第4話 魂の行方
女子と喋ったことがあんまないので女子の喋り口調とか書くのが苦手です。
「どういうことだよそれ!」
俺は朝っぱらから安らぎに怒鳴り声を上げる。姉ちゃんの魂が奪われた?冗談じゃない、姉ちゃんは5年間も苦しい思いをしてやっと解放されたんだ。それなのに天に還ることすら許されないなんておかしすぎるだろ。
「ちょっと・・・・朝から大声出してどうしたの?」
俺の怒鳴り声を聞きつけた母さんが部屋に入ってくる。
「あ、ごめん。ちょっと友達と朝から喧嘩しちゃって・・・・」
さすがにこの嘘は厳しいか・・・・?でも視えない母さんに本当のことを言ったところで信じてもらえないだろうし。
「そう。朝ご飯できてるから、準備できたら降りて・・・・」
「どうしたのそれ!?」
母さんは血まみれになったシーツに目をやる。
「いやこれは・・・・ちょっと、夜に鼻血がとまんなくて」
「大丈夫なの!?どこか体に異常はない!?」
母さんは俺の両肩を押さえて、焦った表情で聞く。
「うん、大丈夫だから。心配しないで」
「本当に?お母さん、アンタまでもいなくなっちゃったら、生きていけない・・・・」
母さんの目からうっすらと涙が見える。
そうだ、母さんもまだ立ち直れていないんだ。心配かけさせる訳にはいかない。
俺は母さんの腕を優しくはがす。
「大丈夫。安心して、準備できたらすぐリビングへ行くよ」
母さんはとても不安な表情で俺の顔をじっと見つめながら
「分かった・・・・シーツも一緒に持ってきなさい」そう言ってトボトボと歩いて俺の部屋を後にする。
俺だってこれ以上失ったら耐えられない。だから母さん達をこのことに関与させちゃいけない。
俺が守らなきゃ。
「安らぎ」
母さんとのやりとりを黙ってみていたやすらぎに声をかける。
「【安らぎ君】だ」
「死神のこと、姉ちゃんの魂のこと。あとで詳しく教えてくれ」
***
「俺達は基本3種類に分かれている」
「・・・・」
「おい、聞いてんのか?」
「馬鹿、お前のことは誰も視えてないんだから1人で話してるように思われるだろ。要所要所で気になった所は聞くから」
「へいへい」
俺は安らぎに学校へ行く間に姉の魂のこと、死神のことについて聞くことにした。
「俺達には3種類。死んだ生物の魂を天まで見送る導き手と死んだ生物の魂を喰らう支配者。そして、生物から魂を奪うクズ、違反者に分けられている」
「支配者と違反者はどう違うんだよ」
「大違いだ。支配者は死んだ者の魂を尊重して自分に取り込む。だが違反者は生きている者から魂を無理矢理奪って自分に取り込むんだ。これは生物に対する冒涜だ。それに、違反者は分かり次第消すことになっている。」
「もしかして姉ちゃんもその違反者に・・・・」
「いや、夜月の魂は支配者に取られた、お前も夜月が目の前で死んでいったのを見ただろ。」
「あ、ああ。姉ちゃんの体から魂が出てきてヘリウム風船みたいに上に・・・・」
「そこだ」
「え?」
「天井を透けて、天に昇る最中。そこで夜月の魂は支配者に喰われた」
「喰われたって・・・・じゃあ!」
「安心しろ。喰われたと言っても魂は決して消えたりしない。引き剥がされてもまたくっついて1つになる。だが死神に奪われちまったらその死神を消すかその死神が魂を解放しない限り天に還ることはない。」
「このまま天に還ることが無ければどうなるんだ。」
「別にどうかなる訳じゃない。輪廻転生って知ってるか?あれはあながち間違ってなくて、魂は天に1度還り神によって綺麗に洗われて真っ白な状態でまた新たな生物に宿る。だが支配者や違反者に取られちまったら当然魂は神の元に戻らないから転生をすることはない」
「このままだと姉ちゃんの魂は一生捕らわれたままか・・・・俺はどうしたらいい?」
「お前はどうしたい」
「え?」
「お前は夜月の魂をどうしたい」
「俺は・・・・」
そこで一度歩くのを止めて、目を閉じる。
怒られたこと、褒められてこと、泣かされたこと。姉との記憶が次々と蘇ってくる。
そして次第に、もう会うことも話すこともできないが、それでも救ってやりたい。解放してやりたい。という気持ちが躍り出てくる。
考えるまでもないか・・・・
「姉ちゃんは25年ぽっちの人生で終わった。だったらまたどこかで、違う人生だけど、歩ませてやりたい。」
「そう言うと思ってたぜ。言っとくがここからは俺達だけの戦いになると思え、死者の魂を取り入れるのは悪いことではないとされてるんだ。一緒に取り戻そうとしてくれる奴はいない、できるか?」
「おいおい、弱気になってどうする。そういえばお前はなんで協力してくれるんだ?」
「・・・・いつか話すよ」
その声からは安らぎの悲しさを感じたので俺はそれ以上聞くのを止めた。
「そっか。じゃあよろしく頼むぜ、相棒」
俺は拳を安らぎに向ける。安らぎは少し戸惑うそぶりを見せたあと、安らぎも拳を合わせる。触れることはできないので俺の拳に安らぎの拳がのめり込む形になる。
「ぷっ・・・・あ。」
なぜだかそれが可笑しくて笑いがこみ上げるが、冷静になって周りを見ると、そこには訝しげな目でこちらを見るリーマンや散歩してるおばさんがいた。要所要所とか言っておきながらも普通に話してしまってたことに気づき、俺は恥ずかしくなって学校まで走った。
***
「なぁ」
「なんだよ、学校で話しかけてくんな」
