第14話 通称『黒』
今回は天弥が入院して2日後の話に戻ります!
新生天弥の元へ事情聴取をしてから2日後、俺と浅沼はカフェ【スティモン】のオーナー兼ヤクザである男の取り調べに行くところだった。
「お勤め、ご苦労様です。」
後輩である黒マスクを着けた警察官が敬礼をして言う。
「どうした。風邪か?」
浅沼は後輩の警察官に聞く。
黒マスクは最近の流行りだとテレビでやっていたが間近でみると痛々しいな。
「はい。大したことは無いんですけど....ゴホッゴホッ」
「あんま無理するなよ。で、犯人は何か吐いたか?」
「いえ、これと言ったことはまだ....」
「そうか。行くぞ、虎」
「うす」
取り調べ室に入ると、男は足を机の上に乗せてこちらを睨みつける。その態度を気にすることなく浅沼は話しかける。
「よぉ、調子はどうだ」
「....」
男は黙ったままだ。浅沼は構わず話しかける。
「マスコミが今回の事件を嗅ぎつけて今署は大騒ぎだよ。まぁ、事件が事件だからな。いずれ麻薬の取引先もどこかすぐに判明する。今のうちに知ってること全部吐いたら刑が軽くなるかもしれないぞ?」
「....なんも知らねえよ」
「そうか。じゃあ少し方向を変えた話をするんだが、落ち着いて聞いてくれて。はぁ....」
浅沼は渋るようにため息をして、男の目をまっすぐ見てもう一度切り出す。
「お前達を躾けてた組織の名前。警察は通称『黒』と呼んでるんだが、聞いたことはあるよな?」
「く、ろ....?」
その言葉を反復した瞬間、男の体があからさまにビクッと跳ねる。
怯えた表情でこちらに向き直り、姿勢を正す。
「い、今、な、ななななんて....」
「だから黒だよ。」浅沼は怯えた男とは裏腹に、平然ともう一度言う。
日本最大級の麻薬組織、通称『黒』。この組織は明確な名前がなく、上の者が仮名と名付け、既に15年の年月が経っており、警察や反社会勢力の間では黒といえば伝わるほどになっている。現日本社会で最も汚れた社会の闇、それが黒だ。
組の長どころか幹部すら分かっておらず、創立して推定20年ということ以外、手掛りは何も掴めていない。
「う、嘘だ...俺を雇ってる組織は黒なんかじゃ....」
「店に置いてあった薬物を検査したら、黒が一般的に使う安価で取引されてる物だった。騙されてたんだよ、お前」
以前にして浅沼は平然と言う。
「こ、殺される....外に出たら、殺される」
「安心しろ、殺されないように守ってやる。だから知ってることを全部吐け。」
「知らない。何も知らない。何も言ってない....俺は何も言ってねぇ!言ってねえぞ!」
男は突然、何かに訴えかけるように叫びだす。
そう、浅沼が渋っていた理由はこれだ。黒と関わったと思われるヤクザは全員、このように突然叫びだして、暴れる。これによって取り調べが困難になってしまう。
そして、黒と関わったヤクザは出所していつか必ず行方不明か遺体で発見される。そのいつかわからない余命宣告が人間のデリケートな部分を刺激し、恐怖で何も考えられなくなる。
人間の心を黒い何かで覆って周りを見えなくする。それが『黒』と名付けられた理由だ。
「知らない!俺は何も知らねえ!」
男は拒絶するようにその場で暴れだす。
「先輩、これ以上は」
俺は浅沼の耳元で言う。
「そうだな。今日はもう無理だな。」
取り調べを開始してわずか5分、今回の取り調べは終了した。
※※※
取り調べが終了して2時間後、報告書など諸々の作業が終わり、俺と浅沼は喫煙所で休憩をしていた。
「何から何まで不気味な組織だ。」
タバコを吸いながら浅沼は俺に話しかける。
「警察の捜査力を持ってしても何も掴めないこの状況。どう考えてもおかしい。」
