第十八章 『強いので役に立つかもしれない魔法使い』
数歌たちは楽屋で真面目に反省会をしていた。
「ぶっちゃけ私ちゃんと付いていけてなかったんだけど」
「私も」
林優と明星が言った。
それは数歌も同じだった。
日本語がペラペラの尹映以外も、ある程度は日本語を勉強して日常会話位なら出来るくらいにしてきた物の、クイズ番組は余りにも日本語のレベルが高すぎた。
「ま、でも多分本当にまずいやらかしはしてないと思うから。 取り敢えず不安になることなく行きましょ」
奏曲の言葉は明るかった。
「まあ、あなた達、なかなか話題になってるみたいよ。」
皆はとりあえず安心し、仮眠の準備を始めた。
長旅の疲れもあり、各々ソファに座って体を折り曲げ、腕に乗せたクッションを枕にするだけの環境でも、すぐに眠りに落ちてしまった。
ただ一人、尹映を除いては。
彼女は皆が寝入ったのを見計らって、ひそかに楽屋から出た。
それは、ある人物とコンタクトをとる為だった。
そのある人物は場の責任者に空き楽屋を借りて休んでいた。
「こちら源光。 現状事件解決の糸口なし。 そちらは?」
『こちらの態勢にも動きなし。 番組制作会社への聞き取りに際して、ARC-014-jp-1、謎の女によく似た人物が番組制作に介入していたとの証言を得ることができた。 よって機構は捜査の助けとなる人員をARC-4051-jpの逆鱗に触れない形で送ることを決定した。 そろそろ接触に来るだろう。 賢く使ってくれ。 以上』
「ひかるちゃん。 それってどういう意味?」
スピーカーモードでの通話を終了した直後に千穂が光に話しかけた。
「ん~、わからんな。 エージェント・後醍醐姉弟は二日目に出るって言ってたからまだ入れるかもしれないけど、一日目から入る訳にはいかないだろ?」
ARC-4051-jpの有効取扱手順では、イベントに関係のない人間の侵入は禁忌とされている。
この事案の裏に例の謎の女(つまりketherクラスオブジェクトの一部)がいる可能性がある以上、人員の追加自体はありがたいが……、どうやるのだろうか。
「誰か来ましたよぉ」
ノックの音。
「件の助っ人だろうな」
光はドアをちょっと開けた。
「ARC機構韓国支部職員 尹映です。 勧告に従って助力に参りました」
隙間から見えたのは、小脇にプレゼントボックスを抱えた日本人離れした顔の美少女だった。
人格が25歳であるせいか韓流アイドルの区別が全くつかない光ではあるが、彼女の事はすぐに分かった。
光は驚いた。
「えっ、あんた、尹麗画か!」
光はつい『久しぶり』と言ってしまいそうになったが、一応自制した。
「ひかるちゃん。 その子」
千穂はおびえていた。
光にはそれが千穂の勘が彼女の実態を捉えたからであることが分かった。
「確かに尹君は、異常存在だったね」
「麗画さんのお知り合いですか? ふむ、それなら話は簡単ですね」
彼女はそのまま部屋に入ってくると、千穂の隣のソファにどっかと座った。
「ARC-074-KOはご存じですか? あれですよ。 自分で言うのは何ですが私にはかなりの利用価値があるんでね、麗画の双子の妹というカバーストーリーの元、普通に社会に出てます」
「あのドッペルゲンガー? ……そっちだったか。 じゃあ初めましてだな」
「彼女、確かアイドルの方じゃなくてぇ?」
千穂は完全においていかれていた。
「ああ、すまん。 ARC-074-KOは、俗にいうドッペルゲンガーだ。 ある人物と全く同じ記憶や身体的特徴を持った人型実体が現れる、そういう現象のことだ。 そして、彼女の元となった人間とは一周目では良き友人だったし、今でも付き合いがある」
照れくさいので、『親友』とは言わなかったが、間違いなくそう言っても誇張とならないくらいの関係ではあった。
一周目、20歳の夏、ソウル大学へと留学して異常性デザインの権威である教授連に師事していたころからの付き合いだ。
二周目でも事故当時の共同研究者に連絡を取っていた(誰かしら同様の状態にある奴がいるかもしれないと思ったのだが、結果は全ハズレだ)中で再会し、今も頻繁に連絡を取り合う関係だ。 私は二人に聞かせるように語った。
「成程ですぅ」
「ところで、君は彼女のドッペルゲンガーなんだろ? という事はあの能力も持っているんだろ?」
光の質問を受けて映はほくそ笑んだ。
「そうですよ」
尹麗画にはナンバーが振られており、それがARC-603-KO『強すぎて役に立たない魔法使い』だ。
彼女は紙や木製品と言った木を由来とする物品を媒体に強力な魔法(我々が常用するmagicとは違う)を放つことが出来る人型実体だ。
光は本物から自分は現在機構職員として働いていて、ドッペルの方は妹という扱いで社会に出ているというのは聞いていたが、まさかアイドルをやってるとまでは思わなかった。
「仲間は?」
「彼女達には一応隠しているので、ひそかに出てきました。 何、緊張か昂奮で眠れなかったとでも言えば疑われることはありませんよ」
映はなんてことないかのように言った。
「じゃあ、入って」
光は彼女を部屋に招き入れ、自分たちのと向かい合うソファに座らせた。
「どこまで知ってるの? あと尹麗画が敬語で話してるのは違和感しかないからこの後はため口でお願い」
「変なの。 ……謎の女が暗躍してるってのは知ってる。 んで、謎の殺人事件が発生している。 ARC-4051-jpが起動している。 その上何らかのミーム汚染が存在している可能性がある。 こんなところ?」
「OK。 そのミーム汚染について話していこうか」
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SCP-603-KO - 너무 강해서 아무짝에도 쓸모없는 마법사
by Fissh
http://ko.scp-wiki.net/scp-603-ko
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SCP-074-KO - 너는 내가 아니야
by Cubic72
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