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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

僕ら私らの日常。

告白

作者: 鶴太郎

BLです。

告白



早朝。

そこそこ冷える寒さである。

高校指定のマフラーとワッフルコートに身を包んだ市野 拓也は公園の遊具に囲まれて、その真ん中に立っていた。寒さのせいで、鼻先が赤く染まっていた。

時間帯的には人が起き始め食事の準備や支度をする時間ではあるが、活動するにはまだ早い時間。太陽は顔を出しつつあるが、夜がまだ残っており薄暗さを醸し出していた。中には犬の散歩やジョギングをしている者も居た。そんな早朝に高校生が公園に突っ立っているのは、異様と言えば異様である。

市野にとってこの時間は早朝のうちに入らなかった。いつもこの時間より早く起き、この時間に剣道部の朝練へ出かけていた。しかし…この時間は些か普段より家を出る時間より早い。

市野は人と約束していた。していた、というより呼び出したのだが。

呼び出したのは好敵手の他校、剣道部の主将の杉 直生である。


呼び出した、というと語弊があるな…


市野は杉とのLINEのやりとりを思い出していた。


市野『話がある』


といって続きを送らなかった。

その30分後、


杉『話があるって送ったなら、なんの話か送ってこいよ』

市野『すまん』


二日後、杉から電話がかかってきた。

二日間も文章に悩んでいたら、杉からの着信である。電話がかかってくるとは想定外だった。


「だから、話ってなんだよ!!!気になるだろうが!」

「すまん。内容を考えていた」

「二日間もか?話があるからLINEしたんだよな?内容を考えてなかったのか?」

「いや、内容は考えてあった。それをどう文章に伝えるのか悩んでいたのだ。言葉とは文章にすると難しいな」

「文章が難しいなら、今言えよ」

「うむ?」

「難しいなら、口に出して言うのは簡単なんだろ。じゃあ今言えるだろ」


なるほど、と市野は呟いたが、それ以降会話が続かなかった。


文章も難しいが、声に出すのも難しいな


と悩んでいたのである。

数分…かなり長く感じるがお互い喋らなかった。

たまに杉の生活音が微かに耳に入ってきた。それは決して耳障りではなく、非常に心地よい。杉はどのように生活しているのかそっちに気を取られて仕方ない。たまに洩れてくる杉の吐息も電話口からであるが、妙な色気がある。


目の前で聞けたら、どんなに良いだろうか?

この声を、直接耳で聞きたくなった。


「ーーーーはぁ…。普段口下手なお前が文章にするこも口下手で、そんな奴が声に出して電話で説明出来るわけねぇよな。考えがまとまったらLINEか電話してきてく」「明日」と市野は遮った。


「毎朝通る公園がある。明日朝5時にきてくれ」


と市野は電話を切った。杉の電話口でごちゃごちゃと叫び声が市野に聞こえはしたが、市野の思考は明日の公園に朝5時へ向かっていた。


ーーーーというのが昨日の流れである。


市野は杉に告白をするつもりだった。告白とは、愛の告白の方である。同性だろうが、関係ない。

初めて会ったのは高校一年の夏の大会。やけに小綺麗な顔をしていると思ったが、見掛け倒しで口調は悪かった。杉の通う学校が男子校でもあり、また杉は男五人兄弟の末っ子という事もあり、口調が非常に悪い。高飛車に、同じ一年にもかかわらずチーム戦の一員に選ばれた市野に絡んできた時は、うざかったので相手にしなかったくらいである。しかし、しょっちゅう絡まれては市野の方が根負けをした。話すようになったのである。といっても相槌を打つだけで自分から話しかけたりはしなかった。折角顔は綺麗なのに、言葉使いが荒かったりはしたが、真面目に剣道に打ち込む、自分と同じような同級生だと知った。

この時までは恋をしているとは気付かなかった。気付いたのは本当にここ最近の事である。

今年最後の試合、主将同士で決勝戦へと臨んだ時の事。お互い引かない勝負だったが、杉は真正面から飛び込んで、市野の面を取った。

実に、杉らしい、一本だと市野は純粋に思った。悔しくはあったが、負けは負けである。杉におめでとうと、握手を求めた。杉は面を取ってこちらの要望に応えて握手を返した。

面越しに見た杉の顔は、幼さは消え、小綺麗な顔ではあるが、凛々しくなっていて、市野は驚いた。お互い学校生活や部活での役割が増えて言葉を交わす事が少なくなっており、顔も近くで見る事もなかった。試合中は面をしているのもあるが。


