表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/52

1俺は女の子

「お嬢様!降りてきてください!」


 若手執事のレイが木を見上げ叫んでいる。

 俺は手近にあった桃をもぎ取り笑顔で応える。


「桃討ち取ったり!」

「お願いだから早く降りて!」


 まったく、心配性なやつだなぁ。

 桃の木なんてあんまり高さないしそこまで心配しなくても大丈夫だっての。


「わかった。すぐに降りるからそこ動かないで。てい!」


 俺は返事を聞く前に宙にダイブした。

 そんな俺をレイは冷静にキャッチする。


「あはは。ナイスキャッチ」

「はぁ……」


 レイは疲れた表情でため息をついた。

 そして俺を抱きかかえたまま邸に歩き出す。

 恥ずかしいので下ろしてもらいたかったが早く桃を食べたいという思いもあり、まあいいかと持っていた桃にかじり付こうとすると非難めいた声があがった。


「まさか貴族のお嬢様がそのままかじり付こうなんてことはありませんよね」

「そんなことするわけナイジャナイカ」


 思いっきり棒読みで応えた俺に対してレイはまたため息をつく。


「ちゃんとトニに切ってもらって半分は奥様と旦那様に取っておきましょうね」

「ええ!あんなにたくさん実っているんだからいいじゃん!」


 凄い大量に実っているというのになんてケチなことを言うんだ。

 不満の声をあげると理由を解説される。

 日々の食事で使ったり、付き合いのある者にプレゼントしたりであれだけ大量にあっても余裕はないらしい。

 父のヒューグレイはこの町、ヴァルリの市長なので付き合いが多い。半分くらいはプレゼントで消えてしまうようだ。

 貴族なんだから俺のものは俺のものでいいじゃんとも思うけど、人付き合いを円滑にするには貴族も心遣いが必要ってことだろう。

 はぁ、でもやっと体が成長し自力で木に登って実を取れるようになったのになぁ。


「もしまた勝手に取ったら奥様に言いつけますからね」

「うぐぅ」


 どうにかしてバレずに取れないかと考えていたら釘を刺されてしまった。

 今年こそは腹いっぱい桃が食えると思ったのに。くそう。

 俺は打ちひしがれた表情のまま邸の中に運ばれていった。




 ―――



 そうそう、自己紹介がまだだった。

 俺の名前はアルテイシア・ヴァルハート。現在5歳の女の子。アリアという愛称で呼ばれている。

 男爵家に生まれた最近流行りの転生者ってやつだ。


 なんで口調が男かって?そりゃ元々男だったからだ。

 人生もう一回やり直すチャンスを得たのは幸運なことだ。

 しかし、二分の一ガチャで見事に失敗してしまった。

 何故転生モノってみんな元の性別と同じで生まれてるんでしょうか。みなさん幸運過ぎでは?


 それと生活に困らないのはとても恵まれてるんだけど貴族家に生まれてしまったのも頭痛の種だ。

 だって貴族だと結婚は義務といっても過言ではないだろう?将来男と結婚してそういう関係になるなんて……。

 試しに想像したら変顔して顔を真っ赤にしていたみたいで皆に心配されてしまったよ。

 ちょっと心が耐えられそうにないので、どうにかして結婚は回避したいところである。

 一応さっきのようなじゃじゃ馬を演出して、こんな娘を嫁に出したら家名に傷がつく。というのを狙っているがどこまで効果があるやら……。


 結婚のことを考えると将来がいささか不安である。でも今回の人生悪いことばかりでもない。

 この世界には魔法があるのだ。

 魔法だ魔法!みんな一度は憧れるやつだ!

 実は5歳にしてすでに魔法使えるんだ。すごいっしょ。

 前世で魔法使いの権利を保持したままだったからかもしれませんね。……自分で言っておいて虚しくなりました。

 それでやっぱ使えるなら才能伸ばさないとって思って練習してるわけですよ。

 この前なんかは風魔法を練習してたら母のリリアンヌのスカートが思いっきりめくれてさ、顔を真っ赤にした母にげんこつ落とされたよ。星が目の前に出るくらい超痛かった。

 ちなみにセクシーな黒でした。




 俺は前世ではただ生きているだけだった。自分がなくて自己紹介とか困るような人間だったんだ。

 そんな空っぽな俺でもいずれやりたいことが見つかるさなんて楽観視していた。

 でも、なぁなぁと流されて生きてるだけじゃやりたいことなんて見つからなかった。気がつけば周りの皆は目標に向かって進む奴ばっか。

 俺はそんな奴らを眺めているだけだった。

 それである時に気がついたんだ。たんぽぽの綿毛のように流されてても風は幸せな場所には運んでくれないんだなって。

 立ち止まって手を広げてるだけじゃいつまで経っても掌には何もないままなんだなって。

 中には運良く望む場所にたどり着けたり、その場に立ってるだけで幸せが舞い込む人もいるんだろうけど、そんなの数万人、数十万人に1人くらいだろう?

 だから普通の人は出来る限り自分の意志で行動して、いろいろなこと経験して自分にとっての幸せを、楽しいって思えるようなことを見つけ出さないといけないんだよな。

 これが前世で俺が学んだたった一つのことだ。


 女に生まれたせいでいろいろ問題がある今世だけどせっかくのチャンス。

 今度の人生では、たとえ火の中水の中であろうと飛び込んで幸せってやつを掴み取ってやる!

 もう時の流れに身をまかせて気付いたらいい年なんて人生ごめんだ!全力で人生を楽しむんだ!


 今はまだこの世界でどうやったら幸せになれるか想像もつかない。

 でも楽しもう。魔法と剣のファンタジーな世界。この夢のある世界を。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

評価してくれると励みになります。よろしくおねがいします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