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 第二十二章 『ゲット・サイト』

 ワインの異常性によって気絶してしまった尹映をまず回収すると、光は地面に血溜まりを走らせ、分厚い氷壁を以てベンダー・デイリュージョンを拘束した。


 「ちほ! 行って!」


 「らじゃ!」


 千穂は両腕のエンジンを展開し、スーパーターボでブリッジ・デイリュージョンに迫る。

 ストッキングで包まれた両足の脇を固める無限軌道で大地を踏みしめ、ガントレットのエンジン部を再びする。

 この間数秒。

 大地が鳴動するような音を上げ、ブリッジデイリュージョンが戦闘体勢をとろうとする。

 それが完成する前に、千穂は両腕のエンジン出力を最大にし、攻撃を叩き込んだ。


 「Suuuuuupeeeeer-Fiiineeeeeeee!」 


 イタリア戦車に共通するスポーティな単純多面体に象られた圧延鋼板構造物が高出力ジェットによって加速され、秒間4発は下らないペースで敵のボディに撃ち込まれる。

 石灰石やローマンコンクリートが使用されたローマ建築は極めて強靭な物として知られているが、それ譲りの頑強さをも破壊力のラッシュは打ち砕いていく。

 十五秒ほどの連撃の、その最後のダメ押しが決まると、敵は吹き飛ばされ、空中を舞った。

 相手はそうして大きく弾かれながらも、地面の上を滑ってかろうじて転倒は避けた。

 千穂のガントレットの方も、排熱のために前腕の付け根辺りのヒンジで真ん中から縦に開き、生腕を露出させた。

 ところで千穂の艤装において、戦車の本体ともいえる砲塔はキャタピラ機構の頂部、腰の高さに一対二基、地面に対して斜め六十度ほどの角度で固定されている。

 非戦闘状態ではそれは真下を向き、砲塔から砲身の一連の直線が修道服のスカートの広がりと大方平行になるようになっている。

 千穂が標的に向けて真っすぐ手を伸ばし、意外にきれいな形の人差し指で目標を示すと、その砲塔がゆっくりと起き上がり、正確に対象を狙う。

 発射! 発射! 発射!

 左右対称砲撃の一セット目は敵両腕の装甲を打ち破り、二セット目は石のボディを打ち砕き、三セット目の爆発がとどめを刺す。

 両腕は全く同じように破壊され、大地に堕ちた。


 「とどめよ!」


 千穂は再びガントレットを閉じてエンジンを点し、敵の体のど真ん中に向かって突撃する。

 右腕大きく傷付いた敵のボディに突き刺さった。

 敵の体の各所、マントの破れ目や根本から白い粉が噴出してくる。

 彼女はもう一つ、更にもう一つ、小麦粉を操る異常性を持つ。

 千穂はそのまま腕を引き抜いて高速で離脱し、その異常性をいかんなく発揮し、粉塵爆発を以て敵にとどめを刺した。

 大爆発の後に残ったのは大カトーの名言(真偽不明)が記されたマイルストーンだけだった。

 一方の光は敵を氷漬けにし、叩き起こした映の能力で『スクラップ』させた敵の残骸からリラクタンスを回収していた。


 「これどうやって持ち運べばいいと思う?」


 残されたリラクタンスは高さ3mの石塔と高さ2mの自販機だ。

 取り敢えず映の『トランスポート』の魔法で端っこの方に片づけてみたが、三人にとってはこれはなかなかヘビーだった。

 その時。

 PiPiPi……。


 「こちら源光」


 『死体について検案した。 死体は対野数人。 知ってる?』


 光はその名にピンとこなかった。


 「ちほ。 知ってる?」


 「あの、合唱の先生だったと思います。 なんか怖い人だった覚えがありますけど」


 「ああ、あれね」


 光はかなり前にドキュメンタリーで見たことがあったことを思い出した。

 いくら指導が上手くてもああいう風に声を荒げる人間光はは嫌いなのだ。


 「私には変なこと言うくせに」


 「お前、二度と『リーディング』なんか使うんじゃないぞ。 怒るぞ」


 『何を言ってるの?』


 「失礼。 存じているわ。 状態は」


 『間違いなく毒殺。 前毒使いが主人公のマンガを描くときに結構資料を集めたんだけど、その知識から考えると多分ヒ素中毒だね、これは。 殺されてからはそう長い時間は経っていないと思う。 廊下の途中の小広場のど真ん中に、壁と垂直にあおむけで倒れていた。 左手には何か太めの物を握った痕跡が残っている。 人が倒れている場所の前には謎の空間がある』


 「最後の、どういう意味?」


 『例えば壁に密着した状態で倒れたら、足の先は壁近くになるでしょ? 今回は壁から足の間に空隙がある。 倒れる前は壁から5,60㎝位離れてたんじゃないかな』


 「ふむ。 因みにその場所って、周りに何かある?」


 『いや。 周りの部屋が基本でかいから、一番近い扉は結構離れたところにある。 さっきは廊下の真ん中って言ったけど、厳密には廊下がちょっと広い正方形の空間に接続してる感じで、周りには何脚か固定型のソファベンチと観葉植物がある。 それ以外はなんもないけど、ちょっとした休憩所だね』


 確かに幅が2m近くある計算になるのは、廊下としては違和感だ。


 「というかお前落ち着き過ぎじゃないか?」


 『インダクタンスの効果だね。 というか自分で送り込んどいて何言ってんの』


 「いや。 それはそうと、今のを聞いていると、その部屋、足りない物があるね」


 『どういう事?』

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