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江戸のような異世界で  作者: osagi
預かりの身
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<獣人女剣士>

 この世界へ来て数日、俺は毎日つまらない生活を送っていた。俺がこの世界に来た翌朝に栗月から言われたのは屋敷の外へは出られないこと、暇つぶしには自分が付き合うといったことだった。


 まあ、和服を着せられているとはいえこの時代からしてみれば変な髪形の大きさのあっていない着物を着た大男が町を出歩いているとなればこの上なく目立つ。変な不安を広めないためにも仕方のないだろう。


 だが、貸本屋の本は読むというより古文書解読で浮世絵もただの絵、コマや羽根つきだって子供の遊びである。そんなこともあり出来ることと言えば江戸城を見ることぐらいなった時、珍しく白月が昼間に帰ってきたかと思うと何やら荷物を抱えていた。


 「ちょっとキツすぎるぞ」

 「これぐらい締めないとすぐにズリ落ちるのよ」


 白月が持って帰ってきたのは松菱が俺のために仕立ててくれた着物と袴だった。そして白月は俺にその着物を着付けて最後の最後、白月は袴と一緒になっている紐を殺人的な力で締め上げて着付けてきたのである。


 これが腰ではなく首だったらすでに三回か四回は死んでいる自信があるほどであり、着るのがここまで大変だというのであれば現代日本が洋服に移り変わったというのもよくわかる。


 「それじゃ、これから松菱様のところに行くわよ」

 「いまからか」

 「当たり前でしょう。こんな上等なものをもらっておいてお礼にもいかないなんてありえないわよ」


 それはそうなのだが、こんな格好で出歩くことになるとは思わなかった。


 「あ、ちょっと待って」


 屋敷を出る直前。白月は俺の腰に軽い刀を差し込んできた。


 「なんなんだこれは」

 「竹でできた刀もどき、竹光よ。私の屋敷は町人なんかが気安く出入りできるような場所じゃないんだからこれぐらいの格好をしてもらわないと困るわ」


 完全にこの屋敷の体面の問題である。こうして俺は屋敷から奉行所へと行くことになったのだが、それにしても下駄というのは何とも歩きにくいものである。


 だが、俺には履けるものがこれしかないのだ。草履は小さくてはみ出した足の裏が地面へと着いてしまい何とか地面の裏がつかない下駄しか履けない。しかしその下駄も足の長さに比べて長さが足らないため足の裏に下駄のかかと部分、つまり直角になっている端が足の裏に食い込むのだ。


 白月はかかとを出して履くのが粋だというが、江戸の奴らが一回り小さいのを履いていたとしたら足の大きい俺は二回り小さい。というより白月の方は草鞋を履いているし自分でもやってみろと言いたい。


 そして奉行所まであともう少し、屋敷を出てから頭の中には文句しか出てこない俺であるが、突如として俺の背後からこれまでにない大声がぶつけられた。


 「覚悟ぉぉぉ!」


 気合の入った大声に俺は驚きながら振り返ろうとする。だが、振り返ろうとしたその瞬間、俺は袴の紐を強烈な力で引っ張られて前へと投げ出される。


 いったい何がどうなったのか全く理解できないが、何とか起き上がった俺が見たのは十手を持った白月とその白月に組み伏せられている茶色い獣耳の獣人の少女の姿であった。


 「奉行所の目の前で刀を振り回すなんていい度胸じゃない」


 白月はそう言うと素早い動き少女に一撃を食らわせ、気を失った少女を担ぐ。


 「まったく、・・・ほらあなたもついてきなさい」

 「あ、ああ」


 白月はまるで何事もなかったかのように奉行所へと向かって歩き続ける。まったく肝が据わっているというのか、動じない性格である。





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