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江戸のような異世界で  作者: osagi
預かりの身
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<和の異世界>

 突然の出来事に俺が目を白黒させていると上に乗る白月が怒りを含んだ声で言葉を浴びせてくる。


 「まったく人を化けウサギ扱いして失礼ね」

 「いだだだだ」


 白月はそう言って俺の腕をさらに捻り上げる。さすがにさっきのことを怒っているようだ。


 「いい?大人しく私についてきなさい。やろうと思えばさっき脳天から地面に落とせたのよ。もしまだ逃げるというのであれば骨の一本や二本ぐらい折ってやるわ」

 「わかったからもうやめてくれ」


 白月は俺の腕を解放するとその豪腕を持ってズボンのベルトをもって俺を立ち上がらせる。こんな小柄な体のどこからそんな力が出るのか、俺は驚くと同時に圧倒的な力関係に俺は素直に白月の言葉に従うことにする。


 俺と白月が石段を下りていく頃にはすでに日も沈んでいて暗く、月明かりに照らされた道には人通りもほぼなかった。そして俺は白月の前を歩かされ、歩くのが少しでも遅くなると尻を小突かれて急かされる。だが、俺にはずっと気になっていることがあった。


 「なによ、何度も私の方を見て」

 「いや、その、頭にあるウサギの耳は本物なのか?」

 「当たり前じゃない。何言ってるの」


 この世界のことやこれから連れていかれる場所など色々と気になることはあるのだが、今の俺には白月の白いウサギの耳が気になって仕方がなかったのだ。


 「触りたいとか言い出さないわよね。触ったら二度と触れないように両腕へし折ってやるわよ」


 実に可愛らしくて触ってみたいと思っていたのだが、白月はこちらの心の中でも読めるのか先手を打ってきて俺は触りたい欲求を押しとどめる。


 「・・・それでどこに行くんだ?」

 「江戸町奉行所よ」


 欲求を忘れるために俺は話を逸らすが、確か日本の江戸時代にあったのは北町奉行所と南町奉行所だったはずで江戸町奉行所なんて聞いたことがない。だが北町奉行所と南町奉行所は月ごとに仕事をやる月とやらない月が入れ替わる月番制だったのでその開いている方をそう呼んでいるのだろうか?


 「その江戸町奉行所って北町奉行所や南町奉行所とは違うのか?」

 「奉行所?江戸町奉行所以外はみんな町与力所よ。あなた一体どこの山奥から出てきたのよ」

 「それなりの山奥」

 「まったく、仕方ないわね」


 意外にも面倒見がいいのか白月はさっき言っていた奉行所や与力所といったものについて説明をしてくれる。


 「江戸は広いから一つの町奉行所と四つの町与力所の一奉行四与力体制で管理しているのよ。町奉行所は江戸全域の治安と行政を担当していて、町与力所は人口の多い城下町を四分割にして町奉行所一か所で管理するよりもきめ細かく治安と行政を行なっているの」

 「じゃあ、与力所は奉行所の下にあるのか」

 「ええ、町奉行所の配下にあるのが町与力所よ」


 例えるならば奉行所と与力所は警視庁と警察署といった関係性なのだろう。


 そして管轄の範囲で言えば与力所が東京23区の区役所のようなものであり、奉行所が東京都庁といったところで区役所のある東京23区以外は直接的に東京都庁が管轄というところのようだ。


 何となく白月の言っていることも理解できた。だが、これによって白月といい奉行所や与力所といいはっきりとしたことがある。それはここが日本の、俺がいた世界の江戸時代ではないということだ。


 偽物でないウサギの耳をもつ白月、俺がいた世界の江戸時代にはない南北以外の奉行所や町与力所といった組織の存在。ここは江戸時代風ではあるが俺がいた江戸時代とは違うまったく異なる世界の江戸時代なのだ。


 タイムスリップだと思っていた時は江戸時代に興味があって調べたことがあったので、その知識で余裕にどうにかできるのではないかと内心思ったこともあったのだが、異世界ともなればそうはいかないだろう。


 果たしてこれからどうなるのか、どうにもならない不安が俺を襲ってくる。しかし今の俺になにもできることはない。いまの俺はおとなしく白月の言うとおりに道を歩くしかないのである。





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