恋を知った二人は…(2)
その衝撃はすさまじい速度で私を駆け昇った。
《だから零二の行先に何か心当たりがあれば…》
「待って、とにかく一度そっちに行くから!」
通話を切る前に走り出すほどの激しい感情が破裂する。
詳細は一切分からないが、講義どころでない。
零二君が行方不明なんて、なんで?
まさか同級生が噂してた冗談と関係してるの?
引っ掛かりが嫌な予感に育っていくのを止められず、私は全速力で走って走った。
門の記者達を無視し、大通りですぐタクシーを拾う。
何がどうなってるのか、全く見えない。
でも零二君がいなくなったのは確かなのだろう。
そして、英一君が私のところにまで手がかりを求めてくるくらい、事は深刻なのかもしれない。
そんな緊急事態を知らされてしまえば、零二君の安否を得るまで、私の感情が落ち着くはずもなかった。
私は人生初の「お釣りはいりません」を運転手に言い渡し、オートロックのインターホンを押した。一度ではなく何度も何度も。
すると英一君からは
「今開ける。玄関も開いてるから勝手に入って」
いつも通り無表情な声で指示が返ってきたのだ。
それはまるで、ロボットみたいな声だった。
「英一君、零二君から連絡は?!」
玄関扉を開きながら奥に呼びかけると、すぐに英一君が零二君の部屋から出てきた。
「まだだ」
「いつからいないの?」
「明け方にはいなかった」
「……何があったの?」
訊いていいのか迷ったが、訊かずにいられない。
英一君は私を見据えて言った。
「ネットニュースを見てないのか?」
「Dr.サオトメの?大学で噂にはなってたけど……」
「どんな噂だ」
「……零二君がロボット博士で、英一君が、その……アンドロイドだって……」
「君はそれを信じたのか?」
「まさか!」
私は声を張り上げた。
「みんなだって冗談でそう言ってるだけで……。………冗談、だよね?」
不安になり確認すると、英一君はフゥ…と息を吐いた。
「くだらない」
蔑んだような冷たい返事に、私は僅かに気が緩み、ホッとした。
いつもの英一君だ。
「英一君がそう言うのもわかるけど……でも、そのニュースと零二君が行方不明になってる件と、何か関係あるの?」
「あのニュースのサオトメは俺達ではないが、同姓のせいでおかしな連中に付け狙われて、ずっと身動きできなかった。だからだいぶストレスが蓄積してたらしい。零二は君に会えなくなるのが相当嫌だったんだな。それで俺とやり合ったんだ。まったくあいつらしくもない」
「え……」
零二君が、私に会えなくなるのを嫌がっていた……?
私はその一言が信じられず、言葉を失う。
だってあの日、零二君は、私とは付き合うなんてあり得ないと言ってたのに。
付き合う気はなくても、一緒にいるうちに情みたいなものが芽生えていて、少しは親しく想ってくれてたのだろうか?
だが英一君からは冷えに冷え切った氷のような言葉が続けられた。
「だから俺は反対したんだ。偽の恋人なんて」
「え?」
「君が零二を変えてしまった」
「それは……」
その可能性がまったくないわけではないだろう。
実際、私は零二君と恋人のフリをはじめてから、ずいぶん変わってるという自覚があるのだから。
私という存在が、零二君に何か影響を及ぼしていたのだとしたら、それは素直に嬉しいと思う。
けれど零二君とずっと一緒にいた英一君からしてみれば、その変化は、決して歓迎できるものではなかったのだろう。
「君なら心当たりがあるんじゃないか?早く零二を見つけてくれ」
そう言い放った英一君は、今までで一番の冷淡な顔をしていた。