俺は机に伏せたまま応える。時刻は12時55分、もうすぐ5時間目が始まろうとしている。
「お前本当に友達がいないんだな」
「『本当に』ってなんだよ」
「いや、こっちの話だ」
別に友達がいないわけじゃ無い。作ろうとしないだけだ。そんな言い訳をしてきてはや9年は経っているだろうか?なんと俺は小学校から高校まで友達と言える存在ができたことがなく、どこか遊びにいったりとかはしたことがないのだ。このままではまずいと思いつつも同い年や年齢が近い奴と話すと緊張してしまい、黙ってしまう。だから自然と周りは俺を避けるし俺も自分から話しかけることが無くなるので悪循環が生まれるのだ。
1人で飯を食うのも、1人でスマホゲームしてるのも、もう慣れたものだ。
昼休みが終わる鐘の音が響き、国語の教師が教室に入ってくる。
号令をしたあと、昨日の小テスト渡すから取りに来いと言い、出席番号順に呼んで手渡す。
小テストぐらい配ればいいだろ・・・・先生の効率の悪さに辟易しながらも自分の名前が呼ばれるのを待つ。
「なぁ、お前の出席番号っていくつだよ。」
安らぎが話かけてくる。俺はシャーペンで自分の出席番号を机に書く。
「16か・・・・いま8まで呼ばれたから・・・・あと半分じゃねえか。姿勢正せ!」
なんなんだこいつは。俺は渋々上半身を上げて、先生の禿げかかった頭皮を眺める。
「はい次、16番」
すこし待っていると、自分の番号が呼ばれたので小テストを取りに行き、速やかに自分の机に戻る。安らぎが俺のテストの点数をのぞき見する。
「げ、お前10点しか取ってないじゃん・・・・あ、これ10点満点中か。10点満点のテスト見せたときよく母親とか最初勘違いするよな。」
なんでこいつはそんなこと知っているのだ。
「えーと、次は19番・・・・溝口。今日はいないのかー?」
クラスで一番可愛いと言われている溝口 ナツが呼ばれる。
「はいはーい今行きまーす」
溝口さんは俺の横を過ぎる。
その瞬間、溝口さんはすごい勢いでこちらを振り返り俺の顔を見る。
「な、なに?」
彼女は顔を俺に近づける。そこから女子特有の甘い香りが鼻腔に侵入してくる。
「おい溝口、後詰まってるから早く来い」
「あ、はーい。
ごめんね顔にゴミ付いてるかと思った。」
そう言って彼女は先生の方に行く。
「あの女、お前に気があるんじゃねえのか?」
***
はぁ・・・・毎回思うけどなんでこんな効率の悪い配り方するんだろ。
しかもあのオヤジ、いっつも女子のスカートガン見して気持ち悪い。
「えーと、次は19番・・・・」
次は私かぁ。
「溝口。今日はいないのかー?」
ああもう、今行くから待ってろよ。
「はいはーい、今行きまーす」
私は椅子から立ち上がって先生のところまで行く。席が1番後ろだから教卓まで行くのが面倒だ。
1人、2人、3人と同級生の横を通り過ぎ、先生のもとへ近づいていく。
1番前の席にいる新生 天弥の横を通り過ぎたとき、子供の頃からたまに感じる電撃的なものがとても強く感じた。私はすかさず彼の方を振り返る。
「な、なに?」
彼は間抜けな顔でそう言った。だが俄然変わりなく、電撃的なものが私の中で感じる。いままで感じたことも無いぐらい強烈に。
「おい溝口、あと詰まってるから早く来い」
禿げオヤジが私の名前をもう一度呼ぶ。
「あ、はーい。
ごめんね、顔にゴミ付いてるかと思った」
私はテキトーに嘘を吐いてその場を後にする。
私こと溝口 ナツは小さいころからこの電撃的なものが稀に頭の中で駆け巡ることがある。最初は嫌だったけど1年もすれば慣れてきて今では気にしなくなるほどだった。
でも今のはすごかった。頭どころか体中を駆け巡る感じがして、こんな感覚初めてだった。
私はこの電撃的なのを運命の相手が近くにいるときに感じるものだと思っている。
もしかしてあの新生 天弥が私の運命の相手・・・・?
ないない。いっつも1人だし何考えてるか分からないし、テストの点数は無駄に高いし。ないわー
私は新生 天弥の席を避けるように自分の席に戻る。
はぁ・・・・あの禿げオヤジまた私の足ジロジロみて気持ち悪かったなぁ。
そのあと、いつも通り授業が進み5時間目、6時間目、清掃、ホームルームと、なにごともなく終わり私は帰りの支度をしていた。
「ねぇナツー、帰りに最近できたカフェ行かな~い?」
「あ知ってるぅ、タピオカが映えるとこでしょー?」
私の周りで友達2人が騒いでいる。この娘たちは良い子だが別に私はタピオカとか、映えとかに興味はない。なんなら今日は豚骨ラーメンが食べたいぐらいだ。だけど友好関係を崩さないためには最近の流行に敏感にならないといけない。
「えー、ちょー行・・・・」
そう言いかけたとき、新生 天弥の姿が目に映る。帰りの支度を誰よりも早くし、誰よりも早く教室から出ようとしている。
そういえば、さっきの電撃的なのが本当にあいつからなのかまだ確認してなかった。
「ごめーん。私今日予定あったー、また今度いこー」
「え~絶対だよぉ?」
「マジ約束!」
残念がる2人を後に、私は急いで支度をしバレないように新生 天弥の後をついて行く。
新生天弥、あなたは本当に私の運命の人なのかしら。
女の子ってなんであんないい匂いするんですかね。僕の周りはみんな男しかいないので屁の臭いがします。まぁ大体僕の屁なんですけど。