンを自任する私は終始笑いっぱなしだった。
マンガに描いてある主人公の絵の額が打ち抜かれるシーンから始まり、船が二隻ある、鼻頭に血管が浮き上がるという嘘テク、背中を見られると死ぬ、耳を耳の穴に入れる、本屋でスタンドの本を探す、そして最後に伝説の『ありのままに今(ry』が挿入された時にはある種の感動さえ覚えたほどだ。
司会者と会話する折田氏は凡百の芸人など歯牙にもかけないトークスキルで一笑い取っていた。
本当に『消照闇子』に必要なのかは別にして、かなりほしいスキルではある。
トリに回されたのは韓流アイドルグループ『18—bit』。
韓流アイドルというのは十人近い大所帯のイメージがあったが、我々個人勢から離れた雛段に座る5人の少女たちがフルメンバーであるようだ。
実は私はあまり韓流アイドルにありがちなダンスミュージック的なポップスを好かない。
むしろボカロ曲的なハイテンポで意味深な歌詞を叩き込んでくるタイプの曲(幸運にも『消照闇子』はその系統にあった)の方が好きだった。
常々私は、私の本性が『消照闇子』の存在を盲目的に信奉する(この言い方は決して何らかの悪意によるものではない事を先んじて述べておく。 分析的な観方が好きなのだ)ファンに知られてしまっては不都合だと感じていた。
先ほども語られていたように『消照闇子』というキャラクターはある秘密組織によって生み出され、暗殺者として育てられた(という設定)。
しかし、ある時何らかの理由で組織が彼女の様な実験体の粛清を断行した(という設定)。
その際に彼女は収容所から逃亡し、その過程で生まれて初めて音楽(レニー・クラヴィッツの『Are You Gonna Go My Way』(邦題『自由への疾走』)であるという設定)を耳にし、それに感動した結果、紆余曲折あって音楽活動を始めた(という設定)のだ。
故に理屈の上では推理小説も『ジョジョの奇妙な冒険』(ちなみに第四部が一番好き)もボカロ曲も知っているはずがなく、あまつさえ公表ができるほどの知識を有している筈がない(実情は上に述べたとおりだ)。
もちろん私の演技力をもってすれば隠し通すなどわけないが、それはそれとしてこの二重性にはなかなか面白いものがある。
私はこの芸能生活を楽しんでいたのだ。
――同日同時刻 大阪――
「分かったか? エージェント・奥見、エージェント・源」
「OKです。 千載チーフ」
ARC機構梅田地下サイト内の某喫茶店チェーン店舗にて、三人の少女が話をしていた。
茶髪ボブカットの少女、長髪メガネの少女、そして三人の中では一番上位の存在であるように見える少女。
茶髪が言った。
「宇宙のネロって、いまだ未収容のオブジェクトですよね」
「だいじょぶなんですかぁ~?」
長髪が机に突っ伏しながら言った。
「その通り。 死のリスクは十分にある」
「ふえぇぇ~」
チーフと呼ばれた少女は長髪をなでながらその言葉に答えた。
「大丈夫。 そのオブジェクト自体はちゃんと動いていれば大した危険にはならないよ。 でも、問題は裏でちょっとややこしい存在が動いていること」
「あの謎の女?」
「そうよ。 現在28時間テレビの収録が行われている松山中央アリーナでその姿が確認された。 君たちの任務は彼女に接触を試みる事だ」
インダクタンスと名付けられた魔法少女への変身機能を持った異常物品をばら撒いている謎の女が現在ARC-014-jp、そしてARC—4999—jp収容担当者の最大の悩みの種だった。
「褒めてくれる~?」
「うん、褒めてやるよ。 何なら抱きしめてなでなでしてやるよ」
長髪は明確に喜びのジェスチャーをした。
「んじゃ、コーヒーありがとうございます」
茶髪が長髪の首根っこを掴んで立たせた。
「では、チーフ。 行ってまいります」