「そんな疑問今更出てきた訳じゃない。黒が頭角を表してきた頃から、このことを疑問に思う奴は少なくなかった。」
「....もし、黒に死神が関わっているとしたら、どうなるんでしょうか。」
「だとしたら大問題だな。上の奴にそんなオカルトチックな事を理解できるほどの容量は無いだろうし。こちらからは見えないうえに、攻撃もできないんじゃ対処のしようがない」
「やはり新生天弥を頼るしか無いのでしょうか」
「あの子がこちら側に付いている限り、今のところ解決策はそれしか無いだろうな。」
「俺は、不安です。」
「その不安は優しさからか?虎」
いつのまにか浅沼は、タバコを捨てて俺の方をすわった目で見ていた。
「すみません、わかりません」
俺は素直に応える。確かに警察官として、一般市民を巻き込みたくないという気持ちは確かにあったが。俺の感じた不安はそれとはまた別のものであり、何なのかは分からなかった。
「虎、俺はお前が両親と同じ警察官になりたいと言いだした時から、龍なんかよりよっぽど強い人間だと思った。そんな強い男がちっせぇ不安なんかに惑わされんな」
そう言って浅沼は俺にタバコを差し出す。
「自分、吸えないんで。」
「なんだ、先輩のタバコが吸えないのか」
「パワハラですよ、それ」
「当たり前だ、なんだって俺はパワフルでハンサムなラッキーボーイだからな。」
「なんすかそれ。」
しょうもない笑いが込み上げてくる。
今は正体不明の不安を気にしているより、何人もの犠牲者がでるこの事件に終止符を打つのが最優先だ。
「うし。仕事すんぞ。」
「うっす」
喫煙所から出た途端、浅沼のポケットからバイブ音が響く。浅沼はスマホを取り出し、通話に出る。
「はい、浅沼です。...はい。分かりました、すぐに向かいます。」
電話を切った浅沼の表情はとても険しく、何か問題が起きた事を告げていた。
「どうしました。」
「....取り調べをした男が死んだ。」
※※※
「死因は自分の服を使った絞殺。争った形跡もないし、間違いなく自殺でしょう」
刑務所にいたスティモンのオーナーであるヤクザが殺されて2時間が経過した。これから遺体の検査が行われ、死因をさらに深く調べるのだが、刑務所で誰にもバレずに殺されるなんてまず有り得ないことや、取り調べで突然大声で叫ぶという奇行もあったことからおそらく自殺と推測された。されたのだが....
「虎、これが自殺だと言えるのか」
浅沼が足を組み、事件が起きてから6本目になるタバコの灰を落としながら聞く。
「正直、警察の中に黒と繋がっているという線があるので、これが自殺とは考えられません。」
「黒と関わったヤクザは必ず死ぬか行方不明になった。だが、その時期はバラバラで1週間後の時や、1年後の時もあった。だが、取り調べをした今日だなんて、ましてや俺たちのテリトリーの中でやられた。線なんてもんじゃねえよ、これは間違いなく....」
「先輩。」
俺は浅沼の言葉を制止する。これ以上言ったら、間違いなく俺たちまで黒に飲み込まれる。そう感じたからだ。
「分かってる。ここから先はもはや治外法権だ。だが言わなきゃならない。この事実を受け止めなければならない。相手の威嚇に臆してしまったら俺たちはプライドを、警察官としてのプライドを捨てることになる。」
6本目のタバコを灰皿に捨て、浅沼は立ち上がる。
「疑惑は確信へと変わった。今回の事件は間違いなく俺たちに対する警告だ。もう1度言う。警察中に黒と繋がっている奴がいる。俺はそいつに制裁を加える。」
そう吐き出した浅沼の目つきは、20年前、両親の遺体を見つめていた兄の目つきとそっくりだった。
最近死神要素がない気がする。




