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 第三章 『えーっと、あの人』

 朴数歌(パク・シュンカ)にとって、国境を超えるの初めてのことだった。

 そもそも18—bitはまだ結成されて3年のグループであり、これまで本拠地のソウルからもっとも離れたのは、4か月前に釜山でコンサートを開いたときだった。

 それが今や国境を越え、こんなに遠いところにいる。

 そう考えるとなんだか気が遠くなってきて、数歌には地面が行きに乗ってきた飛行機のように揺れているように感じられた。

 こんなことを貸し切りのバスから降りるたびに思う自分は、あまりアイドルには向いていないのではないだろうか。

 そんな考えが数歌の心の中の不安を更に膨らませた。


 「数歌、大丈夫?」


 顔色が悪くなっていたのだろうか。

 数歌の異変に気付いた季奏曲(ケ・ソンギョ)にやさしく声を掛けられ、数歌はなんとか恐慌から脱した。

 夕方に差し掛かろうとしている街のど真ん中の広場。

 一応途中下車にての休憩時間という扱いだが、この停車は事前に告知されており、ファンとの対面行事の役割も果たすわけだ。


 「あんたらしくないな。 こういう時、『妖精さんがついてるから大丈夫』みたいなことを言ってこそ朴数歌だ」

  

 尹映(ユン・エイ)が言う。


確かに数歌は日本では『不思議ちゃん』と呼ばれるタイプのキャラクターであり、今回もそれでいけと指示を受けていた、が、そんな言動をするタイプではない。


 尹映(ユン・エイ)李空華(リ・コンファ)楼明星(ロ・ミョンジョン)季奏曲(ケ・ソンギョ)、そして朴数歌の上は19歳、下は15歳の5人の女の子が18—bitを結成した時には、数歌は若冠12歳でトップアイドルの卵となった神童がついにメジャーデビューと注目されたものだ。

 彼女はそのことを思い出して自信を何とか取り戻した。


 「そうよ。 あなたたちの能力はどこへ行こうと間違いなく通用するものだわ。 自信を持ちなさい」


 マネージャーの計林優(ケ・リユン)も明るい語調で言った。 

 彼女は少女たちの要望で、韓国のアイドルグループでは珍しいぐらいに『グループに根差したマネージャー』になっている。 彼女自身かつてはアイドル候補生の一人だった訳で、殆どメンバーの一人だった。 


 「いい? 今回あなた達と共演するアーティストたちは貴方たちの敵でも味方でもない。 あなた達がどう動くかによって、どのような相手になるかは変わって来るわ。 ま、そんなに緊張することでもないわ。 敵にさえならなければ大丈夫」


 そしてメンバーたちはいつものフォーメーションで広場に並んだ。


 「ミンナ~、ヨ・ロ・シ・ク・ネ!」


 日本人は日本語をしゃべる外国人が大好きである。

 18—bitはそんな風な工夫のないデモンストレーションを関西国際空港からの道筋で5回ほどやってきていて、その時には恙なくイベントは終了していた。

 しかし、今回ばかりはそうはいかなかった。


 「Hey,girls! Haven't you checked your co-stars?」


 そう言って飛び込んできた少女がいたのだ。

 一瞬で警備員に制圧された彼女に、みんなして根は真面目な18—bitのメンバーは見覚えがあった。


 「彼女を離してあげて」


 明星が命令したのを聞いてじたばた暴れていた女の子が喜びの声を上げた。


 「You should obey what her says! Part me off……,please!」


 「Let the fool be free……」


 乱入者に騒然とする人込みをかき分けてもう一人似たような女の子が出てきてそう言った。


 「HAHAHA! I don't intend to do you any harm! I just wanted to talk with you face to face!」


 「We're 『Tenteino Hasitanaki P』. We're also supposed to appear on『28 hours TV』. Nice to meet you」


 二人が並ぶ。

 背の高さはほとんど同じくらいで、服装は『18-bit』のファンたちと比べてちょっと地味だった。

 ちょっと背が低い方が妙に賑やかにしゃべりまくっていて、それとは対照的に背のちょっと高い方は一切無表情を崩さずにそちらに応じている。

 それが漫才師みたいだと数歌は思った。


 「Yes, we do. Have you listened to our songs?」


 リーダーの林優が落ち着いた声で言った。

 彼女に憧れる数万人のファン(数歌を含む)が、今の状況を見たら、彼女と会話したあの女の子たちを大いに嫉妬するだろう。


 「Yeah, I liked it. However, I want your copywriter to respect Tim Follin!」


 「Huh……」


 恥ずかしながら18-bitの面々はその名前を知らなかった。


 「Look foward of our arrange! Remember that we do specialize in game musics!」

 

 「Thank you」


 奏曲はその子が気に入ったようだった。


 「Oh. Our dare friend is waiting for us! Thus, see you later!」


 そして二人は人込みに突っ込んでいき、消えた。


 「何、今の」


 明星が戸惑ったような声を上げた。

 先輩方からは日本にこんな頭のおかしい人間がいるというのは聞いていなかった。

 そのままイベントを消化し、バスに戻る。


 「あれにアレンジさせたんですか? それで本当に問題ないんですか?」


 「問題ないと信じるしかない」


 林優は映の質問にそう答えた。

 もちろん不安を払拭しようという意思は全く伴わずに。

 彼女にとっても今回の仕事は不安に満ちたものだった。

 それを表立って口にしないからには、彼女にはリーダーの資質があるといってよかった。

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