第12話 運命の相手
毎度毎度投稿頻度が少ないのは許してほしい。陳謝。
「あれ?天弥君なんだか久しぶりだね」
2週間の入院で登校できるほどに完治した天弥は教室に入って早々、溝口ナツに話しかけられた。
「え?あ、う、うん。えーと...おはよ」
「ふふ、おはよ」
眩しい笑顔を天弥に向けた後ナツは、いつも一緒にいるメンバーのところへ行く。
「か、かわいい...」
思わず口から出てしまったその一言が、自分がいかにチョロい人間なのかを物語っていた。
だが全国の男性に聞きたい。学年で上位に入ると言われているカワイイ女子から、天使のような笑顔で「おはよ」なんて言われたら男はみんな1秒足らずで猿になるだろう。歳が近い奴と喋るのが苦手な俺だって例外ではない。
「やっぱあの娘、お前のこと好きなんじゃねえのか?」
一連の場面を眺めていた安らぎがそんなことをぬかす。俺は緩んだ顔を引き締めて、小さな声で「そんなことねぇよ...」と返す。
※※※
退院したからって、学校での生活が一変する訳では無い。いつも通り授業をし、いつも通り昼休みを過ごし、いつも通り帰宅の準備を天弥はする。だが、いつも通りじゃないこともある。それは授業だ。
さすがに2週間も休むと授業がまるで分からない。かと言ってノートを見せてくれる友達もいないし。
「どうしたものか...」
上履きと靴を履き替えながらどうするかと頭の中を錯綜させていると背中を軽く叩かれるのを感じ、後ろを振り返る。
「ヤッホ」
そこには朝見かけたあの笑顔をこちらに向けるナツがいた。
「あ...ど、ども。」
「もう帰っちゃうの?」
「う、うん」
「なんで?」
「別に、やる事ないし...」
「そっか。じゃあさ、ちょっと今から私の行くところに付き合ってよ」
「...え?」
俺は間抜けな声を出してしまう。こんな面白味も何もない男に溝口さんがなんで俺を誘ったのかわからなかった。
何かの罰ゲーム?期待させて落とすという悪趣味な遊び?先ほどの授業のこととは違った考えが錯綜する。
「お、僕とどこか行っても楽しくないよ」
「そんなことないって」
ナツは天弥の肩を軽く叩こうとするが完全に警戒モードに入っている天弥はすぐに後退りする。
「うーん。あ、じゃあ...」
ナツは自分のバックからノートを取り出し、天弥の方に向ける。
「はい」
「なに...これ」
「なにって、授業のノートだよ。2週間も休んでたから今どこやってるのかわからないでしょ。だからノート貸したげる。2週間も学校休んでたのに誰も天弥君に話しかけないくらいだからほんとに友達いないんだね」
胸に鋭利な言葉が刺さるのを感じる。溝口さん、以外と躊躇なく言うんだな…でも困ってたのは確かだし…
天弥は周りをキョロキョロと見渡した後、ゆっくりとノートに手を近づける。だが、ナツは天弥がノートに触れようとした瞬間、上にあげる。
「ただし、私の行くとこに付き合ってくれたらね」
ナツはいじらしい笑みを浮かべながらそう言った。
※※※
「大将、『オススメバター豚骨ラーメン・大盛り』ください」
ナツは古臭い店に入るとすぐに端から2番目のカウンター席に座ってあらかじめ決めていたのか、どう考えても女子高生が頼みそうじゃないメニューを頼む。
「あいよ!」
「こ、ここって...」
「ん?ラーメン店だけど?」
いやそれは知ってるけど...なんで連れてきてんだのかさっぱりわからない。
「隣の兄ちゃんはどうするんだい?」
「あ...じゃあ同じやつで」
「あいよ!」
大将は注文を聞き終えてすぐに調理を始める。
「大丈夫?ちゃんと食べれる?」
「バ、バカにしないでよ」
俺だって男子高校生だ、こんぐらいなら余裕で食えるはず...と思っていたのだが、出されたラーメンを見て絶句する。
そのスープに上を浮いてる大きなバター。スープを覆い隠さんばかりのチャーシューふたきれ。端々に見える太い麺。これが本当に豚骨ラーメンなのか?
