8. 空を飛んで
「なるほど。
空トカゲが…」
ゼロステラが腕を組む。
「物音がして来てみたら、この建物を荒らしている空トカゲの群れ…か。
何が原因でこの店舗がターゲットになったか、調べる必要がありそうだな」
…確かに、周囲にたくさん店舗があるのに、この一軒だけ全壊するほど叩かれたのは不可解だ。
「色々言いたいことはあるが、とりあえずお前達は出勤した方がいいな。もう時間がない。
お叱りは部隊長から受けることだ」
お叱り…。
この一言は、アシュリーに、自分も組織の一員になったのだということを改めて意識させた。
ふいに、ゼロステラが宙に浮く。
「行くぞ!」
アシュリーとオリベルの体を、空気の渦が包み込む。
ゼロステラの意志を帯びた風。魔法だ。
「すごい!」
オリベルが声を上げた。
「ゼロステラ!僕たち、飛んでいくんだね!」
「ああそうだ。急ぐからな」
「わあー!僕、空を飛ぶの初めてだよ!
楽しいね、アシュリー!」
いや。
遅刻しそうになってるところをフォローされている時点で楽しいとか言ってられないし、アシュリーは気が気じゃなかった。
おまけにフォローしてくれているのは、これから自分が働く組織で役職を持っている人だ。
アシュリーは、一応、笑ってうなずいた。
…顔がひきつりそうだったけど。
「何事も楽しめるのは悪くない」
微笑を帯びたゼロステラの声。
日が昇り、動き始めた城下町。
その上を、強い風に乗り、運ばれていく。
「いいか、アシュリー、オリベル。
この街は、これからお前達が守るんだ。
よく見ておくといい。少しずつ知っていけ。
好きになってくれたら、なお嬉しい」
ゼロステラの夜闇色の髪が風になびく。
朝日を受けて、星雲の色に照り返す。
「オレはこの国が好きだ。
だからここの兵士になったんだ」
優しい横顔。
これが戦う者の表情なのか。
戦士こそ、優しくなければいけないのかも。
アシュリーは、自分の幼さを痛感した。