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 エピローグの1 『博士の!やや面倒な開発オーダー』

 「結局死体は上がらなかったって事ですか?」


 「そうだ」


 ARC機構日本支部東大阪サイト、源博士の研究室にて、エージェント・千載はデスクに座る部屋の主に簡単な報告を行っていた。

 本物がひょっこり現れた後、対野数人の物と思われていた死体は強ミーム性を持つオブジェクトで変装した人間の物という正体を現した。

 本物を捕らえ、代わりに変装してあのスタジアムに侵入したこいつは、それはおそらく『例の女』と共同戦線を張っていた人間であろう。

 出来れば全てを隠蔽したい機構にとっては好都合。 

 証言などを取った後は本物の記憶を改竄して、合唱部に起こった事件は、『いつも通り合唱部を率いていたら謎の集団失神が発生した』だけだという事になる予定だ。

 そんな男の死体の後に、件の『例の女』の死体の話が続いた。


 「当日の海流は比較的荒れ気味だったから、まあこの結果もおかしい事ではない。 それ単体で見れば、の話だがな」


 そういうと千載は手元のタブレットから目を離し、研究室中央の机に置かれた物体に視線を転じた。


 「確かにこいつだけ流れ着くってのは変ですよね。 研究班の解析で軽度の運命改変能力が確認されてるとのことですが、やはりそのせいでしょうか」


 そう言いながらも、研究者としての興味が光の意識をベルトの残骸に引き寄せる。


 「こちらも同意見だ。 解析結果に目は通したのか?」


 「出た瞬間に読み込んどきましたよ。 共通規格を採用してるだけあってインダクタンス連中よりはましなプログラムでしたが、まあコードの情報量が異常なだけで異常編集を専攻してるなら院の一年生でもまくやりますよあれは」


 効率や正確性は捨ててもコードさえ長くすればいい。

 プログラミングを学び始めて早く、比較的高度なテクの必要性をまだ理解していない人間の発想だが、あちらさんの異学知識はまだそこらへんで止まっているようだ。


 「その情報量が問題なんだ。 国策レベルどころか星一個挙げたレベルだぞこれ」


 「それは間違いないですね。 所で、また組織改編ですよね? 何度目ですか?」


 「人手不足なんだよ。 この世には異常なオブジェクトが多すぎる。 収容体制がまだ整っていないオブジェクトに携わってる人間を引っ張ってくることはできない、例えそいつの仕事が胸骨圧迫を639年間観察し続けることであろうとな。 まあ今回である程度人員を引っ張ることが出来た。 ちゃんと体制が整った、って感じだな」


 そして千載はファイリングされた書類を取り出した。

 テーブル越しにそれを受け取った光はそのタイトルをそのまま口にした。


 「『新型オブセッション用変身装置開発に関する仕様書』。 変身アイテムの更新ですか?」


 「そうだ。 読めばわかると思うが、求められているのはキャストカードシステムを根幹だけ流用して改良したものだ」


 「ふむふむ。 それだけならシステム構成だけで済むのでアイディアさえ出れば一月はかからないでしょうね。 ……何組の研究チームが携わるんですか?」


 「3、だ。 『プロトコル・ファッションリーダー』の元制定された5チームの内3つって事だ。 残り二つは旧来のインダクタンス単位でのシステムを運用する計画になっている。 最終的には、この五つのシステムの中で最も戦況にあっていたと考えられたシステムが本採用されることになるだろう」


 「要はコンペですね」


 「ちょっと違うがまあニュアンスはあってる」


 「結構リソースは引っ張れるみたいですね。 ……久々に天才異学者らしいことをしてみます」


 そう言うと光は立ち上がり、テーブルの天板の下に手を入れた。

 するとテーブルのからくりが展開し、ダライアスぐらいデカいモニターと両手に分割された一対のキーボードが現れる。

 物を置く機能を6割ほど捨てた作業用デスク。

 これがレディメイドで売られているな理由千載は未だに分かっていない。


 「じゃあ私は帰る。 必要なリソースが決まったら私に連絡しろ。 いつも通り書類は書いてやる」 


 光は片手をあげてサムズアップ。

 『ラジャー』の意思をしっかり受け取った千載は部屋を後にした。

 そして彼女は廊下をサイトの奥へと歩いていく。

 千載にはまだ仕事があった。

 ARC-4999-jpに関して、光のセキュリティクリアランスではアクセスできない情報が更新されていたのだ。

 それは、ここ数か月、一般社会における異学、異常存在関連の情報発信(AFC関連の情報誌や『Abnormally』、各種新聞などでその傾向が強く観測されており、まだ公的には実証はされていない物の体感では日常会話でもそんな内容は殆ど意識しなくなっていた)が異常に少なくなっていたという事実。

 この原因は不明であるが、発信の急減少が丁度『例の女』のこの世界における最初の目撃のタイミングに非常に近しい事、ミーム攻撃の形跡があるが、これほどの規模の物は相当な巨大組織によってでしか運用できないはずであることから、非常に嫌な推測がなされていた。

 それに関して機動部隊内での会議が予定されていた訳だ。 

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