「たまたまじゃねぇからな。また試合しててめぇから一本獲ってやるよ」


と不敵に笑う、市野を見て、ストンと恋に落ちたのだった。


…いや、もしや一年の頃から落ちてたかもしれん。


友人曰く、お互い大会中忙しく動いている中でも、ずっと目で追っていたらしい。

全くもって気付かなかった。


ぼんやりと、公園の入り口を見ていると、杉が姿を現し、市野はビシッと背筋を伸ばした。マフラーに首を窄めながら寒そうに杉は市野の元まで歩いてきた。

その表情は眠そうで不機嫌そうに歪められていた。


「公園は公園でもどこの公園か言えよ。お前が毎朝通る公園なんて、俺知らねぇんだならな」

「すまん、言ってなかった」


うっかりしてた、と市野が言えば、杉は深い溜息を吐いた。どこから聞いたのか聞けば、市野の顧問に聞いたらしい。


「眠そうだが寝てないのか?」

「全員が全員、市野みたいに早起きじゃねぇんだぞ」

「朝練はそっちも早いだろ?」

「うちはテスト期間中で部活休みなんだよ」

「そうか。それはすまなかったな」


と市野は素直に謝った。


「で、話ってなんだよ?」

「あぁ、その件はだな」


スウッと市野は息を吸って、吐いた。


「今週の日曜、合同練習と模擬試合をしないか?」


おい、おい、違う!!


「大会も終わり、後輩たちの気持ちが緩んできている。他校と交流する事によって、その緩んだ気に喝をいれたい」


後輩、同級生の気は確かに緩んではおり、その緩みに喝入れたいと思ってはいたが、交流など考えてもいなかった事がどんどん出てくる。いつもの何百倍も喋る自分自身に市野は引いていた。


「あの選手はここが癖だから、杉の後輩と練習試合をし癖を意識させるのはどうだろうか?」

「あいつはここが弱いから…」


最初のうちはジト目で杉に見られていたが、部活に対しては真摯な男である。途中であーでもない、こーでもないと、話に入ってきて、気付けば、トレーニング日程と試合メンバーが出来上がっていた。


ヤバイ、ヤバイぞ…。

勝手に今週の日曜、交流会と称して試合を組んでしまった…。

チーム戦のメンバーも勝手に選んでしまった。

しかも来週の月曜からテスト期間である。練習試合をしている場合ではなかった。


顧問にドヤされる…。


いざ、告白しようとしたら怖気ついたのである。

振られた時の事を全く考えていなかった。顔を見て声を聞いて、好きだと言いたいと、そう思って呼び出した。

しかし、振られたら、気まずくなり言葉を交わせなくなるのは非常に怖くなったのだ。


「これってわざわざ会わなくても良かった内容だよな?」

「いや…電話やLINEではここまで、濃い内容のものを作れなかったぞ」


それは本当の事である。

杉はと言えば、先程よりも不機嫌な表情を浮かべたかと思うと、市野をじっと睨んできた。


その顔も、素敵だ


と市野は思った。

しかし、じーっと睨まれては、市野の心臓が持たなくなりそうだ。昔は平気だったのに、恋をしていると自覚してからどうも顔を見れない。


「では、また今週の日曜日だな」


勝手に呼び出しといて市野は杉に背を向けた。

背中に非難めいた視線を感じるが、市野は気付かないふりをした。


最低だ、と市野は思った。


俺はこんなに臆病だったか? 

幼い頃から通う剣道で心身ともに鍛えたつもりだったが、俺は一体何を学んだのだ。

好きな子に好きとも言えずーーーー


「ーーーーーーーおい」


と不機嫌そうに杉から声をかけられ、市野は足を止めた。

振り向こうとした瞬間。

杉に胸ぐらを掴まれ、咄嗟のことで振り払えなかった。気付けば目の前に杉の綺麗な顔があった。その顔は先ほどと同様不機嫌そうである。

無言で見つめ合ったままでいると、杉はあの、市野の好きな笑みを浮かべた。


勝気で、傲慢。

きれいな弧を描く唇。

自身に溢れたその瞳。


杉の全てを物語る、その笑みを見て市野は動けなくなっていた。

不意に掴まれた胸倉を杉に引っ張られたかと思うと、杉の唇が耳横にあった。吐息がかかる。

杉の唇が動いた。

見る見るうちに、市野の目が開いていく。


「ーーーーーーーじゃ、今週の日曜な」


と暫くして胸倉を離され、市野はよろけたが辛うじてバランスを保ち、転ぶ事は避けられた。

見れば杉はさっさと市野から離れ公園を出て行った。市野はそれを呆然と眺めた。

杉の髪に隠れ、少し除いたその耳は真っ赤に染まっていた。それは、寒さのせいではない筈だ。市野もまた耳に顔に、全身が真っ赤に染まっていたのだから。

杉が耳元で囁いたのは、市野が伝えようとしていた言葉で、そして、最も欲しい言葉だった。







むかーーーし、二次創作で書いた作品を思い出しながら創作として書きました。


なかなか告白ができないヘタレと強気な子の組み合わせも、好きです。

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