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ゴトーを待ちすぎた
音無未満
Prorogue
「ちょい待ち。…っはぁ。秒で着くからぁ。はぁ」
とか言ってる人。せめて分単位にしよう。
いや、分かるけれども。イディオム的なものなのだろうけど。
あれは死語だと思っていたが。
ただ電話で焦っているのは伝わった。息切れで切れ切れになっていたし…。
急な約束ではあったからまぁ仕方ない。
明日の予定聞いたら、ちょっと困惑顔だったもん…
その点については自分も反省してる。
はい、当方の不手際でございます。ごめんね、後藤。
でも後藤は何秒何千秒かかってもやっぱり来なかった。
Interlude…
「 逝ける屍 」
「やっぱり人間じゃない。」
「えっ?人間だよ。」
「だってさぁ、人間はさ…こんな手って暖かいもんかな。」
「いや、冷血動物みたいな感想! …分からないけど…。」「普通じゃない?」
「じゃあ僕が人間じゃないのかな。」「人間だとしても、屍だよ。」
「いや、平熱何度?人間だとは思うよ?」
「そうかなぁ。」
「そうかな。」
「ぼかぁレーゾンデートルをなくしたよ」
「そう。」
「これから、何をしようとしているんだい?」
「あぁちょとまって、うん良い感じだから。」
「…冷えピタ代わりかい…?」
「そうだよ」
「夏場にしか生きられないじゃないか。」
「まぁまぁ、人間、手が冷たいほど心が暖かいって言うし、あれだね」
「でも割と人からはクールって言われるけど。」
「本当はそんなことないのにね。ちょっと意味不。」
「…?」「coolの意味を履きちがえてるのかな。」
「うん。そうだね。」
「やっぱりね。」
「…。」
「おーい聞こえてるかい」
聞こえてるフリ。そのフリをしてた。
「…でも本当に?」「本当に心の底からそう思ってる?」
思ってるよ。
「行動的ゾンビだって?」
Sprechchor
「パクリでは無い!リスペクトだと。インスパイアだと。オマージュと。」
すべての創造は模倣から出発する。池田満寿夫
優れた芸術家は模倣する。偉大な芸術家は盗む。 パブロピカソ
何も真似したくないなんて言っている人間は、何も作れない。 サルバドールダリ
いいと思ったものをコピーしよう。
創造的である1番の秘訣はその元ネタがバレないことだ。 アインシュタイン
商工業の世界では誰もが盗む。私もずいぶん盗んだものだ。肝心なのは、いかに盗むかである。 トーマスエジソン
コピー、コピー、ひたすらコピー。その先に自分が見つかる。 山本耀司
じっくり鑑賞するのは盗めるところがある作品だけ。デイビッド ボウイ
Monologue
菰田はイライラしていた。菰田はオラオラするタイプの人間ではない。
品行方正とはいかないまでも普段から精神衛生的にも健康だった。
だが今は違う。疲労が半日分、溜まっていた。体調が不良、だった。
昨夜からの作業のせいである。
作業というのは一般的なこれこれと書いてあるものをこれこれこれこれと書く単調なものだったが、菰田をヒィーコラさせるには充分な量だった。
そして終わった暁には睡魔へ体をと信じていた菰田だが、
そうは問屋が下さなかった。
約束だった。後藤と約束をしていたのだった。
後藤というのは菰田のちょっとした友人だ。
ここで敢えて簡潔な人物紹介をするなら、彼は善良なインド市民ということにしておこう。
国民の祝日ということもあり世間は賑わっていたが
社会性のない菰田は曜日感覚など勿論忘却の彼方である。
菰田は、電話がかかって来た時、最初、一瞬虚空を見た。
そんな訳で菰田は自分が遅刻しかけていることを遅きながら知った。
声の主はもう約束時間を過ぎていること、もう諦める事をさとした。
菰田は待つことにしたのだった。
「うわぁあいつから連絡が来た。」
少し苛立った様な顔持ちで歩き、「しかしこういう奴だ、後藤は。」
菰田は感想を漏らした。
piーnnpoーn 電子音がうるさい。
誰だろうか。
いや、多分後藤だろう。
後藤は早すぎると言うこともない。
「何よ。驚かすなよっ!やっぱもう着いてるんやんけ。」
と自分を納得させようとするが言おうとした。
そして菰田はインターホンを確認しようと近寄る。
画面は何も変哲のない、見慣れた風景。
間違いだったようだ。
しかしまぁ「よくもこんな空々しい音が出せるな」と苛立ちは募ってしまう。
音をカスタマイズしたいなと思って思案していたのだが、
ピーンポー。 はいはい、また。
なぜこんな音にしたのだろう。来訪者が来るたび少し気分が悪くなる。
なぁふざけんなって。お前、鍵持ってるだろ。
解除ボタンを押そうとする。
でもその途端音は切れた。
あーかったるい。後藤に電話すべきだろうか。
確かカメラにはなにも映ってなかった筈。
「鍵で入ったんやな。」
嫌な予感しかしない。
そうすると、まただよ。 甲高い音。
ぴーんぴぴーんピンぽン! ひろぽん!
「うるさいって、お前、悪戯にも度が過ぎるぞ。」
思わず口に出た。言ってて気づいた。
「あぁ、」これ、「言わないと収まらないヤツじゃん。」
菰田は画面越しより何より直接言ったほうが早い、そう思った。
菰田は玄関まで急いだ。
たまらずドアを開けて飛び出した。怒りの情動。
真っ赤にしていたら激おこぷんぷん丸と揶揄されそうだという考えを押し除けて
左右を見渡す。いない。
階段を下る。煩わしい。くっそ。
「あほくさ。」
まさかまだエントランスって事はないだろう。
普通エレベーターを使うだろう、でもこの団地というかマンションは
スキップフロア型だから1、4、7、10、13しか止まらないのだった。
一階上がらなないと11階には辿りつかない。
オンボロさを何度恨んだか。
つまり10階にくる。
13階から降りてくるのは効率的じゃないと思うがある事はある。
でもエレベーターは上に上がってくるところだった。
そして菰田の目の前で止まった。
エレベーターが開けば、紛う事ない、笽島だ。
笽島「えー今、来たところやって、おじちゃんがな、空けてくれてん」
そう言われてしまえばそれまでだ。
もしかして嘘なのか。疑念は尽きなかった。
「途中の階で隠れてたんやろ?」
それに対し「ちゃうちゃう今日は忘れててん。そんな嘘つくわけないやん。」
「ちな、おじちゃんは何階で停まったん?」「10階やけど?」
笑顔で返してくる笽島。
ま、いっか。 話は本当らしいし。
笽島に乗せられて、なんかどうでも良くなってくるなぁ。
そう思って軽く引こうとした扉が、開かない。
ガチャガチャと嫌な金属音が鳴り響く。
「なぁ後藤」顔を見合わせる。
「締め出されたな」
エレベーターは止まっていた。
悪戯をして一階まで帰る、そんな時間はないはずだ、
もしかして嘘なのか?途中の階で隠れてたんやろ?
「あ?鍵?忘れてたんだよ。ありがとう開けてくれて。」
なりすましだったのか!?