「わぁ、美味しそう!いただきまーす」
ナツはそれを嬉々として食べる。その豪快なすすりっぷりに『漢』という漢字が頭の中によぎった。
「大将これすっごく美味しい!」
「ハハ!上手だね嬢ちゃん!嬢ちゃん可愛いから餃子おまけしたる!」
「ほんとですか!?私生まれて初めてこの顔で良かったって思いました!」
ナツは本当にそう思ってるかのようなキラキラとした目を見せる。
「天弥くんも食べなよ!伸びちゃうよ」
「ああ、うん。」
俺は麺とひとすすりする。うまい...
その感情と同時に、これは食べきれないと確信した。だが、黙々と食べる女性の隣で男子高校生である俺がギブアップしていいだろうか。いや、いいはずがない。
俺は箸を握り直し、チャーシューにかぶりつく。うまい。うまいけどなんて体に悪いんだ。だが諦める訳にはいかない。男の威厳にかけて...!
久々の登校にもかかわらず、俺は柄にもなく1人で熱くなっていた。
※※※※
「はぁ〜...美味しかったぁ」
ナツは腕を伸ばして体を反りながら言う。
「そ、そうだね...」
天弥はナツとは打って変わって、体を丸め口と腹に手を当てて顔色を悪くしている。
「天弥君って意外と草食なんだね」
「ごめんね、残り食べてもらって...」
天弥は結局食べきれずにギブアップをし、お店の人に悪いからとナツに天弥が食べ残したラーメンを食べてもらったのだ。
「お前情けねえな。だから友達の1人もいねえんだよ」
下校から今の今まで一言も発さなかった安らぎが久々に声をかけてくる。この野郎、自分は食ってない癖に勝手なこと言いやがって...
「もしかして、ラーメンあんまし好きじゃなかった?」
さっきから顔色が悪い天弥を心配してナツが聞く。
「ぜ、全然!むしろ好きな方、だよ。でも今日はなんでかな...全然食べれなかった。あはは...」
天弥は不気味な笑みをナツに向ける。
「天弥君って、優しいんだね」
すると突然、ナツが天弥に顔を近づけてくる。近くで見ても整っているその顔におもわず見惚れてしまう。
「ちょっと公園で休もっか」
「は、はひ」
上ずった自分の声を聴いて自分の情けなさに落胆する。
※※※
ひと1人いない夜の公園。今日の仕事は終わったかのように佇む遊具たち。そして、2人だけしかいないかのような甘美な空間。
私と天弥君は2人でベンチに座って夜空を眺めている。はたから見れば完全にカップルだ。
だけど私たちはまだカップルじゃない。でも大丈夫、この半日で完全に天弥君は私に惚れた。友達の真希が言っていた男の落とし方を初めて実践してみたけど、ここまで簡単に行くなんて、この落とし方が凄いのか、天弥君がチョロいだけなのか。
まぁそんなことはどうでもいい。私の目的は運命の相手である天弥君と付き合うこと。
今日、久しぶりに天弥君が登校してくる時、あのビリビリがまた私の体を駆け巡った。そして今も時々体に電流がはしる。間違いなく天弥君は私の運命の相手だ。
あとは私が彼の手を握って告白すれば攻略完了。
私はそっと天弥君の手を握る。握っただけでビクッとなる天弥君がいかに女性慣れしてないのかがわかる。
運命の相手だと思うとそんなとこまで可愛く見える。
「私ね」
「は、はい!」
天弥君は上ずった声をあげる。本当に可愛い。
「たまに体にビリビリが走ることがあるの」
「そ、それは早く病院に行ったほうが...」
「ちーがーうーのっ。なんだか最近天弥君の近くにいるとそうなっちゃうのっビリビリって!だからこれ、天弥君が運命の相手なんじゃないかなって思うの」
「お、おおおお俺が!?」
天弥君は驚きすぎて怖い顔でそう言う。
「そ。だから私と付き合わない?」
「おおおお俺と!?」
天弥君はさっきとほとんど変わらない反応を示す。
「どうかな?」
私は女性の最強必殺技『上目遣い』を炸裂させる。これを食らった男は「YES」しか言えなくなる...って真希が言ってた。
「は...」
よし!そのまま「はい」って言うんだ!
「は...」
行け!言っちゃえ!
「は...」
行けぇえええ!
「腹痛いからトイレ行ってきていいかな!?」
天弥君はムードもへったくれもない発言を残してそのまま公衆便所まで早足で行く。
......本当に彼は私の運命の相手なんだろうか。




