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 第五十章 『ミステリー・カード』

 「こちらからは何ら現実性の異常は確認されていません。 そのことから考えても『例の女』がスタジアム内で活動――少なくとも変身しているとはとても考えられません」


 「まあそれはそうだろうが、じゃああの女は何をしているというんだ」


 「正直全く判りませんね。 ただ、ヒントになりそうなことは割とありますね」


 またも楽屋に戻って後醍醐姉弟に情報を渡し、自分たちの楽屋に戻る彼らを見送った後、流石にメンバーと合流しなければならなくなった尹映とも別れ、二人楽屋で光たちは例の女の落としたカードを見分することに相成った。


 「レイン、見えるか?」


 「プラスチックっぽいカードが見えているか、という事なら、見えています」


 「OK」


 『例の女』が爆散した後に残されたのは、トレーディングカード大の、厚4mm程度のカードだった。

 右上の角が1㎝程欠けた五角形で、材質はプラスチックくらいには硬い。

 幅7㎜程度の枠が透明で、その内側には玩具ならプリントだと判断する感じの質感で何やら模様が描かれている。

 黒地をレモンイエローの三角形が切り取っており、その三角の高さ三分の一の所に『Comedy Tragedy Masks』の喜劇仮面が黒色で浮かんでいる。

 さらにその影となる位置に若干横に引き伸ばされた悲劇仮面。

 スポットライトを思わせる三角形を仮面二つが切り取ることで、この模様は概ね大文字の『A』に見えた。

 左上には黄色の丸にアルファベットのEが抜かれたマークがプリントされていて、その下から左側を上にして『CC-570-jp』という文字列が刻み込まれている。

 裏を見るとプリント部の端にバーコード、中央に円とその中心に向かって伸びる三回対称な三本の矢印で構成されたマーク。

 その下にはバウハウス体で白く『Cast Card』と書かれている。

 それ以外は全て表面と同じ黒地だ。

 

 「『キャストカード』、ですかぁ?」


 「確かにここを素直に読むとそうなるね。 レイン、分かる?」


  伊達メガネのカメラ部に裏面をぐっと近づける。


 「確かにそうですね」


 「ところで『570-jp』って識別番号、聞き覚えがあるな」


 「これって、異世界出身の物品でしたよねぇ?」


 光の意図に気付いた千穂が疑問を呈した。


 「大体数字が同じだったとしてなんだって話ですよ?」


 レインも呆れたような口調で言ってくる。


 「チーフが言ってただろ? 番号は同じだったって。 故にこいつが異世界からもたらされたARCオブジェクトの『同位体』であると推測されている、とも。 そもそも、強大な反現実性を持つ物品に意味づけをするその番号自体も時として力を持つ。 オブジェクト番号の場合、それはかなり強い汎性を得る。 事実、ARC-251-jp『共有ファイル』によって接続された他の平行世界の現実維持組織も多くは同様のナンバーを設定していたが、同じものと予測されるオブジェクトには皆同じ数字が付いていた。 そして、私は一周前の2021年にARCオブジェクトの収容についてのある画期的な論文を読んだことがある。 その中で提唱されていたシステムとこれが似ていてな。 というより、コンセプトのイメージとして添付されていた図とこれは、私の記憶にある限りでは完全に瓜二つだったと思う。 然るに、我々の世界におけるARC-570-jpを調べることは一考に値すると思う。 レイン。 データベースからARC-570-jpのデータを頼む。 ARCwikiでも分かるような情報だけで良い」


 「その論文って誰のですか?」


 「流石に名前までは覚えてない。 多分神大か東大だったかの研究室所属のそこまでキャリアのない人間の論文だったはずだが、『AbNormality』誌に載ってたし、査読はしっかりとなされていたはずだ」


 「分かりました。 一旦信用します。 ARC-570-jpですね」


 ARCオブジェクトの総数が10万を超えた今、各オブジェクトの詳細を全部覚えている人間など極めて稀(ゼロとは言えない。 光も一人知っている)であり、このような場合のために職員用の機構データベース、一般人の為には情報統制済みのARCwikiがある。


 「口頭でいいって意味ですよね?」


 「うん。 こっちにデータ転送してもらう必要はない」


 「分かりました。 ARC-570-jp『狼と羊飼い』。 掻い摘んで言うと、周囲の人間を巻き込んでそいつ自身の選んだシナリオの元『演技』を行うことが出来る人型実体ですね。 本人がどこまで『演技』をしているか、というのは不明ですが」


 「あっ」


 その概要を聞いた途端千穂は何かに気付いたような声を上げた。 


 「どした?」


 「いや、さっきレインちゃんが、『周りの人を巻き込んで演技できる』って言ってましたよね。 あの戦いの中で、妙に相手のベルトとかカードに目が引き寄せられておかしいなーって思ってたんですけど、その能力だったらこういうことできますよね?」


 「確かに本人にそういう意思さえあれば視線誘導などお茶の子さいさいでしょうが……」 「あっ!」


 戦闘中の事を思い出すと実際変なところに目線がいったり妙なところが記憶に焼き付いたりすることがあったような気がする。 

 などと思っていたらふと思い出すものがあった。


 「音だ!」


 「なんのことですか?」


 レインの言葉を一旦無視し、千穂にも目線を送って、光はカードの欠けた部分に親指を掛け、それを押し込んだ。


 『アクト』


 かなり精巧に隠されていたが、斜辺部は丸ごと台形の押しボタンになっていた。

 そこを押すとともにカードの左上アイコンが発光し、同時に音声が鳴ったという訳だ。 

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