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 第二十八章 『証拠ってなぁに? 前編』

 「という訳で、全員分回収しましたぁ」


 「うちのメンバーで一番好奇心が強い奴が封筒を開けようとしていたのを見たときはマジで焦ったね。 ちょうど楽屋に入ろうとしたところでスタッフが通りがかったのもやばかった。 自分たちの楽屋じゃなかったら完全にアウト」


 机の上には全員分、7枚の封筒がきれいに並べられて置かれている。


 「記憶処理剤を使う羽目になったのはまずくない?」


 尹映が疲れたように言った。


 「大丈夫。 最終的にはこのアリーナの関係人員全員を聴取のうち記憶処理する予定だった以上、今までの事案例を鑑みても大したことはない。 そもそもARC-4051—jpの性質は完全には明らかになっていない。 イベントを恙なく成功させるアイテムを作ろうとして失敗したシロートがろくにケツを拭かなかったせいだね」


 「あなた口悪くない?」


 私は反射的にそう突っ込んだ。


 「アラサーになるまで彼氏が出来なかったのはこのせいかもね」


 「……絶対違う」


 かなり状況が悪化した中、集まったメンバーの中にはなぜか例の『18-bit』のメンバー、確か尹映とか言ったか、彼女がいた。


 「ああ、そいつは韓国支部のエージェントで、ARCナンバーを持つオブジェクトでもある。 彼女の能力は『魔法』を使うことだ」


 源さんから説明を受ける。


 「その『魔法』って、魔法とは違うんですか」


 嘗ての異学研究者にかなり日本語訳のセンスにかけた奴がいたであろうことに苛立ちながら、私は質問した。


 「そもそも我々が一般に使用可能な魔法という物は『波動エネルギー』、つまり空気中の分子の振動のエネルギー……」 


 「ああっ、もうやめてよ! あんた、講釈好きすぎない?」


 「人に教える勉強法を実践してきたせいだろうね」


 旧知の仲なのだろうか、二人はいかにも仲良さげに掛け合いをしている。


 「えっと、ちょっと前にTwitterで『魔法のメカニズムはSBRの鉄球とほぼ同じ』っていうツイートがバズったことがあったんですけど、そういう認識でいいんですかね?」


 「え、ちょっと待って。 ……あの鉄球って、鉄球を回転させるエネルギーを利用してなんかするっていう理屈だったよね?」


 「そうです」


 「じゃあその認識でいい。 しかし、最近のジョジョはぱっと見で理屈が分からなくて困るね。 S&W越えていく(ゴー・ビヨンド)は極限の考え方を応用すればまあ理解できたけど」


 そうして話を終え、一拍おいて彼女は『やらかした』みたいな表情をして硬直した。


 「ひかるちゃん。 どうしたんですかぁ」


 「や、いや、こんな話をしている場合じゃないと思ってね」


 私がこの時放たれた謎の言葉がジョジョリオンのネタバレであることに気づくのは遥か後の話だ。

 この場では私が妙に心に残るその言葉をメモった時点で、完全に皆の意識はファイルに意識が向いていた。


 「中身見てもいいんですかぁ?」


 「そこの図南朋の報告によれば、自身の部屋に送り付けられてきた情報は図南朋本人に近しい人物以外には到底手に入れようのないものだったらしい。 仮にほかの奴にはそれが当てはまらないならば、容疑者圏が大幅に狭まる。 そうでないなら、犯人は何か正常ならざる手段を用いたと考えることが出来る」


 「どちらにしても嫌だね」


 そう言いながら、私は『splash tentacles』と書かれたメモの乗せられた封筒を開いた。

 この封筒にはかなり厚みのある箱状の物が入っているという事は外観からして明らかだったが、中を覗いてみると確かに箱だった。

 というかこれ、あれだ。

 食玩の箱だ。

 取り出してみると『SG復讐トラップ』だった。

 箱の正面には火を吹くロッカーのイラストが描かれており、『君もこれで復讐を成し遂げよう!』とのキャッチコピーが添えられている。

 ガチャガチャならギリあり得るセンスだったが、食玩ではふつうやらない感じだ。

 とりま開封してみると、いつものガムと共に灰色のプラスチックパーツが排出される。

 私はガムを口に入れると、プラモデルに取り掛かった。

 ニッパーなしでも組み立てられる便利仕様で、各パーツのディティールもなかなか良く出来ている。

 金属パーツが付いた背面パーツを中心に各面のパーツを組み上げていき、最後にばね機構を押し込むようにして正面の扉を取り付ける。

 最後に付属のシールを張り付けて、完成。


 『遊び方 ドアの取っ手を引く』


 私は机に置いたそれを指示通りに操作し……。


 「あづっ!」


 ロッカーが爆発した。

 厳密に言うと、扉がかなり勢いよく開き、そして中に仕込まれたショットガン様の機構が発動して火を放ったのだ。


 「どうした!」


 「ふっ! ふっ! ……こいつが爆発した!」


 向かいに座った尹さんが身を乗り出してそれを引っ掴んだ。


 「『オブザベイション』! ……非異常性の発火機構が仕組まれてるね。 火薬と打ちがねの兼ね合いで火を吹く」


 かの有名な『The Gilbert U-238 Atomic Energy Lab』とはくらぶべくもないが、なかなか悪意に満ちた玩具だ。


 かなりの蓋然性で異常存在が介入していると考えてもよいだろう。


 「映。 それもスキャンダルの証拠なんだろ? なんか個人を特定できそうなものはないか?」


 「さあ? ……この扉に名札っぽいものがある。 『0303天堀』? ちょっとこの漢字見て」


 「『天堀』か。 苗字っぽいな。 少し調べてみる……どうやら大阪に多い苗字のようだな。 大阪出身の奴は?」


 「あのブロガーね。 『折田分布』だね。 彼は大阪出身だよ」


 意外だ。 彼からは大阪特有の方言はみじんも感じられなかった。


 「そういえば彼は工作系の記事でも人気だったな。 『ロックバスターを作ろう』とか」


 私もあの記事はお気に入りだ。


 「この発火機構を、奴が実際に作っていたとしたら……」


 「え? ……いや、あり得る」


 カッターナイフとゴムを利用したトラップでいじめっ子の指を吹っ飛ばした話をどこかで聞いたことがある。

 確か火薬を使用した記事もどっかで見たことがあるし、この程度の工作ならたぶんできるという信頼めいた感情が彼にはある。


 「本部。 聞いてるか? ここに書かれている出席番号と彼が現在21歳であることを鑑みるに、事件が実際に起こったとしてそれは彼が18、もしくは15歳の時になるだろう。 条件に合う事件を検索してくれ。 一応大阪だけじゃなくて全国でな」


 源さんは虚空を見つめながらそう言った。

 眼鏡にマイクロフォンが取り付けられているらしい。


 「まだ見るべきものはたくさんある。 検証の続きだ」 


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