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江戸のような異世界で  作者: osagi
預かりの身
1/92

<タイムスリップ?>

 体の様々なところをつつかれるような感覚で俺は目を覚ます。


 「鬼が起きたぞ!」

 「わー」

 「逃げろー」


 すると浴衣?なのだろうか、洋服ではないものを着た大勢の子供たちが走って俺のもとから逃げて行く。どうやら俺はあのガキ共に木の枝でつつかれていたようだ。人を棒でつつくなど躾けがなっていないと思うが、着ているものだけでなく子供そのものもまあまあ汚らしく、それ相応の親があってこそのあの子供なのだろう。


 それにしてもここはどこなのだろうか、毎日平凡に生きていた以外の記憶が一切ない。


 しかし、周りを見ればここがどこにでもありそうな神社だとすぐにわかる。だが、一方で別に子供たちがあんな格好をしていたわりに祭りをやっているという雰囲気がない。あの格好はいったい何だったのだろう。


 俺は子供たちが逃げて行った先、木造の鳥居の方へと歩いて行く。子供たちが鳥居の下に姿を消していったということはきっとここは山の上で鳥居の先は石段が続いているのだろう。


 とりあえず財布はあるし無くなっているものはない。とにかく俺はここから帰ることにするのだが、子供たちが逃げて行った鳥居のところまで来ると俺はそこでありえないものを見た。


 「どうなってるんだこれは・・・」


 ここは小高い山で鳥居の先にはここを下りていくための石段が続いている。それは予想通りだったのだが、鳥居から先、石段を下りて行った先にある町を見下ろすとそこはどう見ても日本の光景ではなかったのだ。いや、正確に言うならば俺が住んでいた現代の日本の光景ではなかった。


 俺の目の前には黒い瓦屋根の木造建築がまるで海のようにどこまでも立ち並び、そんな黒い海のど真ん中にはそれは大きい日本風の城が鎮座しているのだ。そして町を行き交う人々が着ているのは和服、頭はちょんまげので行き交う車は大八車というまるで江戸時代のような光景である。


 本来であれば俺の目の前に広がっているべきなのは現代的な建物とアスファルトで舗装された道路であり、町を行き交うのは現代的な服を着た人間と自動車やバイクといった車両たちであるはずだ。しかし何度見てもそこにあるのはどう見ても江戸時代・・・。


 『タイムスリップ』


 即座に俺の頭にはその言葉が思い浮かんだ。あまり現実的とはいえないが、目の前の現実的ではない光景を説明するにはそれしかない。


 そして時刻は空を見る限り既に夕方、空は真っ赤に染まり俺はこの神社で野宿することを決める。このままこの神社から下りていくこともできるだろうが、もしそれをしてしまったら目の前に広がる光景を現実として受け止めなければならないし、同時にこの世界へと引きずり込まれて二度と元の世界に帰れないような気がするのだ。


 気がついたら現代の日本に戻っているか、朝になって目が覚めたら現代の日本に帰っていることを願いながらこの神社で過ごすしかないだろう。


 「あなた、こんなところでいったい何をしているの」


 そんなことを考えていると不意に背後からかけられた女の声に俺は振り返る。小柄で地味な和服を着た白髪の女はどういうわけか頭に作り物とは思えない白いウサギの耳を立てている。すぐに妖怪という彼女の存在を理解するのに合理的そうな考えが頭に浮かぶ。


 「化けウサギ?」

 「人を化け猫みたいに言うんじゃないわよ。私は江戸町奉行所の白月よ。とにかく一緒に来てもらうわ」


 確かに絶滅した動物でもあるまいし江戸時代だからといって妖怪が実在したなんて話あるわけがないだろう。


 しかし目の前にいる白月と名乗った存在は現実であるし、町奉行所なんて言っていたが町奉行所といえば町の行政や司法を担当する役所である。非現実的な存在である白月がこの世界が江戸時代だとしたら現実的なことを言ってくるとはもうなにがなんだかわけがない。


 とにかく俺はこれ以上訳の分からないことにはなりたくない。でも白月は俺の手首を掴んでここから連れて行こうとする。


 「いや。ちょっと待って」


 俺が望むのは現状維持、引き続きこの神社に居続けることである。そこで俺は俺の手を引っ張っる白月に腕を引っ込めようとすることで抵抗するが、こんなことで白月がそう簡単に俺を逃がしてはくれるわけもなかった。


 「抵抗するんじゃないわよ!」


 白月のそう怒った声が聞こえると同時に俺は宙に浮いた。白月は俺の懐に入り込み、そのまま背負い投げを食らわせてきたのだ。だが、そんなことでは終わらない。続いて俺の腕を捻り上げ、うつ伏せに組み敷かれたかと思うと白月はそのまま俺に背中の上にのしかかってきたのである。




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